中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「Sorceress」 埴輪  (MAIL)
 エンフィールドに続く街道筋。小柄な人物がほてほて歩いている。旅用の外套を羽織り、フードを深くかぶっているので容貌は分からない。ただ、神官衣と魔術師の服を足して二で割ったようなデザインのゆったりした服の胸元にふくらみが認識できるので、多分女性であろうと思われる。
「よう、ここは通行止めだぜ。」
「身包み置いていけば、通してやってもいいぜ。」
 盗賊、山賊などと呼ばれているたぐいだが、所謂シーフではない。こんな連中と比べたら、シーフに失礼である。
「あら、それは困りましたね。全部持って行かれたら御土産がなくなってしまいます。」
 優しげな声で、のんびりとした女性が返事を返す。声は、どことなくアリサに似ている。最も、まったく困っている様子はない。
「なら、俺達の相手をしてもらおうか、ねえちゃん!!」
 威嚇するように曲刀を抜く。種類としては、シャムシールと呼ばれているものである。後ろから、ぞろぞろと人影が現れる。
「あらあら、無粋な御誘いですね。そんなことでは、女の方にはもてませんよ。」
「この期に及んでそんな口を聞くとはいい度胸じゃねぇか、姉ちゃん。」
 結構きているらしい。額に青筋を浮かべながら盗賊その一がにらみつける。
「野郎ども! 身包みはいじまいな!! ただし、絶対に傷つけんじゃねぇぞ!!」
「おお!!」
 一斉に殺到する盗賊たち。彼女の運命はいかに?


「こっちか?」
「ああ。多分な。」
 行商人から、盗賊を何とかして欲しいとの要請を受け、リカルドをはじめとする第一部隊が駆り出された。街道筋をさかのぼっていく。しばらくして、怪しげな集団が騒ぎを起こしているのに気がつく。
「隊長、いました!!」
「妙だな。なぜこんな道のど真ん中で暴れている?」
「どうせ、連中が馬鹿なだけですよ!!」
 アルベルトの言葉を黙殺し、目を凝らすリカルド。厳つい連中に囲まれた小柄な人物が、ひらりひらりと攻撃をかわしているのが見える。
「あれは、何者だ?」
 尋常な腕ではないのは分かる。最も、限度を超えたレベルではない。その程度の腕があれば山賊ごときには負けない、という好例である。
「そろそろ、あきらめていただけません?」
「ここまでこけにされて、後に引けるとでも思ってるのかよ!!」
「でも、後ろにどこかの街の自警団が来てますよ。」
「だからどうした!!」
 ボスにはエンフィールドの自警団に負けない自信があった。最も、はっきりきっぱり過信であるが。
「そうですか、仕方ありませんね。」
 ボスの攻撃を軽く飛びあがってかわす。そして、軽やかに着地する。ボスの剣の上に。
「な!?」
 剣の上から飛びあがり、ボスの頭に手をつき、一回転宙返りをする。バチ、という音と共にボスが崩れ落ちる。
「ごめんなさい、これ以上あなたたちと遊ぶつもりはないの。」
 そうつぶやいた次の瞬間、全員の体が動かなくなる。
「終りましたよ。」
 先ほどの宙返りの際、フードが頭から外れたらしい。どうやっておさめていたのか、ポニーテールにした長い金髪が風にゆれている。見たものの目を離さない、そんな美人だ。これほどの美貌は、世界中探してもほとんどあるまい。
「こ、これはどうも。」
 思わず硬直していたリカルドが、少女(と呼んでも違和感がないくらいの年齢に見える)に慌てて返事を返す。
「全員捕縛!」
 かくして、街道を騒がせていた盗賊団は、あっさりとお縄についたのであった。ごたごたしている間に、謎の少女は姿を消していた。


「いらっしゃいませ。」
「こちらは、宿屋でしょうか?」
 フードをはずした目の前の女性に、思わずぽかんと見入ってしまうパティ。本気でお洒落をしたシーラより綺麗な女性を、彼女ははじめてみた。
「あの・・・?」
 青い瞳にいぶかしそうな色を浮かべ、女性が声をかけてくる。年齢はよく分からないが、10歳代後半から20歳代後半までならいくつといっても納得してしまうだろう。
「あ、ごめんなさい。宿を取りたいんだっけ?」
「ええ。期間はまだ決めてません。とりあえず一週間ほど・・・。」
「分かったわ。宿帳御願いね。」
 そう言って、宿帳を差し出す。
「そう言えば、この街にはどんなようで?」
 必要事項を書き始めた女性に何気なく質問する。
「息子の様子を見に。」
「息子?」
 どう見ても子持ちには見えない。いたとして、せいぜい10歳そこらのはずである。
「ええ。多分、あなたも知ってると思います。お父さんに似て、凄く目立つ子ですから。」
 おっとりと、そんなことを言ってのける。確かに目立つだろう。こんな綺麗な人の子供だ。そこへ、入り口のカウベルがなる。
「いらっしゃい! ってアレフか。」
「そりゃねえぜ、パティ。」
 パティに抗議をしかけたアレフだが、宿帳を書いている女性を見つけ、すばやく傍による。顔を見て一瞬言葉を失うが、すぐに立ち直るあたりはさすがである。
「素晴らしく美しいお嬢さん、今日の出会いを記念して、お茶にお誘いしたいのですが?」
「お茶ぐらいはかまいませんけど、こんなオバサンをくどいてもなにも出ませんよ。」
「オバサン?」
 宿帳を返しながら、女性が言う。宿帳の名前を見たパティの動きが止まる。そこに、もう一度カウベルがなる。エンフィールドでの目立つ人物の筆頭、アインである。
「あれ、お客さん?・・・って」
 アインが絶句する。そして、次に吐いた台詞はさくら亭を驚愕の渦に叩き込んだ。
「か、母さん!?」


「は、母親・・・?」
「うん。アンナ・クリシード。こう見えても6児の母。」
「はじめまして、パティさん、アレフさん。あなたがたの事は息子から聞いています。」
「あ、これはどうも・・・。」
 丁寧に頭を下げられて、思わず対応に困る二人。
「あの、失礼ですけど、いくつですか・・・?」
「年、ですか? 確か今年で44だったと思いますけど。」
「嘘・・・。」
 どう見ても30には届いていないように見える。だが、普通さばを読むときは若く読むものだから嘘は言っていないのだろう。
「さて、母さんは何しにここにきたの?」
「息子の様子を見に、ね。」
 母親の顔になって言う。だが、何度見ても23を筆頭に6人の子持ちには見えない。
「あのねぇ、23にもなった息子の様子を、わざわざ見に来ないでよ。」
「だって、23にもなって恋人の一人もつれてこないんだもの。母親としてはやっぱり気になるわ。」
 にこにこしながらきつい一言を返す。さすがのアインも、母親相手には分が悪いらしく、何かいってもあっさりきり返されてしまう。ちなみにパティは恋人云々のくだりで硬直している。
「まあ、ちゃんと自分で反動は押さえたようだし、あなたもやっと一人前になったみたいね。」
「実際はまだまだ半人前なんだろうけど・・・。」
 苦笑するアインを優しく見つめるアンナ。
「なんにせよ、早くいい人見つけて、一度帰ってきなさい。レアも気にしてるわ。」
「なんであいつが気にするんだ?」
「そりゃあ、双子のお兄ちゃんを差し置いて、自分が先に幸せになっちゃったんだもの。それに年の上下に関係なく、兄弟のことを気にかけるのは当たり前じゃないの?」
 確かに、自分にしても妹が幸せなら嬉しい。やっと納得するアインを見て苦笑を浮かべるアンナ。
「そうだ、折角だから久しぶりにあなたに、母さんの料理を食べさせてあげるわね。」
「どこで・・・?」
「ジョートショップ、だったっけ? あなたが働いてるお店で。皆さんもどうですか?」
 パティとアレフに穏やかに聞く。
「いいの?」
「僕はどっちでもいい。そっちが決めて。」
「じゃあ、御言葉に甘えて御邪魔するわ。」
「俺も。」
 折角だからシーラたちも呼ぼう、ということで意見が一致し、アインは親子で買い物に行くことになったのだった。

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