中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「休日にはお菓子作りを」 埴輪  (MAIL)
「おはよー、アイン。」
 朝っぱらからジョートショップにマリアが現れる。
「ああ、おはよう。」
「今日はねぇ、マリア・・・。」
 マリアはすべての台詞を言い終えることができなかった。来客があったからである。
「あら、おはようございます。」
「あ、ミシェーラ、おはよう。」
 にっこり微笑んで朝の挨拶をするミシェーラに対し、同じように微笑んで挨拶を返すマリア。別にライバルになる相手ではないので、マリアも愛想がいい。
「しかしミシェーラ、きみもまめだね。」
「ええ。だってまだ、お礼が終っていませんもの。」
 何処かどよんとしているヴァルティ。無駄だといっているのに、いまだに抵抗を続けているらしい。
「あ、そうだアイン、マリアねぇ・・・。」
 また、最後まで言うことができなかった。更に来客があったからだ。
「おはようございます。」
「おはよう、シーラ。」
 来るのが分かっていたので、別に驚きもしない。
「あ、シーラ、おはよう。」
「おはよう、マリアちゃん、ミシェーラちゃん。」
 一気に空気が華やかになる。アインは3人がそろってもっている包みに気がつく。
「で、マリア、さっきからなにか言いかけてたみたいだけど?」
「あ、そうだ。マリアねぇ、今日クッキーを焼いてきたんだ☆」
 今度は途中でさえぎられることはなかった。
「え? マリアちゃんも?」
 何となく、やっぱり、という気分になる。ミシェーラと何度か顔を合わせているのだ。お菓子作りに目覚めてもおかしくないだろう。
「お兄ちゃん、おはよう!!」
 今度はローラである。
「で、ローラは何の用かな?」
「クッキー焼いたから、食べてみて!」
 思いっきり、予想どおりである。
「はいはい。マリーネ。」
「何?」
「とりあえず、お茶の用意が終るまで、どんなに勧められても手を出さないこと。」
 アインがマリーネに釘をさす。首をかしげるマリーネ。マリアの料理の腕は知っている。最近はアリサやパティの指導が実ってか、とりあえず食べられる物は作れるようになっていた。だが、お菓子のほうは?
「・・・わかったわ。」
 どうやら、納得してくれたらしい。そのやり取りを聞いていたヴァルティがマリーネにささやく。
「マリーネ、あまり一杯地雷を踏むんじゃないぞ・・・。」
 アインの鈍さが、マリーネにも受け継がれているような気がしての忠告である。
「・・・うん。」
 当初はマリーネのことを毛嫌いしていたのに、今ではすっかり仲良しさんだ。
「とりあえず、お茶の用意はできたよ。」
 アインの言葉で、波瀾含みのお茶会が始まった。


 とりあえず、混ざらないように各人が持ち寄ったクッキーを別々の更に盛る。
「どうして、別々に盛るの?」
「・・・ちょっとね。」
 そう言って、マリアとローラの物を一つずつつまんで少しだけ齧る。
「・・・やめといたほうがいいな。」
「・・・やっぱり?」
 マリーネが、納得したように言う。
「どういう意味よ〜!」
「ちょっとお兄ちゃん、それひどい!」
 苦笑して、アインが答えを返す。
「僕が食べる分にはいいんだけどね、ちょっとマリーネにはきついかなって。」
 そう言って、食べてみるように促す。この二人には、自分の腕前を自覚してもらったほうがいいだろう。
「全く、失礼しちゃうわ!」
 そう言って自分の作ったクッキーを一つ、丸ごと頬張るマリア。一瞬の後、顔を蒼白にして硬直する。
「まあ、マリアのはまだましだね。ちゃんと食べ物にはなってるから。」
「こ、これの何処が食べ物よ!」
 自分が作った物なのに、思いっきりそう言うことを言う。
「食べても死なない。」
 死ぬほどまずいが、毒ではないらしい。見てくれも悪くは無いのでさほどひどいシロモノでもないのだろう。
「ちょっと、アタシの作った物って、もっとひどいっていうの〜!?」
 そう言って、同じように一つ丸ごと口に入れるローラ。
「あっ。」
 アインが止めるが、間に会わなかったようだ。効果は劇的であった。
「@&%#$−:/*=”’()!?」
 すでに言葉になっていない。顔が土気色になっている。
「そんなに頬張ったら、ってもう遅いか。」
 いくらなんでも大げさすぎると思ったマリアは、ローラのクッキーを恐る恐る端だけ齧る。
「!!!!!!!!!!!!!!!!」
「マリーネ、余計な好奇心は身を滅ぼすってことを、よくおぼえておくといい。」
 あまりにもひどい二人の様子を見て、思いっきり引くシーラとミシェーラ。
「さて、安全なやつだけ食べようか。」
 そう言って、シーラのクッキーに手を伸ばす。
「・・・どう?」
「うん、美味しいよ。」
「・・・見た目は変わらないのに、どうしてこんなに差があるんだろう?」
 心底不思議そうにマリーネが呟く。
「そうだなぁ・・・、一番大きいのは、味付けだね。マリアのは砂糖と塩を間違えてるとかバニラエッセンスを使いすぎてるとか、その程度のもんだけどね・・・。」
 完全に意識を失った二人を見てアインが言う。
「ローラのは、クッキーに使わないような調味料を使ってるからなぁ・・・。」
「たとえばどんな?」
「少なくとも、僕は普通のクッキーに醤油を使う例を知らない。」
 とりあえず、手時かな所でローラを担ぎ上げ、アインが言う。
「・・・お醤油?」
「うん。あの味は多分、醤油だと思う。後、混ぜるとヤバイ調味料がいくつか・・・。」
 二つ三つ食べたら、多分致死量であろう。思わずそんなことを考える。
「なんで、アインさんは平気なの?」
「別に、不味いだけならどうってこと無いし、ローラのやつは耐性のあるタイプの毒だったし。」
「ど、毒?」
 アインの台詞を聞いて、思わず目を白黒させるシーラ。見た目はひたすら普通のローラのクッキー、実際はかなり物騒なシロモノだったようだ。
「そう言うわけだから、絶対食べちゃ駄目だよ。」
「そんなにひどいの?」
「猛毒ってほどのもんでもないけどね。」
 ひどい言われようだが、二人の様子を見ると、とても否定できない。


「気がついた?」
「あれ・・・ここは・・・?」
「ジョートショップ。二人ともクッキーを食べて倒れた。」
 前後の状況が思い出せない。クッキーを焼いて持ってきて・・・。
「で、ローラ。クッキーを作った時の材料を教えてくれないか?」
「え〜っとたしか・・・。」
 聞いて納得する。確かにそれではこの世の物とも思えない味のクッキーが焼けることであろう。
「マリア、バニラエッセンスの量、間違えただろう。それから、砂糖と塩を間違えてる。」
 アインに指摘されて大粒の汗が出てくる。
「ちょっ、ちょっとした失敗じゃないの。」
「マリアのはね。ローラ、根本的にクッキーの作り方を間違えてる。というより、なんでもかんでも調味料を入れないこと。」
 苦笑を浮かべながらアインが言う。
「ご、ごめんなさい・・・。」
「まあ、不味いだけならいいんだけどねぇ・・・。」
 ちょっと困ったように言う。
「スパイスとか調味料の類は気をつけないと、調合や処置、組み合わせによってはすぐに毒に化けるから。」
 驚いたようにアインの顔を見るマリアとローラ。
「そ、そうなの!?」
「うん。砂糖とかはそういうのはあんまりないけど、スパイス類はほとんどが、もとは毒にも薬にもなるようなものだから。食材にしても、普段食べてる物でも結構そういうのはあるから。」
 嘘、といいかけて止めるマリア。アインは命にかかわることについては、決して嘘をつかない。
「まあ、そうは言っても、滅多に起こる事じゃないんだけどね。調味料になってしまえば大抵は無毒だから。」
 よほど妙な化学変化でも起こさない限り、という注意書きはつくが。
「そう言うわけだから、二人ともちょっと下でお菓子作りの勉強でもしようか?」
 アインの優しい言葉に、二人とも大きくうなずく。シーラやミシェーラも交えて、みんなでお菓子作りをアリサに教わって、その休日は終ったのであった。

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