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「プリズム〜永遠の絆〜」 春河一穂  (MAIL)
プリズム

〜永遠の絆〜

春河一穂



マリアの胸に輝くペンダント。それは不思議なペンダント。
マリアからファンブルという概念を払拭してくれる、頼もしい相棒。

それが全ての中心。そして・・・この物語の鍵である。

ある日の陽のあたる丘公園にて、事件は突然に起こった。

「宝石は確かに頂いた。これであたしは魔法万能のエルフだ・・・・・くっくっくっくっく・・・・・・・・・・」

そう、言い残してマリアの胸からプリズムをもぎ取ったエルは姿を消したのだ。
綿密な計画の元に実施されたマリアのタリスマン強奪計画はエルにとっては大成功のうちに終わった。
しかし、マリアにとっては、それは辛かった・・・・・。

エルは繋がりを言霊により強制的に解除し、ガードが外れたところを奪うという、まさに盲点をつく作戦
を行った。言霊魔法が使える人物が自分たち以外にいたことも意外な事実だった。
さすがはクレア。高音域をこなせるだけある、声優が。(セリーシャも同じ声優だし、ね・・・・。)

その場に取り残された3人。ひとまずは応急処置である。

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「・・・・・・・これで再び繋がりを確保したわ。どう?」
「・・・・なんとか、歌を聴く前と同じくらい。マナ・ブーストも喜んでいる気がするよ。」

ゆんに対し、復旧のために再び繋ぎの儀式を行った澪乃。
だが、マリアは・・・・・・泣いていた。ただただ泣いていた。
エルへのやり場のない怒りと、パートナーを失った悲しみが、マリアの心で複雑に交錯していた。

それを見つめる澪乃。じっと目を閉じて右腕に意識を集中する。
自分の相棒の声を聞くために・・・・。
そして、澪乃は自分のマナ・ミラージュを外し、マリアの腕へとつけた。

「マナ・ミラージュがマリアちゃんを支えてあげたいと、主の私に語りかけてきたの。だから、ミラージュを
マリアちゃんの元へ暫く託すわ。ミラージュはこの事を知っているから、繋がりの儀式をしなくても協力的
になってくれる。ミラージュにもわずかだけど魔法効果の修正能力があるから、多少のファンブルはあるけど、
その被害を最小限に食い止めてくれるはずよ。とにかく、明日からはエルの捜索とプリズムの奪還ね。」

「あ・・・・・ありがとう。澪乃・・・・お姉ちゃん・・・・・。
ねぇ、きっと、見つかるよね。プリズムは帰ってきてくれるよね・・・・・・・・」

マリアが涙を浮かべながら言う。その右腕には、澪乃のミラージュが輝いている。

「本当に・・・・・本当に大事だと互いに思っているのなら、それが惜別の歌であれ、引き裂くことは出来ない。
引き裂けたと思っても、それは一時だけ。そのうちに絆は戻ってくるものなの。次第にプリズムが呼びかけて
くるはず。焦らずに時を待ちましょう。とりあえずは、マーシャル武器店に行ってみましょう。手がかりがあるかも
知れませんしね。」

マーシャル武器店を尋ねたが、エルは書き置きを残していなくなっていた。

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少し、用があってエンフィールドを暫く留守にする。
用、それと行き先については悪いが言えない。
すぐ戻ってくるから、後は頼む。
                                      エル

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その書き置きにも行き先は記されていなかったため、エルの行き先は全く解らなくなってしまったの
だった。

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そして翌日・・・・セリーシャの密告により、その作戦の全貌が明らかになる事となった。

ゆん・澪乃・結・ミアの3部屋ぶち抜き寮室にセリーシャがやってきたのは、午後休講の連絡があって
すぐである。例によって、相棒を失い傷心のマリアもそこにいたのだった。

「ゆんちゃん、いらっしゃいますか?澪乃さんもいらっしゃいますか・・・・・・」

いつものように明るく元気よく・・・・ではなく、すこし暗い雰囲気でセリーシャが入ってくる。

「あ・・・セリーシャちゃん。いらっしゃい・・・。」

澪乃がセリーシャに気付いて声をかけるが、セリーシャの様子はどことなくおかしかった。

「・・・・・・ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」

というと、セリーシャは泣き出したのだった。

「実は、マリアちゃんから魔法石を奪う手助けをさせられていました・・・・エルさんに脅迫されて・・・・」

5人の前で真実をセリーシャは語った。エルは、じつはマリアが魔法石を得たことを非常に妬んでいた。
さらに、自分が魔法を使えないことについても自分の宿命を呪っていた。
マリアから魔法石を奪い、自分の物とすることで、そのハンデを克服できる。そうなればマリアを
けちょんけちょんにのすことも容易となる。

しかし、ここで問題が発生する。魔法石マナ・シリーズは、石の意識と同調し、互いに信頼ある関係でないと
その力を引き出せないと言うことだ。だから、エルの場合、何としてでも強引にでも同調させる必要があった。
儀式のことを知っているセリーシャは、エルに協力させられたのだ。
父の会社の扱うハイテク武器の仕入れを条件に・・・・

仕方なくセリーシャはクレアのことを知らせ、さらに言霊魔法のことをエルに話したのである。
文献を読むためにシェリルも引き出された。シェリルもゆんの友人であったために協力を断ろうとしたが、
セリーシャに諭され、仕方なく協力をすることにした。

だが、セリーシャ達は完全にゆんを裏切ったわけではなかったのだった。
セリーシャは惜別の歌にシェリルと共謀してある仕掛けを施していた。
ゆんをさすがに敵に回せないと・・・・・。
言霊の効果を故意にゆがめ、効果を不安定にさせていた。
つまり、絆を完全に分断しないようにする。ゆん達ならきっとこれに気づいてくれる・・・そう願って・・・。

「つまり、エルに施した術はほとんど効果がないものと言うことね?」
「ええ・・・シェリルさんによれば、効果は2日ほどで消えてしまうようにしたそうですわ。
マリアちゃんとの絆もそれぐらいで回復するでしょう。」

「つまり、もうそろそろ、プリズムの所在が明らかになると言うことだよね。」
「そういうことになるかな・・・・・?」

ゆんの言葉に澪乃が答えた。

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(・・・・・・・・・どこなの・・・・・・)

マリアはプリズムに心の中で呼びかけていた。

(・・・・・・どこにいるの?・・・・)

目を閉じて必死に呼びかける。

(・・・・・!?・・・・・)

一瞬、漆黒の視界で白い光がはじけたような感覚をおぼえる。
どこからともなく風の流れがマリアの頬をなでていく。
かすかにガラスの触れあう音が聞こえてくる。

しゃららら・・・・しゃらららん

(屋外?!)

少しずつ風の流れがはっきりとしてくる。
青くさい匂い・・・どこかの草原なんだろうか?

風は湿っているように感じる。どこか水辺かもしれない。

ガラスの音も大きくなっている。次第に・・・・

そして

しゃらららららん!!!!

音と同時に真っ白に光がはじける。
その一瞬に浮かんだヴィジョン。
湖・・・草原・・・風・・・・高台・・・・石の門・・・・・
フラッシュバックで次々と現れる。

(あそこ?!)

マリアは目を開いた。プリズムの所在がわかった。そんなような気がしたからだ。

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「ちょ、ちょっとぉ・・・・!?」

マリアは澪乃とゆんの手を引きながら、その場所へと駈けだした。その後ろをセリーシャが追っている。

「ま、マリア・・・・いったいどこへ連れて行くつもりなの?」
「うん・・・頭に浮かんだの。『悠久と久遠の門』だって!!」
「この方角だと、ローズレイク東岸の丘の近辺だね・・・・」
「丘・・・っていうと、お姉ちゃんが眠っていたあの墓地?」
「・・・・以外にもね、あそこにはもう一つ、記念碑があるのよ。」
「記念碑?」

ゆんが澪乃の言葉に首を傾げる。

「そう。墓地よりは新市街に近い丘の上にね。『悠久と久遠の門』という、門のような記念碑。エンフィールドが大きな
街になったときに、モーリスさんにバクスターさん・・・リオくんのお父様・・・が、建立した、もう一つのエンフィールドの
印なの。」

ちなみに、悠久幻想曲のオープニングムービーに登場する門みたいなのがそれである。

「そんな場所もあったんだ・・・・」

ゆん(セリーシャ)にとっては初めての場所である。


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「この丘ね・・・・」
「あの・・・・あれが確かだったら・・・・・」

風が吹き抜ける丘。教会墓地よりもさらに見晴らしのよい丘。
その丘に4人はやってきた。

「あれ・・・か。マナ・プリズムの声が解ったんだね。」

丘の上をくまなく探し出す3人の前に・・・お目当ての人物が現れたのである。

「・・・エル!?」
「マリアちゃんの宝石を奪ったのはあなただったんだね!!」
「ひどいですよ、他人の物を・・・・奪うなんて」

口々にエルを責める・・・しかし、エルは首もとに輝くマナ・プリズムをはずすと、

「ほらよ」

と、マリアに投げてよこした。

「もう・・・いいんだよ。もう・・・・・どうでもいいんだよ。」

小さな声でエルがつぶやいたのをゆん達は聞いた。

「あたしも・・・魔法を使ってみたかった。マリアは魔法が失敗してばっかと言うことで、自分と対等に見ていた。
だけど・・・マナ・プリズムをつけたマリアは・・・あたしの知っているマリアとは別人のようだった・・・
自在に魔法を使いこなせるマリアを見て・・・あたしは・・・自分が惨めに思えてきたのさ。
そして・・・・妬みも・・・。だからあたしはマリアからプリズムを奪うことを計画したのさ・・・・。」

「エルもエルなりに悩んでいたんだ・・・・」

「確かに作戦は成功し、プリズムはあたしの物になった・・・・だけど・・・・そこで違和感を覚えたのさ・・・。
自分のようで自分でない。バラバラの感覚・・・やはり、プリズムはおまえの物だよ、マリア。」

「そういうことだったのですね・・・エルさんもかなり極限まで追い込まれていたのですわね。」

セリーシャがそっとつぶやいた。

「あたしは魔法の出来ないエルフだよ。どうがんばってもさ・・・」

「あきらめちゃ・・・駄目よ・・・・。」

「え・・・澪乃?」

「まだ、マナシリーズはマリエーナに存在する・・・きっとエルも巡り会うことが出来るわ。
そんな気がする・・・数日中に・・・それは始まるはずだから・・・」

「澪乃、そんなもんか?本当に・・・・・?」

そう尋ねるエルに、澪乃は笑って

「うん・・・私のパートナーが言っているからね」

そう答えたのだった。


それから数日後。エルの耳に、大粒の貴石をあしらったイヤリングが輝いていた。
淡い白色の月長石(ムーンストーン)が輝くそのイヤリング
そのイヤリングの名前は、『マナ・バース』、魔力を産み出すもの。
エルへ魔力を供給するブースターとなる貴石である。

マリアとエルの魔法合戦も気合いが入るだろう・・・きっと・・・


<完>

******** あとがきと発行履歴 *******

プリズム完結編です。

マリアのファンブルが止まったら・・・・・・・マリアが自在に魔法を使えたら

マリアを主人公に、悠久のイベントを自分で作ってみたらどうなるだろう?
そんなコンセプトで始まったのがこのプリズムです。

なんだかんだありまして、こういった形に落ち着きました。


この物語のコンセプトが、信さんのサイトで行われている『悠久リレー小説』
の次回シナリオに選定されました。
大元はこれと同じ設定ですが、全く違う物語となってきます。
澪乃は出てきませんし、この物語にいないキャラクターが多く登場します。
タリスマンの争奪戦も行われるのかも知れません。

興味あるかたは、信さんの悠久ホームページをご覧になって下さいね。(CM)
僕も参加させていただいています。


1999/04/11 16:20 初版発行

春河一穂


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