Hand Top・リオ～人形達の賛歌②

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「Hand Top・リオ～人形達の賛歌②」 春河一穂　(MAIL)
悠久組曲　All Star Project Ansolosies

『ハンドトップ・リオ』

～人形達の賛歌～

　　　　２：熱闘編

沿域区立悠久学園。
今日も今日とて生徒達の声が騒々しく響き渡る、巨大学園である。

学園で流行しているのは、人形と呼ばれる超小型ニューロＡＩ搭載アンドロイド。
あまり機能を追求さえしなければ、数千ゴールドで機材と粗体が揃うので、
ハイテクホビーとして学園内でブレイクしていた。

それに目を付けた、生物教師ハメット・ヴァロリーは、フィスター研究所から、
研究用の粗体を盗難させ、ショート財閥の力によって戦闘用に改良、そしてついに、
魔力を人間並みに発揮できる、ある意味恐ろしい能力を持った戦闘人形が生まれた。
その姿は敬愛するモーリス理事長の愛娘の姿をしていたという・・・・・。

「お嬢様・・・・・マリアお嬢様？」

生徒会役員室。空調が程良く利いた部屋で、冷たいドリンクを片手に和みまくっていた
マリアに、彼女を呼ぶ声が聞こえてきた。

「誰？その声はハメット先生ね。」

「ハメットと・・・・・お呼び下さい。今のわたくしは一教師では無く、モーリス様の僕でありますから。」

すっと黒づくめの服に身を包んだハメットが、マリアの目の前に現れた。

「今日はマリアお嬢様へ、お人形をお届けに来たのでございますです。」

ゆっくりとマリアの前でカプセルが開かれ、起動準備が始まる。

「このお人形は魔法が使えるのでございますですよ。さらに、人工知能を搭載しているので、
自分単独で状況を把握、的確に行動できる最新鋭のアンドロイドなのでございます。
このお人形も、ショート財閥工学研究所にて開発されたプロトタイプなのでございますですよ。」

「あ・・・・マリアにそっくりだ・・・・・」

「ええ、モーリス様が、是非、マリアお嬢様のお姿、思考パターンでとおっしゃられたものですから・・・・」

フイイイイイイイイイン・・・・・・・

静音のモーターが回りだす。
人間並みの魔力を、その数割の大きさで扱える様にするために、強力な冷却システムが搭載されて
いたのである。システム非搭載ならば、間違いなく暴走を起こしているだろう。

のっぺりとしていた瞳に輝きがうまれた。次第に輝きを増していく・・・・・。

そして、その人形は、己のオリジナルである少女、マリアをマスターと認めた。

『これからも、よろしくねっ、マスター☆』

そして悠久学園は風雲急を告げることになる。

薔薇湖岸で、マリアはドールマリアの実力を試すために魔法を使わせてみることにした。

「ルーンバレットぐらいは出来るよね？だってあなたはマリアなんだもん！！」

『うん、楽勝！！マリアにおまかせっ！！』

そういうと、ドールマリアは湖に向かって両手をかざした。

フィイイイイイイイイイイイイイイイン！！！！！

さらにファンの回転数が上がる。

ドールマリアの足元には反動から自身を護るアンカーロックが現れ、支えている。

その回りには、白い気流が渦巻きはじめ、差し出された両手のひらの先には魔力が次第に
収束を始めていた。その大きさは、ドールマリア自身の数倍である。

『必ず殺すと書いて、必殺魔法～！！』

　プラズマがドールマリアの回りで渦巻くまでになっていた。
凄い・・・・・・本能的にマリアは感づいていた。

『ルーン、バレットぉ！！！』

収束していた高エネルギー弾が一気に放たれる。
エネルギー弾は水面ぎりぎりを水蒸気を上げながら突き進んだ後、一気に宙へ向けて
急上昇を始め、天高く消えていった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・凄い・・・・・・」

思わずマリアがつぶやく。マリアにも魔法の制御力があればここまで使いこなせるのだろうか・・・・・
つい、そう考えてしまう。

『てへっ、マリア、ナンバーワンっ☆』

その手の中には、決めポーズを決めるドールマリアの笑顔があった。

「人形のマリアがいてくれれば天下無敵だね！！」

鼻歌混じりで自宅へと上機嫌で帰るマリアだったが、ドールマリア・プロトタイプには
実はある驚く機能が内蔵されていたのである。

ショート財閥はこのハメットからの報告を受け、この粗体の量産化を開始するのである。
フィスターの後発品とあって、簡単に設定できることと、機能の割に安価なことが受け、
数週間後には悠久学園でドール勢力を２分化するまでになっていた。

どっごぉおおおおん・・・・・・・・

実習棟の方から爆煙が上がる。

「マリア、待ちなさいぃいいいいいいっ！！」

「マリア、悪くないもぉ～ん！！！！！」

逃げるマリアに追う教師、悠久学園の日常的な風景である。

「ドールマリア、先生を止めちゃえっ！！」

走りながらドールマリアへささやきかける。

『マスター、解ったよっ、ドールマリアにお任せっ！！』

シュイイイイイイン・・・・・・・・・・・・・・

マリアの胸元で、ドールマリアが腕を構える。
体内に内蔵された冷却ファンの回転がさらに加速し、腕のヒートシンクが展開する。
マリアの体から供給されるわずかな魔力を数十倍に増幅して作用させるのである。

『目標・・・・追いかけてくる先生。いっけぇえ、「タイムズ・ウィスパー」！！！！』

ドールマリアから放出された光の軌跡は、一気に方向を変えて背後の教師へと命中する。

「これで・・・・・逃げられると・・・・思う・・・・な・・・・」

教師の動きは完全に封じられ、マリアは何とか逃げ延びることが出来たのだった。

「まったく、ドールマリアって最高じゃんっ！！」
『マリア、ナンバーワンっ！！』

このコンビは天下無敵かも知れない・・・・・ある意味合い・・・・。

ショート研究所規格のドールの対戦は、自主的に屋外などで行われるようになった。
ドールマリアのポテンシャルが広く知れわたったためである。

フイイイイイイイイイイイン・・・・・

涼しくなったグラウンドに特設のフィールドが設営され、甲高い空冷ファンの音が響く。

「ふっふっふ・・・・わらわに挑戦しようだなんて数十年早いわ。返り討ちにしてくれよう！！」

ドール・プリンセスＬのマスター、レミット・フェル・エル・マリエーナ２３世が言う。

「レミットさんはハッキリ言って自意識過剰です。わたくしがその根性を直してあげます！」

片や、シェリルがドールシェリルとミニファランクスを携え、レミットをきっとにらむ。

両方ともショート規格のドールであるが、シェリルは自ら出力リミッターと暴走保護装置を施していた。

「んじゃ、双方準備はいいか？審判はこの俺アルベルトが引き受ける。」

領域にそれぞれのドールを置く。マスターはヘッドセットを装着し、開始の合図を待った。

「開始ッ！！」

アルベルトの声と共にホーンが鳴らされ、取り巻きの観衆と化した生徒達が声援を送る。

『クロノス・ハート！！』

ドールレミットの速度が飛躍的に高まる。

「アイススピアー・バスターの発射準備！！３・・・・２・・・・１・・・・・」

甲高いファンの音が大きくなる。ミニファランクスに搭乗したドールシェリルが瞬時に軌道計算をやってのける。

『発射！！』

ドウウウウッ！！！

小爆発クラスの爆風がフィールドを走る。
それは一気にドールレミットを捉えた。
真っ白の水蒸気が領域中央に立ちこめる。

『ドールレミットに着弾しました。ダメージは不明。現在調査中です。
ミニファランクスの主砲システム、エネルギーゼロにつき停止します。再充填完了には３０秒必要です。』

ドールシェリルはミニファランクスの再充填にかかった。
しかし、レミットもレミットだった。

「あれしきの攻撃で負けるようなわらわではないっ！！」
「！！」

水蒸気が消え去った後にはドールレミットが立っていた。ほとんど無傷で。

「おおうっ、信じられない強度だ！！ドール殺しのファランクスという異名を持ってるシェリルの攻撃を防いだとは！！」

アルベルトの実況にも妙に熱が入っている。

「だがしかし、シェリルのファランクスは屈辱のインターバル中だ。レミット、どう出るか・・・・・・？」

キイイイイイイイイイイイン・・・・・

ドールレミットのファンが臨界域まで回転を上げた。
足元に実体化したのは、強力な出力反動からボディを守るフットアンカーである。
ドールマリアのアンカーロックを強化した物だといえば解るだろう。

「なら・・・・・引導を渡してくれよう・・・・・・」

レミットが腕を構えると次第に魔力が収束し、大きくなってくるのが解る。
通常の詠唱魔法並の規模に魔力が増幅され、プラズマが輝いていた。

「全エネルギーをもってそなたを倒してやる。ありがたく思え！！
荷電粒子砲スタンバイっ！！」

ちょっと違う気がするが・・・・・・・・

「ドールシェリル、量子拡散シールド展開っ。」
『シールド展開します。ファランクス砲１発分のエネルギーは温存されます。』
「滅せよ！！」

ゴウウウウウウウウウウウウウウン・・・・・・・・・

閃光に領域が包まれた。観戦の生徒達はあまりのまぶしさに目を覆う。

「フッ！！」

レイヴンにも似たその憎たらしい笑いでレミットはシェリルを睨んだ。

「決まったぁ！！ドールレミット最終奥義、ジェノバスター！！ドール瞬殺の最終兵器が炸裂だぁ！！」

アルベルトの実況も熱がこもっている。観客と化した生徒達も見守る。

「レミットこそ・・・・・甘いですわ！！」

閃光の中に輝く、ポリゴン状の正８面体の光・・・・

「シールドだ！！対ジェノバスター用シールドを搭載しているとは恐るべし！！」

わぁっと歓声が上がる。

「それよりも・・・・・・残りのバッテリーは大丈夫？」

シェリルが言う。と共に、アラーム音が響き渡る

『バッテリー残量がありません。人工知能システム保護のため、機能を停止します。
直ちに急速充電を行って下さい・・・・・。』

警告と同時にドールレミットの瞳から輝きが失せ、その場に崩れ落ちた。

荷電粒子砲はとにかくバカのようにエネルギーを喰うので使用する場合は予備電源を用意しなくては
ならないのであった。

「それまで！！４分３０秒、レミット、バッテリー切れによる機能停止。勝者、シェリル！！！」

終了のホーンが鳴らされる。

わっとわき起こる歓声にグラウンドは包まれた。
そんな生徒達から離れた場所から、黒づくめの男達がいそいそと立ち去っていった。

ショート科学研究所の会議室・・・・・・。

「報告いたします。我が研究所謹製の量産ドールはかなり浸透しております・・・・・・
ただ・・・・・・・」
「ただ・・・・何だね？」
「フィスターの人工知能システムが未だ解析できておらず、現状では複雑な思考および会話が不可能
となっています。」
「・・・・で、どうするつもりかね？」

モーリスの声が少し強ばる。

「勿論、奪うのです。情報に寄りますと、フィスターの娘が所持するドールは実験機らしく、まだ市販品には
未採用のテクノロジーが数多く、検証用に搭載されているとのこと。
徹底的に分解して調査すれば軍需用途にも利用の可能な最高のドールが作成できるでしょう・・・・・。
そのために、マリア様のドールには、我が研究所の量産ドールを遠隔制御出来るシステムが搭載されて
いるのです・・・・・、はい。」

ハメットが力説する。
ドールゆんを奪い、解析することで、さらに人工知能を向上させたドールを生産し、軍需用に転換するという
恐るべき計画が始まろうとしていた。
モーリスを洗脳し、私利私欲の鬼に仕立てあげ、それを利用する。
これが、ハメットの裏の顔であった。

「よかろう・・・・・・君に一任しよう、ハメット。」

そしてその夜、全ては始まった。

＜続く＞

いよいよ、本題である、ドールゆんの解析作戦が決行となる。
広く普及させたショート研規格のドールは作戦の実働部隊としての
布石であった。
その司令塔となるドールマリアがその仮面を取り払ったとき、
全ては始まるのだ・・・・・。

次回「強奪編」

今回、全然風雲急でなかったなぁ（笑）

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