Hand Top・リオ～人形達の賛歌①

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「Hand Top・リオ～人形達の賛歌①」 春河一穂　 (MAIL)
悠久組曲　All Star Project Ansolosies

『ハンドトップ・リオ』

～人形達の賛歌～

　　　　邂逅編

沿域区立悠久学園。
今日も今日とて生徒達の声が騒々しく響き渡る、巨大学園である。

　ここは、実習棟にある、第３電算室。
サーバーやワークステーション、それに直結したパソコンなどが多数あるのだが、
この教室が授業で利用されることは全く無く、
コンピュータ研究部とメカトロ研究部の専用部室となっていたのである。

　２０台ほどのパソコンはほとんどが個人所有物的扱いになっている。
私物のハブやら周辺機器がごちゃごちゃと学園備品に組み込まれているわけだ。

しかし、おおらかな理事会の方針によってこれらは黙認されていたのである。

学園のハイテク志向な生徒達の間で最近ブームなのが、フィスターエレクトロニクス社の
超小型自作アンドロイドキット『ハンドトップ・ドール』である。

基本的な部品の組み込まれた粗体ユニットに、ニューロチップや思考アルゴリズム、人格、
粗体調制などを施して、自分だけのニューロＡＩ搭載アンドロイドを作れるという、ある意味
究極のホビーであった。

勿論、人格とニューロチップ、アルゴリズムによって色々な事をさせることが出来る。
ドール同士の格闘バトルや、日常雑務、コンピュータ処理の受け入れなど・・・・・
使用者（オーナー）次第で何でも出来るのである。

けたたましくコンピュータのキーボードのキーが叩かれる。
タワー筐体からケーブルが机の上へ数本伸びている。
ケーブルの先は、ハーフキーボードの大きさほどあるカプセルに接続されていた。
そのカプセルの中には、小さな人形が浮いている。

「まず・・・・基本思考モジュールの転送・・・・・男の子型の、アニマ・セブンでよかったっけ。」

ドール作りをしているのはゆんであった。リオそっくりのドールを作ろうとしているのである。

「リオちゃんなら、女性的感情（アニマ）比率の高いモジュールをお使いになられればいかがでしょう。
アニマ・エイトがいいと思いますわ。」
「アニマ・エイトね・・・・？」

外付けのドライブに、アニマ・エイトのモジュールが収められた光ディスクを挿入する。

「では、アニマ・エイトを読み込むね。で、基本動作モジュールはあたしのカスタムをのせて・・・・」

アクセスランプのイルミネーションが忙しく明滅する。コンピュータ、そして、カプセル・・・・・・

「えっと、リオちゃんのジーンマップとニューロマップを組み込んで下さいませ。」

セリーシャが横で指示してくれている。

濃紺に輝くＲディスクを２枚ドライブに挿入する。読み込みを示すバーがゆっくりと右端を目指して動き始める。

「マップの書き込みは直接ニューロを操作しますから、最悪、失敗した場合はニューロが使用不能となってしまいますわ。
お気をつけて・・・・・」

　ちなみに、ハンドトップドールは、本来なら、ジーンマップは不要であり、ニューロも、システムユーティリティの
質問に回答することにより、それぞれのオーナーが理想とする好みの性格が自動的に生成されるのである。
しかし、特定の個人を模したドールの組立ての場合、その個人に完全にあわせるために、精密な性格情報が
必要となるのである。

　しかも、この性格情報の書き込みは、ニューロを破壊しかねない、非常にリスキーな作業である。
専用の知識、専用の機材、そして、オリジナルの人間の細胞、解析のための多くの時間が必要となる。

「セリーシャちゃん、これで全ての作業は終了かな？」

動いていくバーが表示されたモニターを見つめながら、ゆんが言う。

「ええ。あとはオーナーライゼーションだけですわ。」

オーナーライゼーションとは、ドールにそのオーナーを認識させる作業である。
ただし、起動時に周囲にオーナーとなる人物以外の人間がいると誤認識するので、
オーナーライゼーションは一人で行うことが大事だ。

心配そうに見つめるセリーシャに、少し離れてもらい、オーナーライゼーションの作業にはいる。
ドールビルドカプセルがゆっくり開くと、紫色の髪の・・・・・リオ・バクスターうり二つの人形が現れた。
人形が素っ裸であったため、おもわずゆんは赤面する。
人形の頭部に小さなヘッドセットを組み込み、ゆん自身もシンクロ用のヘッドセットを装着する。

「じゃ・・・・・はじめるよ。」

　コンピュータに最終設定ユーティリティが呼び出された。
高速インターフェイスを介して最終的なニューロの調整が行われる。

イイイイイイイイン・・・・・・・・・・・・・

小さなファンの音が響きだした。
閉じられたドールの瞳がゆっくりとゆんの目の前で開かれていく・・・・・・

『あなたがボクのマスターですね？』

聞き慣れた声でドールが問いかける。

（はい。）

ゆんが心の中で答える。

『あなたがマスターであることを確認しました。マスターのことを色々教えて下さい。
マスターの頭で考えると、それがボクに入力されます。』

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『春河ゆん。１５歳、悠久学園高等部１年Ｃ組在籍・・・・・』

とヘッドセットに直接音声が聞こえた。

『以上で間違いはありませんか？』

（はい。）

『オーナー認識及び情報の設定が済みました。これからもボクのことを
よろしくお願いします。再起動後、人格により行動します。』

一旦がくっと崩れ落ちるリオ人形だったが、すぐに瞳に輝きが戻る。
ヘッドセットが自動的に外れる。

「えっと・・・・これを着せておかないと・・・・・」

あらかじめ準備しておいた、リオの悠久２コスチュームのドールサイズを着せて、
ようやく全てが終了である。

「セリーシャちゃん、ＯＫだよ！！パーツの提供から、何から何までやってくれてありがとうね。
・・・・・・・そう言えば、セリーシャちゃんもドール組んでいたらしいけど・・・・・？」
「ええ・・・・お父様から試作の粗体を頂いたので・・・・思わず・・・・組み上げてしまいましたわぁ！！」

といいながら、さっとセリーシャが差し出したドール、それは・・・・・・・

『あ・・・・・おおきいあたし・・・・・・』

「・・・・・・・・・・・これ・・・・・・・・・・ひょっとして？」
「そう、ドールゆんちゃんですわ～！！！！」

（ああ・・・・やっぱりそう来るか？）

がっくりと崩れるゆんの目の前にぴょこりと現れたうり二つの存在。
それはセリーシャのドール、『ゆん人形』だった。
本人の髪の毛から抽出された遺伝子情報から展開されたジーンマップを搭載。
ボケやツッコミならびに、マナコントロールによる極小規模の魔法使用可能などの
新機軸が盛り込まれているらしい。勿論、魔導士協会認定品（笑）

『ということで、春河ゆんで～す。よろしくねっ！！』
「って、あたしが当の本人なんですが・・・・・？」

教訓、ドールの名前はオリジナルの人物と混同しないようにすこしひねっておきましょう（笑）。

「まさかあたしの髪の毛で作っていたなんて・・・・・」

それから「ドールゆん」のメンテを軽く済ませたセリーシャと、ゆんは色々と話をしていた。
その前ではドールゆんとドールリオがラブラブモードに突入している。

「私にとって、ゆんちゃんはいちばん大事な存在ですから、」
「でもさ、完全に実在する人物そっくりに仕上げてるのって、あたし達だけだよね？」

　実際、コン研とメカトロ研でもドールは広く普及していたが、そのほとんどが人格システム等の
自動生成で作成されたものである。ここまで時間と手間はかけていないのである。

「では、寮のお部屋の方にメンテ用の機器をお持ちしますね。」

にっこりと微笑みながらセリーシャが言った。

翌日の第３電算室、放課後にはかなりの人だかりが出来ていた。

　人形のオーナー達が、自慢の人形を持ち寄って、戦わせたり、芸をさせたりと自慢するのである。
自動生成の基本人格を学習や改良によって成長させれば、世界に一つの個性的な人形達がうまれる。

『る～ん、ばれっとぉ！！！』

前に突きだした小さな両手から、２センチほどの小さな火球が現れて、３０センチほど前のターゲットを
ぽんと一気に焦がした。

「さすがはセリーシャさん。ここまであのゆんさんを再現できるなんて、凄いよ。」
「魔力制御システムは自前で開発してるって言ったけど、魔力の制御体系ってどうやってるの？」
「魔力エネルギーはリンクケーブルをアンテナ代わりにして抽出していますわ・・・・・・」

魔法の使える唯一の人形と言うことで、セリーシャとドールゆんの周りは多くの生徒達でごった返している。
それを横目に、ゆんは自分の愛玩用人形のドールリオを教育している。

「あ・・・・それ、中等部のリオ君じゃない？すっごく可愛い～！！」
「そのサイズと言うことは、女性体粗体を改良して男の子に仕立て上げたんですね？」

教育中のゆんの周りにも人だかりが出来た。

「ちょっと道をあけて下さいませんか・・・・・？」

ギャラリーをかきわけてセリーシャが戻ってきた。

「悪いですけど、ゆんちゃんの人形は昨日始動させたばっかりだから、臆病になっていますの。
ギャラリーの皆さんはなるべくお近づきになりません様、お願いいたしますわ。」

セリーシャがドールリオを気遣って人払いをしてくれた。

その向こうでは、トリーシャとルーティが、自分を模したドールで対戦を開始する。
ちょこちょこと走り回り、小さなサイズのチョップ棒とハンマーでぴこぴこやり合うのである。

「ねぇ・・・・セリーシャちゃん、ひょっとしたら、この人形って悪用されるんじゃないのかなぁ。
好戦的な性格に、そこそこの出力に改良した戦闘プログラムを載せれば、下手な武器よりも
怖いと思うけど・・・・・」

それを横目に、ゆんがセリーシャに言う。

「そうですわね・・・・・現状では、市販品粗体は処理能力を強制的に低下させてありますから、
心配はいりませんわ。性格モジュールの部品も暗号化を多重に施してありますし。」

大丈夫と言うセリーシャだったが、ゆんは何か胸騒ぎがしてならなかったのである。

コンコン

「お入りなさい。」

教員会館のとある教師の部屋に、突如現れた訪問者。

「お約束の人形をお持ちしやしたぜ、旦那。
フィスターのドール試作品の粗体をベースに、新設計された、最高の戦闘人形ですぜ。」

ロットナンバーのみが記されたカプセルから見えるのは、少女タイプの人形だった。
両側面で金色の髪を紫色の紐リボンでまとめてあり、開かれた瞳は機械のように生気を感じなかった。

「私の要求通りのスペックは満たされているのでしょうか？出来の悪い木偶の坊じゃだめですよ。」

「フィスターの技術を元に、ショートが熟成させた戦闘人形それがこいつだ。
ショートもあんなガキをモデルにこんな人形を開発させるとは驚きですぜ。」

「魔法兵器としてのスペックなどは既に確認済みですよ。いい物を持ってきて下さいましたね。」

そのカプセルを受け取る黒づくめの男の姿。

「これでこの学園に一騒動起こせそうですね。いやぁ、面白くなりそうですなぁ・・・・・」

純白の仮面の奧、その男は密かに微笑んだがその微笑みを知る者はなかった。

ハメット・ヴァロリィ、大いなる野望の幕開けであった。

＜続く＞

ハメットが手に入れた、バトルドールが学園に恐怖を呼び込む！！
それに太刀打ちできるのは同スペックを誇るあの人形だけ！！
悠久学園の平和は守られるのか？

セリーシャが、ゆんが、そしてリオが立ち上がる！！
風雲急の次回を、待て！！

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