中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「真の名」 久遠の月  (MAIL)
  悠久幻想曲   龍の戦史   第1幕   胎動

龍は夢を見る。時を越え、場所を超えた、運命という名の邂逅を。
龍は夢を食む。大切なものを守り、戦った日々を。
龍は夢に鳴く。かの一族の哀しいまでの業に。
龍は夢に想う。命の儚さ、遥かな時の移ろいを。
龍は夢に問う。彼の名のもつ重みを。彼の名が持つ真の意味を。


そして、龍は目覚める・・・。間の抜けた台詞と供に・・・。
「ここどこ?」

  〜after  3years〜

黒髪に黒曜石のような瞳を持ついかにも旅慣れた十七、八の青年が森の中に佇んでいた。
その顔は、街中なら、十人中八人程が振り向くだろう端正な造りをしている。
彼は黄昏ていた。これでもかという風に。彼の人生の中でも5本の指に入るぐらいの困った状況だった。金をケチるべきではなかったろうか?などと、いまさらながら思ってみる。所詮現実逃避だが。事の起こりは、先ほど立ち寄った町の乗合馬車に乗るか否かということだった。だが、彼の相棒の問題から無理だったりする。そもそも馬車を使う必要もなかったのだが。そして現在。荷物はなく、相棒もいない。日は暮れている。森の中である。 あまり歓迎したくない要素が見事にそろっている。旅なれた様子を感じさせるマントの下で彼はつぶやいた。
「さて、どうしたものか。」  

その日のエンフィールドはこの街の基準で平和だった。さくら亭では、客が多いわけではなく、パティは、夜の営業に向かっての仕込みをしていた。窓際では、シェリルが一生懸命書物をしている。リサが2階から下りてきてコーヒーを注文した。そこにカウベルの音とともにシーラが入ってきた。カウンターに座り、ホットミルクを注文すると、ほぅとため息をついた。
「どうしたの?またアレフに何かもらったの?」
「どうしてわかったのパティちゃん?まだ何も言ってないのに」
「シーラがここにきて、ため息つくのってアレフがらみの時だけだもの」
平然としたものである。タイミングよくというか、アレフとクリスがやってきた。アレフはシーラの姿を認めると、
「やぁシーラ。今日も素敵だね。君に逢えて嬉しいよ。今度の休みに劇場に行かないか?
などと誘っていたりする。そう、いつもの風景といっていいだろう。これから起こることに比べれば。
慌ただしい音とともに犬のような小さな動物が駆け込んできた。ジョートショップの未亡人アリサに仕えるテディである。
「大変っス。みんな手を貸して欲しいっス。」
「どうしたんだテディ?」
「行き倒れっス!怪我してるっス!街の外で男の人が倒れているのを見つけたっスよ。でも重くて僕やご主人様だけじゃ運べないッス。誰か手伝って欲しいっス〜!」
「分かった。案内しなテディ!」
駆け出しながらリサが言う。それにアレフが続き、引っ込み思案なはずのシーラ、シェリルも続いた。パティは、救急箱を持って、準備中の札をおろしてだが。
途中で追いかけっこしていたマリアとエル、好奇心の塊であるトリーシャ、ピートを巻き込んで、その場所に向かった。

その場所にいった一行はその行き倒れの凄惨さに目をそらしたくなるぐらいだった。
(これはやばいかもしれないね)
傷を確かめながらのリサの感想だ。着ている物は血に染まり、元の色が判別できなくなっている。横ではクリス、トリーシャが悲痛な顔で、回復魔法をかけている。
「はやくドクターのところに連れて行かないと」
アレフが常識的なことを言う。だが、リサには届いてはいなかった。
(いったいどうすればこんな傷ができるんだ?)
運んでる間中このことが疑問だった。

「なかなか興味深い患者だな」
手術の終わったトーヤの第一声がそれだった。
「とんでもない再生力だ。縫合した傷は一日もあれば跡も残らないだろうな。」
「ちょっとまて。そこの二人の魔法じゃそこまで治療できないんじゃないのか」
トーヤの台詞に噛み付くアレフ。それじゃ魔物の比じゃない。
「そうだな。あれはあの人物のもつ回復力だろう。正直信じられんよ」
一同は唖然としてしまう。どうやらずいぶん非常識な人物を拾ってしまったようだ。
「なんにせよ、今日は安静にさせるべきだろう。今日は帰ってまた明日来たらどうだ?」
その言葉にアリサを除く全員が帰っていった。アリサは彼の看病を買って出たのだ。

翌日、朝早く彼は目を覚ました。目を閉じたまま、状況を確認する。手、足、傷の確認、
人の気配、場所の把握。そして目を開いた。そこは知らない天井だった。
「どこだ、ここ?」
そうひとりごちてみる。だがそれには答えが付いてきた。
「目が覚めたのね。ここはエンフィールドのクラウド医院。私はアリサ・アスティア。
起き上がって大丈夫なの?」
「なんとか」
全くといっていいほど状況がつかめなかった。とりあえず無理やり納得した。
「それで、なんで、ここにいるんですか俺は?」
「街の外に倒れてたのよ。それでひどい怪我をしていたから。」
おっとりとそう返してくる。そこがそもそもわからなかった。何で怪我なんぞしていたのだろう?そういえばなんとなく体が痛かった。とりあえず彼はそのことを忘れることにした。結構いいかげんな性格らしい。
「とりあえず恩は返さなきゃな。どうしたもんだろう。」
怪我人である、いやあったことなど頭の隅にすらなかった。平気で無茶しそうである。
「私のところにこない?」
アリサはそう誘ってみる。テディと二人ではいささか寂しい。
「はぁ?」
彼はきょとんとして言った。話の飛躍について行けなかったらしい。頭の中で反芻し、意味を咀嚼しているらしく、何かぶつぶつと言っている。やがてようやく理解したらしく、
「いくらなんでもそこまでご迷惑を掛けるわけには行きませんよ!」
「子供はそんなこと気にしないの。」
彼女にとって彼はまだ子供になるらしい。
「せめて仕事ぐらい手伝わせてもらえませんか?」
これは予想していたらしく、あっさりうなづいてくれた。
「そういえば、まだ名前聞いてなかったわよね?」
「そう、ですね。」
彼はふとある光景を思い描く。そして告げる。
「ヒビキ。ヒビキ・トウドウです。」


こうしてジョートショップの居候が増えた。

そして騒動の元が生まれた。

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