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「エンフィールド最後の日」 久遠の月  (MAIL)
   悠久幻想曲   龍の戦史   第11幕   エンフィールド最後の日


風が弛む・・。風を継ぎし青年は悲しみと引き換えに神すら凌駕する力をその身に宿す。

炎が猛る・・・。炎を纏う少女は断固たる決意と供に闘いに身を投じる。

地が揺れる・・。地の加護を得た青年は勇気と供に仲間の盾となる。

水が騒ぐ・・・。水の少女は優しさを胸に風の青年の心を支える。

四人それぞれが、悲壮なまでの決意を胸に、自分に課せた唯一つのことを・・・・。



「・・・たわけ」
呟きと供に酔っ払いと化した中年の男性に踵落しを決め、周囲を見渡す。
アレフもあちらで一人張り倒したのか、酔っ払いの一人を床に転がしている。

「やれやれ・・・」
お互いに顔を見合わせて溜息をつくのも仕方ない。最近は自警団の動きがなぜか慌しく、その所為かエンフィールドに住むゴロツキ等の後ろ暗い連中が頻繁に騒ぎを起している。
それで現在さくら亭で暴徒と化した酔っ払いを退治していた。無論依頼などされてはおらず、たまたまそこに居合わせたというのが彼等の運の尽きである。

「景気良くやったな〜」
のほほんとしたヒビキが店内を見渡した。7,8人の人間が倒れているがテーブルや椅子などにはまったく被害はない。故にパティに怒られる心配もないのだ。

「お勘定、いただきますよ」
どうでもいいと言いたげなシンがゴロツキの懐から財布を取り出し、代金を貰っている。
アレフはそれを冷や汗を掻きながら見ている。

時間はすでに夜遅く、すでに一般の客の姿がないのが幸いした。目撃者がいないということだ。それを確信したのか、シンが酔っ払いどもをロープでまとめて縛り、夜の闇の中に引っ張って行く。それを見てアレフの冷や汗の量が増した。

「ただいまー。あれ?お客さんもう居ないの?」
「今さっき、な・・・」
アレフが平然と帰ってきたパティにそう答えた。といっても先ほど流した冷や汗はまだ見れば判る。
「で、シンは?」
アルバイトと称して情報の溜まり場であるさくら亭に居座るゴシップ好きの青年は今ごろ何をしているのかアレフは考えたくなかった。死体が出たといわれればまず真っ先にシンのにやり笑いが頭に浮かんだだろうから・・・。そのままアレフは黙ってさくら亭を出た。パティに乱闘騒ぎを起した事を隠し通すほどの自制が出来ないと悟ったからだ。
「さっき外に行ったよ・・・。何しに行ったんだか・・・・・・」
ヒビキが先ほどの乱闘を感じさせない声でそう言いきった。
それを鵜呑みにしてパティが眉を顰めながらカウンターの向こう側へ回る。

「まったく・・・。あのバカは何やってんのかしらね。それはそうとお留守番ご苦労様。これはオゴリってアレフは?」
そう言ってコーヒーをこちらに出す。滅多に見られない素直な対応だ。カウンターの席に座りカップを手にする。
「ありがと。アレフはさっき帰った」
「そ」
帰ったと言われれば他に答えようもない。食器を洗う水の音が店内に流れる。
「自警団が最近何やっているか判る?」
唐突に。黒曜の瞳がパティを真っ直ぐ貫く。一瞬見とれてしまった。

(な、何、今の?吸い込まれるような感じ・・・・?)
本人は知らず頬をわずかに染めている。
「じ、自警団ね?」
わずかにどもる。
「なんか最近第一部隊が何かしようとしてるらしいけど」
「第一、ね」
ヒビキは思考の中に潜る。
(リカルドがそうそう間違いを犯すとは考えにくい。だから妙な真似はしないだろう。あそこの団長はろくでもない事をしているが、リカルドには知らせないだろうから第一部隊本来の業務のはずだ。後はゴロツキどもを刺激する大掛かりな事・・・。どこかの侵略なら第二部隊がすでに住民に呼びかけるだろうから除外。ということは・・・?)
「・・・大規模な魔物の討伐・・・」
「え?」
突然そう声に出されて驚くパティ。洗物をしている手が止まる。
「今、なんて言った?」
「いやちょっとね。じゃこれで帰るよ。コーヒー美味しかった。ありがと」
そう少し微笑んで外に出て行った。店には顔を赤くし俯いた少女とそれを後ろから店の様子を見に出てきた男性のニヤニヤした笑いが残された。

余談だがこの日、シンは結局さくら亭には顔を出さなかった。


翌日のジョートショップで店員達とその雇主は妙な光景を見た。エル・ルイスが鋼鉄制の鞘に納まる、通常の長剣よりはるかに長く見える剣を担いで来たからだ。

「ヒビキ。頼まれてたもんだ。本とにあんたは次から次に面白い事を用意してくれるじゃないか」
差し出すものと受け取るもの。他の者は理解していない。何が面白いのか?
「娯楽を提供するために頼んだわけじゃないんだけど?」
そう言って苦笑する。

「ところでソレなんなんだい?」
武器に興味を示すリサだが笑って誤魔化しておく。ふと気付くとメロディが物珍しそうに見ている。ピートは、すっげ〜だのと瞳を輝かせている。そんな場面を微笑ましそうに眺めるヒビキ。
朱に交われば赤くなる。彼はもう引き返せない所まで来てしまったのかもしれない。


夜も深くなった頃、一人の男が夜の街を疾走する。ある建物の中に飛び込むと絶叫といって言い声量で叫ぶ。

「魔物が!数百の魔物がこの街に向かってくる!!」

堕天使の策略の通りに・・・・。


「全部隊に協力を要請しろ!」
「寮に寝ているものをすべてたたき起こせ!」
「各施設に住民を避難させろ!」
「役所に通達!」
「戦える者を少しでも集めるんだ!」
等と自警団事務所は深夜にも関らず、一気に忙しくなる。そんな中でリカルド・フォスターは疑問と後悔、そして深い憤りを胸に指揮をしていた。

(先手を打たれたか・・・・)
というのがその内容なのだが、納得しがたい点が幾つもあった。
まず自警団が昨日までに確認していた魔物の数はどう多く見積もっても50だった事。
それだけの数をまとめる知能を持つ存在。
夜襲を狙ってきた点。
どれも不可解だが気にしている暇は無かった。団員達も数が数百という事で絶望的な顔をしている。少しでも・・・。そう少しでも・・・。

「ジョートショップにも応援を要請しろ。第三部隊は街の中に侵入した魔物を。第二部隊は補給線と退路の確保にまわれ」

そして戦いは始まる・・・。


「エル、リサ、アレフは現在前線でモンスター退治。学園の生徒にも協力を頼んでるらしい。他の住民は役所、劇場、教会などにそれぞれ避難完了。」

「どーするの、ヒビキ?」
ほのかが栗色のストレートの髪を後ろで束ね、ポニーテールと髪形を変えながら意見を聞く。

「どーもこーも・・。闘うさ。護りたいものがあるから。誓いもあるし、ね」
その言葉に哀しそうに表情を暗くするカスミ。

「諜報部には‘監視者’を探させている。街の防衛には?」
シンが普段は見せない闇色の視線で聞く。

「カスミは俺とリンクして、その後に街の三方に移動。お前等をよりしろに俺の結界を張る」
「また無茶な」
「まだ全力には程遠い」
シンのセリフを斬って捨てる。
「んじゃよろしく」
3人の姿が思い思いの方向に消える。
「さあ、行こうか?」
まるで自分自身に問うように・・・。
呪文の詠唱を始める。
ヘキサグラムが地面に引かれる。
「力持ちたる我が半身よ・・・。我、汝を呼ぶ。違えられざる契約のもと姿を現せ・・。
我が名は・・・・。継ぎしものなり・・・」

呪文の完成と供にヘキサグラムの中心あたりからゆっくりとソレが姿を現す。人はソレを何と呼ぶだろう?柔らかな毛。鋭い爪。大きな牙。高貴なる翼。巨大な身体。それは魔物と呼ぶには眩しすぎた。かつて人と袂をわかった龍族。今一度人の世界でその天をも切り裂く咆哮が響き渡った。
そしてその場に魅入られているかのように見ている青年の姿があった。


「くっ!!」
もう三十の魔物を切り倒した。流石のリカルドも疲労せざるを得ない。他のもの達も数匹仕留めている。だが未だ上空にいる魔物や、後から沸いて出てくるような魔物の数に希望も少しずつ絶望に塗り替えられていく。
(これまでなのか・・?すまないな、トリーシャ。護ってやれそうにない)
実の娘ではないが、それでも娘であった少女。大切な、何と引き換えにしても構わないとすら思った、大切な家族。少女の朗らかな笑顔が脳裏に浮かぶと供に、魂を揺さぶられるような咆哮が響き渡った。

ヒビキはこちらを見据えている青年と視線を合わせた。言いようのない感覚が胸に去来する。それは目前の青年にも同様に。
「・・・君は、もう一人の、俺・・・?」
それはヒビキと呼ばれる人物の呟き。
「俺、はトウドウ・ヒビキ、なのか?」
それは青年の呟き。
互いの距離は数10メートル離れているので本来聞こえるはずがない。だが二人は互いの声を聞いていた。
「君の名は?」
「・・・俺は・・フェンリル。フェンリル・プラーナだ」
龍が二人を見つめていた。


「行くぞ!」
掛け声と供に龍に飛び乗り、リードを掴むと龍が広げた翼で大気を打った。風が生まれ、巨体が空へと舞い上がる。鞍などというものはない。触れている場所からこちらの意思を汲み取ってくれる最高の相棒。かつてシンの言った‘竜騎士’。その姿がここにある。

「なんだ!?」
魔物達の動きが蛇に睨まれたカエルのように鈍くなり、更に街の方角から飛翔してくる龍の巨体に半ばパニックになりつつ、返ってくるはずのない質問をあげるアルベルト。
龍は低空で飛び、生じる風で魔物を吹き飛ばし、吐く高熱のブレスで敵を炭化させている。圧倒的なまでに強い。
アルベルトの上方辺りで止まると、人が降ってくる。
「なんだぁ?」
今度は驚きの声。降ってきた人物は音も無く着地に成功している。
「なんだって?」
返すヒビキにもわけがわからない。とりあえず襲ってきたハーピーに回し蹴りを叩き込む。

「シルフィード!上空の敵を叩き落してくれ!」
声を聞くとともに作業に入る龍。アルベルトは落されてきた鳥型等のとどめに一生懸命で、こちらに意識が向いていない。
作戦どうりに結界を作るために集中していく。
「混沌の砂漠を翔けよ光輝。我、この地のすべてが真なるものに照らされる事を望むもの。形無く、姿無く、生まれ無き闇の勢力達よ。深き闇の淵に戻りて、そのもののうちより退くべし。この地と、この地にあるすべてに祝福を・・・。」
それは祈り。彼等の思い。たとえ人が殺す事だけを考えていたとしても。それでも。人を護りたい。そして魔物達も救ってやりたい。傲慢とも想えるがそれは嘘ではないから。
だから、これを使う。使うと決めた。詠唱しながら考えている。
(そういえば、いつかも言ったな?魔法の原点は純粋な想いだって・・・)
目を見開く。世界が映る。そして・・・。
「天地祝聖!!」
光がこの地域一帯を包んだ。


「ありがとう。君のおかげで助かった。」
「別にお礼を言う必要はありません。俺は、俺の想いのために動いたんですから」
頭を下げるリカルドに微笑で答える。
あの後魔物は一斉にもと来た方へ去って行った。魔物が逃げたのもあの龍の所為だと昨夜闘っていた人物達は思っている。
ヒビキにとってはどうでも良い事だった。感謝されたいがために戦った訳ではないし、相棒たる高貴な龍もまたそれを望んではいないだろう。
ただ、平和に暮らせる日常。それが戻ればいいと。

諜報部の報告書より抜粋
死者 0 重傷者 1 軽傷者 48
監視者らしき人物を戦闘区域より500メートルの位置にて発見。
蒼のかかった銀髪、紅玉の瞳、浅黒い肌、黒の拘束衣。
結界発生の直後に全身に火傷を負い、空間転移され目標を消失。


その日の夜ヒビキは奇妙な夢を見た。薄紫の花の上を自分がゆっくりと歩いていく。
どこまでも。徘徊するように。そして自分に出会うのだ。そして話すのだ。
「お前は誰だ?」
「ヒビキ。トウドウ・ヒビキ。」
「お前は誰だ?」
「だから「トウドウ・ヒビキは死んだ」
「お前が殺した」
「な!」
「ならお前は誰だ?」
「お、俺は・・」
「お前は誰だ?」
「・・・・」
「お前は誰だ?」
「・・・・・」
「継ぎし者よ。己を見つめ、真実を取り戻せ」
「継ぎし、者?」
「大樹にシフト可能な想いと力の持ち主。だが汝には何かが足りない。それは必要不可欠なものだ。己のうちより導き出せ。世界を理解せよ。運命の根幹を。力の意味を。そして己に流れる血の意味を・・・。」
「ちょっと待てどうゆうことだ!」
唐突に世界が閉じる。最後に目に映った者は、血を滴らせたヒーザーの花だった。
「俺は誰なんだ?」
「俺は、何を忘れている?」
閉じた暗闇の世界にはその呟きが響く事は無かった。


文字どうり飛び起きた。身体中から嫌な汗が噴出している。服もなぜかぶかぶかだ。
そして2度3度室内をきょろきょろと見渡す。なぜか表情が不安そうになる。
「ここは・・・?兄さん、姉さんどこ?」

彼は、6歳前後まで退行していた。黄金の髪、エメラルドの瞳という現実感に乏しい容姿で。

またエンフィールドに波瀾が起こる・・・。






〜あとがき〜

あはははは。ハイテンションかつ絶好調の久遠の月でございます。ヒビキちっちゃくなっちゃいましたね〜〜(笑)
ギャグでやるんじゃないですよ。一応ヒビキくんの内面を語るのにはずせないという事で!まあ楽しいというのもあるけど(爆)
にしても遅くなりましたね〜。すべては学校が悪い。中間、学園祭、期末が何故に一ヶ月半の中に組み込まれていたの?・・・・・どうせ言い訳ですよね。

さて次回は誰を活躍させるかな?あ、そうそう今回は謎の青年(バレバレ)の登場にドラマ性をつけたかったんですよね。

ま、じゃ次回に       良ければメール下さいね〜

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