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「アルディーナ奇想曲 その3」 埴輪  (MAIL)
「あれ? リサにティグス、何でここに?」
「シーラの両親に頼まれてね。あんた一人じゃなにかと大変だろうからって。」
「姫様になきつかれては、どうしようもない。」
 どうやって探り当てたのかは分からないが、二人は見事にヴァレッチオの屋敷にたどり着いていた。
「でも、僕達が来てまだ3日程度しか立ってないよ。」
「そりゃそうだ。あたし達は、あの伝書鳩と同時に出発したんだから。」
 さすがに、シーラの両親だ。もしかしたら、モーリスも一枚噛んでいるかもしれない。
「ま、実際この増援はありがたい。リサのおかげで、女同士でしかガードが出来ない場所も安心できるようになったしね。」
 そう言って、少しまじめな表情になる。
「どうやら、シーラの命を狙ってる奴がいるらしい。」
「そりゃまたなんで?」
「そんな事は分からない。でも、暗殺者が3人、襲いかかってきた。」
「シーラ殿は?」
「この事は知らない。今はピアノの練習中。まぁ、ナヴィエが居るから問題はないかと思ってね。」
 そのまま、2人をシーラの元へ案内する。


「リサさん! ティグスさんも!」
「やあ。元気そうだね。」
 その様子を見て、ふんと鼻を鳴らすナヴィエ。アインよりはましなようだが、女らしくない女とやはり正体不明の男である。
「ナヴィエ、一応ティグスはベルファールのロイヤルナイトだから、あまりいやな顔はしないほうがいいよ。」
「!!」
 予想外の単語に思わず硬直するナヴィエ。
「これは自己紹介が遅れた。私はティグス・ナイトランド。現在エンフィールドに留学しておられる第一王女、ファーナ・ベルファール殿下の護衛をしている。」
「あの、アインさんとは・・・どのような関係で・・・?」
「友で、命の恩人だ。」
 ますますこの男のことが分からなくなる。
「アインが正体不明なのは、今に始まったことじゃないよ。」
 リサが補足する。
「さて、どう言う対立か、教えてくれるか?」
 ナヴィエに質問する。


「よくある話みたいだね。」
 話を一通り聞いて、アインが最初にほざいたのは、そう言う感想だった。
「アイン、不謹慎だよ。」
「本人に会ってみないことには分からないけど・・・。」
「けど・・・?」
 少し言葉を選ぶアイン。
「様子から言ってどっちの指導者も、正義や理念よりは、野望やらエゴやらで戦っているように思える。」
「その根拠は?」
「戦場に、それらしい人間が居なかった。」
「だが、賢明な人間なら、矢面には立たないぞ。」
 それを聞いて、首を左右に振る。
「戦場の様子が問題なんだ。賢明でかつ、理想に燃えてる人間なら、わざわざ一般人を巻き込むような戦闘のしかたは避けると思う。」
「避けきれなかったとか?」
「いや、あれは故意に巻き込んでる節があった。なんにせよ、どっちが勝っても、ろくなことにはならないな。」
「たしかにな。」
 街の様子を見ていれば、そう思ったところで無理もない事は、誰の目にも明らかである。
「ま、結論を出すのは後だ。あったこともない人間についてうだうだ言っていても始まらない。」
「どちらかに会いに行くのか?」
「いや、ちょっと偵察。地形ぐらいは把握しとかないと、後で面倒くさい。」
「分かった。シーラ殿は、我々がガードしておく。」
 その間、話を黙って聞いていたシーラが、始めて口を開く。
「無理、しないでね。それから・・・。」
 ふせていた顔を上げ、続きの言葉を唇から押し出す。
「早く、帰ってきてね。」


 3人の人影が、ヴァレッチオ邸の屋根の上に立っていた。
「笊な警戒だな。」
 人影の内、最も大柄な男が言う。グレイブを担ぎ、大剣を佩いたその姿はとても潜入に向くものではない。
「これが大商人ヴァレッチオの私邸だと思うと、拍子抜けだ。」
 小柄な男が、同意を示す。背中にはライフル系の銃が背負われている。
「気を抜くな。標的の警戒までが笊だとは限らないぞ。」
 中肉中背の男が仲間二人を窘める。こいつも背中に連射機構つきのボウガンを背負っている。完全武装をしているところを見ると、潜入の目的は襲撃らしい。
「それならそれでかまわねぇさ。たまにゃ、歯ごたえのある相手ってのもいいもんだ。」
 ふっと笑った中肉中背。物騒な笑みのまま、同意を示す。
「それもそうだな。」
 そのまま、屋根の上から3人の姿が消えた。


「まずいな・・・。」
「どうした?」
「ちょっと、狭い。」
 アインの台詞も無理もない。襲われた場合、シーラを戦闘圏外に逃がす事は出来ない。しかも横には3人並んで武器を振るえる程度のスペースがある。
「誰か、来るのかい?」
「ああ、たぶん。」
「どうして分かった・・・?」
 リサへの返事が終るや否や、謎の男が声をかけてくる。
「さっき、屋根の上から物音が聞えた。で、昨日も同じことがあったんだから答えは一つしかない。」
「なるほどな。」
 別の一人が答える。かなりの大男だ。
「そっちの騎士様にも興味はあるが、まずは青いのからだったよな。」
「ああ。それが命令だ。」
 とりあえず、3対3の構図は完成するが、前線に出てきたのは大男一人である。
「あんた達、なめてるのかい?」
「そんな、滅相もない。これが、俺達の最強なんでな。」
 そのまま、グレイブを大きく振りかぶる。
「固まってちゃ危険だ。リサとティグスは後ろの二人を。」
「分かった。」
「そこをぬかれんじゃないよ。」
 散開して、大男の脇をすり抜けようとする2人。そこへ、無数の弾丸が撃ちこまれる。
「マシンキャノンか!!」
「ぼやぼやしてると、怪我するぜ!!」
 乱戦の中に的確に撃ちこんでくるのだから、度胸も技量もさすがである。更にそこへ追い討ちの矢が飛んでくる。
「く! 近付けない!!」
「弾切れを狙うしかないね・・・。」
 だが、そんな余裕を作るのは難しそうだ。距離的には最も飛び道具の有利な間合い、しかも後ろには下がれない。大男に攻撃などすれば、いい的である。


「なるほど・・・。」
「言ったろ、最強だって。」
 そう言って、無数の攻撃を叩き込む。間一髪ですべてを防ぐアイン。正直、内心では冷や汗にまみれている。
(まずいな・・・。懐に飛びこませてくれるほど、甘い相手じゃなさそうだ。)
 何度か踏みこもうとしているのだが、そのたびに石突が飛んできて押し返されてしまう。しかも、自分だけでなく後ろのシーラも狙っている。下がらずに対処しなければ、彼女の命が危ない。
「は!!」
 石つぶてを飛ばし更に懐にもぐりこもうとする。だが、あっさり防がれる。
「いいねぇいいねぇ。」
 そのまま、鋭い突きをつきこんでくる。すばやく懐に飛びこんで体当たりをかまし、追撃を防ぐ。
「ガキの分際でやるじゃないか。」
「そりゃどうも。」
 思いきった手を打たないと、そのためにはこの厄介な武器をつぶさないと。


「くそ!!」
 神速の踏みこみと言えど、二歩かかる範囲はやはり飛び道具の間合いである。
「ちぃ!!」
 飛び道具には飛び道具とリサがはなったナイフはあっさり迎撃される。こちらも完全な手詰まりである。いくら腕がよかろうと、飛び道具で動き回っている相手を捕らえるのは難しい。だが、絶妙な間合いは多少近付いたところで崩れはしない。
「まだまだ!!」
 飛んできた矢を薙ぎ払って叩き落すティグス。だが、マシンキャノンの銃弾に同じ真似は出来ない。数が多すぎる。
「こいつを叩き落すことが出来るなら、話は簡単なんだがな!!」
「アインじゃあるまいし、そんなことを考えるんじゃない!!」
 飛んできた銃弾を左右に飛んでかわしながらリサとティグスが相談をする。
「どうにか踏みこめない物か・・・。」
「弾切れを待つしかないね。」
「その前に、まずこちらがやられると思うぞ。」


「でや!!」
 薙ぎ払いが飛ぶ。踏みこもうとした瞬間に更に石突が飛んでくる。
「おもしれえじゃねぇか。」
 そう言って、グレイブを引き戻す。アインが動くより先に牽制の石つぶてをとばす。
「惜しいが、後がつかえてるんでな。」
 そう言って、今までとは比較にならないほどのスピードでつきこんでくる。
(避けられないか!)
 避けるには後ろに飛ぶしかない。そして、そんな事をすれば続く薙ぎ払いがシーラの体を両断する。アインは決断した。武器をつぶすための、最も大胆な手段をとることを。
「は!!」
「なに!?」
 そう、アインは自らグレイブの穂先に向かって踏みこんだ。だが、一つ誤算があった。相手の突進力が、思ったより大きかったのである。
「残念だったな!!」
 グレイブが、アインの心臓を捕らえる。そのままの勢いで、シーラの横を通りぬけ、アイン越し、グレイブを壁に縫い付ける。
「!!」
 とっさに危険を感じて飛びのいたシーラのすぐ横を矢と弾丸の嵐が飛ぶ。ティグスがシーラをかばう。一通りの攻撃が空間を凪いだ後、不吉な光がアインに叩き込まれる。
「エクスプローダーだと!?」
 マシンキャノン同様、魔法の産物であるそれは、一点で爆発し、あたりの空間を焼き尽くす代物である。普通ならば、これを食らえば跡形も残らない。
「アインくん!!!!」


「最後の動きは、ひやっとしたぜ・・・。」
「だが、これだけやれば跡形も残らんだろう。」
「だな。」
 だが、襲撃者たちの言葉を裏切り、壁には原型を残したアインの体が力なくぶら下がっていた。
「アイン・・・くん・・・?」
 ぺたんとその場に座り込むシーラ。どう見ても生きているとは思えない。不死身だと思われた青年のあっけない最後。壁際は青年の体から流れ出たおびただしい量の血で浸されている。だが、その光景自体が襲撃者たちには信じられない物であった。
「化け物かよ・・・。」
「すさまじく頑丈な体だな・・・。」
「本気で生き物か?」
 そう感想を漏らした時点で、アインの体への興味を失ったらしい。ボウガンの照準が、力なく座り込むシーラを捕らえる。
「もう一人も、これで終りだな。」
 引き金を引き絞る。リサもティグスもカバーにはいれない。大男の攻撃が鋭かったためである。
「シーラ!!」
 叫んだところでもう遅い。もう一人の友人をなくしてしまうかと思った次の瞬間、非常識な光景が繰り広げられた。床を浸していた血が、幕のように広がって矢を絡め取ったのだ。
「何!!」


 非現実的な光景であった。彼らの常識では、あってはいけない事であった。だが、その光景は現実であった。
「・・・。」
 縫い付けたグレイブ越し、壁から体を引き剥がす。右手でグレイブを、左手で体中に刺さった矢を数本、まとめて引き抜く。更に大量の血が床を浸すが、見る見るうちに流れ出す量が少なくなり、わずか数秒で出血が止まる。
「ア、アイン・・・か・・・?」
 答えずに、全身に軽く力を入れる。深くめり込んでいた銃弾が血と一緒にすべて外に押し出される。既に服など原型をとどめてはいない。だが、裸というイメージもない。真紅の血が衣となって青年を覆っているからだ。
「ば、化け物!!」
 その声に答えず、青年は緩慢な動作で、己が血で形成された血溜りに1歩踏み出す。思わず2歩下がる襲撃者たち。更にもう一歩、先ほどよりはやや速い動きで踏み出す。
「く、来るな!!」
 全身が真紅に染まっているなかで、青い、いや蒼い髪と瞳が奇跡のように鮮烈に印象に残る。じりじりと下がりつづけているうちに、ついに壁際まで追い詰められる襲撃者たち。
「・・・。」
 青年は表情一つ変えず、刃こぼれを起こし、己が血で紅く染まったグレイブを横に薙ぎ払う。
 一閃。男たちには、なにも分からなかっただろう。ぽかんとした表情でアインを見つめていた。数秒遅れて、体を上下に分けられる男たち。
「ば、馬鹿な・・・。」
 信じられないという表情のまま、生命活動を終える襲撃者たち。だが、断面から血の1滴も流れない。


「あ、アイン?」
 あまりにも異様な雰囲気に硬直するリサとティグス。のろのろと立ちあがるシーラ。
「アインくん・・・?」
「・・・。」
 なにも言わないアイン。だが、間違いなくアインである。その表情は、大丈夫だといっている。
「アインくん!!」
 血塗れで傷だらけの凄惨な姿だというのに、まったく恐れずに飛びつくシーラ。まだ硬直しているリサとティグス。
「私・・・怖かったんだから・・・!!」
 しがみついて盛大に泣き出すシーラ。どうしようかと戸惑いの表情を浮かべるアイン。いつもの彼である。というよりも彼以外の何者でもない。
「シーラ・・・。」
 ようやく咽の再生が終ったアインが、かすれた声を絞り出す。
「え・・・?」
「引っ付いたら・・・汚れるよ・・・。」
「馬鹿!!」
 デリカシーがないといえばデリカシーのないアインの台詞に、本気で怒るシーラ。慌てふためいてなだめようとするアイン。襲撃者の死体と血で濡れた床がなければ、そしてアインのからだが血塗れでなければ、恋人同士の再会に見えたかもしれない。
「今回は、最大級かもしれないな。」
「まったく、どうしてあんなに朴念仁なんだか・・・。」
 どうも論点がずれているリサとティグスであった。

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