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「ベルファール交響曲 プロローグ」 埴輪  (MAIL)
「アイン。」
「どうした?」
「ああ。少し、話があってな。」
 ティグスの様子を見て、怪訝な顔をするアイン。らしくなく、なにか躊躇っている様だ。
「らしくないな。」
「ああ、ちょっと言いづらくてな。」
 なかなか踏ん切りがつかないらしい。
「ま、話はお茶でも飲みながら。」
 まとめていた書類を束ねると、台所のほうに歩き出す。
「アイン、こっちは終ったぞ。」
「今日の仕事は終了した。」
 カンティスとヴァルティが戻ってくる。普段、この二人は翼を隠している。正体を隠すためではなく、単に邪魔だからだ。そもそも、正体など既にエンフィールド中に知れ渡っている。
「ああ、ご苦労様。少しまってね。今、お茶を用意するから。」
 手際よく茶の用意を済ませ、茶菓子を適当に用意してから食堂に戻る。
「はい、お待たせ。」
「そう言えばティグス、今日はなんの用向きだ?」
「お前さんが迷ってるなんて、明日は雨か?」
 二人にも彼の様子はおかしく見えるらしい。怪訝な顔で首をひねっている。
「そうだな、迷っていても始まらんか。アイン、ベルファールに来てくれないか?」
「へ?」
「いきなりだな。」
 ティーカップをソーサーの上に置いてヴァルティが静かに言う。
「なんで今更?」
「陛下が、どうしても、とな。」
「なんか、厄介なことが起こってるようだな。」
 人事のように、カンティス。
「王弟殿下の件は、かたがついてるはずだよ。」
「ああ。今回は別件だ。どうしても、ベルファールの鉄壁に会いたいと言う方がいるのだ。本来ならエンフィールドまでご足労願うのが筋、なのだが・・・。」
「また、厄介な話を・・・。」
 とはいえ、多分断るわけにも行かないだろう。そもそも、ベルファールの国王セインには世話になっている。戦を3つ拾った分でチャラといっても、義理人情がそれを許してくれない。
「って事は、俺達は留守を預かればいいんだな。」
「頼めるか?」
「お前が主だ。我々が断れるわけがなかろう。」
 苦々しく吐き捨てるヴァルティ。ちなみに、彼の場合、天使の輪も隠している。やはり邪魔だし、翼なしでは間抜けだからだ。
「別にそこまで束縛はしないよ。あくまで刻印は僕達に牙を向けたときだけだ。」
「お前の軍門に下ったんだ。元々逆らうつもりはねーよ。」
 カンティスの台詞に苦笑を浮かべるアイン。
「そうだなぁ。また街を離れるっていったらうるさそうな人が一杯いるからなぁ・・・。」
「確かにな・・・。」
 と言っている傍から、ジョートショップに誰か入ってくる。
「こんにちは〜。」
 トリーシャである。後ろからは、おずおずと言う感じでシェリルが顔を出す。
「やあ、いらっしゃい。ま、座ってて。今、お茶を用意するから。」
 穏やかに微笑んでアインが言う。席を立とうとすると、ヴァルティがそれを制する。
「私が用意しよう。お前は話をまとめて置け。」
「分かった。じゃ、頼むよ。」
 そのまま、ティグスのほうに向き直る。
「さて、どうしたもんだと思う?」
「ま、隠しても仕方があるまい。こちらが無茶を言うのだから、ついてきたい人間には客人扱いで付き合ってもらってもいいと思う。」
 さらりとティグスが言う。彼の権限は結構大きい。少なくともこの街の知り合い10人や20人、王宮の客人として扱える程度には。
「ねぇねぇ、なんの話?」
「簡単に言うと、ベルファールに行く話。」
「ふーん。」
 とあっさり相槌を打って、いっぱく置いて驚愕の声を上げるシェリルとトリーシャ。
『ええ〜!?』
「どうして!?」
「なんのために!?」
「ティグスに聞いて。僕は、僕に会いたがってる人がいるとしか聞いてないから。」
 苦笑してお茶をすする。ティグスが、苦い顔をして言う。
「ベルファールに今、少々厄介な事情を抱えた客人がいる。その方が望まれたのだ。」
「そっちから来るのが礼儀じゃないか。」
「本人はそのつもりだったご様子だがな、さすがに周囲が止めた。無理なら無理でいい、と言っておられたが、な。」
 どうやら、ベルファールの王宮の人間は、かなりその人物に好意的なようだ。
「で、無理は承知で言うだけは言ってみた、と。」
 トリーシャが困ったように言う。
「仕方がないから、後の憂いを経つためにも頑張ってベルファールまで行ってくるつもりなんだけど。」
「なら、一応みんなにも話を通しておかないとね。」


「シーラ、大丈夫なの?」
「ええ。ちょうど、無理言ってお休みをいただいたところだから。」
「どれぐらい?」
「半年ぐらい、かしら?」
 確かにここ半年ほど、彼女のスケジュールは過密に過ぎた。セラフィールドやアルディーナにいた期間も含めて平均すると、月平均でエンフィールドに一週間いない計算になる。アンナがきたときはたまたまエンフィールドにいたが、その後はずっと世界中を飛びまわっていたのだ。
「それはまた、無理を聞いてもらったもんだ・・・。」
「お休みをもらえるほど、私の演奏が落ちてた、ってことかもしれないわ。」
「・・・ごめんなさい。」
 シーラの台詞に、思わず謝るアイン。ちょっと前に遊びにきた母親の台詞が効いている。
「私の問題だから、アインくんが謝る必要はないわ。」
 穏やかに優しく微笑むシーラ。だが、理由はわからなくても散々心配をかけてきた身としては、その笑顔は直視できない。
(なんか、段々みんなに頭が上がらなくなってきてるなぁ・・・。)
「本当に気にしないで。逆に、あなたのことを思うと自分でもびっくりするほどの演奏が出来るから。」
 さらりと大胆なことを言う。アレフによると、そう言った台詞をいうのは、アイン相手だけらしいのだが、アインは当然の如くその理由に気がついていない。
「それはそうと、このなかでパーティードレスとかの類を持ってる人間って、どのくらいいる?」
 答えはなかなか散々な物だった。今回ついてくる女性陣ではシーラ、マリア、トリーシャ、メロディ、クレアの五人だけ、男性陣にいたってはアレフとルー、リオ以外は全滅である。
「アルベルトは?」
「俺、その手の服はあの服しか持ってねぇよ。」
「さすがに、あれは問題か・・・。」
 さすがに、劇の衣装でまはずいだろう。しかも、その時は劇用のメイクで顔を白く塗りつぶしていたので、間近で見ると無茶苦茶怖かった。目も鼻も口もはっきり分かるだけに余計怖さが増幅されるのである。
「でも、メイクをそこまで派手にやらないんだったら問題はないと思うけど・・・。」
「やっぱり止めとく。並のメイクじゃ釣り合いが、な。」
 その台詞に苦笑を浮かべる。
「リカルド、正装ぐらい持っててよ。」
「私にとっては、この仕事着が正装なのだが・・・。」
 などとわいわいやりながら、一通り確認を取る。
「じゃ、これが最後の確認だ。みんな忘れ物はないね?」
 全員から返事が返ってきたのを確認し、総勢20名近くに跳ね上がった一行を連れて、転移の体勢に入る。
「アイン・クリシードの名に於いて命ずる! 具現せよ、転移の回廊!!」
 かくして、一行はベルファールへと旅だったのであった。

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