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「<未来と現在と最強と> 〜前編〜」 hiro


 ある年の六月のさなか、エンフィールドの門をたたこうとしていた少年がいた。
 旅客、行商人、等々……さまざまな人間が行き交うその中で、少年はただひとり陽射し
を背に祈りと灯火の門を見上げている。
「ふふふ……ついに来たぜ。そうだ、来たんだ。うふふふふふ……」
 あぶなっかしい少年である。
 いきなし門をあおいだと思ったら、いきなし笑い出したのだ。
 ちょっとイッちゃってるカンジすらする少年を、気味悪げに通る人々が盗み見ている。
「ちょっと、そこのきみ」
 見るに見兼ねて、門番さんのひとりがやってきた。
「病院にでも案内してやろうか?」
 ミシッ!!
 視界の隅に黒い影がうつったと思ったと同時に、門番さんは前にも後ろにもななめでも
なく、真横にブッ飛ばされていた。
 ――少年が、蹴りを放った体勢のまま、静止している。
 そのときになってはじめて、少年に『蹴り飛ばされた』のだとそれを一望していた人間
も知った。
 倒れた門番につかつかと歩み寄り、少年、
「誰がキチガイだ? テメェだろ、それは!」
 一目瞭然的に悶絶している門番の襟を締め上げて、ガクンガクンと揺さぶりつづける。
門番の頭を保護するカブトの側頭部は、しゅうしゅうと白い煙をたなびかせていた。ヘッ
込んでいるところからしても、カブトをつけていなければ即死だっただろう。
「おい! おまえ! 詰め所にまで来てもらおうか」
 その相方の門番が、いい度胸にも槍を少年につきけながら告げてくる。
 ギンッ!!
 少年が睨みつけただけで、そんなきしみ音がなるほど空気が固くなる。少年はゆさぶっ
ていた門番をその相方に投げつけ、受け止めたのを確認のうえで疾走した。
「く、来るか……!?」
 怯えが表情に走っているソイツの横を走り過ぎ、ふわりと跳躍する。
『ようこそ! エンフィールドへ!』
 このフレーズのかかれたフラットアーチにまで飛んだ少年は、抜き手から拳を繰り出し
た。
 ――――とんっ。
 何事も起こらず着地した少年――その頭上でアーチが縦に亀裂をしょうじはじめる。石
片がこぼれ、支えの中心を砕かれた門は、ついに自重をとどめおくこともできず少年の上
に落ちてきた。
 女性陣が声もなく悲鳴をあげ、男性陣は助けようと駆け寄ろうとするヤツ、ただ突っ立
っているヤツ、反応はいろいろだ。
 粉塵が吹き上げ、門のあたりがそれ一色で染まり――
 そして皆、驚きに目を丸くした。
 数トンはあるはずのその石のカタマリを、片手で持ち上げている少年がいたからだ。
「――よし! まずは門を『叩いた』ぞ。これで"最強"へ一歩近づいたワケだな!」
 ほがらかに高笑いする少年を呆然と見ながら、皆は思った。
 何か違うんじゃないか?――と。


 さくら亭でダラダラとしていたヒロ・トルースは、アルベルトからの奇な連絡を受け、
すっとんきょうな声をあげていた。
「門が壊れたぁ?」
「ああ。目撃者のハナシによると、やったのは十六、七の少年らしい。しかも門番のひと
りを全治一週間のケガにしたのオマケつきでだ」
「少年――ねぇ」
 あまり気乗りしなさそうに、ヒロはグラスをあける。中身は冷えたただの水。メンドウ
そうにイスに背をあずけ、
「それで? なんで俺のとこに来たんだ?」
「おまえにも手伝ってもらうためだ」
「ヤだ。俺はきょうは休日なんだ。たかが子供のしたざれごとに付き合って休みをパァに
するほど、俺は安くないの。わかった? アルちゃん」
 こいつにアルって呼ばれるのはいいとしても……
「「ちゃん」はやめんかい!」
「なら「くん」ならいいのか? アルくん、きょうは僕はお休みなんだ。きみたちだけで
このアホらしい事件の解決に臨んでくれたまえ――以上だ」
「それは隊長命令ですか、トルース隊長」
 悪ノリというか、アルベルトは皮肉でそう聞いているみたいだった。
「ま、そんなトコだな。わかったらとっとと行け」
「ヒロ! きさまぁ!」
 ついにブチ切れたアルベルトが、ショート・ソードを引き抜き振り下ろすが――
 ピタリ。
 んぐんぐと水を飲みながらという状態で、ヒロはもう片方の手の指でそいつを挟み込ん
でしまった。無刀取りの達人もビックリである。
「ぷはぁ〜〜……ン? ナニをやっているのカナ、アルくん」
「くっ、このぉ……!」
 押しても引いても動かない、接着剤でも使ったかのように……の前に、アルベルトの腕
力ならそれでも引き剥がせるだろうが。
 そのままヒロは不敵にも頬杖をつき、
「あのなぁ。槍ならともかく、剣で俺に勝とうなんざ十億年は早いって。自慢じゃないけ
ど、剣だけでの戦いならこの街で一番だと思うぞ、俺が」
「むぅぅ……! は・な・せ、コラ!」
「ほい」
「う、うぉぉぉ!」
 ドガラガシャン!
 イスとテーブルをなぎ倒し、アルベルトの巨体が店内をすがすがしくメチャメチャにし
てくれた。
「いきなり離すヤツがいるか!」
「だって、離せって言うから――……アルベルト、いますぐ逃げた方がいいぞ」
「あ? なに言って……」
「アルベルトさん」
 ずぅぅん、と彼の背後に仁王立ちしているのは、ここの看板娘だった。こめかみあたり
が引きつっているのは、御愛敬か?
「あ、いや、待て、待ってくれ! これはだな、アイツが」
「わかっるわよ。――ソコッ!!」
 ゴキャッ。
 こそこそと背中を丸くしながら脱出を試みようとしていたヒロのドタマに、イスが炸裂
した。看板娘、もといパティが投げたのである。
「――さあ、きょう一日はここの仕事を手伝ってもらいましょうか?」
「ええ!? なんでだよぉ」
 痛みに耐えた表情で、ヒロがイヤイヤと首をふる。アルベルトの方は、
「頼む! きょうだけはカンベンしてくれ。まだ捜査の途中なんだ、ここで抜けたら隊長
になんて言われるか……!」
「まぁ、それならいいわ。でも、ヒロはダメ。きょう休みなんでしょ」
「俺の充実した一日を、おまえに奪う権利はない! だから、俺は――」
 ごす。
「……きょ、きょう一日、ここで充実したいと思ってるんだ……」
「よろしい」
 さすがにもう一発投げイスを食らえば大人しくなるってもんだ。それでことわれば、顔
のカタチが変わるまで投げつづけられるに違いない。
「フ。色気のネェオンナに捕まったのが運の尽きかな」
 あさっての方を向きながらつぶやいたヒロの後頭部に、鉄の大鍋がブチ当たった。


「いだぞ!」
 数人の自警団員が、通りをうろついていた少年を認め、迫ってくる。
「ったく、ヨェえくせに」
 すでに十数人を叩きのめしていた少年は、いちいち相手をするのがわずらわしくなって
いたのだ。
「――と思ったが……あのオッサン、かなりやるな」
 白髪を後ろに流した、年の割りにガタイの良い男性を目に止め、少年を逃げるのをやめ
にした。
「きみか、門を破壊したというのは」
 どうやら隊長らしいその男性に確認されて、少年は愚直にもうなずいた。
「そうだ。あれがまずはアイサツ代わり。そしてここにいる強者を全員ブッ倒して、オレ
が文字どおりの"最強"になるんだよ」
(この少年……どこかで見た顔だな)
 男性――リカルドが少年をじっと見詰めた。
 紅の髪、紅の瞳、青のTシャツ一枚にジーパンといういでたち。鋭い顔付きで、しかし
まだ頑是無い子供のような少年だった。腰には、黒鞘のカタナを差している。
 瞬間――
「なっ……!」
 気配だけをその場にして、少年がリカルドの真ん前にいた。しかも、すでに蹴り足が飛
んできている。まわりの団員たちには、瞬間転移でもしたかのように映ったろう。
 ばさッ!
 一寸で見切ったリカルドが後ろに引くが……胸元の服が裂けていた。かわしきれなかっ
たのではなくて、蹴りの風圧だ。
「きみは一体……」
「テメェに、オレの"最強"へのいしずえになる価値はあるかな?」
 とーん・とーん、っと上下にフットワークを刻む。
(この少年は……)
 腰を少々落とし、リカルドが構えに入る。
 いつも付き従っている団員たちですら見せたことのないリカルドの構え。"一撃の王者"
の雷名は、世界中のツワモノが聞き及び、目標としている。その雷名は、対する相手に構
えすらせずまさに一撃で決着がつくからのもの。
 その"一撃の王者"に構えをさせるこの少年は……
「私の名はリカルド・フォスター。きみの名を聞いておこうか」
「――ソウイだ。いまは、それだけで充分。オッサンは、しばらく病院で入院でもしてな!」
 突風をともなって、ソウイが突っ込んできた。
 リカルドの右手が柄をにぎり、一気に引き抜いた。下から上へ突き上げるそれを、ソウ
イは慣性を殺しきり後ろへ倒れ込んだ――とみせかけて、実は右手を支えに路面を逆立ち
し、左足をリカルドの顔面へと放っていた。
 ここまでなら、この街の人間にも何人かできる者もいる。――が。
 それをカラダをななめに倒してさけたリカルドの首筋に、抜けたはずの左足が追尾して
きたのだ、ヒザを曲げて。まるで首を刈るかのようだ。
「むぅ」
 それでもリカルドはこれをさけていた。かわりの代償に、体勢を崩したが。そして、ソ
ウイにとっては絶好だった。
「ハッ!!」
 ソウイの右の突き蹴りが、リカルドの横腹に突き刺さり、内臓を押し出すような衝撃を
与えていた。
 リカルドの身が道を転がりまくり、砂を撒き散らす。
 残心とでも言うのか、蹴りを放ったまま固まっていた少年は、機械的な動作で右足をお
さめた。
「ま、こんなもんか」
 ズキリと痛む脇腹――二度目の左足の追尾をさけるとき、リカルドは反撃に剣の腹をソ
ウイに食らわしていたのだ。
 もしそれがヤイバの方だったなら……
「――ちっ。"最強"ってのも、カンタンじゃねェんだな……」
 団員たちが目を見開いているのを冷たく一瞥し、ソウイは新たな相手を探して駆け出し
た。




<あとがき・前編>

 はいはいはーい。
 よく書けましたねぇ、たとえこれだけの文量とはいえ。
 体調は良くないですけど、不思議と執筆は軽く進みました。
 
かなり適当に書いてます。
 描写も軽いカンジ、むろん、戦闘描写以外ですけどね。
 あと、ソウイの正体わかったヒトいます?
 ちなみに、ソウイの二段蹴り――「弓張月(ゆみはりづき)」っていう名前の技は借り
物です。ボクが考えたものじゃありませんから(微苦笑)

 さて。
 あと何人に犠牲になってもらいましょうか。



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