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「青年の初仕事 その2」 埴輪  (MAIL)
「ここが、私の家よ。」
「へぇ、いい家だね。」
 シェフィールド邸は立派だ。だが、立派な家だとか大きな家だとかいう評価はあれど、いい家だといった人間ははじめてである。
「そうなの?」
「うん。だって、いろんな人に大事にされてきたように見えるからね。ジョートショップと同じで、居心地はよさそうに見える。」
「でも、ほとんど人は居ないのよ。」
 実際、大きな家に住む人間ほど、家を不在にしがちな傾向はあるだろう。財力のある人間は、決して暇ではいのだから。
「でも、この家に住んでる人たちは、お互いがお互いを気にかけてるきがする。」
 そう言って、にっこり微笑むアイン。つられて微笑むシーラ。
「でも、さすがにこの家全部の模様替えは時間がかかるなぁ。」
「誰もそんな事は頼まないわ。お願いするのは、私のお部屋だけ。」
「それはよかった。さすがにピアノを動かせとか言われたら、一人でやるのは厳しいから。」
「それはいくらなんでも・・・。」
 いくらなんでも、ピアノを動かしたり出来るかどうか程度の判断はつく。
「とりあえず、入って。」


「で、具体的にはどう模様替えするわけ?」
 令嬢の部屋に入って即効で、事務的な話にうつる。普通の男なら、部屋の感想などもいうのだろうが、それすらも省いている。
「えっと、この本棚をこっちに移して・・・。」
 確かに、華奢なシーラ一人では厳しい仕事である。
「うん、わかった。それはそうと、本棚の中身、出してもいい?」
「ええ、かまわないわ。さすがに、そうでないとしんどいでしょう?」
「さすがにね。」
 そう言って、後で直しやすいように種類ごとに分類しながら本を出していく。さすがに音楽関係の本が多い。
「よっと。」
 空になった本棚を、一人で持ち上げるアイン。その光景に、思わず目を疑うシーラ。
「どうしたの?」
「アインくんって、力持ちなのね。」
「う〜ん。純粋な腕力じゃ、多分アレフに負けるんじゃないかな。」
「でも、重い本棚を一人で・・・。」
「コツがあるんだ。」
 そういいながら、指定された位置まで運ぶ。次は机だ。こっちは、引出しの中身を出さずに持ち上げる。壊れ物は事前に出してもらっているので、持ち上げても大した問題にはならない。
「ここでいいんだっけ?」
「ええ。」
 美男美女のいる風景にしては、ひたすら色気がない。そもそも、令嬢の部屋に上がりこんだお年頃の男の行動ではない。


 模様替えは、30分ほどで終った。休憩がてらお茶をのみながら話をする。
「今日はありがとう。おかげで助かったわ。」
「気にしないで。助けてもらったおれいとしては、まだまだ安いくらいだから。」
「そんなに気にしなくていいのに。」
 とはいえ、恩返しとしては少々安い気がする。かといって、プレゼントだのなんだのにはしるのもへんだ。
「困ったことがあったら、何でも言って。出来る限りの事はするから。」
「ありがとう。また何かあったら、甘えることにするわ。」


「どう、シーラ?」
「襲われたりしなかった?」
 その日の午後、さくら亭に顔を出したときのパティ達の第一声がそれであった。
「大丈夫、すごく紳士的な人だったわ。」
「へぇ、シーラがそんなふうに評価するなんて珍しいわね。」
「重度の男性恐怖症にシーラがねぇ。もしかして、惚れた?」
「さすがにそんな事は無いけど・・・。でも、他の男の事は、ちょっと感じが違ったの。ちっとも怖くなかったし・・・。」
「アレフみたいに口説いてこなかったし?」
「うん。なんだかすごく不思議な人。私の家を見て、いい家だって言ったし。」
 その会話を聞いて、衝撃を受けたのはアレフであった。それはそうだろう。何せ、自分はかなり苦労して、それでも自力では達成できなかったことを、あっさりとやってのけたのだ。
「あのアインって奴、もしかしたらすごいたらしかもしれないぜ。」
「そうだとしたら、あの態度は要注意ね。」
「アレフちゃん、たらしってなんですか?」
「メロディは知らなくていいの。」
 質問したメロディに、パティが答える。
「とはいえ、単に男として扱ってもらってないだけかもしれないけどね。」
 リサが、あっさりとひどいことを言う。最も、彼女の判断では、あの青年のあの態度は、ひたすら天然であり、地であるだろうということだが。
「とりあえず、注意はしておいたほうがいい。かなり食わせ物かもしれないからね。」
「まぁ、変な事しようとしたら、ぶん殴ってやるけどね。」
 そう言って。腕まくりをするエル。アレフは、アインの冥福を祈ることにした。


「で、どう整理するわけ?」
「ま、あんたは種類で分けてくれればいい。後はあたしがガラクタとそうでない物に分けるから。」
「わかった。けど、業物とかは分けなくていいの?それから、一見業物に見えて、その実危険な武器とかは?」
「それは・・・、わかるんだったらあんたが分けてくれればいいよ。」
「うん、わかった。」
 そういって、てきぱきと分類をはじめる。しかし、よくもまぁここまで集めたもんだとあきれ返るほどの量だ。
「それはそうと、マーシャルって人、一体何者?」
「ただの馬鹿だと思うけど・・・。どうしてだい?」
「いや、すごい物とガラクタが同じ量だけある上に、どっちも普通の奴の倍近い数があるから。見る目が有るんだか無いんだかよく分からなくて。」
 そう言って、大雑把に整理した分を見せる。ちゃんと種類ごとに分けてあるものの、普通に売ることが出来る分が全体の5分の1に満たない。
「これなんか、世界で5本とないよ。」
 そう言って取り出して見せたのは変わった形をしたスティレットだ。
「そんなにすごい代物なのか?」
「うん。誰が創ったとか、そう言ういわくはわからないけどね。俺は特別だって気が、バリバリに出てる。そう言って、ガラクタの山のうち、廃棄処分にするしかないような代物に向かって、軽くつきたてる。
「うそだろ・・・?」
「でも現実。」
 いくらガラクタだといっても、一応は金属の塊である。普通の刃物が簡単に刺さったりはしない。
「まぁ、危ないから売りに出さないほうがいいね。」
 凄過ぎて使い物にならないわけだ。結局ガラクタと変わらない。
「一体どうやって見分けるんだ?」
「この手の業物は、すさまじい気を放ってるからね。目利きじゃなくても敏感な人ならわかると思うよ。」
 そう言われてみると、確かにそうである。この分だと、他に何が埋もれているかわかったもんじゃない。


「しっかし、本気で色々あるね。」
「まったく、あんな良いものを倉庫で眠らせておくなんて、あの親父どう言うつもりなんだい・・・。」
 結局、その気になれば業物だけで商売が出来るほどの量があることがわかり、思わずあきれてしまうエル。普通の武器がほとんど無いのが、マーシャルらしいといえば言える。
「今日は悪かったね。」
「恩人のたのみだからね。何かあったらまた呼んでよ。喜んで手伝うから。」
「ああ、また何かあったら頼むよ。」
「それじゃあ。」
 そう言って別れる。その後、自分が笑顔で相手を見送っていることに気がつくエル。
「どうだった、エル?」
「う〜ん、いい奴だとは思うよ。ただ、やっぱりよくわかんない奴だったけど。」
 様子を見に来たパティに、そう答えるエル。
「ただ、気がついたらあいつのペースにはまってたような気がするけど・・・。」
「で、変な事は?」
「特にされなかったよ。ま、アタシじゃそんな気はおこんないだろうけどね。」
 シーラに引き続き、エルまで手なずけてしまっている。二人とも、方向性こそ違え、気の難しさはエンフィールド一である。とはいえ、世間知らずなシーラならともかく、すれてるエルが悪いやつではないというのだから、大丈夫だろう。
 結局、この二人とあっさり仲良くなったことで、アインの株は一気に上がったのであった。

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