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「アルディーナ奇想曲 その2」 埴輪  (MAIL)
 その日は、アインとシーラが2人で出歩くことになった。
「つき合わせて、ごめんね。」
「僕の役目はボディーガードだ。引っ張りまわしてくれればいいよ。」
 色々な物を詰めた袋を持って、アインが答える。紛争中とはいえ、いくとこに行けば色々な物が手に入る。可能性を考えたアインは、必要になるかもしれないと踏んだものを色々と集めておいたのだ。
「さて、非常食はある、消耗品も十分だ。となると屋敷のほうに仕掛けかな?」
 紙袋を覗きながら考える。不意に、視線を感じて向きを変える。
「僕達に、何か用?」
 物陰からじっと見つめる少年と少女に向かって、そう声をかける。膝を折って目線の高さを会わせている点はさすがである。
「・・・・・。」
 10歳くらいの少年が、8歳くらいの少女を後ろにかばいながら、こちらをねめつけている。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
 しばし見詰め合う四人。間抜けな光景である。
「変な奴だな・・・。」
「よく言われる。」
 あきれたように少年がいう。どうやら、警戒を続ける要素を感じなかったらしい。
「クロウ・・・大丈夫だと思う・・・。」
「・・・なんか俺もそう思う・・・。」
 言わずもがななことを少女が言い、少々疲れた様に少年が答える。
「で、何か用?」
「見かけない奴がいたから、傭兵かと思って様子を見てたんだ。」
 さすがに紛争地帯で生き延びている事はあり、彼らの潜伏は見事である。並の傭兵では気がつかないだろう。
「じゃあ、こっちのお嬢様も傭兵に見える?」
「雰囲気はそうじゃない。でも、身のこなしがちょっと・・・。」
「だって、シーラ。」
「・・・・・・・。」
 恥ずかしそうに顔をふせるシーラ。この顔で、並の傭兵など太刀打ちできないのだから、世の中何処か間違っている。
「ちなみにこの娘はシーラ・シェフィールド。今度、ピアノのコンサートをやる予定。」
「へぇ、こんな街にまで来るとは、酔狂だな。」
「こんな状況だからこそ、かな・・・。」
 少年の台詞にまじめな顔でシーラが答える。
「有名人の演奏って言うのも、一遍聞いてみたい気はするけど。」
「クロウ、そんなお金無い・・・。」
「何なら、聞きに来る?」
「へ?」
 予想外の台詞に戸惑う二人。
「さすがに、正式なコンサートを正式な席でって言うのは難しいけど、個人的な演奏なら、まったく問題ないよ。それに、コンサートだって、関係者として袖で見る事は出来るよ。」
「本当・・・?」
 少女が聞き返す。
「うん。嘘は言わない。」
「聞きに来る?」
 その返事を聞く前に、アインが突如動き出す。
「きゃ!!」
 シーラを抱えて路地に飛び込む。空いたほうの手で手近にいた少女をつかむ。そのまま、少女をつかんだほうの腕で少年を抱え込む。だが・・・。
「クロウ!!」
 無理な姿勢だったために、少年が腕から零れ落ちる。もっとも、もしアインが抱え込もうとしていなかった場合も、結末は同じだったであろう。そして、無数の銃声。
「クロウ!!!」
 少女の叫び声は、銃声と悲鳴に掻き消される。二人をかばい、後ろの光景を見せないようにしながら、アインは術を発動させようとする。だが・・・。
「遅かったか・・・。」
 既に、少年を落としたあたりからは命の気配が感じられない。痛恨の失敗に思わず顔をゆがめる。
「最初から、結界を張るべきだったのか?」
 だが、それも厳しい事は、何よりアインがよく分かっている。さすがに回復していない今の体では、こちらが死ぬまで弾丸を叩き込まれた場合に自分以外に一人が限界だろう。


 路地の外は、酷い惨状だった。どちらの兵隊も、市民に遠慮はしなかったらしく何人かいた通行人は、すべて肉塊になっている。更に、それを上回るおびただしい兵の死体が転がっている。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
 血で真っ赤に染まった道に、奇跡的に原型をとどめている子供の腕があった。位置関係から考えて、あの少年の物だろう。光景に思わず、吐きそうになるシーラ。
「シーラ・・・。」
 背中を優しくさすりながら、アインがポツリとつぶやく。
「我ながら、無力なもんだ・・・。」
 アインの表情には、動揺は無い。既に、目の前の光景を受け入れている。ただ、その瞳の中に自らと戦争とに対する微かな怒りがあるだけだ。
「くろう・・・。」
 何処かうつろに少年の名を呼ぶ少女。血溜まりに膝をつき、少年の腕を抱え込む。
「アインくん・・・。」
 動かない少女の背中を見ながら、シーラがつぶやく。
「どうにも、ならないの・・・?」
 目の前の光景を受け入れきれずに小さくたずねる。その言葉に青年は小さく首を振る。死んでしまった者を生き返らせる事は出来ない。少なくとも、今回は。
「せいぜい出来るのは、彼女を守ることぐらいだ。」
 そう言って、そっと少女を抱え上げる。少女は血塗れだが、シーラもアインも大差ない。最も、生きているのは彼らだけだが。


「なるほど・・・。」
「どう言うわけだから、しばらく預かってもらっていい?」
「かまいませんが・・・。」
 ヴァレッチオの顔を見て、先手を打つアイン。
「分かってる。これは単なる自己満足だって事も、僕の罪じゃないってことも。」
 責任逃れではない。市民を巻き込むような戦争の仕方をする連中の責任まで、アインが背負う義理はない。
「シーラ様の顔色が優れません。」
 ナヴィエが心配そうにいう。
「箱入りだったから、戦争なんて知ってるわけが無い。」
 こともなげに言うアイン。
「貴方は、何も感じないのですか・・・!!」
 ナヴィエの額に青筋が浮かぶ。本気でキレかかっている。
「何も感じていないとでも、思っているのか?」
 いつもと変わらぬ態度でそう言うアイン。
「ああ、少なくとも俺にはそう思えるね!!」
「だとしたら、酷い誤解だ。」
 少しまじめな表情でナヴィエのほうを向く。普段の何処か爺むさい雰囲気とは違う、だが見た目通りの年齢とも判断できない厳しい雰囲気だ。
「僕は戦争を知っている。戦場がどう言うところかも。だけど、シーラとの違いなんて、所詮はその程度だ。」
 そのまま、また窓の外に視線を向け続きを言う。
「でも、結局はそれは住む世界の違いをいやと言うほど表している。要は、人を殺す覚悟が出来ているかどうかって事だからね。」
 雰囲気に圧倒されている内に、気がつけば普段のアインに戻っていた。
「ま、今は僕はボディーガードだ。せいぜい、出来ることをやるよ。」


「失礼します。」
「どうした?」
 火の入っていない暖炉の前で、安楽椅子に揺られていた男が入ってきた謎の人物に問いかける。
「少々気になる卦が出ております。」
「ほう?」
 言って見ろ、と先を促す。
「青髪に注意、です。」
「青髪?」
「はい。」
「小娘の、ボディーガードは確か・・・。」
 男は室内だと言うのにフードをかぶっているその人物をちらりと見てつぶやく。
「確証がないなら、疑わしい物すべてを消せばいいのだな。」
「その通りでございます。」
「ついでに、レジスタンスの馬鹿どもも炙り出すとするか。」
「御意。」
 そう言って、その場から姿を消す謎の男。


「ちゃんと食べなきゃ、持たないよ。」
 食事に手をつけようとしない二人に、アインがそう声をかける。
「あんまり、食欲が沸かなくて・・・。」
 か細い声でシーラがそう答える。
「・・・・。」
 少女のほうはなにも言わない。虚ろな目で虚空を見つめつづける。
「やられっぱなしで、いいの?」
 少女のほうに向かって、アインが聞く。
「・・・・・。」
 まだ、なにも答えない。
「逃げるな、とは言わない。」
「・・・・・・。」
 表情は動かない。目も虚ろなままだ。
「でも、逃げる方向を間違えるのは、許さない。」
「・・・・・・・。」
 なにかつぶやいたようだ。シーラが気遣わしそうな様子で二人を見守っている。
「・・・・・・・・。」
「無理だね。」
 少女の呟きに対して、冷たく答えるアイン。
「アインくん・・・。」
「シーラも、こう言うときには無理してでも食べること。一口でいい。なにも食べないと、かえって気分は悪くなる。」
 アインの言い分も最もだとは思うが、どうしても口にする気が起きない。
「動ける内はちゃんと食べる。食べられるうちはどんなことがあっても大丈夫だ。」
 だから、きっちり食べろと言うアインの言葉に小さくうなずき、一口スープをすするシーラ。
「で、君はどうするんだい?」
「・・・・・・・・・・・。」
「分かった。ならば、ちゃんと食べること。いいね。」
 そう言って、再びアインは自分の食事に戻る。


「ここが、アルディーナか。」
「酷いもんだね。」
 馬車を降りたティグスとリサが、状況を見て顔をしかめる。小さな村に匹敵するほどの面積が、既に廃墟と化している。
「2人が心配だ。さっさと合流しよう。」
「ああ。護る対象がシーラ殿だけとはいえ、この状況ではアイン一人では限界があるだろう。」
 二人ともうなずき会い、主催者の屋敷を探し始めた。

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