「悠久幻想曲PerpetualDue 1stday(後編)」
春河一穂
(MAIL)
(前編からの続きです。前編をまずご覧になって下さい。)
「ということで、パティちゃんらの協力を得たので、手作りのお料理でおもてなししたいですわ。
皆さんの自慢の料理でおもてなししましょうね。あと、セリーヌさんも加わって下さいますわよ。」
ジョートショップの厨房で料理班のミーティングが行われていた。
「なら安心ですわね。わたくし達はそれぞれの家庭料理でおもてなししません?」
「セリーシャお姉ちゃん、名案ですぅ!!」
「そだね。親睦会以来かな?家の味を作るのは・・・・・」
「んじゃ、みんなで協力して支度しない?」
「賛成!!」
子供達の声が一つになる。
「そうと決まったら、早速準備した方がいいっスよ。不肖、このボクもみなさんに協力するっス。」
テディもむねをはって答える。
「じゃ、アリサさん、お台所借りるよ・・・・」
ばたばたと足音がジョートショップの奥へと消えていく。
がたがた・・・・かちゃかちゃ・・・・
道具を出す音と食材を包装から解く音が少女達のおしゃべりに交じって聞こえてきた。
「・・・・・ご主人様ぁ・・・・いいっスか、魅緒ちゃん達に任せて・・・・」
アリサとテディ、二人だけのジョートショップ店舗。
「大丈夫。あの子達ならね。クレアちゃんにセリーシャちゃんがついてくれているから安心よ。」
「それもそうっスね・・・・・ご主人様。」
アリサがテディと話しているその向こう、台所からは子供達の悲鳴やら卵の割れる音などが、ひっきりなしに
続いていたのだった・・・・。セリーシャにクレアの二人の負担もかなりのものになりそうである。合掌。
★ ★ ★
いつの間にか外は暗くなっていた。
ジョートショップの台所は戦場さながらだった・・・・・と思いきや、以外や以外、それほどは酷くなかった。
あとはオーブンで火を入れるだけとなった料理の皿が数多くテーブルに並べられていた。
「かなりの修羅場だったけど、よくできました。」
「そうだよね・・・・・あとはこれをさくら亭に持って行くだけ・・・・でも、新市街までは遠いよね。」
幻想が自警団第3部隊を再建して一年。エンフィールド再開発計画により、ローズレイク南岸一帯に新たに
新市街がうまれた。従来のエンフィールド市街、旧市街の主要施設は新市街へと移転し、現存するのは
ジョートショップ、学園と3つの邸宅、日の当たる丘公園、由羅の家ぐらいである。
新市街の南の方にある新さくら亭まで車を使って数分。自転車でも十数分だ。
そこに外からクラクションの音がする。
「みんな、悠久クンが料理とみんなの送迎を引き受けてくれるそうよ。外に車をつけてあるわ。」
「アリサさん、ありがとうございます。さぁ、みんな、悠久さんの車にお料理を運びましょう。」
アリサさんに促され、悠久の愛車である、ホワイトパールのミニバンに料理を積みにかかった子供達である。
お魚のパイに子羊のロースト、きのこのグラタンにリゾット・・・・・果実のケーキ・・・
かなりの品数だった。
で、少女4名を連れたゆんはというと・・・・・・・・
ノリノリの様相でMMR(マジック・マジック・レヴォリューション)をプレイしていたのである。
しかもアナザーモードで・・・・・(笑)
何故か筐体にメモリーカードが刺さっているのはご愛敬。学校の筐体とのリンクバージョンと言うことなのだろう。
「このゲームはね、魔法のトレーニングと能力開発のためにつくられたゲームなんだよ。
何でも、フィリーという妖精連れてる、久遠さんっていう人のいた世界にあるゲームと似てるんだって。」
ダンレボの事か(笑)
とか何とかいってる間にも華麗に魔力を調節し、ゆんは最終課題を難なく成し遂げた。
「とまぁ、こんな感じ。このようにこの街では魔法教育に力を注いでいるんだよ。
マリエーナ王国でも著名な魔法学校だしね、エンフィールド学園は。」
「シープクレストでは魔法が使えるって事は異端視されていますからね。
このように楽しみながら鍛錬できるのって羨ましいね。」
「エンフィールドもシープクレストみたいに近代化してるんだね。」
「そうですわ。数年前に雷鳴山の火山熱を利用する『雷鳴山地熱発電所』が完成し、
一気にエンフィールドが電化されて便利になりましたもの。
ローズレイク付近には浄水場と下水処理施設もありますし・・・・・・」
ゆんが筐体から離れると、今度はセリーシャが筐体に向かう。
学生証と兼用された記録カードを筐体に挿入すると、ゲームを開始させる。
「次はセリーシャ。セリーシャもあたし以上の魔力の持ち主なんだよ。」
ゲーム(魔法ジャンル別の)モードは、挿入された記録カードまたはメニュー操作で決定される。
ゆんのように物理魔法のような攻撃系メインだと「エクストリーム」という運動主体のゲームモード、
セリーシャのように精霊魔法のような補助系だと「マインド」という知力主体のモードである。
アピール性から言うとエクストリームモードである。
マインドは、リズムとパターンを覚え、的確にコントロールさせるエクストリームとは違って、さらに的確な制御や
カルト級の知識、記憶力が要求される。
筐体のパネルをぽんぽんと叩いているセリーシャを見ながら、アレは何?とゆんに聞く。
「あれが記憶力テスト。30以上の魔法構成要素を順番に、間違えずに答えるんだ。
セリーシャが得意なゲームなんだよね・・・・・」
ゆんの説明を聞きながら、なんとなく解ったような気のするルーティであった。
まだ、さくら亭へ向かうまで、30分の余裕があった。
★ ★ ★
「・・・・・・・・ここはどこなんでしょぉ・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
ティセと更紗は迷子になっていた。
エレイン橋のたもとにぽつりと二人きり。
「・・・・・・・・ふみぃ?」
「・・・・・・・・おみみ・・・・ぴっくん」
更紗の耳が動いた。背後の方から声がしたみたいだ。
振り返ってみると、桃色の髪をポニーテールにした、ねこみみ・ねこ尻尾、
ねこ手にねこ足の少女が心配そうに見つめている。
由羅の買い物帰りのメロディだった。
「なんかゆらおねえちゃんによくにたかっこうですぅ・・・・」
じっと更紗を見つめながらメロディが呟く。
確かに、同じライシアン族なのだから、外見上の特徴は更紗も由羅も同じである。
「・・・・・・・あなたはだれなのぉ?」
ティセが小さな声で言う。
「めろでぃだよぉ。ゆらおねえちゃんといっしょにすんでるのぉ!!!」
ねこみみの少女がそう答える。
「まいごに・・・・・なっちゃったんですぅ・・・・・・」
「ふみぃ、まいごさんですかぁ・・・・・・」
事情をメロディになんとか話したティセであったが・・・・
メロディのお花畑な思考では結局どうにもならなかったのであったが・・・・・・
そこに救いの手が差し伸べられることになる。
「・・・ロディ〜、メロディはどこぉ〜?」
女性の声が近づいてくる。
「あ・・・・ゆらおねえちゃんだぁ・・・・」
遅いことにしびれをきらせて、ついに出迎えにやってきた由羅である。
エンフィールド唯一のライシアンである。
その由羅がメロディの側にいる二人の少女に気付いた。
一人はねこみみではない、エルフ耳のメロディ
もう一人は・・・・・キツネのようなしっぽにお耳・・・・・・
「おみみ・・・・ぴっくん」
更紗の耳が動く。すると・・・・それに呼応するかのように
「おみみ・・・・ぴっくぅ〜ん」
由羅の耳も反応した。
「ねぇ・・・・ひょっとしてあなた、ライシアンなの?」
由羅にずいっと迫られて質問され、こくこくっと首を小刻みにたてに振る更紗。
「なるほど・・・・同族に逢ったのはここに来てからは初めてね。実はあたしもライシアンなのよ。」
と言ってふわっと裾を浮かせると中から繊細で大きなキツネの尻尾が現れる。
「つまり、あなたたちはシープクレストから来たお客さんで、ゆんちゃんと一緒にエンフィールド見物してたら、
いつの間にかはぐれて迷子になっちゃったと言う事ね?」
「そうですぅ・・・・・・」
ティセが言う。それを聞いた由羅は暫く考え込んでいたが、
「ま、悩んでたって始まらないでしょ?この由羅お姉さんがみんなのとこに連れていってあげるわよ」
と、ぽんとティセの肩を軽く叩いて言う。
「どっちみち、私もこの歓迎パーティに招かれていたんだしね。目的地同じだからね。
んじゃ、お二人さん、行くわよ。メロディも一緒にいらっしゃいな。」
「わかったよぉ、ゆらおねえちゃん!!」
由羅とメロディ、そして2人の子供達がさくら亭に向かいだす。
再び銀色の空から粉雪が舞いだす。
音もなく白い雪が降り続くエンフィールドの夕暮れ。
どことなく神秘的でどことなく懐かしい。
そんな冬の一日が暮れようとしていた。
さくら亭で宴が始まるまであと、ほんの十数分・・・・・・・。
ある意味、いつもと変わりがない、エンフィールドの一日だった・・・・・・。
が・・・・・・・・
どっご〜〜〜〜〜〜〜〜ん・・・・・・・・・・・
さくら亭から閃光がはしったのはそれからほんの数秒後の事だった。
「マリア、悪くないもん・・・・・・・本当だもん!!!!!」
と、黒こげの会場でマリアがわめいていたとかいないとか。
結局、エンフィールドに平穏な一日は似合わないという事である。
<続く>
次回予告
翌朝も雪が舞っていた。
昨日何があったのか・・・・エンフィールドの住人達が語る歓迎会の顛末。
そして、由良とっておきのおもてなしとは果たして何か?
2nd Dayは近日公開。気長に待ってね(笑)