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「プリズム〜わかたれた絆〜」 春河一穂  (MAIL)
The story of Enfield Ansolosy

プリズム

〜わかたれた絆〜

春河一穂



マリアの胸に輝くペンダント。それは不思議なペンダント。
マリアからファンブルという概念を払拭してくれる、頼もしい相棒。
エンフィールドの街はこのペンダントのおかげで平和な街に変わりました。

しかし・・・・こんな毎日を歓迎しない人物が一人。
それが、エル・ルイスだったのである。

ファンブルがないとマリアでない。それがエルの根本的な考えである。
マリア変革の元凶をあれこれ調査し、エルが導き出した結論・・・・
それは、あのペンダントに何かある。と言うことだった。

そこに・・・・自分もアレを着けたなら、魔法の使えるフツーのエルフになれるのではないのかと
そういう考えがわき出した。そう、何とかしてアレを手に入れられないか・・・・・と。

「ふっふっふっふっふっふっふ・・・・・・・・・」

含み笑いと共に頭に浮かぶ青写真は、ペンダント強奪計画である。
その最初の舞台は・・・・陽のあたる丘公園だった。

                    ★     ★     ★

陽のあたる丘公園の上空を自在に舞う人影が3つ。
澪乃、ゆん、マリアである。ゆんは久々に胸にマナ・ブーストと呼ばれるタリスマンを輝かせていた。

澪乃の腕には、マナ・ミラージュが輝いている。マナ・ミラージュは腕輪の形状になっている。
魔力タリスマンということで、学園も着用を許可しているのである。ちなみに、その効能は魔力の中和である。
とはいえ、澪乃の魔力に対して中和するのではなく、外部要因の魔力を、主の魔力が作用するように
中和するのだ。

空を舞う三人の真下、陽のあたる公園ではエルが、マリアが降りてくるのを待っていたのだった。
そう・・・・それが始まりだった。

ほのぼのとした場面だが、実はそうではないのだった。
このためにエルはどれだけ走り回ったのだろう。


                    ★     ★     ★

エンフィールド学園は各地から留学生を受け入れている、マリエーナ王国でも最大規模の魔法学校である。
エルは二人以外に言霊魔法が使える人物を秘密裏に捜していた。
強引に絆の儀式をさせれば、あのタリスマンを自分のものにできると知ったから。
マナ・シリーズに関する参考書籍も、あれこれと調べ上げた。全ては明るい魔法生活のために。
ゆん姉妹と同郷のエインデベルンの留学生も大勢いたが、残念ながら、言霊魔法を使える条件を十分に
満たせるだけの少女はいなかった。

「ふぅ・・・どうしたものかねぇ・・・・・」

思案にくれるエル。シェリルは知識面でサポートしてくれるように約束をとりつけた。彼女の支援無くては
言霊魔法の古文書などは読破不能である。
実際に言霊魔法の使い手たる条件・・・・4オクターブの高音域を奏で、さらに微妙な音域を再現できる
声の持ち主の女の子・・・・・。そんなものは簡単に見つかるわけはなかった。そう、簡単に・・・・・・・。
しかし、意外とその少女は簡単に見つかったのである。しかも、身近に。
その少女はアルベルトの妹のクレア・コーレインであった。

「え・・・?わたくしがあの言霊魔法の歌い手に?!」
「そう・・・クレアならばっちり。素質も充分にあるよ。大丈夫。このあたしが言うんだ。」
「エルさんが言うなら・・・・・わたくし、やってみようと思いますが、どうでしょうか?」
「やってくれるんだね。サンキュー、クレア。」

この一連の会話は5日ほど前、さくら亭にて行われたという密談の一部である。
こうしてクレアを臨時の言霊使いに仕立て上げることで、エルは自分の作戦を確実な物にしていったのである。

                    ★     ★     ★

セリーシャをご意見役に加え、それから極秘裏に「絆の歌」の特訓が某所において行われた。
セリーシャがご意見役として呼ばれたのは、常時ゆんと一緒とのことで、儀式の全てを知っている
からだった。数週間前のエンフィールド大障害物レース(すごろくイベント)において、セリーシャの目の前で
マナ・シリーズの「マナ・リンク」の絆の儀式を行ったのである。もちろん、セリーシャのこと。しっかりと
ビデオ録画されているために、これはかなりの資料となる。

「・・・・かなり歌い方にコツがいるのですわね。」
「ゆんちゃんも澪乃お姉様に特訓してもらって10日かかったっていいますから。クレアさんもかなりの
ものですわ。4日でここまで再現できるのですから・・・。」

実際、クレアの実力もかなりのモノだった。
絆の儀式だけでなく、もうひとつ・・・・・別の歌も練習していた。それは、「惜別の歌」
絆を引き離し、無に帰すという、呪いの歌である・・・・・・・。
つまり、マナ・プリズムに惜別の歌を施し、マリアとの関係を無効としたうえに強奪、改めて自分との
絆を結ぼうという計画なのである。

クレアの仕上がりはかなりのモノであった。エルはこの作戦の発動を数日中とさだめ、さらなる綿密な
事前準備に取りかかったのである。

エルの頭では、青写真が次第に鮮やかなヴィジョンになっていったのだ。

                    ★     ★     ★

「ほら、ゆん、マリア。そろそろ帰るわよ。」

澪乃に言われ、次第に高度を下げるゆんとマリア。それを追うように、澪乃も高度を下げていった。
鮮やかな陽の光のコントラストのもとへとぐんぐん下がっていく。
次第に公園の様子が肉眼ではっきりと分かるようになってくる。

「マリアちゃんもだいぶコントロールに慣れたようじゃない。その調子よ・・・・」

「澪乃お姉ちゃん・・・マリアね、だいぶ慣れてきたよ。魔法が使いこなせるのって、こんなに気持ちが
いいことだったんだ・・・・・。」

「ねぇねぇ、もうすぐ地面だよ。ゆっくりと魔法の調整しないと・・・・・ね。」

3人は魔力を調整しつつ、地面の上へと降り立った。

「お帰り・・・・・皆さん・・・・」

3人の目の前には、不適な笑みを浮かべるエルの姿があった。

「あたしはね、マリアに用が有るんだ。あんた、最近なにかと魔法が成功しているんだってね。知っているんだよ、
あたしはね。」

一方的にマリアに対しまくし立てるエル。

「そんなマリアが気にくわないんだよ。今のマリアはマリアなんかじゃない。だから・・・・・こうしてやるのさ!!
マリアはまた、ファンブルの鬼に戻るのさ・・・・・・」

エルの言葉の終わるのと同時に・・・歌声が聞こえてくる。






一つの心、やがて二つに 欠ける時 失われる時

新たな絆の糧とならん

新たな絆の礎とならん

絆の糸はやがて朽ち 風に帰る 涙と共に




「・・・・・・!!!!」
とっさに澪乃が反応した。
「早く逃げて!!歌声の届かない場所に!!」
そのまま一気に上空へと舞い上がる。
マナ・ミラージュによる無音化の障壁に包まれて一気に登った。

ゆんも上空に急上昇しようとするがその歌をかなり聴いてしまった。
胸から溢れていたエネルギーが急に無くなったのに気が付く。

「・・・・・・・?!」

声にならない不安感がゆんを襲う。上昇スピードも徐々に鈍っていた。

マリアも後を追おうとするが、数人に羽交い締めにされて動くことが出来ない状況だった。
マリアは歌を完全に聴かされたようだった・・・・・・。
胸元からの輝きが収束し、消えてしまったのを確認して・・・・・
ゆっくりと、エルがその胸元のペンダントを取り外した。してやったりという満足げな表情と共に。
マリアはじたばたと抵抗するが、取り押さえられている以上、何も出来ずじまいだった。

「お・・・お姉ちゃん!!」

ゆんの声に澪乃が振り返るとゆっくりとゆんが上昇してきた。その胸からは、マナ・ブーストの力は
感じられない。

「無効化・・・・・・・されてしまったようね。やっぱり・・・・・・惜別の歌を使ってきた・・・・。
私が絆の歌を歌えば、再びブーストを扱えるようになるけど・・・・・、マリアは?」

「それが・・・・・エル達に一方的にやられている。その歌で絆が断ちきられてしまったらしく・・・」

ゆんの言葉に下を見下ろすと、エルが絆の儀式を受け終えた所であった。

「そういう事だったのか、迂闊だった!!!」

一気に急下降をし、澪乃がエルの前に舞い降りる。


「卑怯よ、エル。あなたがそういう心を持っていたなんて、残念よ。」
「澪乃。そういう甘いこと言っているから生きていけないのよ、解る?やったもん勝ちなのよ。解る?
魔法の使えないエルフという汚名、それもこれまで。いまからはあたしも魔法の使えるエルフなのだからね。」

エルが構えるとその胸のマナ・プリズムから鈍い青色のオーラが溢れる・・・・。

「マナ・プリズムは悲しんでいる。絆を強引に引き裂かれたことに対し・・・・・・」

「関係ないね。あたしは魔法さえ使えれば良いんだよ。邪魔するっていうんだったら容赦はしないよ。」

エルにとっては始めての、魔力が体中にみなぎってくる感触。その感触をかみしめながら・・・
ゆっくりと両手を構える。その手に魔力が渦巻き一つの高エネルギー体に変わる。

「ヴァニシング・ノヴァ!!!」

一気に強大な力が澪乃へと襲いかかる

「エアリエル・テックス!!!!」

澪乃の声と共に疾風が吹き抜けて爆風を吹き消す。
澪乃もこの位は出来る。

「仕留めたか!?」

澪乃がそこを確認するが、マナ・プリズムの反応もろともそれは消失してしまっていた。

「・・・・・逃した・・・・・・」

土煙が収まってみると・・・そこにエルの姿はなかった。そして、そのほかの人影も消えてしまったのである。

「宝石は確かに頂いた。これであたしは魔法万能のエルフだ・・・・・くっくっくっくっく・・・・・・・・・・」

そう、言い残して。

                    ★     ★     ★


「・・・・・・・これで再び繋がりを確保したわ。どう?」
「・・・・なんとか、歌を聴く前と同じくらい。マナ・ブーストも喜んでいる気がするよ。」

ゆんに対し、再び繋ぎの儀式を行った澪乃。だが、マリアは・・・・・・
泣いていた。ただただ泣いていた。
澪乃は自分のマナ・ミラージュを外し、マリアの腕へとつけた。

「マナ・ミラージュがマリアちゃんを支えてあげたいと、主の私に語りかけてきたの。だから、ミラージュを
マリアちゃんの元へ暫く託すわ。ミラージュはこの事を知っているから、繋がりの儀式をしなくても協力的
になってくれる。ミラージュにもわずかだけど魔法効果の修正能力があるから、多少のファンブルはあるけど、
その被害を最小限に食い止めてくれるはずよ。とにかく、明日からはエルの捜索とプリズムの奪還ね。」

その足でマーシャル武器店を尋ねたが、エルは書き置きを残していなくなっていた。
その書き置きにも行き先は記されていなかったため、エルの行き先は全く解らなくなってしまったの
だった。

翌日・・・・セリーシャの密告により、その作戦の全貌が明らかになった。
しかし、エルの行き先についてはセリーシャですら解らなかったのである。

関係者にも行き先を明かさず、プリズムと共に消息を絶ったエル。
マリアとプリズムを引き合わせるため、エンフィールドの明日のためにと奪還を決意する
ゆん、澪乃、そして、エル陣営からゆん陣営に移ったセリーシャ。


セリーシャは惜別の歌にシェリルと共謀してある仕掛けを施したのだ。
ゆんをさすがに敵に回せないと・・・・・。
言霊の効果をわざと弱めていたのだ。つまり、絆を完全に分断しないようにと・・・・・。
セリーシャはこの事をそっと心にしまい込んだ。時が来たら、話そう、と。

絆は断ちきられた。だが、同時にそれはさらに絆を深める前触れである。
求めるもの、求められるもの。
誰が邪魔をしようが、本当の絆とは絶対に断ち切れないというものである。

澪乃達によるプリズム奪還作戦が、始まろうとしていた。

<続く>

******** あとがきと発行履歴 *******

プリズム中編・急転編です。

マリアのファンブルが止まったら・・・・・・・マリアが自在に魔法を使えたら

マリアを主人公に、悠久のイベントを自分で作ってみたらどうなるだろう?
そんなコンセプトで始まったのがこのプリズムです。

なんとかマナプリズムをせしめたエル。しかし、ゆんたちの大逆襲開始。
エルを探し始めます。
マリアはマナ・プリズムを取り戻すことが出来るのか?
臨時のマリアのパートナー、マナ・ミラージュは?澪乃の魂胆は?


プリズム完結編〜永遠の絆〜にご期待下さいね。
同時に、プリズムの統合版も発行予定です。


この物語のコンセプトが、信さんのサイトで行われている『悠久リレー小説』
の次回シナリオに選定されました。
大元はこれと同じ設定ですが、全く違う物語となってきます。
澪乃は出てきませんし、この物語にいないキャラクターが多く登場します。
タリスマンの争奪戦も行われるのかも知れません。

興味あるかたは、信さんの悠久ホームページをご覧になって下さいね。(CM)
僕も参加させていただいています。


1999年2月6日 16:15 初版発行

春河一穂



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