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「十六夜喜譚 その10」 埴輪
 見知らぬ部屋で目がさめる。
「ここは・・・どこだ?」
 青髪の男にどつき倒されたところまでは覚えているが、その後どうなったか分からない。
「よ、目がさめたか?」
「カイザルか・・・。ここは、どこだ?」
「連中の根城。」
 どうやら、あの男にここまで連れてこられたらしい。よく見ると、自分もカイザルも、きっちりとした手当てされている。
「ご丁寧なことだ。」
 扉がノックされる。
「あいてるぜ。」
「そりゃどうも。」
「なんだ、化け物か。」
 その台詞に苦笑するアイン。
「どうやら、2人とも動けるようだね。朝ご飯は出来てるけど、どうする?」
「ただ飯ならもらうが?」
「もちろん、そんなけちな事は言わないよ。最も、僕の家じゃないけどね。」
「なら食わせてもらおう。」
 そう言って、はたと気がつく。
「そう言えば、お互い自己紹介もしてなかったな。俺はカイザル。」
「俺は翔輝だ。あんたの名前は?」
「僕? 僕はアイン・クリシード。エンフィールドで何でも屋をやってる。」
 アインの名を聞いて思わず顔を見合わせる。
「なるほど。」
「勝てない訳だ。」
 なにやら納得する二人。
「どう言う意味?」
「いや、いくらなんでもベルファールの鉄壁が相手だとは思わなかったからな。」
「へ?」
「しかし、事実は小説よりも奇なり、とは言うが・・・。」
「ちょっと待って。ベルファールの鉄壁って、何のこと?」
 二人の言葉に怪訝な顔をするアイン。
「一般的でこそないが、『ベルファールの鉄壁』アインといえばその筋では有名だぞ。」
「言うほどの活躍はしてないけど?」
「ほう、味方の3倍の戦力がある敵を、自軍に死者はおろか重傷者も出さずに壊滅させておいて、どこが言うほどの活躍はしていない、だ?」
「しかも、その後指揮官との一騎打ちで、相手の必殺技を3発受けてぴんぴんしておいて、そう言うことを言えるんだ?」
 本人に自覚はないが、ずいぶん派手に暴れていたらしい。
「アインなんて名前、結構ありふれているけど。」
「そんな化け物がぽこぽこいてたまるか。」
 翔輝の言い分を、苦笑しながら認める。
「一体どこからそんな噂が流れてるのやら。」


「アイン、記憶喪失の頃から派手に暴れていたようだな。」
「そんなに派手かな?」
「ああ。これが地味なら世の中なんでも地味になるぞ。しかし、道理でティグスが話したがらないわけだ。こんな話、気が触れたとしか思わないぞ。」
「無茶苦茶言うね。」
 食後のお茶を飲みながら、アインが言う。
「で、これからどうするんだ?」
「いい加減、長居が過ぎた。今日、明日ぐらいにはけりをつけるよ。」
「そうして頂けると、ありがたいですわね。」
 やや、とげを含んだ口調で月夜が言う。
「まだ、こいつの事は嫌いか?」
「個人的には、現在のある一点を除けば、嫌いではないほうに入りますわね。多分、次にあうことがあれば、そのときは仲良く出来ると思いますわ。」
「じゃあ、なぜだ?」
「いくらなんでも、このままいくと妹が傷つくと分かっていて、愛想よく出来るほど私は大人ではありませんもの。」
「なるほど、それは十分な理由だな。」
 その台詞に、思いっきり納得する十六夜。またいつもの奴である。
「これで何人目だ?」
「何のこと?」
「本気で分かっていないのが一番の問題だな。」
「だから、何のこと?」
 思わずため息をつく月夜。その様子を、正確にはアインのほうを、どことなくボーっと香夜が眺めている。
「クレアさん・・・。」
「何ですか?」
 少々不安そうな表情のシーラが、クレアに尋ねる。
「やっぱりあれって、そうかしら?」
「多分、そうだと思いますわ。」
「やっぱり・・・。」
「まぁ、アイン様ですから。」
 苦笑いとともに、お茶を注ぐクレア。翔輝とカイザルも、面白そうにその様子を見ている。当人以外は皆、気がついているらしい。


「さてと、はじめるか・・・。」
 食事もお茶も終ったあたりで、アインが立ちあがる。
「夜影、それともシャドウと呼ぶべきか・・・。とりあえず、お前には、元いたところに戻ってもらうよ。」
「へ、出来るもんならやってみな。」
 アインと夜影の台詞に、驚く一同。それを無視して、掌からなにかを飛ばすアイン。
「やめろ、アイン!!」
 翔輝がとめに入る。
「なぜ止めるんだ?」
「夜影は俺の命の恩人だ。たとえ別人に成り代わっていたとしても、死ぬような攻撃を見過ごすわけにはいかん。」
「なるほど。どおりでやりたくもなさそうなあんな仕事を、大人しくやってたわけだ。カイザルもそうなのかい?」
「俺はそうじゃねえけどな。親友の手伝いをするのは、当然だろ。」
 肩をすくめて更に続ける。
「大体、どんだけやめろと言われてもやめられない事情があるんだ。半分泥をかぶってやるぐらいじゃなきゃ、親友面は出来ねぇよ。」
「なるほど。翔輝、夜影に助けられたのは、いつのことだ?」
「3年前だ。」
「なら、今の夜影とは、完全に別人だ。このままじゃ、お前を助けた夜影は、いなくなるよ。」
 ぴくっと表情を動かす翔輝。
「ケ、臭い芝居はそこまでか?」
「多分ね。」
「まだよ。」
 割って入ったのは月夜だった。
「一つ、聞いておきたいことがありますわ。夜影、なぜそんなになるまでくらい衝動を溜め込んだのです?」
「お前のせいだよ。身を守れば野蛮だといい、黙って殴られていれば情けないと言う。どれだけ努力しても、まともに俺を見ようともしねぇ。」
 いびつな笑いを浮かべながら、どうでもよさ下に語る夜影シャドウ。
「どいつもこいつも、十六夜、十六夜。たまっていく劣等感と、発散する場のない衝動が、どんどんこいつに溜まっていってな。ついに、壊れちまったってことだよ。」
 たのしそうに笑う夜影シャドウ。
「で、どっかの馬鹿の力を借りて、完全に体をのっとったって訳だ。」
「そう言うことだ。だが、俺がのっとったわけじゃねえぜ。こいつが、良心を持つことを捨てたんだぜ。」
「やめて!」
「今の夜影の姿は、お前らが望んだんだぜ。お前らの望みどおりに馬鹿野郎になってやったんだぜ。嬉しいだろう、香夜。」
 だが、香夜は引かない。
「もう、やめて!!」
 その台詞を聞いたシャドウは邪魔臭そうに香夜を見て、
「うるせえよ。きえな・・・。」
 手を突き出す。空間を超えて、やすやすと香夜の胸を貫く。何が起こったか分からない内に、生命活動を終える香夜。
「香夜!!」
「気がすんだんだったら、元に戻ってもらうよ!」
 すべてを無視して、アインが技を放つ。
「天破日輪掌!!」
 光る掌打が夜影の腹を捕らえる。
「滅!!」
 光が、夜影を貫く。


「俺は・・・なにをしたんだ・・・・。」
 虚脱状態でぶつぶつつぶやく夜影。右手は、香夜の血で染まっている。
「さて、確認をしよう。香夜を生き返らせる事は出来る。まだ、魂が残っている。」
「じゃあ!!」
「月夜、君は、香夜が化け物になっても、ちゃんと受け入れられるか?」
「どう言うことですの!?」
「僕達のやり方じゃ、完全な蘇生は出来ない。アンデッドになるわけじゃないけどね。」
「何が言いたい?」
「肉体か、精神か、それ以外か・・・。とにかく、どこかが変質する。大抵は変な能力を持つことになる。」
「最後の条件か?」
「ああ。十六夜は問題ない。そんなことは気にしないくらい、強く願っている。クレアもシーラも、そして夜影も。」
 夜影の名前を聞いて、驚いたようにアインを見る十六夜。
「だから、月夜と香夜だけだ。」
「そんな事は関係ありませんわ!! さっさと妹を助けなさい!!」
「分かった。」


(・・・・あたし・・・・。)
「香夜。」
(あたし・・・死んだの・・・?)
「ああ。で、どうする?」
(もう一度、生きられるの?)
「ああ。君が、人間でなくなることを受け入れたならばね。」
(お姉様は?)
「さっさと生きかえらせろ、だってさ。最も、そうでなきゃきみの意思なんか聞かないけど。」
(どうして?)
「条件が整わないから。」
(本当に、生きかえることが出来るの?)
「うん。」
(あたし、まだまだやりたいことがあるの! こんなところで死にたくない!!)
「条件は整った。汝に生を。」


「アイン・クリシードの名において命ずる。具現せよ、女神の涙。」
 すさまじく強く、だが優しくて暖かい光がその場を照らす。渋った割には、あっさりと奇跡が起こる。
「君の名前は?」
 目を開いた香夜に対し、そう質問するアイン。
「あたしは・・・、月光院香夜・・・。月光院月夜の妹・・・。」
「どうやら、精神のほうに変質はないみたいだ。」
「今のでわかるの?」
「ああ。やり方は秘密だけどね。」
 その様子を、熱に浮かされたようにボーっと見ている。
「どこか、調子の悪いところは?」
「大丈夫・・・。」
 やはり、夢見る乙女のような様子で答える香夜。その様子を見ていたシーラが、アインに声をかける。
「アインくん・・・。」
「なに?」
「香夜ちゃんまでにしてね。」
 最高の笑顔で、そう言ってくる。
「え、あ、うん・・・・。」
 何が言いたいのかはわからなかったが、その笑顔に押されるようにうなずいてしまうアイン。
「おい、アイン・・・。」
「なに?」
「今の笑顔・・・、なんか怖くなかったか・・・?」
「うん・・・。」

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