中央改札 悠久鉄道 交響曲

「沿域夜想曲〜流星の降る夜・後編〜」 春河一穂  (MAIL)
悠久幻想曲アンソロジー

沿域夜想曲(エンフィールドセレナーデ)

〜流星の降る夜・後編〜

春河一穂

「ついに夕方になってしまったか・・・」
午後5時、さくら亭に集まった面々は以下の通りだ。
リオ、ミア、ゆん、ウィンディ、メロディ、由羅、レミット、マリア、さき、
シェリル、トリーシャ、シーラ、クリス、セリーヌ、ローラ、魅緒、エミル
セリーシャ、まるにゃん妹、アレフ、悠久、幻想、クレア、アルベルト、
エル、そして・・・僕。
パティ、カーフ、楓達さくら亭の従業員一同も同行するらしい。

雲行きは依然として好ましくなかった。所々から紫色の空がのぞいているものの、
東の空には厚い雨雲がどっしりとのしかかっていた。
「おいおい、大丈夫か?晴れてくれなきゃ、オレ、困るぜ・・・・」
アレフが心配そうに言う。
「おおかた、星を見ながら、『キミの瞳に乾杯』などとほざくんだろ?
無駄だ、無駄。おまえのナンパが成功した試しなどないだろ?」
アルベルトが皮肉っぽく言う。
「ぶぅ〜・・・こうなったらマリアの天才的な魔力でこの雲を吹き飛ばす・・・・」
とマリアがかまえたとたん、

ぱごぉぉぉぉぉぉぉん!!!

どこからか飛んできた中華鍋がマリアの頭部を直撃した。
「きゅう・・・・」
「・・・はぁ、はぁ・・・さくら亭を木っ端微塵にする気?あたしの目が黒いうちは
絶対に許さないから・・・・覚えておきなさい・・・」
肩で息をしている怒りモード一歩手前のパティが投げたらしいようだ。
「ねぇ〜ん、こっちに、大吟醸『美少年』一本追加ね〜」
テーブル席でぐびぐびとハイテンションで呑み続ける由羅が言う。
その隣には不幸かな捕まってしまった哀れなクリスとピートが抱きかかえられ、
じたばたもがいている。血の涙を流していることから、不幸度が伺われる。
で、リオくんは・・・ゆんがしっかりキープしていた。その傍らにはミア、
エミル、セリーシャ、魅緒の姿がある。
「今日、見えるかな。何お願いしようかな」
「ゆんちゃんは何をお願いになりますの?わたくしに教えてくださいませんか?」
「んーとね・・・・・・(ごにょごにょごにょごにょ・・・・)といったところ。
はにゃ〜〜〜ん・・・・恥ずかしいよぉ・・・・」
セリーシャに聞かれ、ゆんは小声で自分の希望をうち明ける。要は、
『リオくんのお嫁さんになりたい』といった内容だ。
「あらあら、まぁまぁ・・・そうでしたの。ゆんちゃんはリオくんのこと大切に
想っていらっしゃったのですね。」
セリーシャがうらやましそうに言う。
「セリーシャちゃんも、そんな人がいるのかなぁ・・・・」
ゆんが言うと、セリーシャはただ、
「さて・・・・どうでしょうね・・・・・」
そういって、ゆんに微笑むだけだった。

さらに5時間ほどが経過する。2階の宿の空き部屋をあてがった仮眠室で
子供達は仮眠中だ。起きているのは、クレア、アルベルト、悠久、幻想、
まるにゃん妹、さき、セリーシャ、トリーシャ、僕、そして、さくら亭の従業員達だ。

「セリーシャちゃんは寝てなくて大丈夫かい?」
僕が聞くと、セリーシャは
「大丈夫ですわ、一穂さん。こう見えても、わたくし夜型ですから・・・」
そう、笑ってこたえる。

「おい・・・・何とかなりそうだ。星空が見える・・・」
窓付近で空を見上げていたアルベルトが言う。
慌てて僕がさくら亭前の路地に出て空を見上げる。
街灯の明かりの中、鯱座の三つ星を確認することが出来た。
これなら、かなり期待できそうだ。そう、僕は考えていた。
さくら亭の中からは、思い思いに出発までの時間をを楽しむ仲間達の声が
聞こえていた。

さらに2時間後・・・・午前0時。

エリオン座がエンフィールドの真上へとさしかかる。
そろそろ観測開始だ。

階段を次々に降りてくる子供達。
すでに防寒対策をしっかりとっている。
「エミル、しっかり絞り出しておけよ。あの丘・・・混んでいるからな。
公衆トイレはあるが、数十分待ちだぞ!!」
「ふぇええええ・・・・・・」
悠久の言葉に慌てて女子トイレに駆け込むエミル。
「何か、暖がとれるものも用意しておいた方がいいな。」
アルベルトが言う。
「でも・・・火を使うわけにはいきませんし・・・」
「カンテラ、用意しましたけど・・・?あ・・・一穂さん、何をやるんですか?」
シェリルが用意したカンテラに、赤いセロファンをガラス面に貼っていく。
「こうしておかないと、星が見にくくなってしまうんだよ。まわりへの配慮だね。」
シェリルに説明すると、
「なら、私も手伝います」
と、用意したカンテラ全てにセロファンを貼り付けてくれた。
リオは参加者に星図を配っている。
「・・・・と、こういった状態で見えるはずだからね。」
「さすがはリオくん、博識よねぇ〜ん・・・・」
由羅に抱きつかれ、逃れようとじたばたもがくリオ。
「わたしのリオくんに変なことしないでよ、ショタ狐!」

ぼくっ☆

由羅の脳天にお玉が炸裂した。ゆんの攻撃、さくら亭陸軍・3式攻撃鈍器である。
トリーシャチョップの要領で用いるらしい。
「ふみぃ?!」
一瞬の隙をついてリオを解放する。素早くリオはゆんの後ろに隠れる。
「しっぽむっかぁ!!あたしのリオくんをどうする気よぉ!!!」
「由羅と一緒にいたら、リオはさらに陰気になっちゃうよ!!」
けっきょく、ゆんと由羅のにらみ合いになってしまった。

「ほらほら、あんた達。喧嘩は外でやってよね。」
パティが呆れながら言った。

夜風は思ったよりも寒い。防寒対策をしっかりしているとはいえ、
冷気を肌で感じる。身震いしながらも丘の上へとやってきた。

「寒いね・・・・」
吐く息が白く夜空へと吸い込まれている。墓所の合間をぬうように大勢の
人たちがすでに集まっていた。
「先行しているシェリルにリカルドさん・・・いるかなぁ・・・」
辺りを見回すゆん。
「おお、こっちだ・・・」
かすかに赤い光に照らされたリカルドさんが手を振っている。
「とにかく行ってみよう。」
ローズレイクを見下ろす一本の木の回りに場所を確保していた。
「・・・・ここ、お姉ちゃんの眠っている場所だ・・・・」
カンテラの赤い光に浮かび上がった文字・・・・・
『エインデベルンの少女、春河澪乃、ここに眠る。享年17歳』
そう、4年前、エンフィールドで起きた魔法の暴発に巻き込まれて、
ゆんの姉は帰らぬ人になった。けっこう可愛く、結構おしとやか。
学園中のアイドルの死はそれはもう一大事だった。
生前の彼女の希望通り、ガラスで出来た棺の中、この丘で眠っている。
それから2年後・・・。学園に彼女の妹がやってきた。それがゆん。
彼女の夢は、魔法を極めて、姉を蘇生させることだと言っていたっけ。

「ねえねえ。・・・・そろそろ観測開始だよ。」
リオが僕の横で言った。
深く墓碑に頭を下げて、僕はみんなの元へ戻った。

午前3時。3時間たったが、いっこうに流星を見ることが出来ない状況だった。
「お兄ちゃん、つまらないよぉ・・・・」
「おい、本当に今日見れるのか?」
アルベルトに魅緒が愚痴るようになってきた。
確かに、この時間に見えるはずだ。なのに紺碧の空は星が瞬くのみだった。

「ねぇ・・・マリアにいい考えあるんだよ☆」
自慢げにマリアが言う。
「まさか・・・・・・・・」
おおかた・・・・想像がつく結末が待っているだろう。
「え?マリアはお星様にお願いするだけだもん、魔法の呪文で!」
ほらきた。マリアの魔法は、ろくな事がないからな・・・・
成功した試しもないし。
「おいおい・・・ちょっとそれはまずいんじゃないか?」
アレフが不安そうに言うが・・・・
「魔術バイエルクラス2の教本に載っていた呪文だよ。大丈夫だから・・・」
といって両手をかまえると、お構いなしに詠唱を始める。
慌てたのは僕達だけではない。
マリアの声はしっかり周囲へと聞こえていたのだ。
お約束の展開。がやがやと夜空を見上げていた街の人たちが、急に静まりかえる。
数秒後・・・・・パニックとなったのだ!!!
そりゃそうだ。マリアの魔法に巻き込まれて無事であった事など無いのだから。
あわてふためき丘を駆け下りる人の群れ・・・それがおさまると、丘の上には
僕達だけが取り残されていた。

「お願いっ☆」
ついにマリアの呪文が完成した。僕達は自分の運命を呪ったりもした。
無事で済むはずはなかったから・・・・・・・・・・。
しかし・・・・何も起きなかった。
「ふぅ、不発だったようだな。」
アルベルトがひとこと言いかけた瞬間・・・
!!!!!!
夜空をひときわ大きな流れ星が一つ流れた。
「やった!マリア、ナンバーワン!!!」
「奇跡だ・・・・・・無事だなんて・・・・・・」
「ミア、良かったね・・・・」
「そうだね、りーくん」
和気藹々と喜び合う僕達だったが・・・・・流星がいつまでたっても消えないという
疑問にぶち当たった。それどころか、どんどんこっちに接近しているような気がする
んだけど。
ついに目の前まで流星がやってきて、そして止まった。

『・・・・久しぶりです〜、皆さん!』
『わん!!!』
聞き慣れた声と鳴き声。
「ひょっとして、お星様とポチ?」
パティが信じられないといった表情で言う。
『はい。私はこの間お世話になったあの流星ですよ。マリアちゃんに呼ばれて
来たんですよ。』
以前、流れ星の尾(ポチ)を探すためにジョートショップ手伝い組が街中を捜索した
と言うことは聞いているが、これがその流れ星だったなんて。
「今日ね、流星群が見れるって言うから見に来たの・・・でも・・・・」
エミルがしゅんとして言う。
『なるほど・・・・仲間の到着が少し遅れていたみたいですか・・・』
流れ星はしばらく考え込んだ。そして、
『この間のお礼に、仲間を呼んできてあげますね。楽しみにしていたでしょうからね』
と言い残して、再び空高く駆け登っていった。

光のシャワーがエンフィールドに降り注いだ。
雨のように・・・・それは降り注いだ。
一旦はマリアの呪文に逃げていった街の人々も、丘へと戻ってきた。
街では、街灯が消され、起きている人たちが窓から空を見上げた。
ローズレイクの水面にも光の雨が映し出されていた。
その日は夜明けで空が白むまで、流れ星と共に光の贈り物を楽しんだのだった。
<おわり>
***** あとがきと発行履歴 *****

書こう書こうと思って全然書けなかった沿域夜想曲、
ようやく出来ました。
こういうオチだなんてちっとも気付かなかったでしょ?

次回は2つほど企画が上がっているので、気長に書いていきます。
でもスランプ気味なので大丈夫なのだろうか、とっても不安です。
では次回作でお会いしましょうね。
春河一穂でした。
なお、一部のキャラのみしかセリフがなかったことをお詫びします。

98年11月28日 初版発行

中央改札 悠久鉄道 交響曲