中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「ベルファール交響曲」 埴輪  (MAIL)
「陛下、私は納得がいきませんぞ!!」
 オラシオン公が声高に叫ぶ。どう言うわけか、お呼び出しを食らったアインは、傍らのフォルテと顔を見合わせる。
「あの〜、話が見えないんだけど?」
「貴公がなぜ公爵位を賜ったのかが納得がいかんのだ!!」
「僕に言わないでよ。こっちだってもらった覚えも積もりも何も無かったんだから。」
 肩をすくめて、飄然と答える。心底、爵位などについてはどうでもよさげである。
「このような者が、国の重大事にかかわるなど!!」
「なにかかかわってたっけ?」
「さあ?」
 アインの質問に対し、返事に困るフォルテ。
「とにかく、フォルテのことが終ったらとっとと立ち去るから、別に爵位も領地も要らない。返上の手続きが要るんだったら教えて。すぐにするから。」
 もはや面倒になったのか、国王陛下相手に、一切体裁を繕おうとしていない。
「そう言うわけにはいかない。爵位と領地でもなければ、この国にお前を呼ぶ理由が無くなってしまう。」
「昔のよしみで十分だと思うけど?」
「いや、それでは、お前の言葉を尊重させる力が弱すぎる。」
「尊重してもらわなくてもいいよ。」
 国王と臣下たる公爵の会話ではない。
「さて、あなたは僕にどうして欲しいんだ?」
「無論、分不相応な身分と領地を返上して、すぐさまこの国から立ち去っていただきたい!」
「すぐさま、以外は問題ないよ。ただ、さっきも言ったように、フォルテのことが終っていない。多分、数日中には終るから、出て行くのはそれまで待っててもらいたい。」
 そういった後、小さくため息をついてからオラシオン公の目を見て聞き帰す。
「それとも、ほんの数日すら待てない理由でもあるのかな?」
「貴公が、本当に出て行くと言う保証が何処にある!!」
「生憎と、用もない場所にだらだら居残りつづけるほど暇じゃないんだ。エンフィールドに帰ったら、いくらでも仕事がある。」
 やり取りを効いていた王は、一つため息をついてオラシオン公に簡単に質問をする。
「公よ、なぜアインをそれほど毛嫌いする?」
「このような何処の馬の骨とも分らぬ輩が、私と同じ身分であることなど耐えられないのです!!」
「ならば、なぜ追い出す必要がある?」
「一刻も早く追い出さねば、陛下の寵愛を楯にやりたい放題しでかすに決まっているからです!!」
 それを聞いたアインは、あきれたようにその様子を見つめている。
「やれやれ、私も見くびられたものだ。」
「へ、陛下?」
「私は、そのような愚か者に地位を与えるほど愚かに見えるのか?」
「い、いえ。ですが、こういった輩は増長すると相場が決まっています!!」
 散々な言われようである。
「そんな面倒なこと、なんでしなきゃいけないんだろう?」
 思いっきりぼやいているアイン。彼には、権力のありがたみなど分らない。彼の自覚など、自分も権力者に入るらしい、といった程度のものである。
「用件がそれだけなら、今日の所は戻らせてもらうよ。いくらなんでも、陛下の御前で刃傷沙汰を起こしたくは無いから。」
 まだ騒いでいるオラシオン公にそれだけを告げ、フォルテを伴ってとっとと謁見の間を退出する。


「終った?」
「まだ、騒いでる。」
「そう。」
 そこで会話が終る。マリーネも気がついたのだ。厄介な気配に。
「きみが相手か・・・。」
 目の前に立ちふさがる青年騎士に、思わず顔をゆがめる。
「殿下、公爵、お覚悟を・・・。」
 後ろからも何人か、騎士が現れる。
「マリーネ、フォルテをつれてにげられるか?」
「努力はしてみるわ。」
 2人して、フォルテをカバーする体勢に入る。
「じゃあ、僕はジョシュアを引き受ける。他のはマリーネ、きみでも何とかできるはずだ。ただし、正面から戦って勝とうとは思わないこと。最初はともかく、最終的には絶対に息切れするから。」
 自分の持っていた剣をフォルテに渡し、アインが一歩、前に出る。
「その余裕、いつまで続きますかな!!」


「くぐつ、か・・・。」
 マリーネは、テンプルナイツのメンバーの目を見て、すべてを納得する。
「殿下、足に自信はある?」
「多少は・・・。」
「なら、遅れずについてきてね。」
 マリーネの姿が突如掻き消え、次の瞬間、幾人にも分身する。五人全員が、マリーネの行動に対応できない。
「・・・子供だましか・・・。」
 だが、マリーネの分身は、相手には何ら被害を与えていない。騎士達がそう断じても無理はないだろう。だが、彼女の真の罠は、その直後であった。
「これでおわりだ!!」
 一人の騎士が剣を大きく振りかぶる。目に写る少女に、容赦なくそれを振り下ろす。
「行きましょう・・・。」
 騎士の剣は見事に空を切る。慌てて振りかえり、また何もない空間に剣を振るい出す。
「え? あ、あの?」
 突如走り出したマリーネに慌ててついていくフォルテ。
「マリーネさん、何をなさったのですか?」
「邪眼・・・。」
 走り続ける2人の背後では、騎士達が同士討ちをはじめていた。


「素手で私に立ち向かおうと言うのか・・・。」
 剣を構えながら、ジョシュアがアインを見据える。
「何処まで私を愚弄すれば気がすむのだ!!」
 大ぶりの一撃をアインにとばす。だが、アインはかわそうともしない。一歩、ジョシュアの方へ踏みこむ。
「もらった!!」
 見事にアインの肩口を捕らえる。だが、アインはびくともしない。
「異名を語るのは好きじゃないけど、その程度の打撃じゃ、ベルファールの鉄壁を砕くことは出来ないよ。」
 アインの後ろでは、マリーネが相手を攪乱している。少しでも隙を作るために、アインは軽く攻撃をとばす。
「あまいわ!!」
 アインの放った蹴りを、剣の背で受ける。下手に腹で受けようものなら、一撃で砕かれかねないからだ。刃で受けた日には、一発で刃こぼれすること請け合いである。
「逃がすか!!」
 走り出した二人を見て、ジョシュアが吼える。魔法陣が虚空に浮かび、3体の天使が出現する。
「くぐつを使う操り人形というのは、はじめてみたな。」
「やかましい!! これで終りだ!!」
 爆発的な呼吸と共に、すさまじく鋭い一撃が飛んでくる。
「ファイナルストライク!!」
 ジョシュアから大技が飛ぶ。アインは左手でその一撃を掴むと、踏みこんで相手に密着する。そのまま、右手で相手の顔面を掴む。
「雷王降魔陣!!」
 すさまじい雷撃がジョシュアを包み込む。真昼のような閃光があたりに飛び散る。
「があ!!」
 一声うめき声を上げ、そのまま意識を失う。意識を失ったジョシュアを投げ捨てるアイン。彼自身も感電によるダメージを何割かは受けているのだが、その程度でまいる男ではない。後ろでは、流れ弾を受けた騎士達が、感電のショックで気絶していた。


「天使・・・。」
「また・・・ですか・・・。」
 天使が、光を放つ。審判の光である。すばやく動き回り、これを回避するマリーネ。フォルテのほうには何発か着弾しているようだが、まったく影響があるようには見えない。だが、そんなことを観察している余裕は、マリーネにはない。
(一回でかたをつけないと、後が続かない・・・。)
 とっさにそう判断を下したマリーネは、そりのある小剣のさやを左手で掴み、腰だめに構える。右手は柄に添えられている。所謂抜刀の構えである。
「マ、マリーネさん!?」
 構えを変えず、激しく動き回りながら気を高めていくマリーネ。勝負は一回きりである。
「えい!!」
 マリーネの背後に回ろうとした天使を、フォルテがさやに入ったままの剣で殴り倒す。その隙を逃さず、マリーネがすべての天使を射線上に捕らえる位置に移動する。
「リドリア神剣術・風の奥義、幻王虚空閃!!」
 抜刀の構えから、鋭い一撃をふるう。裂空双破斬とは別の方向で威力不足を補った大技に、一溜りも無く斬り捨てられる天使たち。
「・・・行きましょう。」
 肩で息をしながらマリーネが言う。小さくうなずいて彼女の台詞に従うフォルテ。
「てこずったようだね。」
 アインが合流する。別れてから10分ほどなので、大して距離は離れていなかったのだ。
「ええ。どうも天使には単純な邪眼は効き難いみたい・・・。」
「ま、くぐつ相手に邪眼が効いてるんだから十分強いんじゃない?」
 周囲に視線を飛ばしたアインは、二人から少し離れる。
「どうやら、まだお客さんはいるみたいだね。」
 野外でよかったとつぶやくアイン。そこには、天使の大群と騎士の大軍団がいた。すっかり囲まれている。
「ガリアンとベルナルドか・・・。ご丁寧にレギウスまでいる・・・。」
 全員、思いっきり操られている。
「一気に蹴りを着けるから、ちょっと離れてて。」
 言われたとおり、3メートルほどアインから離れる二人。大きく息を吸い込んだアインは、一気に気を蓄えて大技を放つ。
「龍王咆哮撃!!」
 捻り込むようなアッパーカットと共に、巨大な闘気の龍を天に向かって放つ。放たれた龍は天を目指しながら、大きな咆哮を上げる。すさまじい衝撃波が周囲に放たれ、騎士達を薙ぎ払っていく。上から見て、アインの立ち位置から半径二メートル以内に入る位置にいた天使たちは、龍のぶちかましを受け、一体残さず消滅する。そうでなくても、龍の放つ衝撃波に吹き散らされ、力を失って落ちる。
「い、いまのは?」
 乱れた髪を押さえながらフォルテがアインに聞く。それ以外はこれといって影響は受けていないようである。
「・・・・・・。」
 マリーネは、コメントをする気も失せたようだ。因みに、彼女も衝撃波の影響を受けていない。どうやら、この衝撃波は、目標を選択することが出来るようだ。
「とにかく、一端戻ろう。嫌な予感がする。」
 アインが真剣な顔をしていう。2人とも異存は無いようだ。3人はクリシード邸への道を急いだ。

中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲