中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「悠久幻想曲PerpetualDue 1stday(前編)」 春河一穂  (MAIL)

*このSSは、昨年末冬コミ発行「MOOなやつら3.141592」に寄稿したものです。
通販分も含め、完売(絶版)したとのことで、オンラインで発表させてもらうものです。

冬!!

エンフィールドは高原の避暑地なのでかなり冷え込む。
霜が降りた路地を走り抜ける子供達・・・。
煙突から白い煙が立ち上る、
雷鳴山中腹の地熱発電所からも水蒸気が白く空へと登っている・・・・。
それは・・・まるで霧のようである・・・・・。
かすかに聞こえる鐘の音はウィンサー教会のものだろうか・・・・

電気式のファンヒーターが熱風を紡ぎ出す。
蛍光灯の灯りの下でゆんが身支度を整えている。きょうは出校日なのだ。
姉の澪乃の部屋は静かである。まだ寝ているのだろうか・・・・。
低血圧なんだなぁ・・・・そうゆんは思っていた。

そんなエンフィールドに・・・予想もしない客人が登場することになるのだ

これは客人がやってきた、そんなある日のお話・・・・・・

悠久幻想曲 Perpetual Due 2nd Album

「雪のブルーフェザー」

1st Day

春河一穂


「おっはよぉ!!」
「おはよー、ゆんちゃん!!」

中等部校舎入口でトリーシャに会う。トリーシャも今日は出校だ・・・・・
・・・・・補習の為なのだが・・・・たぶんリカルドは知らないことだろう・・・(笑)

「んもぉ・・・毎日毎日補習で嫌んなっちゃう・・・・」
「そりゃ後期考査でトリーシャが赤点取るのがいけないんじゃない!!」

「だってボクは愛の戦士トリーシャなんだよ!!愛ある限り悩める人を・・・・」
「はいはい・・・つまり、勉強せずに遊び回っていたと言うことだね・・・」

(ぎくっ)

「あ・・・・あははははは・・・とと・・とりあえず、またあとでね・・・・」

大粒の汗をたらたらとたらしながら小走りで入っていくトリーシャをゆんは呆然と見送っていたのだった。

                       ★   ★   ★  


その頃、祈りと灯火の門に併設されたマリエーナ王国鉄道エンフィールド駅。
そこに降り立つ一行・・・・
彼らはレミット姫やマリア達の招待により、遙か南の異国からはるばるこのエンフィールドまでやってきたのである。

マリエーナ王国のある大陸のはるか南方の大陸リュクセーヌ、その港湾都市シープクレストの魔法対策課、
通称ブルーフェザー隊。その面々がここにいるのである。

「・・・・まさかとはおもったがこんなに寒いなんてなぁ・・・・」
「ルシードったら・・・・寒がりなのね・・・・」
「にしてもさぁ、一面真っ白じゃない!!シープクレストでは考えられない景色だね!!」

「そりゃそうさ、だってここは北の大陸だからね・・・・ふぁ・・・・ふぁっくしぃ!!!」

勢いよくくしゃみをし、鼻をぐずぐずいわせているルシードである。
やはり南国の民と言うことでこの寒さはどうにもならなかったようである・・・・

「ここに来れば、魔法に触れることが出来るってあの子達言っていましたよね・・・・・」
「そうだね・・・ここに滞在する間、しっかり触れておこうと思う。これからの国際化の時代、
何がおきるか解らないからね・・・・」
「ルシード隊長・・・・・・・」

かなり冷え込んだ大気の中、ブルーフェザーご一行はぶるぶる震えながらもエンフィールドへの第一歩を
踏み出したのである。
自警団が魔法犯罪対策の研修と言うことで、経験のないブルーフェザーを魔法事件が頻発するこの
エンフィールドへ招いたらしかった。

「あ・・・君がルシード君だね、ブルーフェザーの。」

ひとりの青年が一行の前にいる。

「僕は幻想。このエンフィールドの自警団で主に苦情処理を行っている。ようこそ、エンフィールドへ。」

幻想がさしだした手を、ルシードはしっかりと握った。

                       ★   ★   ★  

「ということで・・・・うちも元はお荷物部隊だったんだよ・・・・・」

さくら亭にルシードと幻想の姿があった。

「お互い、ここまで境遇が一緒だと・・・・なにか感慨深いものがあるなぁ・・・」

和気相合と談話するルシードの隣で、ちびちびとフローネがアイスティをすすっている。

「・・・・・ところで、誰かティセは見なかったか?」

ルシードが面子が足らないのに気が付いてメルフィにたずねた。

「ティセなら、シェールとルーティを連れて市街地に向かったわよ。隊長がお話になっている間にね。」

「・・・・・・・マジか?大丈夫だろうか・・・・よりにもよってうちの問題児達だしなぁ・・・・・・」

大きなため息を付いたルシードを見て、幻想が心配そうに

「・・・・・・・・どうかしたのか?」

と聞いたが、ルシードは

「・・・・・・・・何でもない」

と、魔法犯罪の実態についての会談を再開させたのである。

                       ★   ★   ★ 

「なんだかんだで抜け出して来ちゃったけどいいかなぁ・・・・・」

白い息をはずませて少女3名、疾走中である。
ちょっとエスケープに心配になったシェールが言った。

「ん?ああ、大丈夫。後で宿舎にさえ戻れば、何やったって結果オーライ!!」

お気楽にルーティが言う。

「ごしゅじんさまぁ、おこってないですかぁ・・・・・・・・」

ルーティの発言に心配になったティセがつぶやく。

「大丈夫だって・・・・あ、あそこの建物・・・・学校じゃない?」

「マリエーナ王国でも有名な学校・・・・エンフィールド学院のハズだね・・・・。」

手元のアンチョコを見ながらシェールが言う。

「学校かぁ・・・・エンフィールドは授業で魔法を教わっているそうだよ。」

「まほう・・・・みてみたいですぅ」

「賛成!!覗きに行こうか!?」

3人はムーンリバー沿いを東に進んでいった。

                       ★   ★   ★ 

「待って!!あれ、可愛い!!!!」

何でも屋の前で、子犬のような・・・みかん箱の上に乗っている2足生物を見かけたルーティが言う。

「ここ・・・・何でも屋だって。『ジョートショップ』って書いてあるよ、看板。」

シェールが説明して周りを見ると誰もいなかった。
見るとルーティとティセがその生き物(テディ)の近くへ駆け寄っていたのだった。

「あ・・・・いらっしゃいッス。ジョートショップに御用っスか?」

「・・・・聞いた?言葉が話せるよ!!これ凄い!!こういう生き物、シープクレストにはいないよ?!」
「ほんとだ・・・・ふしぎですぅ・・・・」

「ひょっとして・・・・・・自警団のお客様の方ッスか?はるばる海の彼方の異国から来たという・・・・」

「そういうことになるかな、あたし達。」

「そうっスか。だったらご主人様に会うっス。悠久さんやエミルちゃん、魅緒ちゃんにも会うといいっス。
きっと皆さんなら仲良くなれるっス。ボクの名前はテディっス。よろしくっス。」

三人の少女にテディは笑顔で提案した。自己紹介も忘れない。

「エミルちゃんに・・・・魅緒ちゃんって?」

「エミルちゃんはご主人様の親友の方の娘さんっス。魅緒ちゃんは悠久さんの妹っス。
勉学のため、ここエンフィールドに来ているっスよ。」

「テディさん、勉学のためにエミルちゃん達はエンフィールドに来たって言ったよね。
ってことは、魔法の資質があるって事、エミルちゃん達は?」

シェールが言うと、テディは自信ありげに答える

「そうっス。かなりの資質があるらしいっスよ。」

テディの言葉に、そっとうなづくシェールだった。

                       ★   ★   ★ 

「ゆんちゃん、ようやくまとまりましたね。」
「うん、セリーシャが手伝ってくれたおかげ。以外と早くまとまったよ。」

 図書室を出てきたゆんとセリーシャ。
トリーシャは大丈夫だろうか・・・ま、何とかなるでしょ。
と、頭の中で考えたりもした。

「ここがエンフィールド学園かぁ・・・・・・」

 シープクレストの少女達はここで行動を2分する。
シェールはひとりエンフィールド学園にやってきた。
ティセとルーティはジョートショップから魅緒とえみるによって別行動中だ。
ひとり見知らぬ街を彷徨ってみるのも面白いのだろう・・・・・・。

 そう考えながらも降り積もった雪を踏み、学園の中へと足を運ぶ・・・・

 と・・・・出逢いは突然に起こるものである。

「だああああああああああああっしゅ!!!!!!」

 元気な声が彼方から聞こえたかと思うと、シェールによく似た少女が突っ込んできた。
走って突っ込んできたのではない。低空、しかも地面ぎりぎりを飛んできたのである。

 シェールに考えてる余裕なんて微塵もなかった。自分そっくりの少女が突っ込んできたのだ!!

「やばい・・・・・」

とっさに転回して駆け出すも、全開のマリアの魔法に間に合うわけがない。

 学園校庭に雪の柱が一本、盛大に吹きあがったのである。
もちろんこれは、シェールとマリアの衝突に寄るものである。

「あ・・・・いったぁ・・・・・・・・・・・」
「いったぁ〜〜〜〜〜〜〜〜い・・・・・・・」

 共に頭を抑えていたが、しばらくして互いの存在にはたと気付く。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 マリアがじっとシェールの顔をのぞき込む。

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 シェールもマリアの顔をのぞき込む。

「あ・・・・・・マリアがいる・・・・・・・・・」
「あたしがもう一人いる・・・・・・・・・・」

二人は互いにじっと見つめ合っていたのだった。

「おみみ・・・・・・ぴくん・・・・・」

小さな耳がぴくぴくっと動いた。
少し怯えた様子の女の子がマリアとシェールを校舎の影からじっと見つめていた。
更紗である。
由羅と同じライシアンである。既知の2人目のライシアンと言うことになるだろうか?
じっと更紗は二人の様子を見ていた・・・・・・。

「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」

じっと見合ったまま動かない。

むにぃ・・・・・・・

突如マリアがシェールのほっぺを引っ張った。

うにゅぅ・・・・・・

シェールもふにふに言いながらもマリアのほっぺを同じように引っ張った。

二人は同じ事を思った。

「痛い・・・・・・」

夢でないことは確定のようだ。
前フリががなり長いような気がするが気にしないで欲しい。

                       ★   ★   ★

「ゆんちゃん・・・・」

そんな校庭を見下ろす場所に位置する物理魔法科中等部1年の女子トイレ。
とにもかくにもカントリー調でまとめられた内装を持つ、ちょっと普通でない
生徒用のトイレ・・・・・。その入り口でゆんの愛機を片手に、出てくるのを待っている
セリーシャであった。

ど〜〜〜〜〜〜〜〜ん・・・・・・・・・

校庭の方から大きな音が響く。

大きな窓の外が真っ白な雪の間欠泉で覆われる。

もちろん校舎だって思いっきり揺れるわけで・・・・・・

「ほぇほぇほぇえぇ・・・・・・・?!」

扉の閉じた個室からゆんの悲鳴が上がる。
がたごたといった音が個室内から聞こえているみたいだ。
ゆんは和式派なのでバランス崩して個室内を転がっているんだろうと
セリーシャは確信していた。

それから10数秒。水の流れる音のあと、へろへろと扉の中からゆんが
はい出てきた。

「な・・・・・なんなのぉ!?」

あちこちにバツの字テープをひっつけての登場である。あちこちぶつけたね(笑)

「わかりませんわ。校庭の方で何かあった様子ですの。」
「とりあえず・・・・行った方がいいのかなぁ・・・・」
「そうと決まったら善は急げ、ですね!!」

ゆんとセリーシャは一気に階段を駆け下りるが、足がもちゃかりそうだったので
小声でエアリエルウイングを詠唱し、そのまま軽く飛び上がる。
セリーシャと共に中に少し舞い上がったまま一気に下駄箱を目指した。

ゆんとセリーシャが目撃したもの、それはうず高く積もった雪山に突き出した足2つだった。
実はあれからシェールとマリアが組み合ってごろごろしたため、ずぼっと深みにはまったことは
言うまでもないだろう。ま、マリアのやることはそんなもんである。
(マリアファン、ごめんなさい。)
その独特の靴から、一人は明らかにマリアであることはゆんとセリーシャの二人には
すぐに理解することが出来た。そこから導き出される結論・・・・・・・
それはマリアの高速飛行呪文で誰かをはねたということである。
不幸な犠牲者は果たして誰なのであろうか?

もう一つの足にセリーシャが駆け寄る。

「だ・・・大丈夫ですの?」

声をかけるとそれに答えるかのように、足がかすかに動いた気がする。

「ゆんちゃん、この方、意識があります。助けてあげませんか?手遅れになる前に・・・」
「マリアの犠牲者だからね・・・・そりゃ助けないと・・・・・」

ゆんもセリーシャの元に駆け寄る。
息を合わせて引っ張るには女の子では力不足だ。
ゆんが小さな声で呪文を詠唱する。胸元の魔導石「マナ・ブースト」が輝きを増す。

『ストリーム・フェザー!!!』

疾風が巻き起こり、雪が宙へと巻き上げられる。
ぽろぽろとその人物を覆う粉雪が落ちていくと共に現れる姿。
それを見てゆんとセリーシャは自分の目を疑った。

マリアがもう一人いた!?
しかし、確かによく似てはいるがマリアとは違うようだ。
服も微妙に違っているようだ・・・・・。

魔力をコントロールして、マリアも掘り出す。
こんな寒い場所に長時間埋もれていればかなり体力的に堪えるだろう。
ゆんは二人をとりあえずは寮の自分の部屋へと運ぶことにしたのだった。

「・・・・・・・・・しっぽ、ぴかんっ!!!」

その様子をみていた更紗だったが、あわててゆん達の後を追いかける。
真っ白な新雪の上に足跡が3つ、女子寮へと続いていった。

                       ★   ★   ★ 

雪のローズレイク湖畔。厚く湖面を覆っている氷上では、多くの子供達がアイススケートに興じている。
とはいえ、湖畔から15メートルの地点をぐるっとマーカーが、まるで輪のように設置されている。
ここより先は氷が薄いことが想定され、最悪の場合水面下へと落ちる恐れがある。
そのための立入禁止マーカーと言うわけである。

「はいはぁーい、大丈夫ぅ?!」

幅15メートルのオーバルトラックを軽快にとばす魅緒。まるで風のように、一気に速度を上げる。

「ちょっと・・・・魅緒ちゃん速すぎるよぉ・・・・」

それを必至で追うエミル。

「もう少しゆっくりすべろうよ。お客様もいるんだからぁ」

ファーム園芸店の看板娘ぽぷりが、ティセとルーティに並んで滑走しながら言う

「ごめんごめん・・・・久しぶりだから気合い入っちゃってね・・・・・」

くるっとターンをして魅緒はぽぷりの元へ向かう。

「何かさぁ、魅緒ちゃんだけが盛り上がってるみたいね。」

ざしゅっと音を立ててやってきたのはローラである。
ローラは孤児院の子供達と一緒に来たのである。セリーヌと一緒に・・・・・・・・・そう、セリーヌと

「・・・・・・・・・・・ローラお姉ちゃん、孤児院の子供達連れてきているんだよね・・・・・」
「そうよ、そうなのよぉ〜〜〜〜〜」
「セリーヌさんも一緒?」
「もっちろん!!!」
「・・・・・・・・・・大丈夫、セリーヌさん?」

・・・・・・・・どきっ

何かとてつもないくらい大きな不安が一気に全員(シープクレストのお客さんを除く)をつつみこむ。
どっかでぶっ倒れているか・・・・薄い氷に乗ったが最後、割れて水中飛行・・・とか、ありとあらゆる
最悪の事態が駆け回っている。

「はああああああああああい・・・・・・・・・・・」

そこへ、噂をすれば影。セリーヌがつーっと目の前を通過して・・・・・・・いってしまった。
止まることなく反対へとどんどん離れていく。

「セリーヌさんって・・・・・・・・止まり方、知ってる?」

心配そうにエミルが聞くと、ローラは胸を張って

「んなもん、知ってるわけないでしょ?方向&運動おんちのセリーヌだもん・・・・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

沈黙がずっしりと包み込む・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

どれだけの時間が過ぎただろう、ふいに魅緒が叫ぶ。

「じゃないでしょ!!ということは、セリーヌまったくスケート出来ないんじゃない!!」

同時に氷を蹴り、加速を付けてセリーヌを追う。エミル、ぽぷり、ローラもあとへ続く。

「ったく、ローラお姉ちゃんはセリーヌさんのお目付役でしょ?何で見ていなかったの!!」

「ラヴを求めていたんだもん。いいじゃない・・・・・・」

「いいじゃない・・・・じゃないって!!セリーヌさんにもしもの事があったらどうするの?」

年下に説教されるようではローラもおしまいというものである。

「ほっといてちょうだい!!」

「ほらほら、魅緒ちゃんにローラお姉ちゃん・・・・ケンカはやめようよ・・・・・ほら、セリーヌさんに追いついたよ!!」

軽快にとばす3人はようやくセリーヌに追いついた。

「魔法でスピードを相殺する。ぽぷりちゃんはローラお姉ちゃんと周りの人をちょっと非難させてね。」

「ねぇ、魅緒ちゃん、エミルはどうすればいいの?」

「あたしの補助をお願い。エミルちゃんだけだよ、あたしと同等の魔法が使えるのはね。じゃ、いくよ!!」

ズシャッ!!!!

急制動をかけ、魅緒とエミルは疾走してくるセリーヌに向かい合う。間合いはぐんぐん迫ってくる。
小さな口から2つの可愛らしい声で紡ぎ出される言葉は、紡ぎ手の素質と共鳴しあい、力が産まれる。
小さなそよ風からつむじ風、やがては疾風へと大気がうねり出す。

「ヴォーテックス!!!」

二つの声が一つに重なった。

基礎的な物理魔法ヴォーテックス。とはいえ、威力はかなりのものだ。
二つの気流の螺旋が絶妙に絡み合い、威力を適度に保ったまま、セリーヌを受け止める。
ゆっくり・・・そして慎重に魔力を調整する。ダメージを与えない程度に・・・・・・

「もうちょっと・・・・・・・・・・・・」

いつになく魅緒は真剣だった。小さな体から紡ぎ出される強大な魔力を調整するのだ。
ちょっとでも気を抜けば、たちまちその魔力は牙を剥き、大きな竜巻が全てを呑み込んでしまうことだろう。
それだけは避けたかった、何としても・・・・・。

「魅緒ちゃん・・・・・・・もう少し。あとちょっとだけパワーセーブしてみようよ」

さらに慎重に魔力を絞ってゆっくりとセリーヌを停止させる・・・・・
気流の螺旋もゆっくりと威力を落とし、すっと宙に溶けていった。
ここへ来て、ようやく魅緒はほっと胸をなで下ろした。

「よかったぁ・・・・もぉ、無茶はあれほどしないでって言ったのにぃ・・・・・」

心配して駆け寄るローラと子供達・・・・・

「はぃ・・・・・・!?」

状況が把握できずに氷の上、セリーヌはただただきょとんとするだけだった。

「ねぇ、ローラお姉ちゃん・・・・今から学校のゆんお姉ちゃんとこに、ゲーセンでも行かないって誘いに行こうよ・・・・。」

一段落付いたところでエミルが提案した。
ま、それも悪くないかなぁ・・・・・・そう思ったローラだった。

                       ★   ★   ★

「・・・・ということで、何でも屋のジョートショップの面々に話を聞かれるといいですよ。
彼らはかなりの魔法を持っています。僕たち第3部隊と同等・・・・いえ、それ以上ですよ。」

さくら亭では幻想とルシードがまだまだ長話中だった。
とそこへ、カウベルが軽快に鳴り渡る

「いらっしゃい・・・・・・・あ、リカルドさんね。今日は何にする?」

パティが声をかける。その相手は自警団にその人有りと言われる第一部隊隊長、リカルド・フォスター
そのひとである。

「ああ・・・・いつものを幻想君がいるテーブルへ頼むよ。」

そう言ってルシードと幻想のいるテーブルにつく。

「ルシード君、どうだね?エンフィールドについて何か解ってきたかね?
・・・・紹介が遅れたが、私は自警団第一部隊隊長、リカルド・フォスターだ。
幻想君の上司でもある。」

「はい、隊長。だいたいの魔法犯罪に関することの説明が済んだところですよ。」

「うんうん・・・・・幻想君に任せて正解だったな。」

「わかりやすいお話でした、リカルドさん」

ぽんと幻想の肩をたたくリカルド。

「はい、リカルドさん。いつものやつよ。」

パティがテーブル上に濃いめのコーヒーを置く。

「ああ・・・・ありがとう、パティちゃん。」

「ルシード君、あのパティって子もジョートショップの一員なんだ。彼女は主に肉弾戦向きだけどね」

男達の懇談はまだ終わることがないようだ・・・・・・
疲れたのか、メルフィーらブルーフェザーの面々の残りは2階の宿の方へと引き上げていた。
ルシードそして幻想は、いつの間にかリカルドの武勇伝に聞き入っていた・・・・・


                       ★   ★   ★

エンフィールド学園女子寮の4階端に位置するゆんの部屋。
ファンヒーターが温風を吹き出す音だけが静かに室内に響いていた。

ゆんのベッドに横たえられているシェール。
暖かな毛布を掛けられてすやすやと寝息を立てている。

「ねぇ・・・・・ゆん、大丈夫?」

「まぁね・・・・詳しいことは解らないけど、ひとまずやれるだけのことはやったんだ・・・・・」

「お客さんをぶっ飛ばすなんてマリアらしいね・・・・・気を付けなきゃ駄目よ。」

澪乃がマリアに言う。

「・・・・・マリア、悪くないもん・・・・・・」

「はいはい。膨れていないで、トーヤ先生を呼んでいらっしゃいな。」

マリアをトーヤ先生の元へ使いによこして、ふと澪乃は小さな人影に気がつく。

「・・・・・・怖がっていないで、こっちにいらっしゃい、ね。」

ふぁさ・・・・・・

小さくて繊細な尻尾が動く。物陰からぴくぴくっと耳が動く。

ぴくぴくっ・・・・・

おそるおそる顔を覗かせる。小さな頭のリボンが揺れている・・・・・・
怯えながらも出てきたのは可愛い女の子だった。
ちいさな耳に毛を充分に纏った尻尾・・・・・。特徴的なその姿はどこか
誰かを思わせる・・・・・・。

「怖がらなくてもいいんだから・・・・・・・・ね。」

なおもその狐耳の少女は怯えていた。

(怖がっているのね・・・・・・・・)

澪乃が狐耳の少女と必至にうち解けようとしているとき、ゆんは付きっきりでティセを手当てしていた。
と、そのとき。ベッドの中のシェールがわずかに動いた。

「何とか生きていたみたいだね・・・・・・」

「その言い方、マリアちゃんが最終兵器みたいな感じにとらえられますわ、ゆんちゃん。」

「え?違った?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「とにかく、シェールちゃんはわたくしに任せて、ね。」

「うん・・・・・・・・・・・」

ゆんがベッドルームを出る。疲れを癒すために、続き部屋になっている姉の部屋のベッドを借りることにした。

ちり〜ん・・・・・・

ゆんの部屋の呼び鈴が鳴り響く。

「あ・・・・はい・・・・どちら様ですか?」

ゆんが仮眠中なので澪乃が応対する。

「ジョートショップの魅緒とエミルです。ゆんお姉ちゃんにご用があったんですけど・・・」

「ゆんは少し寝てるけど、すぐに起きるから、中に入って待っていなさいね。」

澪乃はエミル達を招き入れた。

「にしても今日は多くのお客さんが来るのね・・・・」

魅緒とエミルに、ローラ、ティセにルーティ。ちょっとした団体さんだ。

「あ・・・・・更紗ちゃんじゃない。どうしたの?」

ルーティが驚きの様相で言う。

「この子、学園校舎に行っていたゆんについてきたみたいなのよ。
一緒に女の子も連れてきたけど・・・・」

「・・・・・しぇーるちゃんですぅ・・・・・きっとぉ・・・・・・」

ティセの予感は的中していた。ルーティが慌ててベッドに駆け寄ると、
そこにはシェールが寝かされていた。

「だ・・・・大丈夫?シェール!!」

「心配ありませんわ。マリアちゃんと正面衝突されただけですから・・・・・」

セリーシャの説明を聞いてもなおも不安なのだろうか、駆け寄るルーティ。

「ん・・・・・・んんっ・・・・・・・・・・・・・」

タイミング良く、シェールの意識が戻りかけたその時、

「トーヤ先生をつれてきたよっ!!(ディアーナもいっしょだけど)」

マリアが戻ってきた。


「・・・・・・・・・・・シェールが二人いる・・・・・・・・」

ルーティは呟いた。
たしかに、マリアとシェールは9割方うりふたつだ。髪型と服装さえ統一すれば、
絶対に見分けはつかないだろう。

「違う。そいつはマリア・ショート。ショート財閥令嬢にして、この街いちの問題児だ。
で、その問題児に正面衝突された、異国の客人は彼女か?」

ベッドに寝かされているシェールを見つめ、トーヤが言う。

「もぉ・・・・マリアさんもちゃーんと前方を見て魔法使わないとダメですよ。」

ディアーナがそう言いながらも手際よく往診準備に当たる。

                       ★   ★   ★

「・・・・・うむ。奇跡的に軽い打撲だけで済んでいる。マリアに全力で突っ込まれたにもかかわらず、だ。」

シェールを検診したトーヤは、そう結論付けた。
シェールの意識がようやく戻り、彼女はゆんのベッドの上で上体を起こしていた。
それを取り巻くように、ゆん、セリーシャ、澪乃、魅緒、エミル、ぽぷり、マリア、更紗、ルーティ、ティセ、ディアーナ
トーヤが見守っている。

「こ・・・・・ここは?あたし・・・・確か学園にいて・・・・自分そっくりの子が飛んできて・・・・ぶつかって・・・・」

「そしてそこにいるゆんがおまえをここへと運んできたのだ。ここは学園女子寮のゆんの部屋だ。」

状況を把握しようとするシェールの言葉を補うかのように、トーヤが付け加える。

「おまえの仲間も心配して来ているぞ。」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「とにかく無傷で済んだのは奇跡だな。あと半刻もあれば動けるようになる。
さくら亭の宿に早めに戻ることだ。」

トーヤは道具を片づけ始めた

「俺は病院へ戻る。多くの患者が待っているのでな。
ディアーナ、おまえが今日一日彼女についてやれ。」

「え・・・ええ〜〜〜〜?先生、お手伝いは?!」

「おまえがいると診療に支障をきたすのでな・・・・・。いつものことだがな。」

「そ・・・・・そんなぁ・・・・・」

ディアーナの一言にどっと笑い声が巻き起こった。

                       ★   ★   ★

トーヤが帰った後も来訪者があった。
ふたつ下の階に住んでいるシェリル、そして補習の終わったトリーシャ、
お茶菓子を持って遊びに来たクレアに、ケモノ師のまるにゃん妹・・・・
エンフィールドの住人達が入れ替わりやってきたのだ。

そして・・・・・・

ちり〜ん・・・・・

呼び鈴がかすかになる。

「ゆんお姉ちゃん・・・・・・・・」

かすかに・・・・・小さな声がする。
男の子のようだけどどことなくか弱い声・・・・・

扉を開けて入ってきたのは薄紫色の髪の毛が綺麗な小さな男の子だった。
ゆんの片想いの君こと、エンフィールド有数の財閥、バクスター家の子息、
リオである。その後ろには双子の妹、ミアの姿もある。

「今日、シープクレストのお客さんがこの街に来てるって言うから、みんなで歓迎会やろうって
お父さん達が決めてね、その事をゆんお姉ちゃんに言いに来たんだけど・・・・・」

「・・・・・そのシープクレストのお客さんなら、数人ここにいますよ・・・・」

澪乃が言うと、ルーティ、ティセ、シェールの3名がリオ達の元にやってきて挨拶した。

「どうする?ゆんお姉ちゃん達・・・・」

「どうするもこうするも、お祭り騒ぎがあってこそのエンフィールドじゃないのさ。
熱烈歓迎しようよっ!!」

「でもこんなに大人数がここにいるわけだし・・・・・」

ミア、ゆん、セリーシャがそれぞれに言ったあと・・・・・

「数グループに別れようか。」

ゆんの提案に全員が頷く。

「セリーシャにミアちゃん、エミルちゃん、魅緒ちゃん、クレア、澪乃お姉様は先行お料理隊として
動いて欲しいな。ジョートショップでアリサさんに段取りを聞いて欲しいってリオくんが言っているからさ、
そこで指示を受けてということ。美味しいお料理でもてなしてあげようよ。
トリーシャにシェリル、マリア、ぽぷりちゃん、まるにゃんさん、ディアーナは先行設営隊。飾り付けをしてね。
あたしとリオ、そして今エンフィールドに戻っているシーラさんで時間まで街を一回りエスコートしてくるからさ。」

連絡用の携帯念話をポケットにしのばせて3つのグループは散っていった。



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