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「ベルファール交響曲 その10」 埴輪  (MAIL)
「アリア?」
 アイン達を出迎えたのは、わき腹を押さえたアリアであった。
「・・・不覚を取りました。」
「君は無傷で相手を倒すのには慣れてないからね。なんにせよ、その傷じゃ厳しいか。マリーネと一緒に安全な場所へ・・・って言っても何処が安全か分らないか・・・。」
 舌打ちしそうな様子でアインがいう。
「なかの様子は?」
 フォルテがアリアに質問する。だが、質問に答えたのはアインであった。
「どうせ、みんな操られてるんでしょ?」
「・・・はい。私は、身を守るのが精一杯でした。」
「リカルドや十六夜相手に生き延びたんだったら、十分立派だよ。」
 とはいえ、マリーネは疲労が激しく、アリアは怪我をしている。フォルテははなから戦力外だ。速攻で黒幕を何とかしなければならない。
「とはいえ、室内だと、手荒なまね無しでどうにかするのは、厳しそうだな。」
「さっきのは手荒なまねじゃないの?」
 アインの台詞に突っ込みをいれるマリーネ。のんきそうに見えるが、そうでもしていないと、不安に押しつぶされそうになるのだ。
「手荒と言えば手荒だけど、あれで死人が出ることは絶対にないから。」
「思いっきり衝撃波でなぎ倒してたくせに。」
「あれは精神に衝撃を与えて、くぐつの糸を切ったんだ。第一、物理的になぎ倒されてもいいように、結界魔法でクッションを用意してあるし。」
 用意周到な話である。確かに、人は死んでいないだろう。だがあれで、少なくとも1部隊分、天使が消滅している。それも、確実に二度と復活できない状態で。
「さて、バカな話も、それほど続けられそうもないな。」
「あ・・・。」
 屋敷の中から、虚ろな目をした人間が数名、表へ出てくる。
「さて、ここで問題です。」
 乾いた声でアインがつぶやく。
「どうやれば、アルベルト、十六夜、リカルドの三人を同時に相手にしながら、くぐつの術を破ることが出来るでしょう? 因みに条件として、三人の命を保障しなければならない、というのが有ります。」
 かなりの無理難題である。先ほどまでの感触から、彼らの力量はさほど落ちてはいまい。さらに、当然の如く屋敷を破壊するわけには行かない。中は無人ではないのだ。
「アインさん・・・。」
「なに?」
「三人とも、深層まで取りこまれてる・・・。」
「ああ・・・。分ってる・・・。」
 アインの頬を、汗が一滴、零れ落ちる。それは、彼らの意識を奪っても無駄だ、ということに他ならない。
「とにかく、糸を切らないと・・・。」
 意識を集中すると、三人に絡みついた糸が見える。だが、一撃で切るのは難しそうだ。三人となると、なおさらである。
「タイムズ・ウィスパー!!」
 とにかく、こうなったら奇襲しかない。となると、まずは動きを封じこめるのが一番だ。もしものときのために先手を打って、アレンジを加える。
「ぐ!!」
 アインの奇襲により、動きを封じ込められる三人。高めた気を纏い、一気に突っ込むアイン。
「霊王翔烈斬!!」
 三人をまとめて斬り捨てる。返す刀で、懐から取り出した符を張りつける。
「喝!!」
 アインが、三人に気合をぶつける。目の焦点が合い、正気に戻る3人。


「こ、ここは・・・?」
「俺たち、なんで玄関にいるんだ?」
 呆然としている三人に、簡単に事情を説明するアイン。話を聞いて、思わず力いっぱい地面をたたくアルベルト。
「くそ! こんなにあっさり操られるなんて、情けない!!」
 だが、アインは静かに頭を左右に振る。
「少なくとも、自我を残したまま操られたわけじゃないんだから、その意思の強さは十分誇っていいと思う。」
「だが!」
 それを制して、アインが言う。
「とにかく、アリアとマリーネを頼む。糸を遮断しておいたから、もう操られたりはしないはずだ。」
 何かを言おうとしたアルベルトを制して、リカルドが答える。
「分った。ここは引き受けよう。」
「たのむ。」
「で、殿下は連れて行くのか?」
 冷静さはアルベルト以上、リカルド未満の十六夜がアインにきく。
「ああ。今回はフォルテが当事者だ。全部知る権利と義務がある。」
「分った。俺達は、この2人を守ればいいんだな。」
「たのむ。」


「メロディ、由羅・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
 2人とも、目が虚ろである。どうやら、完全に洗脳状態にあるようだ。2人の第一撃をかわして、ある事に気がつく。
「なるほど・・・。」
 攻撃が、単調なのだ。警戒ゆえ、リカルド達を一撃で仕留めたのだが、必要はなかったようだ。霊的な攻撃で糸を切り、符をはりつけてガードする。
「二人には悪いけど、このまま行こう。」
「はい・・・。」
 階段まで走っていくと、正面にアレフとクリスが立ちふさがる。立ち止まると、後ろからルーとイヴが現れる。
「囲まれたか・・・。」
「どう・・・します・・・?」
「突破する、しかないだろう・・・。」
 だが、その話をしている隙に、クリスとイヴから第一撃が飛ぶ。
『カーマイン・スプレッド。』
 無表情な声が響き、紅い魔力弾がアイン達を襲う。1動作で両方を叩き落すと、アレフとルーが攻撃を仕掛けてくる。ルーが足元を払うように切りかかり、それを防ごうとするとアレフが頭をかち割りに来る、という連携だ。が、
「遅いね。」
 ポツリとつぶやくと、二人の頭を無造作に掴む。そのまま、軽く気を送り込んで糸を切る。頭を掴んだときには、既に符がはられている。
「やっぱり、攻撃が短調過ぎる。」
 青い炎で二人を同時に仕留め、ポツリとアインがつぶやく。
「後出てきてないのは、ティグス、クレア、パティ、トリーシャ、ローラ、マリア、シェリル、シーラ、か・・・。」
 次の瞬間、轟音と共に2階からマリアとシェリルが降りてくる。後ろからはパティとローラがゾンビの如く歩み寄ってくる。
「攻撃が短調でよかった・・・。」
 アインが思わずつぶやく。その言葉の裏に隠された微かな怒りに気付き、思わず硬直するフォルテ。アインは、一気に力を解放した。


「トリーシャ・・・。」
 娘の攻撃をさやで受け止めながら、リカルドが硬直する。隣では、アルベルトが妹の蹴りをかわしながら困惑していた。
「俺たちも、こういう状態だったって訳か!」
 十六夜が気を高める。彼の刀はかりにも神の武器だ。くぐつの糸を切るぐらいのことは出来るはずだ。彼の前に立ちふさがった相手をにらみつけ、十六夜は糸を捜した。
「絶空来迎剣!!」
 見切った糸に、一撃加える。彼を切り捨てようとした男、ティグス・ナイトランドは動きを止める。
「ふん!!」
 隣では、リカルドが娘を解放する。操り人形など、彼の敵ではないようだ。
「目を覚ませ、クレア!!」
 神の槍が、クレアの精神、正確にはそこに寄生している何かを貫く。糸が切れたように倒れるクレア。
「くそ、心臓に悪いぜ!!」
「助けるためとはいえ、娘に剣を向けるはめになろうとはな・・・。」
 三人とも、あまりの後味の悪さに毒づく。既に、月が中天に昇っていた。

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