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「プリズム前編〜結ばれた絆〜」 春河一穂  (MAIL)
The story of Enfield Ansolosy

プリズム

〜結ばれた絆〜

春河一穂


「マリア、ちょっとこっちにきなさい。」

ある朝、モーリスは、娘のマリアを呼んだ。

「お父様・・・・何か用?」

学園への登校支度を済ませたマリアに、モーリスは一つの古びたペンダントを見せた。

「・・・おまえに、このペンダントをプレゼントしようと思ってな。マリエーナの骨董オークションで、
おまえのために手に入れたものだよ。何でも、魔法の込められたペンダントだというそうだ。」

そしてそれを、マリアの首元へとつけたのだった。
その時マリアは、体が軽くなるような感触に一瞬だけ覆われた。
マリアとしては、すぐにその感じも収まったため、これは気のせいかなと思った程度だった。
しかし、そのペンダントには不思議な効果があったのだった・・・・・

「ありがとう、お父様・・・じゃぁ、学校に行って来るね!!」
元気よく部屋から出ていくマリアを見送るモーリス。

「これでよろしいのでございますか?」
そういう秘書の言葉に、モーリスは、

「たぶん、いいのだろう。あれが言い伝え通りであるのなら・・・・・」

そう答えただけだった。

                       ★    ★    ★

午後の陽射しがレースのカーテン越しに部屋にこぼれる。
澪乃が復帰した事により、学園女子寮に関する人事に異動が発生した。
ゆんが寮長から退き、副寮長に。新寮長に澪乃がおさまった。

澪乃の噂は学園のほとんどに知れ渡っていたため、学園でも、寮でも、澪乃の歌を求めて
以前のようにストレスや悩みを抱えた生徒が二人のもとを訪れた。

シレーヌ・ブリーズは、澪乃とゆん二人の姉妹の歌い手により以前と比べるとその効果は2倍
(当社比)だという。

「まぁ・・・4年のうちにここまで変わってしまうのでしょうね・・・・・」

現在の校内を見て回りたいと言うことで、ゆんの案内で見て回る澪乃。
至る所で男子生徒達から熱い歓迎を受け、とまどう場面も見られた。

「ここからはあたしの物理魔法科セクション。」

渡り廊下を抜けて物理魔法科へと二人はやってきた。

「おい・・・・待つんだ、マリア!!」
「・・・マリア・・・悪くないもん・・・ホントだもん!!」

二人の目の前を、マリアが凄い勢いで駆け抜けていく。きっと急制動をかけると階段の吹き抜けに
身を躍らせる。

「おいっ!!マリア!?」

追いかけてきた物理魔法科主任、ヴィクセンが吹き抜けを見下ろす。だがマリアの姿はそこにはない。

「はっずれ〜☆」

ヴィクセンの上を浮遊しているマリア。自由自在に浮かんでいる・・・・珍しく・・・

(あっちゃぁ・・・・調子に乗ってエアリエル・ウィンド教えたのがまずかったかなぁ・・・)

数週間前・・・まだ澪乃が夢枕に立つ前・・・マリアに簡単な浮遊呪文をゆんはレクチャーしたのだ。
悪用は絶対しないという条件付きで。

しっかり逃亡に利用しているところがマリアである。
全然ゆんの言うことを理解していないようである・・・・・・はぁ。

「そうはそうはヴィクセンには捕まらないよ〜・・・・・えいっ☆」

マリアが一気に落ちてくる。

どすっ★

ヴィクセンにジャストミート。哀れ教授はそのままのびてしまった。

「あ・・・ゆんだ☆今のうちに・・・ね、ねっ☆」
「ちょ・・・ちょっと・・・・?!」
「ゆ・・・ゆん・・・それに、マリアちゃん・・・ヴィクセン先生・・・・どうするの?!」

マリアがゆんの、ゆんが澪乃の手をそれぞれ引いて、数珠繋ぎのままでいつもの避難所へと駆け出した。
もちろん・・・・伸されたヴィクセン先生を置き去りにして・・・・・・・。


                       ★    ★    ★


「ここって、物理魔法科生徒専用の女子トイレじゃないの?」

マリアが駆け込んだ先はまさしくそうだった。先生達が男性ばっかりというところに注目したマリアの
まさに学園生活の知恵と言うものである。そういう問題ではないと思うが。

「ご名答、お姉ちゃん。マリアのファンブルは今もそうなんだよ。ただ、そのほとんどが災害系で済むんだけどね。
大爆発・・・・洪水・・・・火事・・・・・・」

「・・・・・・・・・(全然、変わっちゃいないようね・・・・・)・・・・」

がっくりと肩を落とす澪乃。

「学園最大の悩みなんだよね、マリアのこと。」

ゆんが言う。実際、澪乃はマリアのせいで1回死んだのだ。

「で・・・・今回、マリアはいったい何をしたの?正直に答えなさい!!」

ゆんの追求に、渋々応じたマリアであった・・・・・。

「練習していた・・・・・中級魔法が、何故か成功してしまったの。」


しばしの沈黙・・・・・・


「え〜〜〜〜〜〜っ?!」

ゆんと澪乃二つの声が見事にハモって女子トイレに響いた。
マリアの魔法の成功、それは絶対あってはならないことであった。はっきり言えば、この世界の消滅をも
暗示しかねないほど、それは絶対に現在では有り得ないことであった。

「今朝お父様にもらったこのペンダントのせいかなぁ・・・・」

マリアが服の内側から首にかけたペンダントのヘッドを取り出す。
透き通った三角柱の水晶に純金の留め具があしらわれたものだ。台座にはヘキサグラムの
レリーフと魔力を持つとされた貴石が輝いている。歴史をどことなく感じさせるペンダントだ。

「・・・・・・?!」

澪乃はそれに見覚えがあった。何かの文献でそれを見た覚えがある。持ち主の魔力をストレートに引き出す
タリスマンのひとつ・・・・・・200年ほど前の貴重な物のはずだ・・・・。
すこしずつその記憶が澪乃の中で鮮明になる。

(魔法石『マナ・プリズム』)

しかし、文献によればマナ・プリズムは70年前の戦乱に巻き込まれて消息が不明になっているはずだった。
こんな辺境の避暑地、高原都市エンフィールドでひょっこり見つかるはずはない。
その点がどうも釈然としない澪乃だった。

「マナ・プリズムは・・・・持ち主の魔力を正常に反応させるという。『魔力を屈折させるプリズム』。
だからファンブル続きのマリアの魔法がまともに発動したという事ね・・・・」

「でも、マナ・プリズムが貴重なものならば、魔導師協会に届け出た方がいいと思うけれど、お姉ちゃん。」

「それも一理ある。だけどね・・・・」

そういうと、澪乃はゆんをぐいっと抱き込むとひそひそ声で耳うちした。

「こうとも考えられないかしら。マリアには魔力キャパがあふれんばかりに備わっているが、
単独でその力を解放すると、潜在的なものだろうけどファンブルを招き、正常に発動しない。
つまり、至る所で問題を発生させて、トラブルメーカーとしての汚名が広がってしまいかねない。
そう。実践だけでは魔法は使えないと言うこと。ゆん、マナ・プリズムの力はさっきも言ったわね。
持ち主のマナから具現化させる魔法の発動を補助するよう、魔力を屈折させて力を選り出し、
具現化させる、タリスマン触媒としての効能が備わっているのよ。」

「お姉ちゃん、ちょっと難しすぎるよぉ・・・・・」

泣き言を言うゆんのため、澪乃は解りやすく説明した。

「要は・・・・マリアの失敗魔法のマナを全部吸い取って、正常に発動するように組み替えてしまうのよ。
だから、モーリスさんがマリアの安全装置として、探してきたと言うこと。」

そこまで聞いて、ようやく納得したゆんだった。

「この事、マリアちゃんに教えた方がいいかな?」

小声でゆんが澪乃に質問する。

「あまり露骨には言わない方がいいわよ。マリアが自意識過剰に陥りかねないから・・・・」

とそこまで言って、ふと、不思議そうに自分たちを見ているマリアに気付いた。

「あ・・・あはははは・・・・・ね、ねぇ、マリア。そのペンダントは、『マナプリズム』という名前の
結構有名な宝石よ。マリアちゃん(というよりはエンフィールド)にとって大切なお守りになるわ。
四六時中ずっと身につけていてね。絶対に身体から外しちゃダメだからね。・・・・・と。その前に、
簡単なおまじないをしてあげるわ。このマナ・プリズムの意識とマリアの意識を結びつけるの。
そうすれば万一どちらかが離れても互いの場所が解るようになるわ。それと・・・宝石の気持ちが
解るようにもなるからね。ひとまず、マナ・プリズムを手のひらにかざしてね。」

ちょっと長い事務的な澪乃の言葉を聞いたマリアは、黙ってチェーンの先のヘッド(マナプリズム)を
両手にそっと乗せた。

「マリアちゃん。目を閉じて・・・・何も考えずに、私の声と歌だけを聴いてね。」

そう言って、ゆんに黙ってとアイコンタクトをする。マリアの両手とマナプリズムに自分の両手を覆うように
かざして、言霊魔法「絆の歌」を歌い始めた。


心と心 光の糸よ

くるりくるり 何を紡ぐ?

それは絆 出逢えた友と

共に歩もう 二つは一つ。

二つの魂 心と心

光の糸は もうほどけない

二つの身体 二つの心

くるりくるり ひとつに変わる・・・・



「気高き水晶『マナ・プリズム』よ、ここにあなたの新たなる主となる少女がいます。少女、名をマリア。
マナ・プリズムよ、彼女と一つになりなさい。彼女をささえてあげなさい。純真な心を持って・・・。
エインデベルンの言霊使い、澪乃がここに命じます・・・・・・I wish a precious linkaging for yours ・・・・・」

すうっと何か、自分が手の中に吸い込まれていく感覚をマリアは覚える。

(墜ちていく・・・・・・マナプリズムへ・・・・)

しばらくその感覚が続いた後、不意に浮遊感にそれは変わった。
目を閉じているのに心に直接、ヴィジョンが浮かんでいる。

まわりはガラス・・・三面のガラスに囲まれた空間にマリアはいた。

(あ・・・あれは?)

三面のガラスが無限に合わせ鏡・・・万華鏡を展開する。マリア自身の姿がヴィジョンいっぱいに
広がっているのをマリア自身が感じていた。

その一つ、自分の目の前の鏡に波紋がゆらめく。ぽうっと大きくなると、そこからマリアが抜け出してきた。
マリアと言うよりは、透き通ったマリアのフィギュアというのが妥当だろうか・・・・。

くすっ

無邪気な笑みを透き通ったマリアは浮かべた。マリアは妙な親近感をこの存在に感じていた。

アナタハワタシ・・・・ワタシハアナタ・・・・コレカラハ・・・・イッシンドウタイダネ・・・・・

確かにそう言っているようにマリアは感じていた。

「うん・・・・これからも、死ぬまでずっと一緒だね。よろしくね、もう一つの私・・・・・」

透き通ったマリアとマリア・・・・
鏡の中でその二つの存在は出会い、そして一つになる・・・・・。すっと周囲が暗転していく。

漆黒・・・・・

一筋の光。それは澪乃の言葉でもたらされた。

「はい、マリア、目を開けていいよ。これでマナ・プリズムは、マリアの身体の一部になったからね。」


                       ★    ★    ★

「ねぇ・・・・澪乃お姉ちゃん、このマナジュエルについて知りたいんだけど。」

マリアの儀式を終えてから、ゆんが澪乃に聞いてみる。

「同時に作り出された物としては、数種類が文献に登場しているわね。
マリアちゃんがいるから、詳しいことは寮で話すけど、マナ・ブースト、マナ・ミラー、マナトーラス、マナミラージュ
が、マナ・プリズム以外に存在してる事が確認されている。エインデベルンの私とゆんの家
にミラージュとブーストがあることは知ってるよね、ゆんは?」

「うん。マナ・ブーストはあたしの、ミラージュは澪乃お姉ちゃんの物だよね。」

「そうね。残りの物は消息不明。ひょっとしたらエンフィールドにもあるかもね。」

あった場合どうするんだろうと不安になるゆんであった。

                       ★    ★    ★

こうして、ぱったりとマリア起因による魔法事故は途絶えた。エンフィールドに平和が訪れた。
数日の後には、マリアはかなり高度な魔法をほいほいと使いこなせるようになっていたのだ。
最初は何か裏が有るぞと頭をひねっていたヴィクセンら教師達だったが、そのうち、この平和的状況に
順応していき、疑問などはすっと消えていたのである。

街の人たちもこの平和を歓迎した。しかし・・・・・・一人だけこの事態が釈然としない人物がいたのである。
マーシャル武器店に暮らすエルである。
マリアの永遠の天敵である彼女エルはこの事態が何かおかしな事に気付いていた。

「あの魔法ファンブル娘のマリア・・・最近爆発も全く起きないみたいだし・・・・・何か腑に落ちないな・・・」

エルはマリアが何かを隠しているように思えた。実際ファンブルがぱったり途絶えたというのがいちばん納得
行かない事態だ。
そこでエルは街で色々聞いてみたのだった。
それによると、マリアが水晶のタリスマン・ペンダントを身につけるようになって以来、魔法が確実に発動するように
なったと言うこと。以前より作用がさらに大きくなっていること。最近では屋敷から学園まで空を飛んで通学している
こと・・・・・。たくさんの噂が集まったのである。

エルが導き出した結論・・・・それは、あのペンダントに何かある。と言うことだった。

そこに・・・・自分もアレを着けたなら、魔法の使えるフツーのエルフになれるのではないのかとそういう考えが
わき出した。そう、何とかしてアレを手に入れられないか・・・・・と。

「ふっふっふっふっふっふっふ・・・・・・・・・」

カウンターの中で含み笑いしているエルをお客達は白いまなざしで見ていたという。

(ついに・・・・エルちゃん壊れてしまったなぁ・・・・・)

                       ★    ★    ★

陽のあたる丘公園の上空を自在に舞う人影が3つ。
澪乃、ゆん、マリアである。ゆんは久々に胸にマナ・ブーストと呼ばれるタリスマンを輝かせていた。
幼いときはまだ魔力も弱く、マナ・ブーストのお世話になっていたが、エンフィールドに来る頃になると
魔力が開花し、マナ・ブーストの魔力を封じても力に大差がなくなったのであった。
数年ぶりに解放させたマナ・ブーストの力はゆんにとって溢れる元気みたいなものである。
何か新鮮な気分になれるといった感じなのだろうか。
3人の力はほぼ横並びと言ってもいい状態だった。

「うわぁ・・・・気持ちいいや!!」

「たまには自分のタリスマンの意識とふれあう時間を持たなくてはダメよ。」

そういう澪乃の腕には、マナ・ミラージュが輝いている。ゆんのマナ・ブーストはペンダントとブローチどちらにでも
出来るようになっている。しかし、紛失を防ぐために、ペンダントとして身につけている。
澪乃のマナ・ミラージュは腕輪の形状になっている。魔力タリスマンということで、学園も着用を許可しているの
である。ちなみに、その効能は魔力の中和である。とはいえ、澪乃の魔力に対して中和するのではなく、
外部要因の魔力を、主の魔力が作用するように中和するのだ。

「・・・・にしても、わたしのミラージュも久しぶりね。4年間ずっと一緒に眠っていたものね・・・。」

澪乃が少し考え込んでいるその隣で、ゆんがマリアに提案する。

「ねぇ、マリア、もっと上へ登ってみない?マリエーナが見えるぐらいにさ。」

今の二人にはそれはとっても簡単なことだった。互いに、タリスマンというパートナーがいてくれるから
それが出来るのだ。

「うん!マリア、負けないもん。」

「じゃぁ、競争だね・・・」

マリアとゆんはそれぞれの胸にきらめく自分のパートナーに心で語りかける。二人の身体のまわりを
風のマナが包み込み、しだいにその密度を上げていった。

「ど〜んっ!!」

二人の声と共に風が一気に地面へと吹き抜ける。魔法で産み出した上昇気流に乗ってぐんぐん二人は
上空へと登っていった。

「・・・・ったく・・・・・ゆんったら・・・・・」

吹き付ける魔力の風をミラージュが中和してくれる。澪乃は二人の後を追うことにした。



たったひとつのペンダント。それはマリアの日常を大きく変えてくれた。
そして・・・・エルの日常も・・・・・。

空を舞う三人の真下、陽のあたる公園ではエルが、マリアが降りてくるのを待っていたのだった。


<続く>

******** あとがきと発行履歴 *******

マリアのファンブルが止まったら・・・・・・・マリアが自在に魔法を使えたら

マリアを主人公に、悠久のイベントを自分で作ってみたらどうなるだろう?
そんなコンセプトで始まったのがこのプリズムです。
全3話を予定していて、これは、その前編となる作品です。

マナシリーズのタリスマンは、作中に出てきた以外にも、マナ・バースという物も考えてます。
ピアス状のタリスマンで、マナを持ち主へ供与するジェネレータ的存在になります。

もちろん、その持ち主になる人物は既に決まっています。魔力がないと言われているあの人ですね。
(作中、マリアにちょっかい出そうとしていた様ですが)

そのマナ・バースとの出会いの話はまた後ほどするとして・・・・
次回「中編」はちょっとした急展開を予定しています。

プリズム〜わかたれた絆〜にご期待下さいね。


1999年2月1日 16:08 初版発行

春河一穂



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