中央改札 悠久鉄道 交響曲

「M・M・R沿域練習曲1〜マリアとファンブル〜」 春河一穂  (MAIL)
悠久幻想曲アンソロジー

M・M・R 沿域練習曲
(マジック・マジック・レヴォリューション
 エンフィールド・バイエル)

レッスン1:マリアとファンブル〜魅惑の魔法鍛錬ゲーム〜

春河一穂

ちゅど〜ん・・・・・・・・
ごごごご・・・・・・・・・

たったったったった・・・・・・・

足音が次第に大きくなる。廊下を走ってくるのはマリア。逃げているように見える。
すると先ほどの爆発の元凶はきっとマリアなのだろう。

「マリア、待つんだ!!」

そう言いながら追いかけてくるのはまだ若い青年。と言っても20は過ぎていると思う。
彼はヴィクセン。物理魔法科の主任教授。物理魔法だけでなく、飛行系の精霊魔法を
得意としているために、教員仲間からは「航空参謀」と呼ばれている。

「やだもん・・・・マリア、悪くないもん・・・・本当だもん・・・・」
待てと言われて素直に待つようなバカはこの世界存在しない。マリアもヴィクセンの
制止勧告を無視し、逃亡を続けていた。

たったったったった・・・・・・・

二つの靴音が吹き抜けの廊下に響き合う。
エンフィールド学園の日常的な光景であった。

しゅぱああああああああああああああああああ・・・・・・・・
ばたん・・・

「・・・・・・・・ふぅ」
女子化粧室の個室から出てきたのはゆん。彼女に言わせれば、個室の中は
ゆっくりと落ち着ける自分だけの聖域らしい。
「ねぇ、エミルちゃん、ウィンディ、それにミアちゃんも。早くしてよ・・・」
水道の蛇口を手の甲でくいっと閉じて、真っ白なハンカチで手を拭う。
「ほえぇ・・・・・・・」
「みゃうぅ・・・・ご主人様ぁ、待ってくださいですのぉ」
「ゆんお姉ちゃん、もう少しだけ待っててね・・・・」
閉じられた3つの個室から、それぞれの声がする。
「ま、仕方ないか。」
ゆんはそう考えていた。しかし・・・・・・・

たったったったった・・・・・・・
マリアとヴィクセン先生のチェイスも次第に泥沼化してきていた。
廊下を全速力で突っ切り、急制動、急旋回を何度となく繰り返し、
階段の手すりを滑り降りたりとマリアの逃亡テクニックも向上していた。
もちろん、そんなことでめげるヴィクセン先生ではなかった。
肉体的に絶好調を誇る年齢のため、スタミナもテクニックもマリア同様、いや、それ以上。
急制動、急旋回、階段飛び降り、プレキャスト精霊呪文を駆使し、学園内を縦横無尽に
駆け回っていたのだ。

「ちぃっ、先生もしつこいよぉ・・・・」
執拗な追跡に、少しばて気味である。
「たかだか教室一つ吹っ飛ばしただけなのにぃ・・・・」
をひ・・・・・・・・
「本当ならマインド・ディヴィションの呪文が発動するはずだったのにぃ・・・」
視界に飛び込んできたものは、生徒用女子化粧室の入口だった。
「マリア、らっきぃ!!」
一気に靴底急制動の後、90度急転換。一気に扉の中へと身を躍らせたのだった。
そこに・・・・・ゆん達がいるとは知らずに。

ばたむっ!!
ずぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅ・・・・・・・

けたたましい勢いで扉が開き、何かが飛び込んできた。

「!?」
とっさにゆんが身構えるが、飛び込んできた相手がマリアだと解ると、警戒を解いた。
「ま・・・マリア?!」
「・・・・ぁ・・・はぁ・・・・助かったぁ」
「ってことは、またマリアお姉ちゃん、何かやったんですね?それで・・・・ヴィクセン
先生当たりに追われていた・・・・と。」
息を切らすマリアに冷静に問いつめるミア。
その証拠に・・・化粧室の入り口の外でヴィクセン先生が叫んでいる。
「おい、マリア、そこにいるのは解っている。俺は怒っていない。なのに何故、
いつも逃げ出すんだ?素直に謝ることもできないのか?俺はだな、モーリスさんに
マリアのことを任されているんだ。だから・・・解ってくれ!!」
その声は悲しそうだった・・・

「ふぅ・・・・・でもね、何でマリアって、こうも不発やファンブルを起こすのかな?
キャパシティは充分にあるし、日夜研究に励んでいるし・・・・」
ヴィクセン先生を「クロノスハートでマリアが逃げた」と説得してから、
化粧室内での廁端会議となった。午後休校と言うことで、誰も来ない。おかげで
ゆっくりと話し合うことが出来る。
「やはり、容量があっても、自分の技量を過信していませんか?
自分の技術以上のことをいきなりやろうとしても、失敗に終わりますわ。」
「研究もいいけれど、基本もしっかりやらないとね。」
ゆんがセリーシャの話を引き継ぐ。
「そう言えば、魔術科の実技練習室に・・・・・なぜかゲーム筐体らしいものが
置いてあったなぁ・・・・」
 放課に練習室前を通りかかったゆんは、魔法学科の生徒達がその筐体の回りに
集まって何かをしているのを見ていた。どうやら、遊びながら何かの訓練ができるもの
らしい。
「MMRですわね。お父様の会社とショート財団魔導研究所が共同開発した、
魔法技術育成用のゲームですわ。」
「なるほど・・・・で、そのMMRとかいうヤツ、面白いの?」
「・・・・・BMR(爆)と同じぐらいはまるらしいですわ。」
「試しにマリアにやらせてみることにしようか?」
「ミアにもやらせて!」
とりあえずはMMRを体験するために、ゆんたちは練習室へと向かった。

「これ・・・・どうみてもBMRだよ・・・・・」
「でも、MMRと書いてありますわ。」
「マリエーナ魔法教育委員会、魔法ギルド推奨ゲーム・・・・だって。」

「それよか、インストカードを見ないと。」
筐体を見回すゆん。画面を見るとフリープレイになっている。(教育用だし(爆))
「まずはあたしからやってみる。」
ゆんがキーに手をかける。不安そうに見守る面々
「センサー搭載で、プレイヤーの魔力キャパと精神力に応じてレベルが変化しますわ。」
セリーシャが言うように右手を球状のものに置く。
『あなたのキャパシティ及び精神力を調査して、最適の難易度に設定します。』
画面にそう表示されて数秒後、ゲームが開始された。
ゆんの難易度はレベル9(10段階中)。かなりの上位レベルだ。
「まずは・・・物理魔法の・・・」
選択画面を操るゆん。チョイスしたのは彼女が得意とするルーンバレットの速射版
ルーン・ラピッドのメニューだった。
「落ちてくるターゲットに対応したキーを叩いて下さいね。もちろん、右手に同様の
術の魔力を込めて下さいね。両方が一致して初めて得点ですわ。」
迫り来るターゲット。スピードも量もかなりのモノ。
一定のライン上で叩かないとアウト。集中力を要する。
「タンタン・・・タタッ、タタタタタン、タタタタタン・・・」
口ずさみながらゆんはキーをかなりの早さで叩く。画面のマナ表示も小刻みに
増減を繰り返している。
「現在の連射値は1秒当たり60発・・・・。命中率100%!?」
マリアが画面表示を見て、驚きの声を上げる。
「ドラムンベース並みですわね・・・・」
セリーシャが目をうるうるさせて感激する。
「きをつけて、ゆんお姉ちゃん。セカンドセッションに入ったよ!!」
セカンドセッションからは、ファーストセッションでの成績に応じて難易度が
変化する。ゆんの場合、さらに難易度が跳ね上がっている。
「たたたたたたたたた、たたたたたたたた・・・・」
リズムもさらに小刻みになっている。マナ表示は静止しているように見えるが
実はグラフ表示が追いつかないだけだった。ミリ秒単位での魔力増減がそこで
繰り広げられているのだ。
「たたたたたたたた・・・・たたたたたたたた・・・・たたたたたたた・・・たん!!」
そしてゆんが最後のキーを軽快に叩き終える。
少し息が荒い。
「・・・・・・はぁ・・・はぁ・・・思ったよりハードじゃない・・・
結構集中力がつくよ・・・ノーミスでこなせればね・・・・」
「ゆんちゃん、これを筐体のカードスロットへ・・・・」
セリーシャがゆんに手渡したのは、一枚のチップが搭載されたメモリーカード。
「練習結果と個人のデータなどをこれに記録しておくのですわ。カード無しだと
適性検査的なプレイになり、メニューを組んでのトレーニングが出来ませんの。」
セリーシャから受け取ったカードを言われたとおりにスロットに入れる。
画面に書き込み中の文字が数回点滅した後、結果データが表示される。

***********************************

     『春河ゆん の 物理魔法−速射性能 診断結果』
誤射:0 反応遅れ: 0 的中率: 100 マナ安定度: 100
最短反応速度:43ミリ秒 総魔法発射数:760 試験時間:10分

総合的に判断すると、強力な魔法素質、俊敏性の良さ、集中力のよさより
あなたの成績は素晴らしいものがあります。魔術師協会の幹部クラスの
実力と言っても過言ではありません。
しかし、あなたは気付いていると思いますが、強大な魔力と才能も、
鍛錬しなければ埋もれていくことでしょう。
日常の鍛錬を忘れないようにしましょう。

マリエーナ王国全魔法学校での順位:2位(124350人中)
エンフィールド学園での順位   :2位(   103人中)

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      マリエーナ王国全魔法学校での上位5名

1   セリーシャ・フィスター  エンフィールド神聖 レベル10 AAA
2   春河ゆん         エンフィールド物理 レベル 9 AAA
3   レミィナ・クローシャット マリエーナ  物理 レベル 9 ABA
4   アネスティ・リロ     エインデベル 精霊 レベル 9 ABB 
5   ミア・バクスター     エンフィールド物理 レベル 8 AAA

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表示された結果は、ゆんのポテンシャルを充分に発揮できたものだった。
すでにセリーシャとミアは適性診断を済ませていて王国ランク上位に食い込んでいた。
しかもセリーシャは王国一の実力の持ち主だったのだ。ゆんは呆然とした。
出てきたカードをゆんに手渡してから、
「今度はマリアちゃんの番ですわね・・・」

ごく・・・・

マリアが筐体前に立つ。
横でセリーシャが筐体システムを再点検している。マリアのマナは強力なので
ヘタすると故障しかねない。
ゆんも筐体の基盤モードをアドバイスモードに切り替え中だ。

「まずは、魔力をセンサーに放出してみてくださいません?」

キャパシティと精神度の測定が始まった・・・。
マリアに適した魔法って一体何なのだろうか。
ファンブルとのさよなら・・・・それがマリアに科せられた目標だった。
<続く>

***** 次回予告 *****

マリアの適性は・・・器用貧乏
せっかくの魔力が腐っているという事態に
マリア轟沈。

ゆんとセリーシャ、ミアにウィンディの4人が一体となっての
マリアのための特別魔法講座が開講となった。
はたして魔法を成功させることが出来るのか?

沿域練習曲レッスン2
『マリアと基礎魔法講座』

************ あとがき *************
マリアの魔法をイメージしたシリーズです。
MMR(マジック・マジック・レボ)は魔法を扱うビートマニア
的なゲームにしてみました。
マッチョ・マッチュ・レボではないんですよ!!
怪奇マガジンの編集ゲームでもないです(爆)

ということで、つぎも期待していてね!!

1998年12月20日 初版発行


中央改札 悠久鉄道 交響曲