中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「アルディーナ奇想曲 その1」 埴輪
 セラフィールドを発ってから十数日、うっすらと煙が見えてきた。
「あの煙は・・・・。」
「どうやらアルディーナが見えてきたようだね。」
 今日中にはアルディーナにたどり着けそうである。
「さて、どうなってる事やら・・・。」
 少々苦い顔になるアイン。紛争の2文字と自分の体調、どちらもあまり良い物ではない。
「アインくん・・・。」
「心配しないで。絶対にシーラはエンフィールドへつれて帰るから。」
「無茶、しないでね・・・。」
 心底心配そうなシーラの頭を軽くぽふっとたたく。いつもの穏やかな笑顔。だが、今回ばかりはその笑顔も自分を安心させるには至らない。
「本当に、無茶はしないでね。」


「これは・・・。」
「ひどい・・・。」
 門の前で、2人して絶句してしまう。町を盗賊やモンスターから守るはずの外壁も門も、ほとんどが瓦礫に変わっている。エンフィールドと同じく、ここはいろんな種族、民族が混ざっているのだが、どうやら、それが悲劇の種になったようだ。
「ここまでやってるんだったら、宿とかも怪しいかもしれない。」
 そもそも、ピアノのコンサートなど成立するのだろうか?
「荷物、貸して。」
「え?」
「落ちつき先が決まるまで、まとめて僕が管理しておくよ。」
「・・・・・うん・・・・・。」
 持っていたスーツケースをアインに渡す。アインは、それを鞄の中にしまう。
「さて、どうしたもんか・・・。」
「失礼、シーラ・シェフィールド様ですか?」
「はい、そうですが・・・。」
 突如、横から一人の男が声をかけてくる。それなりの気品と風格を持った男である。
「私、今回の講演の主催者、ヴァレッチオ・デ・コルガーナの使いの者です。」
「そうですか、これはどうもご丁寧に。」
「一つ質問、いい?」
 横からアインが口を挟む。
「何で御座いましょうか?」
 なんだ、この男は? そう言う態度をありありとにじませる男。
「この状況で、何のためにコンサートを開くんだ?」
「大旦那様は、この状況だからこそ、潤いが必要だとおっしゃっておりました。」
「なるほどね。」
 それ以上は、突込みをいれたりはしない。
「それでは、こちらへ。」
 シーラに対しては、心底丁寧な態度で接する男。
「あの、失礼ですが貴方の御名前は?」
「これは失礼致しました。私の名はナヴィエ・ロンディオ。コルガーナ家の執事で御座います。」
 物腰やわらかな態度である。アインに接するときとはえらい違いだ。
「それでは、参りましょう。」
 さて、僕はどう歓迎されることやら、そう考えながら後に続くアイン。とりあえず、宿のほうはなんとかなりそうである。


 案内された建物は、豪商がすむにしてはこじんまりとした物であった。公文城家のほうがよほど大きい。
「大旦那様が御待ちです。どうぞ、こちらへ。」
「僕もついて行っていい? 一応、ボディーガードなんだけど。」
「・・・どうぞご自由に。」
 こんな男がボディーガード? という態度をありありと浮かべながらナヴィエは2人を案内する。
「アインくん、嫌われちゃったみたいね。」
「まぁ、仕方がないか。」
 こう言うプライドの高そうなたぐいに、初対面から好かれたためしはない。最後まで仲良くはならないこともしばしだ。


「良く来てくださった。当主のヴァレッチオ・デ・コルガーナです。」
「御招きに預かり、光栄です。シーラ・シェフィールドです。」
「そのボディーガードの、アイン・クリシードです。」
 アインの名を聞いて、ほう、という顔をするヴァレッチオ。
「こんな所で、ベルファールの鉄壁とお会いできるとは。」
「人違いでしょう?」
「いえいえ、エンフィールドのアイン・クリシードなら、ベルファールの鉄壁でしょう。」
 は? という顔をするアインとナヴィエ。
「僕って、そんなに有名になるようなこと、したっけ?」
「心当たりがありすぎて、分からないわ・・・。」
「まあ、直接のきっかけはシェリル・クリスティア著『ある青年の物語』ですが。」
 なるほど、という顔をするアイン。もう一人の世界的な有名人の事を忘れていた。
「あれの主役のモデルが僕だという根拠は?」
「モーリス氏が太鼓判を押してくださっていますよ。」
「とぼけても、無駄ってことですか・・・。」
 苦笑するアイン。無力だと思われているほうが、色々とやりやすいのだが。
「さて、本来なら、歓迎の宴と行きたいところなのですが、なにぶん状況が状況です。食事が質素になることは、ご容赦願いたい。」
「安心して寝泊りが出来るだけでも、贅沢ですから。」
 アインがそう返す。お前の意見は聞いてないといわんばかりのナヴィエ。大旦那様の言うことをほとんど信用していないらしい。
「とりあえず、今日のところは休んでおこう。状況もわからないで迂闊に外に出るのはまずい。」
「うん・・・。」
 少し悲しそうに答えるシーラ。
「それでは、僕達はこれで。」


「さて、ナヴィエ、アルガードはどう動くと思う?」
「彼としては、紛争が続くほうが嬉しいでしょうから、まず何らかの妨害があると思われます。」
「まぁ、シーラ殿の安全は大丈夫だろうが、アイン殿の負担を少しでも減らさねばなるまい。」
「あの男、本当にそれほど当てになるのですか?」
 ナヴィエには、ただののんきそうな男としかうつらないらしい。
「私やモーリス氏を疑うのか? まぁ、すぐに分かるだろう。」
 その言葉に不服そうなナヴィエ。そのとき、ノックの音が聞える。
「ヴァレッチオさん、ちょっとまずいことがあるんだけど、処理しといた方がいいかな?」
 アインが入ってくるなり、開口一発そう言う。
「まずいこと?」
「うん。時限爆弾って言う名前のね。」
 その言葉に硬直する2人。
「時限装置は魔法式、下手に手を出すと、ボン、だ。」
「何とかできるのですかな?」
「うん。時限魔法を解除して信管を抜いてやればいい。簡単なことだ。」
「では、なぜ先にやらない!!」
 こともなげに言うアインに対し、マジギレして普段の丁寧な言葉遣いをかなぐり捨てるナヴィエ。
「とりあえず、みんなを避難させておきたかったんだ。勝手に手を出して失敗したら目も当てられないからね。」
「で、残り時間は?」
「1時間ほど。タイムズ・ウィスパーで時間を稼いであるから、もう少し長いかな?」
「分かりました。」


「アインくん、本当に大丈夫なの?」
「うん、たかだか3つだし、爆発程度じゃ死なないから。」
「来る途中でも言ったけど、あんまり無茶しないでね。」
「分かってるって。」
 そのまま、建物の中に消えていくアイン。
「私、本当に何も出来ない・・・。」
「そう卑下なさらずとも、ね。」
「でも・・・。」
「それとも、アイン殿は、それほど嘘吐きなのですかな?」
 今までのことを思い出しながら答えを返す。
「いいえ・・・。でも・・・。」
 公文城家での出来事が、シーラの心配を加速する。心配してもどうしようもない事は分かっているのだが、感情はついてこない。
「とりあえず、待ちましょう。約束を破ったら、罵倒してやればいい。」


「ここの公式がこっちに引っかかってるんだな。」
 軽く気を送り込んで調べる。
「イレイザー・マジック。」
 中和の魔法をかけて、あっさり時限信管を無力化する。そのまま、爆弾を解体する。
「結局時限魔法を何とかすればたいしたもんじゃないな。」
 そのまま、残り二つの元に移動し、同じパターンで解体する。
「さて、これで大丈夫だな。」
 火薬に水をかけて湿らせてからため息をつく。
「じゃあ、報告してくるか。」


「解体は終ったよ。他に変な物は無し。」
「ご苦労様でした。」
「いや。しかしいやな世の中だ。不利になりそうだからって、客人をふっ飛ばそうとするなんてね。」
 不意にマジになって、アインが言う。
「で、何処の死の商人が、こんなふざけたことをするんだい?」
「そう断定しますか?」
「ああ。紛争が続いて嬉しいんだったら死の商人しかいない。」
「とりあえず心当たりとしては、アルガードですね。」
「死の商人としてのライバル?」
 アインがさらっと言うので、驚いたような顔をするヴァレッチオ。
「ま、貴方のはそこまで大げさな物じゃない。単なる武器屋の大きなのでしか過ぎない。武器屋は普通、客を選んだりしないからね。」
「侮れない方ですね。」
「貴方からは、非合法なことをしている人間の匂いはしない。だけど、修羅場をくぐった人間の匂いはする。」
「そのとおりです。昔は一緒に仕事をした仲ですが・・・。」
「今更、そんな事はどうでもいい。とはいえ、証拠が無いから反撃も出来ない。仕方が無いから防御に回るしかない。」
 肩をすくめて飄然という。アルディーナでの第1日目は波瀾を含んだ状態で始まったのであった。

中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲