中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「<夏祭なハナシ> 〜サン〜」 hiro


 カランコロンカランコロン。
 夜気に染まったエンフィールドに、この街には少々奇妙な音が断続的に……というかヒ
トの足踏みとほぼ同じテンポで鳴り響いていた。軽く、質量も感じさせない音だが、妙に
高くてそこら中にみさかないなく反射してまわる。
 それが履き物と地面の擦過音だということは、発生源の近くにいるふたりには良く分か
っていた。
 紅い髪に瞳の青年、ヒロ・トルースは、
「なぁ、セリン。その音、なんとかならないのか?」
 と、うんざりげに自警団の同僚であるセリン・ピースフィールドに尋ねた。ヒロとはお
ない年(二十歳)のはずだが、それより三、四歳は若く見える。そのセリンは職人さんが
着るようなハッピというカッコウだった。
「音? この音のこと?」
 心底楽しそうに、セリンはその場で足を踏み鳴らした。つられたみたいに、カラコロと
せわしげな音色が耳を打つ。
「やめれー。うるさい。近所迷惑だー」
 抗議しながら耳をおさえるヒロのとなりで、女性――いつものポニーテールの髪型をお
ろした星守輝羅(ほしもりきら)が、
「まぁまぁ。いいじゃないの、ヒロ。風流があって私はいいと思うけど?」
 と、セリンの無邪気な所為(しょい)にころころと笑っていた。もちろん浴衣を羽織っ
ていて、ほんのちょっと青みがかった白地に花火の絵柄がグッドである。
「風流ってなぁ〜〜、ここは東の国じゃないんだぞ? だいたいゲタなんてどこから持っ
てきたんだよ」
「このまえ志狼さんにもらったんだよ。一足どうだ、ってね」
「ってことは、あいつもゲタで来そうだな、祭りに。……迷惑な……」
 実はもう来ていて、それでレオンを打ちのめしていたりする。しかしそんなコト、ヒロ
が知り得るはずもない。
「でねでね」
 頭を痛めているヒロをよそに、セリンはゲタを自慢げに語りはじめた。
「ふつうのゲタは二枚歯なんだけど、これはなんとゴージャスにも三枚歯なんだよ♪
おかげで足にかかる負担も減少! しかもお得なことに値段は二枚歯とそんなに変わらな
いんだ」
「……ああ、そうですか」
 あからさまに適当にうなずいて、ヒロは嘆息した。
「それも志狼に聞いたの?」
 カエルのプリントされたウチワをあおぎながら、輝羅が聞いてくる。
「当然! 僕がそんなコト、知ってるわけないじゃないか」
 無意味にイバッてみせてセリンは、早く他のみんなにも見せたいのか、子供のようには
しゃぎながら駆け出す。
 その背を眺めながら、輝羅はウチワで鼻から下の半顔を覆い、ヒロにささやく。
「あの着物も、志狼にもらったものかな? 私の見立てでは、結構な値打ち物だと思うん
だけど……」
「じゃないのか? ローレライ(洋品店)であんなもんが陳列(ちんれつ)してるとこな
んて見たこともないし。――しっかしあいつ、ほんとにガキだな。長年の付き合いになる
けど、あいつと俺が同年代とはとても信じられん」
 それを聞いた輝羅、満面にイタズラめいた笑みを浮かべ、
「あらぁ。そんなことないんじゃないのぉ? あんたも似たようなもんじゃない。とても
二十歳のオトコには見えないわよ。お子様よ、お・こ・さ・ま」
「テ……!? こら、輝羅っ。おまえにそんなこと言われたくないぞ!」
 その言葉は夜気にはじかれただけで、食らわせるはずの当人には届いていない。反撃に
出られる前に輝羅は早々とヒロのそばを離れていったのだ。
「……お子様ね。…………かもな……」
 どこか思うところでもあるのか、ヒロは急に冷めた心持ちで夜天をあおいだ。
 時刻にして午後七時四十分。
 エンフィールドを一望できる丘からなら、街を染め上げる光の彩色をそのまなこに映す
ことができるだろう。それにきょうは特別な夜である。いつもより心が広く持てるのだ。
 星と空の有蓋(ゆうがい)に覆われたこの場所は、それ以外になにもなく、しかし存在
はしていた。ほのかな闇に視界を奪われた人間はそれをよしとせず、無感情な光を誕生さ
せたのだ。そのガス灯のあかあかとした光を見上げながら、ヒロは不意に懐かしさに万感
が胸によぎった。
(ちっちゃい頃は、こんな暗闇の中、漫然と歩いてまわったけ……)
 今は亡き故郷に想いをはせた。
 そんな寂寥(せきりょう)感を発散させた友人を目ざとく見つけたセリンは、
「ねー、ヒロってば。その暗そうな顔やめてくれないかなあ。せっかくの祭りの気分が台
無しになちゃうんだけど」
「……そんな顔してたか、俺」
「うん。してたしてた」
 イマイチ自覚がなさそうなヒロに、首肯(しゅこう)する。
「やっぱ俺って暗いヤツなのかな……」
「どっちもどっちなんじゃない?」
 後頭部で手を組んだセリンが、なかばのヒロの自問に合いの手を入れた。
「暗くて湿ったヒロも、仕事のときのマジメなヒロも、戦闘のときの鋭利なヒロも、――
そしていつものお気楽なヒロもね。みんな一切合切ヒロなんだよ。で、僕はそんなヒロが
好きだし」
「……恥ずかしいぞ、それは」
「あれ〜? なら僕のことキライなの、ヒロは」
「いいや。好きさ。ほかのみんなも」
「それって私も入ってるの?」
 黙っていた輝羅がちゃちゃ入れしてくる。
「入ってるんじゃないか? 不本意ながら」
「不本意って……私、そんっっなに嫌われてたの……?」
「あ、……今のは冗談で、ちゃんと入ってるよ、しかも好きランクではトップの方に」
「でも僕よりは下なんじゃないかな〜、やっぱ。僕の方が親友歴が長いからね」
「なにを張り合ってるんだ。ちなみに、輝羅の方が上だ」
 悪気たっぷりと、ヒロが言った。セリンの落ち込む反応が見たかったからだ。
 と、セリンはなにを血迷ったのか、足を振り上げ、
「ま……うわ、おまえ、オトコが嫉妬してどうすんだぁぁぁ!」
「ヒロのばか〜!!」
 ドゲンッ!!!
 鈍器で一撃されたのごとく、ヒロの腹から総身にかけて衝撃が走り、勢い余りすぎて公
園まで空中飛行していった。これこそ、三枚歯ゲタの破壊力である。
「……あんた、ときどきすっごいコトを平気でやるわよね……」
 どこにそんなバカ力があるのかと、輝羅はそう不思議に思ったのだった。


 悲鳴によるドップラー効果を引きずりつつ、ヒロは墜落した。
 そこは偶然にもさくら亭の屋台だったが、運悪くそのゴミ箱の中に頭から突っ込んだの
だ。角度が垂直だったため、そのあとヒドイことにはならず、さながらゴミ箱に突き刺さ
ったトーテムポールを思わせた。
「……なんなの、これ?」
 一休みしようとしたとたんの怪異な出来事にパティは、それでも勇敢にも近づいていっ
た。そろそろと。
「そ、その声は……ぱ、パティか……?」
 奇妙な物体になりさがったヒロが声を震わせながらうめいた。パティにしてみれば、ビ
クッ、と身を強張らせるような現象である。
 すぐかたわらにあったホウキを手に取り、いつでも打ちかかれる体勢をととのえる。
「……くぅ、あのヤロウ、なんで俺がこんなメ――いたっ!」
「ひ……ヒロ!?」
 パカンと殴りつけた物体がヒロであったと分かり、パティは必然的な声をあげる。
「なんでおまえまでにそんなコトされにゃーいかんのだ?」
「ご、ごめん……」
 反射的に謝ったあと、ン、となりパティは憤慨した。
「て。なんであたしがあんたに謝らなきゃならないのよ!? 不自然にも空から降ってき
たあんたがいけないんじゃないの!」
「……なにを開き直ってんだ」
 苦みきった顔つきでゴミを払い落とし、ヒロは、まわりを把握しようと見回した。
 祭りに騒いでいた街人たちのほとんどは花火を観覧するためにローズレイクに行ったら
しく、公園は静かなものだった。
「まずったなあ。来るのがおそかったのか? もう祭り、終わっちゃったのか?」
 困窮ってほどでもないが、少々そんなふうなヒロは、パティに聞く。
「みんな花火見に行ったのよ。ま、どちらにしろピークは過ぎたけどね。あとは帰り際の
客を狙って、残りの品をなんとかさばかないと」
「ふ〜ん。なら俺もいこっかな」
 言いながらなぜか自分を眺めているヒロに、パティはけげんになり、
「なによ? 何か言いたいことでもあるの? あるんならはっきり言いなさいよ。男でし
ょ?」
「なら言わせてもらうけど、なんで普段どおりの服なんだ? こんなときくらい浴衣でも
着たらいいのに」
「……あ、あのねぇ、あたしはここに商売をしにきてるの! 祭りを楽しむために来たん
じゃないのよ」
「なら、楽しめるようにしてやろうか?」
 意味不明な申し出に困惑したパティの腕を、ヒロがつかんで引っ張りはじめた。抗弁さ
せるつもりもないのか、ヒロは黙して語らずを決め込む。
 さいわいにも、屋台は片付けていたから、火事などの心配はいらなかったのが救いだっ
た。どんな状況におちいっても、店関連のことは忘れないのである、パティは。
 ほんの十分ほどして到着した先は、さくら亭だった。
「――さ、ついたぞ」
「どういうつもり? なんでうちにきたの?」
「着替えてこいよ。浴衣の一着や二着、持ってるだろ? いちおう、オンナなんだから」
 聞き過ごせない発言があったが、パティは本題の方を拒否しにかかった。
「な、なんで……」
「たまには、そんなのもいいんじゃないか? せっかく俺が強引に連れ出したんだから…
…おじさんには、ちゃんと説明しとく」
「…………」
「遠慮するなって。俺たち、幼なじみだろ?」
 これがアレフあたりなら下心のひとつやふたつある気がして、不審げに睨みつけでもし
ていただろうが、シーラと同じくらい付き合いの長いヒロなら安心もできる。
「……分かったわよ」
 心無さそうに了解を告げたパティだったが、内心の気持ちが足取りにもろに出ていたか
ら、ヒロは忍び笑いをもらした。
 待ちぼうけを食っていたヒロに、どこからか声がかかった。
「ヒロか? なにしてんだよ、そんなとこで」
 小走りに駆け寄ってきたのはアレフ・コールソンだった。思わず感嘆するほどの服飾ぶ
りである。地味でもなく、だからと言って艶やかさを前面に押し出しているわけでもなく
……モデルとしてより、ファッション・コーディネーターとしての方がその才能を発揮で
きそうだ。
「連れをな、待ってるんだよ」
「連れって?」
「あんまり野暮なこと聞くもんじゃないぞ。それより、アレフは祭り、行ってないのか?
その気合のはいっているカッコからして、……ナンパか? それともデート?」
「ふっ。どちらでもないさ。俺は誕生日と同じく、こんなヒはみんなと一緒にすごすよう
心がけてるんだ」
「要は、誰かひとりと行けば角が立つから、怖い、ってコトだな」
「……ふっ」
「図星だったのか」
 ヒロの言葉は無視することにしたアレフは、それをなかったことにした感じで切り出す。
「でさー、クリスをみなかったか? あいつ、由羅に追っかけられたままどっか行っちゃ
ったんだよ」
「なるほど。行方不明ってわけか。こいつは大事だな。じゃ、頑張ってみつけろよ」
 粗略な扱いに不満を表したアレフだったが、すぐにそれがいぶかしげなモノにかわった。
「なにか、隠してないか?」
「な〜んにも。とにかく、早く見つけて保護してやらないと、由羅の毒牙に落ちる。それ
だけは――」
 ……これ以上のアレフとの対話は文章のムダであるからして、ヒロは作者の意を汲み取
り足を振り上げる。
「ふせげよ!」
 ドゲシッ!!!
「なんなんだよぉぉぉぉ!?」
 ヒロのケリをもらったアレフは、夜空の向こうに吹き飛んでいった。


 花火は、ローズレイクの湖面、そこにポツンとある船上からやるらしい。ほとりには、
一年かけても例をみないほどの人だかりである。
 開始三分前を切っていて、自然、テンションが上がりはじめていた。
「なんとかかんとか、間に合ったみたいだ」
「みんなも来てると思うから……」
「このなかから見つけるのは、難しいんじゃないか?」
「そうね……――リオ?」
 人だちに巻き込まれるように右往左往していたリオ・バクスターが、この大雑音からく
らべれば蚊の鳴くようなパティの声を聞いていたのか、寄ってきた。
「ヒロお兄ちゃん、それにパティお姉ちゃん……ふたりも花火見にきたんでしょ? ボク
もいい?」
 交互にヒロとパティに視線をやり、聞いてくる。控えめに言っているのは、ふたりの邪
魔になるかもしれない、という勘違いからである。それを察したパティ、平淡に否定した。
「あたしとヒロに、そんなものないわよ。だからヘンな気をつかわないでいいの。分かっ
た? リオ?」
「う……うん。わ、分かったよ、パティお姉ちゃん……」
 すこ〜しだけだが、セリフに隠れた迫力を感じたリオは怯えたのか、ヒロのがわに逃げ
込んだ。
 そのあと、しばらくぶらぶらと知り合いを探しながら歩いていたが、見つからず、花火
が始まってしまった。光華な打ち上げ花火が、号砲を鳴らした。
「あ〜〜、しょうがないな。なら、俺たち三人だけでも行くか」
「どこへ?」
 と、リオ。
「いい場所」
 

「……こ、こわいんだけど……」
「ここで『落ちたり』はしないって。あんまり動き回らない限りな」
 眼下に映るくらっとする黒い淵をパティが、直視している。本当は目をそむけたいのだ
が、間近にある恐怖を常に確認していなければならないのが、人間である。
 生温かい風がほおを撫でていき、パティはぞっと身を震わせた。
 ふたりは、エンフィールド学園の学生寮、その屋根の上にいたのだ。ロケーションとし
ては絶好なんだが、ヘタに足を踏み外せば大変な事になるのは自明の理である。リオは、
こころよく辞退しているから、ここにはいない。
「でも、いいだろ、ここ。――ほら、花火が……」
 ひゅ〜〜〜〜ぱぁん!!
 言っているそばから三色の花火が破裂し、ちりじりになりながら降下・飛散していく。
 言葉では表現しつくせないほどの絶景だった。いつしか、ふたりは無言でそれを魅入っ
ていた。
「ねぇ、ヒロ……」
「ん?」
 つぶやくように語りかけてきたパティに、ヒロは穏やかに返した。白の生地に花模様が
縫い込まれている、そんな浴衣。存外、白が似合っている。
「今までさ、いろんな事、あったよね……」
「そうだなぁ。ほとんど戦いばっかだった気がするけどな」
「そうよね。数えるのも面倒になるくらい……エンフィールドだって何度消滅の危機にあ
ってるか」
「……ここまでくると、だれかに計られてる気もしてくるよ。実際、今までの事件。そう
いうふしがあったからな」
「シャドウや魔族のこと……?」
「それだけじゃない。ハメットの件、それにカオスだって。みんなつながりがあるんだ。
裏で糸を引いているのがカオスの言うとおり『アレ』だとしたら……」
 決して臆病者ではないヒロが、ありもしない『アレ』に対し恐怖の念をみせた。視線は、
どこまでも次々と変貌していく光のイルミネーションに釘付けだ。自身を偽っているのだ
ろう、そうすることで。そうでなければ、気が狂いそうになる。いつか『アレ』と相対す
るヒがやってくるなど……
「考えたくも、ないな。そんな日なんか、一生きてほしくない。でないと、このときが消
えてしまいそうだ……」
 そう。目の前に映る、あの花火のように。
「大丈夫。あたしは、みんなを信じてるから」
 力づける、そんなパティのひとこと。一瞬、心が通い合ったかのように、ふたりは互い
に顔を向けた。そこに、夜景の明暗を分ける花火が光を放散させる。互いの表情が、くっ
きりと見えた。
 ――信頼の情。
「このあいだの、旅のこと、話してくれない?」
「え……ああ」
 いきなりの話題がえに面食らったヒロだったが、居住まいを正し、話しだす。
「何から話そうか……恋人を待っていた女性の話しは?」
「それ、聞いたわよ、トリーシャから。魔人だったんでしょ、そのヒト。で、ヒロがなん
かして助けたとかなんとか」
「……なら輝羅が一目ボレした青年の話しは?」
「それも聞いた。実は……(ごちゃごちゃ)」
「ならなら、劇に命をかけた男優の話しは!?」
「それも……(ごちゃごちゃ)」
「……ぐ、あのお喋りトリーシャめ! しかし、これはまだのはずじゃないか!? 俺と
師匠との再会の話し」
「それは聞いてないわ。どうしてだろ? トリーシャが黙ってるとは思えないんだけど」
「簡単なことだ。あいつがそんときいなかったからだよ」
 意味もないことに勝ち誇っているヒロに、パティがうながす。
「師匠って?」
「俺がこの街にくるまで旅してたこと、知ってるだろ? そのとき、半年ほど一緒にいた
のが師匠だ。って言っても、呼び捨てだったけどな、名前で」
「師匠って……剣の……? あんた、最初から強かったんじゃないの?」
「神閃流剣術を受け継ぐ最後のひとり。たしかに、師匠に会う前から強くはあったが……
あのヒトの強さはケタが違った。……あえて言うなら、無敵かな」
「……どういうヒトなの、そのヒトは」
「ルーウィン・マクレッシュ。天羽流家元である、天羽翔雷、このひとから受け継いだ―
―本人に言わせると盗んだらしいが――志狼以外では唯一の人間」
「それって……」
「志狼の言うじっちゃんから手ほどきを受けているヒトなんだ。強くて当たり前だ」
 ――と。
「へ〜、その話し、なにか面白そうじゃないか」
『?』
 唐突に聞こえてきた声に、ふたりはそちらに顔をやる、と……人型のシルエットがひと
つ。――否、ふたつみっつと増えていく。
「な、な、な、な……おまえら、なんで……?」
 泡を食ったヒロは、指だけを差し、まごついている。はじめに声をかけた志狼、その横
に怒りに燃えているアレフ。……この際だから、悠久、オリ・キャラのメンバー総出演と
でも言っておこうか。
 なかでも一番やっかいだったのは……
「ヒロくぅん? なんでパティとふたりっきりですごしてるのかなぁ?」
 音吐の抑揚からして怒っているトリーシャは、ずんずんとこちらに近寄ってくる。
「ち、ちがうちがうちがうっ! こ、これはトリーシャが思っているようなそんなコトじ
ゃなくてだなぁ……」
 トリーシャを前にしてうろたえまくっているヒロを、パティは座りながら眺めていたの
だが。そこでひとつ意地悪をしてみたくなった。
「なに言ってるの、ヒロ」
「い、いま取り込み中なんだ。話しに――」
「ひど〜い。さっきあたしのこと愛してるって言ったのに〜〜!!」
 大バクダン発言もいいとこである。
「て、テメ……! パティ! ふざけるのもたいがいに……!?」
「……ヒロくん……」
 おもてを伏せたトリーシャの表情は分からないが、ヒロは、ひどく良くない予感をかか
えていた。
 そこに、非難の嵐が吹きつける。
「おまえってやつは……! 優柔不断もいい加減にしとけよ!?」
 と、フィール。
「あんた、トリーシャが好きなんじゃないの!? はっきりしなさいよ!」
 と、輝羅。
「そうか……あそこで俺がジャマだったから……だから俺を蹴り飛ばしたんだな!?」
 アレフが矢面に立ち窮しているヒロに、一矢を放つ。他からもムチャクチャに言われ、
もうどうしようがこの現状は打破できないと悟ったヒロは、脱出しようときびすを返した
が……そのすそを握っていた人物が。トリーシャである。
「たいがいにするのは……」
 ごきゅり、とノドを鳴らしたヒロは、その蒼白な顔面に彼の生涯でもっとも強力な一撃
を見舞われることとなった。
「ヒロくんだよ…………バカァッ!!」
 メゴシッ!!!
 本日二度目の空中飛行に、意識を遠のかせながらヒロは涙したのだった。
 



<あとがき>

 一言。
「つらかった……」
 これにつきますね、今回のSSは。
 書くのに実に一ヶ月。それで没ネタは五十Kにも及んだという……
 で、分かるとおもうんですけど。イチとニは半分投げやりな気持ちで書いてます。それ
かいてるとき、スランプだったんで。
 サンは、途中から少しマシになってます。話し自体は面白くもなんともないですけど。
 とにかく、早く不調から回復したい、八月中はそれだけ。
 それで今は回復したらしいですけど……
 すごく気持ちいい! すらすら書けるってなんて素敵なんだ!
 とか思ってしまいました(^^)

中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲