中央改札 悠久鉄道 前頁 交響曲

「お正月スペシャルゥ☆ 後編」 hiro  (MAIL)
静かな……そして薄暗い部屋。
もともと外が明るくないってのもあるが、窓にカーテンがかかっているからなおさら暗い。
真っ白なシーツのかかったベットで眠っていた人影が、モゾモゾと寝返りをうった。
ふとんから顔だけのぞかせたその人影――
銀髪の少女だった。
パティみたいに適当に切り揃えた髪型だが、それがすごく似合っている。しかも、この世で十番以内に入るであろう、美少女。
今は、あごの近くに手を置き、安らかに眠っている。こんなとこを男どもに見せようもんなら……
にしても、気になるのは……その少女の横に、もうひとつの人影があると言う事だ。
同じく寝ているのだろう、たまに寝返りなんかうっていた。
こっちはどう考えても……『男』だった。やや長めの少し癖のある黒髪の青年。
「…………」
おっと。少女が目を覚ましたらしい。
手でこすこすと目をこすり、――――その闇色の瞳を見開いた。
そばにある、青年の顔を認めて。
とりあえず、嘘だと思いたくて目を閉じてみた。
そして考えてみる。
(何故こいつが俺の部屋にいる?しかも横で寝てる?)
もう一度……そろりそろりと目を開けてみた。
やっぱりいた。
少女の顔が、少しづつ怒りの形相に変わっていく。
ゆらりっと起き上がり、寝てるその青年を見下ろした。
「うーん……むにゅむにゅ…………シーラァ……」
プチンッ!
「起きんかぁぁぁぁぁぁいっ!!このスケベ男ぉっ!!!」
自分のベットに入り込み、さらには新年早々ボケた寝言を吐いたその青年を、銀髪の少女は怒りの感情を張りつかせたまま、わしっと襟首掴んで強引に立ち上がらせ、ドア目掛けて投げ飛ばした!
ガチャッ
「あのルシアさ……うわぁっ!!?」
紅い髪の青年――ヒロが悲鳴を上げていた。
何せドアを開けたとたん、何かが自分に向かって飛んできたのだから。
ドンガラガッシャン!!!
ヒロとその飛来した物がぶつかり合い、壁に激突――しかも、ヒロは下敷きにまでされてしまった。
「……う、う〜〜〜〜ん……志狼……?」
うめいて顔を上げたら、茶色がかった黒の瞳の青年――天羽 志狼の顔が入ってきたのだ。
「なんで志狼がルシアさんの部屋に……?
――って、ルシアさん……!なんですか、そんな恐い顔して……」
志狼の肩越しに見える少女――ルシア・ブレイブが怒りをたたえたその表情で、ゆっくりとこちらに向かってくるのだ。ヒロの顔が恐怖に引きつるのもしょうがない。
ルシアのその手が、イカズチを帯びているためピシバシと鳴る。
「待ってください!!
なんか知らないけど、俺は無関係です!殺るならこいつだけに――、志狼!起きろ!起きんかい!!」
志狼が上に乗っているため動く事ができないヒロは、志狼に訴えかけるが反応なし。どうやら投げ飛ばされた威力は、ヒロが下敷きになったおかげで吸収されていたらしい。幸せそうに眠っている。
「やめてください!ルシアさーーーーん!」
「ライトニング・バースト!!」
「ぎゃーーーー!!」
 
 
「アリサさん、おられますか?」
ジョート・ショップの玄関口、そこに身長のやたらと高い青年が、その身長に似合わない抑え目の声で、この家の主人アリサ・アスティアに声をかけていた。
趣味の化粧までしているその青年、アルベルト・コーレインだった。
その隣に、アルベルトと同じ髪の色のおしとやかそうな少女が立っていた。こちらはクレア・コーレイン。
さらには、宙に浮く、人形くらいの大きさの小僧。ヘキサである。
「アリサさん?いないのかぁ?」
「いえ、いるはずですわ。奥の方から人の気配がしますし。多分聞こえなかったのではないでしょうか?お兄さま、もう一度声をかけてみればいいのでは」
「あ、ああ。アリサさ――ん!?」
クレアに言われて、もう一度、今度は多少大き目の声で呼ぼうとしたアルベルトだったが、いきなり二階から派手な音がし、それとほぼ同時に、階段を黒コゲになったふたつの肉塊が転げ落ちてきたのだ。
「な、何!?なんなの?」
さすがに派手な音には気づいたのか、ダイニング・ルームからパティが飛び出してきた。
はじめは二階の階段を見、次にふたつの黒コゲの肉塊を、最後にアルベルト達に視線がいった。
「アルベルト?――クレアにヘキサまで」
「『まで』はないだろ、までは」
ヘキサは口をとがらせ言うが、パティはそんな事は聞いていない。
階段のすぐそばに転がる物体――ふたつの黒コゲをつつきはじめていた。
ふたつ、っていうよりふたりか。
ヒロと志狼である。このふたり、完全無欠に気を失っていた。
しゃがみ込み、つんつんしていたパティだったが、頭上の方から殺気に近いものを感じ、
上を振り仰げば――
「ルシアさま?」
声を上げたのはクレアである。
のっしのっしと階段を下りてくるのは――銀髪の美少女、ルシア・ブレイブであった。
……もとい、銀髪の青年――ルシア・ブレイブである。彼はれっきとした『お・と・こ』だ。
「ど、どうしたのよ、ルシア。そんな顔して?」
「どうしたもこうしたもあるか!このヤロウが俺のベットの中にもぐり込んでいやがったんだよっ!!!」
パティの問いにルシアは志狼を目でさし答え、次におぞましいとでも言わんばかりに身体を震わせ、一言。
「殺す!!」
「ちょ――!!待ってって、ルシア!それはマズイだろう?」
「離せアルベルト!この不届き者には、死でもってその罪をつぐなわせなければいけないんだよ!――だから殺らせろぉ!!」
諭(さと)して――って言うより、わめき散らしてるようにしか見えないルシアの言葉など、誰も聞く耳もたない。そのままほっといたら、本気で志狼を殺りかねないからだ。
アルベルトが必死になって押さえようとする。
が。マジなルシアは山をふたつに断つほどの力があるのだ。押さえられるはずもなく……
しかし――
事件は起きた。
もみ合っているうちに、アルベルトが何故か足を滑らせ、ルシアの胸にまともにぶつかったのだ。
「きゃ」
いきなり女の子のような小さな悲鳴を上げ、ルシアは後ろに下がる。顔がちょっとだけ赤い。
(もしかして……気づかれたか?)
なんて考えつつ、ルシアはアルベルトを眺める。そのアルベルトは頭をさすりさすりしながら、やはりいぶかしげな顔してルシアを見ていた。
その視線が恥ずかしいのか、思わず目をそらし、ルシアは、
「さ、さあーって、アリサさんのおせちでも食べにいくか。な、ヘキサ」
「お?――おう!それだ!そのためにオレは来たんだからな!
このバカ!オレをのけ者にしようなんて百年早いんだよ!」
置いていかれた事に腹を立てていたヘキサは、今だピクピクしているヒロをばむばむ叩き、ルシアと一緒に奥に行ってしまった。
「さ、わたくし達も……お兄さま?どうかなさいました?」
「え?――いや……なんでもない」
自分の手を眺めていたアルベルトは、上の空でクレアに答える。
「まさかな……」
ルシアの胸をさわった感触が、異様に柔らかかったのは気のせいだろう、と、ひとりそう納得するアルベルトの横では、パティが、ヒロと志狼を今だにつついていたのだった。
 
 
「ルシアさん……ヒドすぎるんじゃないですか?」
卓につき、おせちを憮然とした表情で食べるヒロに、ルシアも憮然とした表情をして食べていた。
「なんで俺まであんなメに合わなきゃならないんだよ……
だいたい!志狼。お前がルシアさんの部屋で寝てたって事じたい変なんだよ」
ぶつぶつ文句を漏らしていたヒロが、隣の志狼を横目だけで見る。
志狼はうっ!とうめき、はしの動きを止めた。
「いや――俺もよく知ら――……」
ルシアの視線を感じ、志狼は押し黙る。
本当は「自分もなんでか知らない」って答えようとしたのだが、そんな無責任な発言を言おうものなら、ルシアの鉄拳が飛んできそうな気がして言うのをやめたのだ、志狼は。
「それよりさ、志狼」
「なんだよ?」
「どんな感じだった?」
「?何が?」
ヒロは志狼につつとイスを近づけ、そばに寄り、小さくささやいた。
「決まってるだろ?
ルシアさんと寝たこ――」
メキャッ!
無表情のままのルシアの裏拳が、ヒロを黙らせていた。
微かに悲鳴を上げた志狼は、とりあえず、話しをかえようと視線を他のみんなにやり――
「さっきから気になってたんだけどさ……
なんでケイ、女になってんのかな?」
テーブルに突っ伏していたヒロはむくりと起き上がり、
「知る訳ないだろ。でも、俺はあのカッコの方がいいなあ」
聞こえてはいないと思うが一瞬、リュウイと喋っていたケイの瞳がこちらを向いていた。
志狼は怪しまれないようにおせちにはしをつけ、ヒロの方はほおを少し赤くしながら軽く手を振って答えていた。
そのふたりにケイは眉をひそめたが、すぐにまたお喋りに戻った。
「お前、まだあきらめてなかったのか、ケイの事……」
「当たり前だ!」
力強くささやくヒロに、志狼は処置なしとでも言うように肩をすくめ、この場に足りないメンバー――特にシーラ――の事を尋ねてみた。
「そういやシーラやアレフ、それにトリーシャはどうした?いないじゃないか」
「ふっふっふ。その事なら心配ない。必ず来るよ、あとからね。
そん時になったら、あのイベントを実行する!
ケイが女になってたのは好都合だしな。あいつにも――」
不敵と言ってもいいくらいの笑みを見せ、ヒロは、思わず立ち上がっていた。
「……あ……」
全員に見つめられ、ヒロは間の抜けた声を上げていたのだった。
 
 
外でのもちつき。先ほど、十の鐘が鳴ったばかりの時間である。
気温が少しづつ上昇しはじめてはいるが、まだまだ息が白くなるくらいは寒い。
皆(みな)厚着をしている。っていうか、この寒さで薄着する人間などいる訳ないが。
騒いでいる一同のかたすみで、ヒロはあごに指をやりながら、たまに向こうの通りの方に視線をやっていた。
「どうかしたっスか?ヒロさん」
それを足元にいた犬のような生き物が尋ねてきたのだ。テディである。
「……遅いな、ってね……」
「何がっスか?」
「アレフ達の事だよ。……もしかして全部持ってくるのに苦労してるのか?」
「なんの事っス?」
「いやいや。それはあとになれば分かるって。――迎えに行こうかな?」
クシャクシャと自分を見上げるテディの頭を撫で、ヒロはひとり呟いていた。
さらに四、五分迎えに行こうかどうか迷っていたヒロの目に、三つの人影が入ってきた。
こちらを認めて走り寄ってくる少女ふたりと、でっかい包みを汗ダラダラ流しながらかついでくる青年。
白い吐息とともに一番最初にヒロのもとに来たのは、トリーシャ・フォスター。
さらに少し遅れてきたのがシーラ・シェフィールド。
「ごっめ〜ん、ヒロくん。完全に遅れたみたいだね」
「ま、こんなもんじゃないのか?」
トリーシャの言葉に、ヒロはさっきまで「遅いな」なんて言ってた事をおくびにも出さず、答えた。
「シーラ、ごめんな。こんな事頼んじゃってさ」
「ううん。気にしてないわ。それに私も着てみたかったし」
「お前〜……俺にも礼を言わんか……」
シーラに声をかけたヒロに、ようやく着いたのか、青年がぜーぜーと息を切らせ、包みを地面におろした。この街一番のナンパ師(自称)、アレフ・コールソンである。
「うん。キミにも感謝してるよアレフくん」
全然感謝の色を見せず言い放ち、ヒロは軽〜く片手で二十キロはありそうな包みを持ち上げ、みんなを見渡し一言。
「それじゃ、はじめますか。今年のメイン・イベントを!」
 
 
「え〜――進行役はこの俺、アレフ・コールソンと――」
「天才剣士(これまた自称)、ヒロ・トルースでやらせていただきます」
ワァァァァァァァァ!!!!
一斉に湧く場内――じゃなく、ジョート・ショップのダイニング・ルーム。
湧いた中に、女性陣の姿が見当たらない。
それに男性陣の中にも何人かいないような……例を上げるなら、総司とかメルクとかケイとかルシアである。
この四人に共通する事といえば――ひとつである。
すなわち――
「それではいっちばーん!シーラ・シェフィールドさんです!どうぞお入りください!」
アレフが片手でマイクを持つような感じで口元に、もう片手は隣の部屋に通じるドアに向かって振り上げていた。
オオッ!!
おどおどと入ってくるシーラに、またも湧く一同。
正確に言うと、志狼とリュウイが一番湧いた。自分の好きな少女が着物を着てキレイに着飾って出てくれば、嬉しいもんである。
結局のとここのイベントは、『ミス・エンフィールド』の正月限定バージョンとでも言うのだろうか?それも、着物を着ての、である。
あのアレフがかかえてきた包みは、中に着物が入っていたのだ。
ちなみに、このイベントの主催者は、進行役のふたりである。
「あの……その……こんな事するって聞いてなかったんだけど……」
モジモジしつつ尋ねるシーラに、アレフはあくまで進行役の口調で答えた。
「はい、その通り。一言もそんな事は言ってません」
当たり前である。
そんな事言ったら、シーラが参加してくれなくなるでないか。だからはじめる直前で教えたのである。こうすりゃ、シーラの性格上、強引に押せば断れず参加しちゃうはず。
逆に、トリーシャの方は、嬉々としてこのイベントに賛成していたが。
「はい、そこ。あんまり食い入るようにシーラを見ないように」
言いつつ、ヒロはさりげなくふたり――リュウイ、志狼の背後に移動し、後頭部にチョップをくれる。
シーラはそそとして退場し、次――
「いやあ、みなさん実にお美しい。そう思いますよね、ヒロさん?」
「そうですねぇ、アレフさん」
……時間がないため、飛ばしに飛ばしまくり、ついに最後のキャラだけになっていた。
今のとこ優勝候補は、アリサにシーラ、それにヒロの一押しとしてケイが。
しかし――
まだ真打ちが登場していない。
誰かというと――
「では最後!登場してもらいましょう!――ルシア・ブレイブさんです!」
ウオオオオオオっ!!!!
ドアから入りこんできたルシア……
それを見て湧いた男性陣の声は、今までの中で最高である。
それくらい美しかったのだ。男のくせに……
思わず女性が、その美しさに嫉妬すら忘れて見惚れるほどのものである。
「キレイねぇ、ルシアくん」
着物姿のまま、テディを抱いてちょこなんと正座していたアリサが、感嘆のため息をひとつ吐いて呟いていた。
ルシアに見とれつつもヒロが言った。
「これで……誰が優勝か決まりましたね……アレフさん」
「…………」
「アレフさん?――おい!アレフ!」
「お?おお。悪りぃ悪りぃ。
とにかく、これは問答無用でルシアが優勝だな。文句ないよな、みんな?」
進行役じゃなく、普通の喋りでアレフは全員を見渡し言った。
もちろん、全員が全員うなずく。
イヤ……その結果が気に入らない人物がひとりいた。――ルシア本人である。
その顔を見て、ヒロは何を勘違いしたのか、不用意な言葉を吐いていた。
「良かったですね、ルシアさん。優勝ですよ?
――これでまた贈り物の山が!しかも、男からの!」
アホである。
ヒロが。
ルシアは一度大きく息を吐き、感情を抑えたような口調で、
「ヒロ?
そう言えば、俺からお前にプレゼントがあるんだけど――目を閉じてくれないか?」
「ええ!?」
ドギマギしつつも、素直に目を閉じるヒロの胸中は期待でいっぱいだった。
(も、もしかして……)
「正月だろ?……だから、お年玉だよ……、たくさんもらってくれ」
ルシアの唇から漏れたその言葉に、ヒロが不審がるより早く――
 
 
『我は願う――
異界の扉我が手にかえ
闇色の龍をこの世に召喚せし事を
我は望む――
すべてを滅ぼせし破壊の力
その衝撃の波動を撒き散らせし事を!』
 
 
この詠唱は――闇系最強の攻撃魔法。
詠唱どおり異界から龍を召喚し、超広範囲の衝撃波を放たせるという……かなり迷惑な魔法である。昔、魔術王と言われたタナトスがこの魔法の制御に失敗し、国の半分を一瞬でチリに変えてしまったという話しもある。タナトスの禁呪のひとつに上げられる魔法だ。
それを今ルシアが、ヒロひとりに使おうとしているのだ。
制御に失敗しなくても、エンフィールドはおろか、この国じたいが消滅の危々だ。
「カオス・フレアっ!!!」
「えええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」
ドガシャンッ!!!!!!
……やってしまった。
ヒロだけが吹っ飛んでいっただけですんだが。
さすがルシアである。
ちゃんと対個人ようにコントロールしていたようである。
問題は、人型の穴があいている一階と二階の天井――それに屋根の修理くらいか……
「あ〜あ。ヒロちゃんいつくらいに帰ってくるのかなぁ」
あいた穴から空を見上げ、つまらなそうに呟いた、まるにゃんの一言であった。
 
 
 
<あとがき>
 
久々の三人称。
なーんか一人称より楽ですねぇ。
やっぱ僕は、こっちの方が性(しょう)に合ってるみたいです。
今回、リカルドさんが出せなかったのが心残りかな。カッセルさんですら、一言だけ喋ってるし。
あと、クレアの喋り方がイマイチ分からなかった事も……
オチはどうでしょうか?
こんなものだと思います?それとも全然ダメとか?
正月らしく――って、あんま正月なんて関係なかった気もしますけど、このSSをほんのちょっぴしでも気にいってくれればさいわいです。
 
スペシャル・サンクスで〜す。
龍威さん(リュウイ)、cillyさん(フィール)、坂下さん、こんな駄作の掲載なんかしてくれて――してくれるのだろうか?――ありがとうございまーす。
あとは……数が多いので名前だけで。
まるにゃん、ゆーきさん、しゅうさん(シュウゴ)、藤井さん、圭さん(ケイ)、総司さん、
神堂さん(メルク)、ロディさん、タカヒロさん(アヤセ)、そして心伝さん(志狼)。
……これで全部ですよね?
もし入れてなかったら……ものスゴく失礼な事ですよね……
とにかく感謝です、みなさん。
もちろん、読んでくれた方達にも感謝感謝です。
――んでわ、このへんで。


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