中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「アルディーナ奇想曲 その7」 埴輪  (MAIL)
「間一髪、って所かな・・・。」
 自嘲するようにアインがつぶやく。膝が笑いかけている。ほとんど無痛覚に近いはずなのに、全身が痛い。
「これで、何も起こらないといいなぁ・・・。」
 周囲を見まわして、アインがつぶやく。今回の先頭は、意外な形で終焉を迎えた。大量に横たわる死体。それに囲まれながら歌いあう兵士たち。どこかこっけいで、
・・・・・どこか悲しい光景である。
「アイン、生きてるか?」
「普通なら死んでる。」
 ティグスの質問に対し、お馬鹿な答えを返す。今更普通を語るのは間違いである。
「正直、助かった。」
 歌は、まだ続いている。不思議な空間である。
「これは?」
「夜想曲嬰ハ長調だったかな? たしか歌の名前は『いつの日も』だったと思う。」
「なるほどな。」
 下段の渕に腰をかけるアイン。かなり、重労働だったようだ。歌が終ったたあたりで、オカリナを取り出す。口に当てると同時に、ピアノが流れる。
「・・・この場合、どちらに流石と言うべきなんだろうな・・・。」
 見事なハーモニーを奏でるピアノとオカリナ。死者への手向けの曲である。その場にいたもの全員が、目をつぶり祈りをささげる。


「やっぱり、このままって訳には行かないか・・・。」
「場の雰囲気がよめん愚か者がいる、と言うわけか。」
 何かが、地響きを立てて近付いてくる。
「もうひと働き、するか・・・。」
 ふらつく体に活を入れ、立ちあがるアイン。
「無理をするな、アイン・・・。」
「ここで無理をしないで、いつどこで無理をするんだ?」
 地響きが大きくなる。
「・・・アイン。」
 リサが、まじめな顔をしている。
「どうしたんだ、リサ?」
「パティ達を泣かせるようなまねは、するんじゃないよ。」
「分かってる。ぎりぎりだけど、死なない事は分かってるから。」
 飄々と答えるアイン。包帯はどこもかしこも紅に染まっている。
「アイン、私がなんとか・・・。」
「さすがに、あれをティグスが止めるのは、きついんじゃないか?」
 地響きの正体が、彼らの目の前に現れた。移動要塞である。人間を踏み潰すくらい、大して難しくはあるまい。
「あれは・・・。」
「知ってる奴か?」
「レジスタンスのリーダーだ。」
 リーダは−は、串刺しにされて絶命していた。まるで、見せしめのように晒されている。
「愚か者どもよ! 我をあがめよ!!」
「さて、どちらが愚か者なんだか・・・。」
 要塞の前に移動したアインがつぶやく。馬鹿馬鹿しいほどの威圧感が、滑稽ですらあった。
「命乞いか? だが、今更聞く耳はもたんなぁ。」
「始めから、ここの人間全滅させるつもりだったくせに。」
 要塞の正面の筒に、エネルギーが集中する。それにあわせて、グレイブを構える。
「ファランクスか・・・。動かせる奴が背後についてるな・・・。」
 多分悪魔か何かだろう。この要塞は、一部の例外を除いて、人間が一人二人で動かせる代物ではない。
「後悔しながら死ね!」
「3流だな。」
 相手の台詞をそう論じながら、破滅を運ぶ光を待つ。タイミングを見きり、グレイブを振るう。
「があ!!」
 すさまじい衝撃に、思わずうめき声をもらす。だが、目的は達した。ファランクスの光は、大きく軌道を捻じ曲げられ、空へと吸い込まれていった。
「何!?」
「今度は、こちらからだ。」
 力を、両手に集中させる。周囲から、洒落にならないほどの気を取りこむ。「本来は、この程度のことじゃ使わないんだけど・・・。」
 掌で圧縮、集中する。蒼い光がこぼれ出す。
「今回は、余裕がないから使わせてもらうよ。」
 蒼い光が両手を包む。先ほどのファランクスなど、問題にならないほどのエネルギーだ。
「神龍闘技術秘伝奥義・・・。」
 気に耐えきれなくなった体が、悲鳴を上げる。余裕がないと言うのは、嘘ではないらしい。
「龍王弾!!」
 両手から極限まで圧縮された闘気を撃ち出す。闘気は蒼い龍の姿を取り、一直線に要塞に向かう。反動で、アインの足元にクレーターが穿たれる。
「あ、あれは・・・。」
「あのときの・・・。」
 リサもティグスも、この技を知っていた。威力は今回のほうが桁外れに大きいが、紛れも無く邪龍を滅ぼした技である。
「なんだと!?」
 悲鳴を上げる首相。だが、声が出る前に龍に飲みこまれる。謎の男−悪魔も抵抗の余地無く滅ぼされる。無慈悲で絶対なる牙・・・。
「アイン!!」
 さすがに、技を放ったほうも、代償は高くついたようだ。全身から血を流し、片膝をつくアイン。腕はあがらないらしく、力なく垂れ下がっている。
「アインくん!!」
 シーラが、ピアノの前から駆け下りてくる。
「シーラ・・・。」
「なに・・・?」
「服が、汚れるよ・・・。」
「馬鹿!」


「すみません、講演を最後まで続けられなくて・・・。」
「いえいえ。一度で十分です。どの道、あのまま続けてもあれほどの演奏は聞けないでしょうし。」
「すみません・・・。」
 ちなみに、アインの姿はここにはない。馬車の中の寝台に縛り付けられている。最も、本人も抵抗する気はなかったようだが。
「これで、この街も少しは良くなればよいのですが・・・。」
「大丈夫です。カーツさんなら・・・。」
 結局、新たな指導者には、あの壮年の戦士がつくことになった。まだ、両派の最右翼が抵抗を続けているが、彼の指導力の前にほとんど用を成していなかったりする。
「本人はぼやいていましたがね。」
 少しの間、会話を続けた後、シーラは一つ頭を下げた。
「また、平和になったらお招きさせてください。」
「その時は、是非うかがわせていただきます。」
ヴァレッチオの後ろから、ちょこんと顔を出した少女が、小さく頭を下げる。彼女は、正式にヴァレッチオの娘となった。最も、年齢差を考えると祖父と孫、であるが。
「さようなら、ルカちゃん。」
「・・・さようなら・・・。」
 そして、馬車は旅だった。彼らの街、エンフィールドへ。

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