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「マリーネの大冒険 後編」 埴輪  (MAIL)
「ここは・・・?」
「一体、何があったの・・・??」
 目がさめると、見知らぬところへ閉じ込められていた。
「目が、さめた?」
 そこへ、マリーネの声が飛び込んでくる。
「マリーネ、ここどこ?」
「多分、ここは物言わぬ柱の施設よ。」
「ものいわぬはしら・・・?」
「気にしないでいいわ、セリス。貴方には絶対、かかわらせないから。」
 そう言って微笑むと、周囲を見渡す。さすがに剣を振るうほどのスペースはない。ついでに言うと、荷物はジョートショップに置きっぱなしのようだ。ポケットには、ちゃんと月光石が入っている。
「とりあえず、ここから出ましょう。」
「扉を壊せばいいんだよね☆」
 待ってましたとばかりに言うマリア。その言葉に首を横に振って答えるマリーネ。
「扉は、私が何とかできると思う。だから、出るときは静かにしないと・・・。」
「え〜!? どうしてよ?」
「マリア、マリーネのほうが正しいよ。」
「そうですよ、ここは大人しく抜け出しましょ。」
「え〜!?」
 不満そうなマリア。だが、シェリルとトリーシャに窘められては仕方がない。
「とりあえず、扉を開けるね。」
 そういって、扉の隙間を覗きこむマリーネ。これなら、地味なやり方で開くことが出来る。しかも、さほど頑丈ではないし、おかしな力も働いていない。一つ深呼吸をすると、隙間に指を這わせるマリーネ。キン、と甲高い音が小さく響くが、部屋の中にいた人間以外には聞えなかったようだ。
「開いたわ。」
 淡々と告げるマリーネ。あっさりした展開にきょとんとしてしまう一同。ノブの類はなかったので、軽く押す。先ほどはどれほどもがいても開かなかった扉が、あっさり開く。ころんと錠がくぼみから落ちる。見ると、何か鋭利な刃物で斬られたような断面が見える。
「どうやったの?」
「一点の空間をずらしたの。こうすれば、他の部分はそのままだから刃物で斬ったのと同じ状態になるの。」
 あっさりと簡単に言うマリーネ。だが、扉の隙間に等しい範囲だけをずらす、というのはかなり難しい。マリーネは能力でやったが、魔法で同じ事をするのも、難易度としては大差ない。
「細かい事は後回しにして、ここから脱出しよう!!」
 トリーシャが力強く言う。何が細かいのかはともかく、その意見に賛同する一同。


「なるほど、ここがアジトか。」
 十六夜以下数名が、誕生の森の中にぽつんとたたずむ地味な山小屋を包囲していた。当然、傍らにはアルベルトがいる。
「おい、本当にここか?」
「ああ。間違いない。月光石の反応が、ここから感じられる。」
 荷物から、色々な物を取り出す十六夜。
「こいつで、相手が逃げられないようにしておこう。」
「ま、妥当な線だな。」
 てきぱきと指示を出す十六夜。
「さて、野郎ども、準備はいいなぁ!!」
「突入するぞ!!」


「どう言うおつもりですか!?」
「ふ、知れたこと。我々で世界を征服したい。それだけだ。」
「やれやれ、物言わぬ柱の質も、悪くなった物でございますね。」
「なんだと?」
 間抜けな仮面の男と顔に妙な刺青を入れた男が、緊張感をばら撒きながら会話をしている。
「まぁ、そのこと自体はどうでもいいでしょう。世界征服でも踊念仏でも勝手にやっておいてください。ただし、貴方がたが勝手にさらっていった人たちは、問答無用で返していただきますよ!!」
 仮面の男ハメットはそう言うと、その間抜けな仮面に力を集める。
「必殺!! ボランティア・アターーーーーーーッッッッック。」
 仮面が激しく光り、相手を打ちのめす。光の後に、なぜか宙に浮かぶ『慈善』の二文字。
「さて、お嬢様達を拾いに行きますか。」


「コードM、よもや逃げられると思っていたのか?」
「ええ。アインさんに色々教えてまらったから、こんなちゃちな所から抜け出すぐらいは出来るわ。」
 淡々と答えるマリーネ。
「ほう、言ってくれる。だがあの男がいないのなら、お前には万に一つも勝ち目はないぞ。」
 その言葉を聞いて、馬鹿を見るような目つきで男を見返すマリーネ。ランディがいるのならまだしも、こいつとザコの合成魔獣、それに何人かの戦闘員では、勝負は目に見えている。
「どうやら、戦力についてのリサーチが足りないようだね。」
 トリーシャがあきれながら言う。自分はまだ並だが、いっしょくたにさらった後の二人は凶器といってもいいほどの魔力を持っている。魔法が何発か発動した時点で勝負が完全に決まるだろう。
「ほう、ずいぶん自身ありげだな、小娘どもが。」
 そう言いながら、じろりと相手の集団を見渡す。一人その視線に絶えられないセリス。
「このままうだうだやるのは、あんまりセリスの精神衛生上良くないみたい。」
「じゃあ、一気に蹴りをつけよう。マリーネ、さっきの奴、出来る?」
「人間相手にはやりたくないわ。」
「分かった。」
 トリーシャとマリーネが簡単に作戦会議を済ませる。


『ヴァニシング・ノヴァ!!』
 同時に魔法を放つマリアとシェリル。あっという間に全滅する戦闘員。深刻な被害を受ける合成魔獣。最も、男には被害は及んではいない様だが。
「てえええい! トリーシャ・チョップ!!」
 どごん!! 妙に重い音が響き、あっさり沈む合成魔獣。さすがに、それを見て少し真剣な顔になる男。
「ふむ。確かにリサーチが足りなかったようだ。だが、悲しいかな、経験がたりん。」
 確かに、修羅場経験があるのはトリーシャだけ、他は実力はあるが経験が足りない。
「この期に及んでまだ油断しているなんて、貴方の経験もたいした事はないのね。」
 マリーネがあきれたように言う。手には、服についていた飾り紐が握られている。チラッと目配せをするマリーネ。うなずくマリアとシェリル。
『ヴァニシング・ノヴァ!!』
 またも同時に発動させるマリアとシェリル。直撃を食らう男。だが、
「甘いといっただろう。物理魔法など、空間操作の前には何の力もないのだ!!」
 煙の向こうからは、無傷の男が現れる。
「じゃあ、精神剣は?」
「何!?」
 後ろから聞えてきたマリーネの声に反応する前に、青白い光の刃で斬りつけられる。
「油断、するからよ。」
 完璧に気絶した男に対して、そうつぶやくマリーネ。持っていた『精神剣』の刃を収め、柄をいじる。あっという間に飾り紐に変化する。それを元々飾ってたとおりに身につける。
「それ、何?」
「アストラル・ウェポンだって。本来はもっと複雑な変形をするらしいけど、どうせ使いこなせないから、剣と擬態の二パターンだけに簡略化した物だそうよ。」
「どうせ、そんな妙な物を用意したのはアインさんでしょ?」
「うん。」
 そう言って、何事もなかったかのように歩き出す。途中、見つけた部屋の鍵を破壊して、他の子供たちも開放する。どうやら、自分のように改造されてしまっている子供は、いないらしい。
「お嬢様! トリーシャさん! シェリルさん! マリーネさん! いらっしゃいますか!?」
「この声は、ハメットさん!?」
「あの仮面男、どうしてこんな所にいるのよ!?」
 心底驚いた顔で、マリアが言う。最も、よもやあの男にお嬢様と呼ばれるは目になるとは思わなかった。
「こっちよ、ハメットさん。」
「ああ、良かったでございます。貴方がたに何かあったら、私、どうすればいいのか・・・。」
 すっかり善良で無害な男になってしまったハメット。最も、さっきの謎の必殺技、ボランティア・アタックなども会わせて考えると、人畜無害とはとても言いがたいが。
「とりあえず、来てくれて助かったわ。もし、この状況で何かあったら、さすがに私達だけじゃどうにかするのは難しいわ。」
「ですが、私の力量は皆様方と大して変わりはありませんでございますよ。」
「もっとも、心配は要らなかったみたいだけど。」
 そこに、突入して来た自警団第一・第3混成部隊が現れた。


「しかし、どうも、連中間抜け過ぎる気がするな。」
「ああ。ジョートショップ・第3部隊関係者を巻き込むんだからな。ロビンやランディなら、絶対こんな間抜けな真似はすまい。」
「アインが手抜きをするわけだ。こんな3流ではな。」
 空間転移を防ぐ方法を施した牢獄に放りこまれた男たち。いかに魔族の能力を研究していようが、カウンターされてしまえばまったく意味がない。
「だが、マリーネがあそこまでやれるとはな。」
「ああ。末恐ろしい子だよ。」
 結局、ジョートショップ関係者は、子供にいたるまで最強だという噂が、まことしやかにささやかれるのであった。

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