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「ベルファール交響曲 その1」 埴輪  (MAIL)
 ベルファールの街に続く街道。ベルファールまで数時間と言った所にある宿場町。そこにひときわ異彩を放つ大集団がいた。乗り合い馬車の駅で待っているようだ。
「なんで一気に行かなかったのよ〜。」
「あのねぇ、いきなりこの人数が街中に現れたら、いくらなんでも目立ちすぎるでしょ。」
「マリア気にしない☆」
「いや、マリアじゃなくて他の人が気にすると思うんだけど。」
 苦笑しながら答えるアイン。
「とりあえず、この人数が乗れるように、何台か馬車を借りてきたからもうちょっとまってね。」
「すまんな、アイン。」
「経費はそっち持ち。さすがにジョートショップの経済力じゃ負担が大きすぎる。」
「分かっている。」
 そう返事を返す。だが、これからのことを考えると頭を抱えたくなる。結局、不本意ながらアインをまきこむ羽目になりそうだ。彼は分かっていてあえて付き合ってくれているようだが、おかげでかえって心苦しくなってしまう。
「しかし、お前も御人好しだなぁ。」
 アレフがあきれたように言う。
「詳しくは知らないけど、ベルファールにあんまりいい思い出はないんだろ?」
「まあね。最も、二度と足を踏み入れたくないようなことじゃないから。」
 そうこうしているうちに、馬車が到着したようだ。派手な音をたてては言ってくる。
「じゃ、行こうか。多分昼頃にはつくから。」


「ここがベルファールなんだ。」
「エンフィールドとはずいぶん違うね。」
 国名と同名の首都、ベルファールは美しい街であった。区画整理され、生前と並ぶ街並み。舗装され、掃除の行き届いた道、あちらこちらに何本もの木が植樹されている。
「街を作り始めたときから、きちっと区画整理を行っていたからな。王宮をはじめ、色々な目印があるから、地図があれば誰も迷わない。」
 ティグスが自分の故郷をそう紹介する。
「ま、エンフィールドみたいなのどかさはないけどね。」
「エンフィールドが田舎だって言うの!?」
「別にいいじゃないか、田舎でも。都会だからいいとは限らない。と言うよりはある意味、都会のほうが性質が悪い。」
 苦笑を浮かべながら答えるアイン。そうこうしている内に城内に入る。
「えーっと、部屋とかはどうなってるの?」
「とりあえず、控え室が二部屋用意されてはいるが、個室のほうはちょっと待ってくれ。食事が終る頃には用意できるはずだ。」
 彼らを案内しながら、申し訳なさそうに答えるティグス。控え室が用意されているだけでも十分準備はいいといえる。何せ、来てくれと言ったら、はい行きます、だ。どうやら、いつ話がまとまってもいいように、十分前準備が出来ていたようだ。
「アイン、正装に着替えてきてくれないか?」
「はいはい。普通のやつでいいのか?」
「いや、騎士団の物を着てくれ。」
「僕は騎士じゃないんだけど?」
 苦笑してアインが言う。ティグスも苦笑してアインに返す。
「だが、一時は将軍として働いた身分だ。普通の正装では通用せん。」
「はいはい、もうどうにでもして。」
 心底じゃまくさそうに言うアイン。この様子だけを見ていれば、絶対に宮廷礼儀だなんだが出来るようには見えないだろう。
「で、服はどこ?」
「別室で着替えてくれ。色々小物とかもあるからな。」
「まるで見世物だ。」
「そういうな。そう言った物がお前を守ってくれるはずだ。」
 別に必要ないんだけど、とはさすがのアインも言えなかった。


 30分後、ゆったりした、だが決して動きを阻害しないデザインの華麗な衣装を着せられたアインは、髪型を色々いじられ、変わったデザインの剣帯をつけられ、妙に凝った意匠の剣を持たされた。副の胸には妙な勲章まである。
「やはり、その格好は似合うな。」
「こんな上等な布じゃ、気を使ってしょうがない。」
 アインのぼやきに苦笑をするティグス。だが、ティグスの言うとおり、アインには騎士の正装は非常によく似合った。凛とした、だが決して棘を感じさせない雰囲気に、中性的ではあるがかなりの線を行く美貌。純白の衣装に蒼穹を思わせる青い髪が映える。
「ティグス、これが僕を守ってくれるものなのか?」
「ああ。少なくともその剣と紋章で、公爵と同列の身分と権威を与えられたことになる。」
「やめてよ・・・。」
 正装のまま、廊下を歩いていく。はっきり言って、目立って仕方がない。
「ティグスと一緒に歩くと、目立つなぁ・・・。」
 ティグスは堂々たる体格の、きりりとした男前だ。更にロイヤルナイトの紋章をつけており、騎士の中でもトップクラスの実力者であること周囲に知らしめている。
「本気で、私だけが目立っていると思っているのか?」
「ティグス以外の、誰が目立つんだ?」
 秀麗な眉をひそめ、アインがきく。視線の7割が自分に集まっているなどとは、夢想だにしていないだろう。
「今更ながら、シーラ殿には同情する。」
「なんでシーラなんだ?」
「気にするな。」
 噂をすれば影、と言うかなんというか、城を見学していたシーラとばったり会う。彼女もまた、大変目立っているようだ。それも、その美貌で・・・。
「あれ、シーラ?」
「あ、アインくん・・・?」
 アンの姿を見て、言葉を失う。彼の正装は何度か見ているが、ここまで立派な物は今日がはじめてである。思わず釘付けになってしまう。
「・・・どうかした?」
「え、あ、その・・・。」
 しどろもどろになりながらなんとか答えをつむぎ出す。
「その、凄く綺麗でカッコよくて、だから私ちょっと・・・。」
 最も、やはり言葉にはなっていないが。
「シーラ殿、落ちついてくれ。」
「あ、ご、ごめんなさい。」
 何度か深呼吸し、ご丁寧にも掌に人と言う字を3回書いて飲むまねまでする。ようやく落ちついたらしい。
「お城の見学?」
「ええ。ただ、ちょっとこの格好でうろうろするのはまずかったかなって・・・。」
 自分の格好を見下ろしながらいう。ちなみに彼女はまだ旅装束だ。質は悪くない物だが、下手をするとそこらの侍女のほうが立派な服装をしている。
「気にする必要はない。姫のご友人で陛下の客人だ。誰にも文句は言わせんさ。」
 第一、本当の美人と言う物は服装やメイクに左右される物ではない。服装によって雰囲気は変わるが、それぞれの格好でそれぞれの魅力が発揮される物だ。
「そうだな、もう少しまってくれないか。すぐに昼食と部屋を用意させるから。」
「ええ。お願いします。」
 もう少し庭の風景を見ていくと言うシーラと分かれ、彼らは城の中心部に向かった。


「陛下、クリシード公を御連れ致しました。」
 いきなりの台詞に、ひざまずいた状態で小声でティグスに抗議するアイン。
「なんだよ、クリシード公ってのは・・・。」
「お前は今、私より身分は上なのだぞ。」
「聞いてないよ・・・。」
 心底げんなりした様子でアインが突っ込む。
「この国では、お前は英雄だと言うことを忘れるな。」
「はいはい・・・。」
 もうどうにでもして、そんな気分でアインは次の台詞を待った。
「久しぶりだな、公爵。顔をあげてくれ。」
「はい。もうかれこれ6年は経ちますか・・・。」
 当時13歳だったお姫様がもうすぐ成人するのだ。年月の経つ早さを思わず噛み締めてしまう。
「昔と髪や瞳の色は変わったようだが、中身は変わっていないようだな。強く、優しく、義理堅い・・・。」
「僕は、そんな立派な人間ではありません。いろんな人にずっと迷惑や心配をかけっぱなしです。」
「迷惑など、かけられるだけかければいいではないか。それが人間と言う物だ。貴公の悪い癖だ。」
 穏やかに国王、セイン・ベルファールが語りかける。
「さて、堅苦しい場は終りにしよう。ティグス、部屋と食事の用意はどうなっている?」
「手配はすんでおります。」
「ならば、貴公らのエンフィールドでの友人の方々と一緒にいただこうかな。アインにこのような口調で語られてはまどろっこしくてかなわない。」
「御意。」
 国王が退室し、続いて二人とも退室する。


「さて、隠してることを洗いざらいはいてもらおうか?」
「そうすごむな、アイン。」
「いつのまに僕は公爵になったんだ? 第一、僕は領地をもらった覚えももらうつもりもないぞ。」
 隠し事をするのはかまわない。いつもいつもすべてを告げると言うわけには行かないだろうから。問題は今回の場合、自分だけではなくほかの人間にも影響してくることだ。
「領地自体はお前がここにいたときからあったものだ。今は私の部下に代官という形で統治してもらっている。」
「初耳だぞ。」
「功績にはそれ相応の褒美を持って答えねば、陛下の威信にかかわる。」
「流れ者にそんなたいそうな褒美を与えるほうが威信にかかわると思うぞ。」
「私にそう言うことを言うな。」
 心底困ったように言うティグス。アインがこう言ったことを望まないのは分かっていた。
「しょうがない。戻ってこない人間が持っていても仕方がない。譲渡の手続きを教えてくれ。」
「だが、私も、私の部下も絶対に受け取らんぞ。」
「なら、直轄領にしてもらえばいい。領主様なんて、真っ平だ。」
 そんな会話を続けていると、再びシーラと出会う。
「なんの話?」
「知らない内に勝手に出来てた領地の処理。管理をしてるティグスと、代官として運営してる人にそっくり譲るつもりなんだけど、ティグスは受け取らないって言い張るんだ。」
「アインくんって、領主様だったの!?」
「まったくどうかしてるよ、この国は・・・。流れ者の正体不明の16歳の子供に領地と爵位まで与えるんだから。」
 頭を抱えるアイン。居ない間も自分については着々と陰謀が進んでいたらしい。
「ま、いいや。もうすぐご飯だからみんなを集めないと。」
「・・・・・・。」
「どうしたの・・・?」
「言われてはじめて、凄くおなかが減ってることに気がついて・・・。」
 真っ赤になってつぶやくシーラ。
「いいんじゃないの? 食欲がある事はいいことだ。」

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