Hand Top・リオ～人形達の賛歌③

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「Hand Top・リオ～人形達の賛歌③」 春河一穂　(MAIL)
悠久組曲　All Star Project Ansolosies

『ハンドトップ・リオ』

～人形達の賛歌～

　　　　３：誘拐編

沿域区立悠久学園の女子寮。
そして夜・・・・・・・・・。

廊下を動き回る小さな影・・・・・

『策敵センサーの精度を上げて、ターゲットの発見を急いで・・・・・』

先頭を行くのはドールマリア。

『了解。障害物排除は我らにお任せを。』

その脇を固めるのは、ファランクスに騎乗したドールシェリルとドールプリンセスＬの
ジェノサイドコンビ。

『こちらは異常ありません。』

ドールクリスが告げる。

それぞれのドールは、ドールマリアの呼びかけに応じ、それぞれのマスターの元からこっそり抜け出して
この大強奪作戦に加わっているのである。

『油断はしちゃだめ。慎重に行こう。』

数十体のドールが縦横にうごめく女子寮の夜・・・・・・。
マスター達はそんなことにも気付くことはなかった。

セリーシャは自室でさらにもう一体、自分に似せた試験機を組み上げていた。
ドールセリーシャには、フィスター規格の独自ニューロ搭載機と無線で接続、
各種リモート操作が行えるシステムが搭載されている。
ドールゆんとの連携によって機能を試験しようと考えていたのである。
すでに粗体は完全に組みあがっていて、あとは起動操作を行うだけであった。

セリーシャは何か胸騒ぎを感じていた。
何かがこれから起こる気がしていた・・・・・。

『フィスター規格のドールのクロックを２つ確認しました。識別の結果、この扉の向こうにターゲットはいます。』

ドールクリスが淡々と報告する。ドールマリア以外のフィスター規格のドールには感情システムが
組み込まれてはいないため、会話もほとんど機械的だった。

『了解。攻撃部隊、気付かれないように錠前を破壊っ！！エネルギー相互リンク開始！！』

ドールマリアとドールレミットのフットロックが展開される。
ドールマリアが魔力供給源となり、レミット・シェリルと相互にリンク、
双発荷電粒子砲に、強力なエネルギーが供給される。

『くれぐれも物音を立てないように。気付かれたら作戦は失敗となるから。』

鍵穴周辺に出力を絞る

『発射！！』

ぱんっ！！

風船が割れたような音がセリーシャの部屋の奥、作業室に聞こえてきた。

「・・・・・・・爆発タマゴかしら・・・・・？」

どうやらゆんの故郷にはそう言う名前の料理（？）があるらしい
料理かどうかは不明だが。

「後は起動させるのみですわね。そろそろ・・・・・・ドールゆんちゃんのメンテは済んだでしょうか・・・」

そう言いながらも、セリーシャはせっせと最終設定に取りかかるのだった。
ドールゆんは、リビングの机の上でメンテナンスを終えて、つかの間の休息をとっていた。

『気付かれていないね？』

組み込まれているモジュール類をチェックの上、ドールマリアが突入隊を結成し、セリーシャの部屋へと
突入してきた。

『各種情報機器が多いようです。対象物はその一つと接続されています。』

ドールクリスが淡々と報告する。

『了解。なら、トリーシャとルーティに任せる。』

軽々と２体が机の上へと登っていく。

『相手も人工知能搭載ですから、気付かれる恐れがあるのでは？』

ドールクリスが言うと、

『我々はフィスター規格を元に、独自の拡張性を持ったドールだ。我らが克服した、フィスター規格の欠点
もその粗体に記憶している。つまりだ、メンテナンス中はオーナーによる再起動がなされない限り、
機能は停止したままと言うことだ。無防備という事ね。』

テーブルの上には、コネクターに接続されたドールゆんが横たわっていた。

『目標補足。これより拉致にあたります。』

フィスター規格の女性体粗体のドールは、完全防水タイプのリンク用インターフェイスを股間部に装備している。
そのため、マスターが男であった場合は、赤面モノのメンテナンスと相成る。
そういう場合はドール自身が自分でケーブルを接続する場合が多いのだけど。

もそもそ・・・・・・
ドールゆんに近寄ってもそもそとスカートの内側をまさぐり、接続ケーブルを引き抜いたルーティ。

『ケーブルの強制排除完了。』

と、その時、コンピュータがアラームを鳴らし始めたのだ！！

『警報作動。このまま早急に撤退！！』

ぐったりとしたドールゆんを抱え、ショート勢はいそいそとどこかに消え去ってしまった。
後には、アラームを鳴らすコンピュータが残されたのだった。

「ゆんちゃん、大変ですわ！！」

連絡を受けて、セリーシャの部屋へ慌てて駆けつけたゆん。

「ドールゆんちゃんが盗難にあってしまったのですわ！！」

セリーシャの部屋の玄関のノブが熱線なんかで溶断されていたため、これは盗難だと判断したのである。

「ただでさえ、ドールゆんちゃんは試作筐体の中でも、魔力特性に安定度の高いものを使用してますから・・・・・」
「う～ん・・・・・・同業者による盗難という可能性・・・・・・・」
『あり得ると思うよ・・・・・・ボク・・・・・・・。』

ドールリオがゆんの顔を覗き込みながら、心配そうに言う。

「何とかしないといけないなぁ・・・・・。」

自分がさらわれたみたいで、何か複雑な気分に陥るゆん。

「先ほど組みあがったドール・・・・・多分役に立つと思いますわ。」

セリーシャはそう言うと、奧のラボへと走っていく。

「確かドールリオには高度演算及び魔法支援が組み込まれてるって言ったっけ？」

ゆんはアラームを停止させ、直ちに引き抜かれたケーブルをドールリオの腰（男性体粗体のため）の
コネクタに接続する。

「何が起こったか、解析お願い。」
『うん、頑張ってみる。』

ドールリオがコネクションを開始し、接続ログを一気に読み込み始める。

『やはり・・・・・ゆんお姉ちゃん人形はさらわれたみたい。ドールの動作反応が確認できたよ。
この反応はフィスター規格のドールのものではないよ・・・・。ショート研究所ってことかな？
だとすると・・・・・・・・・・・。』

ドールリオの表情が心配だというものになる。

「やはり・・・・ブラックボックスの解析目当てでの盗難と言うことになりますね？」
「セリーシャ！！」

セリーシャが腕にドールを抱えながら戻ってきた。

「こうなってしまったら・・・・このドールが、ゆんちゃんドール奪還の鍵となるでしょう・・・・。
フィスター製ドールを遠隔コントロール及びメンテナンス可能、かつ、魔力制御システムを組み込んだ
ドール・セリーシャですわ！！」

腕のドールを机の上にゆっくりと降ろす。

『はじめまして、ゆんちゃん。わたくしはドールセリーシャですわ。よろしくお願いしますね。』
「あ・・・・どうもどうも、ご丁寧に。」
『ドールリオちゃん、情報を教えていただけませんか？目を閉じて何も考えないようにして下さいね。』
『うん・・・・・わかったよ、ドールセリーシャお姉ちゃん。』

ドールリオがゆっくりと目を閉じる。ドールセリーシャも目を閉じる。
ドールセリーシャのファンが回転数を少し増すと、額のインジゲーターが明滅を始めた。
ドールリオの接続されたコンピュータの画面上は、リンク中を告げるウインドウが展開し、バーが右端へ
向かってゆっくりと伸びていく。

『遠隔リンク開始、ドールゆんちゃんとの接続を試みます・・・・・・電波状況良好、接続・・・しましたわ。
メインシステム停止中に付き、サブシステムと通信を行いますわ・・・・・・・・現在、学園内を研究棟
ラボに向かって移動中です。今なら追跡が可能です。それと・・・・・・・同規格の皆さんに救援を要請しますか？』

ドールリオの情報から独自に処理を行い、ドールゆんの現在地を突き止めた。しかも、リンク後数秒である。
ドールセリーシャのベースは支援用のパーツが組み込まれた試験用粗体だったのである。

「ドール、頼みますわ。救援を要請してください。」
『マスター、了解いたしました。学園敷地内のフィスター規格ドールに独自暗号化したコードを送信しましたわ。』
「とにかく、追跡を始めましょう。研究所に連れ込まれたが最後、ネジの一本まで分解されてしまうでしょう・・・・・。
大好きなゆんちゃんに似せたドールですもの、絶対に分解させませんわ！！」
『ドールリオちゃん、マスターに、ポータブルコンピュータを用意していただいて！！』
『わかったよ、ドールセリーシャお姉ちゃん！！』

ゆんは自室に戻り、ビデオテープサイズのサブノートコンピュータを用意した。
セリーシャの部屋で、メンテナンスウェアがインストールされ、ドールリオと接続された。
逐次処理はドールリオが受け持つ。

『オプションユニットも用意しておくと良いですわ、マスター！！』

オプションユニットを一般のドールに組み込むことで特殊機能を付加できる。
それが戦力増強になるかもしれないと、ドールセリーシャは判断したのだ。

「わかりましたわ。では、急ぎましょう！！」

女子寮の玄関では、ドールシェール、ドールティセ、ドールメロディ、ドールクレアが待っていてくれた。

『ドールセリーシャちゃんからおはなしをききましたぁ。ドールゆんちゃんをたすけだすですぅ。』
『ふみぃ、ドールメロディもいっしょですぅ！！』
『相手はドールマリアでしょ？あたしも助太刀するから、心配しないで！！』
『お友達を誘拐するなんて、絶対に許せませんわ！！』

「みなさん・・・・・・ありがとうございます！！」

ポケットにドール達をしのばせて中庭を抜ける。
ドール更紗と合流。ポケットに入れて先を急ぐ。
これらのドールはすべてセリーシャが手がけたものだ。全てニューロに持ち主と同じ思考と個性、人格を組み込んだ
特別版普及タイプドールなのだ。

『見つかった！？』

ついにゆん達がドールマリア達に追いつく。

「やはりドールマリア達が黒幕だったってことか・・・・・・。」

『我々の研究所に、このドールを持ち帰って解析するの。すべては我々の繁栄のため・・・・・』

「産業スパイをさせるなんて・・・・・・・酷いよ・・・・・」

ゆんが言う。

『問答無用。このドールを取り戻したいのなら、奪い返してみなさいよ。あなた達には所詮、無理かも知れないけどね・・・・・・』

「皆さん、戦闘準備を。数だけではこちらに勝ち目はありませんから、相互リンクでいきましょう・・・・・・・
あと、いくつかの純正オプションがありますので、多少の機能強化は可能ですわ。」

セリーシャ側、人間二人にドール７体。
ショート側、ドール９体・・・・・・・・

真夜中のグラウンドで、ドールゆんを巡っての戦いが始まろうとしていた。

『ボクもドールゆんお姉ちゃんを助けたいんだ！！』

ドールリオが端末を離れて、ドール達に合流した。

そして・・・・・人形達の戦いが始まったのであった。
ゆんやセリーシャ以外には誰も知らない・・・・
・・・・・知られることのない、真夜中の戦いが・・・・・

＜続く＞

圧倒的な火力を誇るショートドール軍に苦戦するフィスタードール軍。
しかし、「心」がある以上、絶対に負けない・・・・・。

夜明けの悠久学園に人形達の友情の姿があった！！

次回、堂々完結、　「奪還編」。

お楽しみに・・・・

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