中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「<未来と現在と最強と> 〜中編・1〜」 hiro


 それがマス・コミに取りざたされたのは、わずか三十分たらずであったという。
『エンフィールドの守護神・リカルド・フォスター、やぶれる!』
 このセンセーショナルな大事件に評議会も事態を重く見、リカルドを倒したというその
人物に懸賞金をかけるシマツ。かてて加えて街の門の破壊、門番への暴力行為、このふた
つの罪をプラスし危険人物と断定。
 かけられた金額は――
 

「はぁ〜い、パティちゃん!」
「あら、ローラじゃない」
「聞いて聞いて! 大ニュース・大ニュースなんだから!」
 かしましムスメその一のローラが、さくら亭にセンセーションを持ち込んできた。ちな
みにその二はパティ。その三はここにはいないが、想像くらいつくであろう。
「――って、お兄ちゃん、何したの?」
 フロアの隅の方でモップでゴシゴシとやっていたヒロを見つけ、ローラがそう聞いてい
た。しかも「何してるの?」ではなく、「何したの?」だ。カンが良い。
「雑用」
「だから、なんで」
「俺とパティの仲だから」
 雑用させられるってのは、主人と奴隷の仲ってところだろうか。
 パティ、ひらひらと手を振り、
「あんなのはほっといて――それで?」
「あ、そうそう。聞いて聞いて! あのね、あのリカルドおじさまが与太者に負けちゃっ
たんだって!」
「え……ホントウ、それ? リカルドおじさんて、大武闘会を十連覇してんのよ!? ル
シアやアインだって勝てないのに……」
「ホントもホントだよぉ。それでねそれでね、その与太者に賞金がかけられたの! スッ
ゴイんだよ〜、その金額がさぁ――」
 ドコォォォンッ!!
 入口の扉が内側に吹き飛んだ。砂色のケムリが縦横無尽に入り込んで、ホコリとチリで
店内の半分が満たされてしまう。
「な、なんなの……!?」
<ヒロ・トルース、お縄につきなさい!>
<ヒロ・トルースはいるかぁ!? おまえの首はもらったぁぁ!!>
「お兄ちゃん、人気者だね」
「なった覚えはないんだけどな」
 バケツの水で雑巾を絞りながら、ローラのそれにヒロはひとごとのように答える。
 モップ片手にヒロが、大衆の前に出て行く。大衆と言っても、公安の局員にコロシアム
で賭け試合に出るような荒くれ者たちばかりだが。総勢で二十人ほど。
「なんか用か?」
<観念なさい、ヒロ・トルース! あなたの罪はもうあがっているのよ!>
<おんどれの首に大金がかかってるんじゃ! おれらにその首とらせんかい!!>
<この男の身柄は私たち公安維持局の人間が確保するのよ! カラダばっかで脳みそが野
菜ジュースのあなたたちは引っ込んでなさい!!>
<なんやとコラァ!! やるんかい、このアマぁ!>
 メガネのパメラと、大オノのクランクの言い争いに転嫁。
 ヒロ、やっぱひとごとみたいにそれを眺めていたが、
「なぁ、ローラ。俺ってお尋ねものだったのか?」
「知らない……あ、もしかして――これ?」
 ガサゴソと、ポシェットから取り出したのは、紙切れ一枚。懸賞金のかけられた人物の
特徴と、何を仕出かしたかの詳細だった。似顔絵はないが。
「……賞金は、二十万ゴールド!?」
 これだけあれば、一家が一・二年くらい遊んで暮らせる。手配から二時間でこれならば
驚異的ですらある。というか、手配の速さも驚異的。
 パティ、つづきを朗読する。
「――なになに、この人物は男性で、赤い髪に赤い目、身長は175センチ前後で、服は
青のTシャツにジーパン。黒い鞘の東方造りのカタナをひとふり帯びている――」
 文面とヒロとを交互にしていくパティは、納得顔で鼻をならした。
「これってあんたなんじゃないの……?」
「俺もTシャツだけど色が白。それにこれには年齢が欠けてるじゃないか」
 あとはだいたい似たようなもんだ。赤い髪・瞳、カタナをいっつも帯びているヒロは、
これだけでも疑われるに値する。
「お兄ちゃん、どうするの?」
「とりあえずここの連中は一掃しちゃうか?」
 どうもヒロは、雑用をやらされているときから覇気がない。人生を投げ出したような、
なんでもこいっていう捨て鉢さだ。
 ――と、
「あなたたち! 静まりなさい!」
 入ってきてそう威圧したのはヴァネッサだった。
「恥ずかしくないの……? そうやって互いの足を引っ張り合って」
「……ン?」
 ヒロは、ヴァネッサの言い方に引っかかりを覚えた。いさめてくれるんじゃないのか?
「二十万ゴールド……甘美なヒビキ。――誰が『彼』を捕らえるかはあとにして、とりあ
えず逃げられないようにしておかないと」
「…………ヲイ」
 ヴァネッサの良心など、こんなもんか……
 その彼女の提案にみんなは一致したのか、ヒロに衆目が集まった。
 ヒロ、なにも動じずモップとバケツを片づけてから、
「そんなワケでパティ、俺の雑用はここまでってことで」
「ま、せいぜいガンバリなさいよ」
「オッケー」
 ひょ〜い。
 ヒトの頭を乗り越えて、すたこらさっさと外に。それがあまりに自然だったから、みん
な見送ってしまったが……
<あ、待てェーーーーッ!!>


「あいつら結構速いな」
 振り返る余裕すらみせながら、感心したようにヒロがつぶやいた。
 ちなみにヒロは、百メートルを十一秒フラットで走っている。ヒロの全速からするとか
なりゆっくりメで、これくらいなら二日ブッつづけで走ってられる。
「――っと」
 魔力の赤弾を、ステップひとつでかわす。後陣が撃ってきたのだ。
「足止めか。……やっかいだな」
 かわした拍子にペースがおちて、連中とのインターバルがせばまっている。その魔法を
撃ったひとりが列から抜けるが、また別のヤツが魔法を撃ってきて――そして最初に撃っ
たのが合流、こうやって数にものをいわせられると、ひとりのヒロの方が不利だ。
 こちらにも仲間がいる。
「おおっ。あんなところに紅蓮がッ」
 夜鳴鳥雑貨店でさくら亭の買い出しをしたのだろう紅蓮が、こっちに気がついた。
「おう、どうしたヒロ。何をして――」
 紅蓮がセリフに詰まる。ヒロが笑っていたから。
「紅蓮、俺たちって親友だよな? だったら――」
「は? あ、なにすんだ……!」
 親友の後ろに回り込み、ヒロが思いっきり蹴っ飛ばす。
「うお!? なんだ……こいつら?」
 血走っている金の亡者どもを見て紅蓮が引き腰になりかけるが、すでに遅し。
「ギャーー!!」
 ひき潰されたカエルのごとく轢死体になってしまった紅蓮をムシし、ヴァネッサが舌打
ちした。
「くっ。紅蓮くんを身代わりして、自分はトンズラか……ヒロくん、見損なったわよ! ど
こにいるの? 出てきなさい!」
 紅蓮をけしかけて、そのあいだにヒロは姿をくらましていたのである。
「親友、おまえの死はムダにはしない」
 こっそりと路地裏の陰からそう誓っているヒロ。
 鬼畜か、おまえは……
「――……あのヤロォ……!!」
 ピクピクとしていた紅蓮が、おもむろに復活をはたす。その目には火球が燃え盛ってい
た。
「そこだぁぁぁ! ルーン・バレットォッ!」
 十数発の魔力弾が、ヒロのそばの壁を爆撃した。それによって居場所がモロバレになる。
「親友! おまえ、俺を裏切るのか?」
「ドやかましい! だれが親友だ……! おまえはコロス!」
 紅蓮を筆頭にし、またもヒロに迫ってくる。
 ドドドドドドドド!
 街なかで怪獣でも出現したみたいだ。
 騒乱罪で全員逮捕してやりたいトコだが、あっちにとってはヒロも犯罪人。もとよりこ
っちの言い分なんか聞いてくれそうもないし。だからこそ、さくら亭からそのまま逃げ出
したのである。
「どうすっかなぁ」
 このまま追いカケッコをつづけるのはヤだが、向こうはいま、欲がからんでいるためい
つもの数倍の力が出ていそうだ。だからと言ってあっちの体力が尽きるまで付き合ってや
るほどヒロも良いヒトじゃない。
 ――仲間発見。
「ゆーきくぅん」
「何ですか、ヒロさ――うわああ!」
 通りでばったり出くわしたゆーきの襟首つかまえて、エサに飢えているピラニアのごと
き勢いの紅蓮たちに放ったのだ。
 ヒロが最後に見たのものは、ゆーきの「なんでえ?」と訴えている泣き顔だった。
「すまないな、ゆーき。この恩は一生忘れない」
 これで時間を稼げたヒロは、三秒でゆーきのコトを忘れて、なにくわぬ顔してさくら通
りを抜けようとした――が、
 ドカーン☆
 星がちらつく爆発だけど、威力的には五体バラバラになりえる攻撃魔法が、ヒロの進路
前方に降ってきたのだ。
 こんなデタラメな魔法を使うのは、この街にひとりしか心当たりがない。
「あれェ〜? 外しちゃった」
「マリアーーっ! 俺を殺す気か!?」
「ゴメンゴメン」
「ごめんじゃない!――!?」
 やにわに斬閃がヒロに襲いかかり、そいつを上体をかたむけかわしつつしりぞく。
 攻撃をしてきたのは星守輝羅。彼女はヒロの同僚――自警団第三部隊の隊員だ。
「マリアちゃんダメじゃないの。殺したら賞金は出ないのよ?」
「あ、そうなんだ。ならちょっと手加減しないと」
 もはや聞くまでもない。
 ……っていうか、
「輝羅! おまえわかってんのか?」
「なにを」
「仮にも第三部隊の隊長の俺が犯人として捕まりでもしたら、自警団の立場がよりいっそ
うあやうくなるんだぞ? 公安はもちろん、評議会の排斥派のやつらにとっちゃ、いい名
目ができる。それをわかってやってんのか!?」
「お金のため」
「なんじゃそりゃあぁぁぁ!!」
 思わず髪の毛かきむしり、ヒロは大絶叫をかました。
 とか言いつつも、ヒロも共感がないワケでもない。だって、自警団の給料って安いから。
もし輝羅がヒロでヒロが輝羅だったとしても、おんなじコトが起きてたかも。
 しかしそれはそれ。
 シュタッ!
 助走なしで屋根の上に飛び乗りヒロは、
「もう付き合ってられるか! 勝手にやってろ」
 捨て台詞とともにどこかへ行こうとするが――
 ヒュォォォォ!
 その風切り音と、重量のある何かが頭上から迫ってきた。
 考えるまでもなく、ヒロは後ろに飛び離れていた。
 ゴシャァッ!
 蹴りで屋根を砕いたのは、アクセサリーの猫ミミと猫シッポを恥ずかしくもなさそうに
付けている黒髪の若者。ケモノ師・まるにゃんだ。
「……まるにゃん……おまえ、なんのつもりだ?」
「にゃふふふふ。決まってるじゃないか。ヒロちゃんを捕まえにきたんだよ」
「なにぃ?」
「わちきの偉大なる野望のための活動資金がいるんでね。ってなワケで、わちきの野望を
成就させて」
 殺気すら放って、まるにゃんがにじりにじりと寄ってくる。
「にゃは。エンフィールドケモノ化計画を遂行のときぃ!」
「そんなこと、俺が許さん! たとえケモノの神が許してもな!」
 ヒロが断固たる意志のもとつっぱねる。
 エンフィールドケモノ化計画とは、その名のとおり街の人々をケモノ――獣人にしちゃ
うというおぞましいモノなのだ! 考えてもみてほしい。大量のピート狼男バージョンが
街をカッポしている場面を。メロディや由羅レベルならまだいいが、これだとするととて
つもなくサイアク! 
「ヒロちゃんがどう言ったところで、計画は止まらないんだよね〜」
「くぅぅぅ! 悪の根はいますぐ摘みとってやる!」
 ヒロの目にも留まらぬ抜刀術を跳躍ひとつでまるにゃんがよけるが、カタナはひるがえ
りつつ剣先は屋根を舐め、その溜めた力をすくい上げる斬撃へと転化させた。
 このままでは、まるにゃんは股間から脳天まで真っ二つ!
<な、なにぃ〜〜!?>
 いつの間にやら追いついて下から眺めていたヴァネッサたちが、驚愕した。 
 白刃取りっていうのは普通は両の手の平でやるものなのだが、まるにゃんはなんと足の
裏でそれをやってのけたのである。
「うにゃ」
 そのままヒロの頭部に手を付いて、跳び箱の要領でまるにゃんは背後へと回る。ヒロの
後頭部に蹴りの一発を入れて。
「まるにゃん〜!」
「にゃはははははは」
 熾烈な戦いが予想されたが、ここでまたも乱入者。
 ななめ下から飛んできたそれを、ヒロは左腕に巻き付けさせた。ワイヤーだ。
「おまえもかよ、セリン!」
「ごめんね、ヒロ。これも仕事だからさ」
 ワイヤーを放ったセリン・ピースフィールドは金で動くタイプじゃなくて、純ボケタイ
プ。ヒロがやったんだと思い込んでるに違いない。
 もうそろそろヒロの堪忍袋も緒が切れそうだ。
「おまえらぁ……いい加減にし――っ!」
 不意打ち気味のまるにゃんのケリはかわすが、その瞬間を狙ってセリンがワイヤーをぐ
いっと引っ張ったのだ。おかげでヒロは地面に顔から落下しかけるが、そこはそれ、彼の
運動神経でなんとか着地を決めていた。
「くそ……」
 ほぼ取り囲まれていて、みんな目が熱に浮かされている。 
(……あれは!)
 こちらにポテポテと歩いてきている少女を見つけたヒロは、そちらへ大ジャンプした。
いかせまいとセリンがワイヤーを引くが――
「あ、あ、あれ……?」
「おまえはもうちょっとルーズになれよ、何事も」
 メキッ。
 逆にヒロの方がセリンを一本釣りにしてやって、その顔面に靴底をメリ込ませた。
 そして少女――マリーネの元に。
「ヒロさん、なにかあったの……?」
 ほけ〜っとした顔付きで、マリーネが言ってきた。無表情というか、無機質な感じのす
る娘で、アイン・クリシードの養女だ。歳はまだ十二、三くらい。
「あいつらの動きを止めてくれ。きみならできるだろう?」
「なんで?」
「なんでもナニも! 頼むからさ」
 マリーナ相手に拝み倒すヒロに、いましも襲いかからんとするヴァネッサたち。第三者
がこれを見れば、なんと思うだろう。
「よくわからないけど、ヒロさんが切迫してるのはわかったわ――」
 ヒロから視線をはずし、その視線を移す。
 そのとたん。見詰められた一同が固まってしまった。
 別に彼女は邪眼を使用したんじゃなくて、ただ見詰めただけだ。しかし金に目のくらん
だ人間は、その純粋極まるマリーネの瞳に耐えられなかったワケである。
「これでいいの?」
「……さ、さすがはアインさんの娘、というか廉価版……」
「なんのこと」
「あ、いい・いい。気にするな。じゃ、ありがとマリーネ」
 ヒロは行こうとしたが――
<待ちなさい!>
 早くも立ち直ってる!? 
「くっそぉぉぉ!」
 もう逃げに徹するのみ!
「きょうは厄日か!?」
 後方に数十人の追っかけ引き連れて、ヒロはひたすら走りつづけるのであった。




<あとがき・中編・1>

 中編は1と2でいかせてもらいます。
 こんなに長くなるとは、描写ははしょってるのに……っていうか、紅蓮とかまるにゃん
とか出さなきゃ中編は中編で終わってたのに。
 ソウイ〜、きみはいずこへ?(苦笑)
 こりゃ主役はヒロですね。

 で、今回なんだかいっぱいオリ・キャラが出て来たんで。
 整理整頓を。
 まずはヒロとソウイはボクのキャラ。
 紅蓮はともさんの。ゆーきはゆーきさんの。輝羅は坂下さんの。まるにゃんはまるにゃ
んの。セリンは心伝さんの。マリーネは埴輪さんの。

 思いもかけないキャラ(セリン、マリーネ)も出しておりますが、気にしないように。
 いちおうこれで最後みたいなモノなんで、出そうかなと。
 それじゃ。



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