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「戦場の片隅で」 久遠の月  (MAIL)
   悠久幻想曲   龍の戦史   第12幕   戦場の片隅で


「俺と奴が戦うにはまだ力が足りない・・・・」
それは悔しさ。
「まだ、終われない・・・・・」
それは生への執着。
「糧となってもらおう・・・」
それは欲求。
「俺が、俺であるために・・・。」
それは決意。
「さあ、行こうか?」
堕天使の舞台の幕が開く・・・。彼はまだ数十分後に自分と同じセリフを、同じ口調で言う人物のことを意識していなかった。



「なんだってゆうの!?」
理不尽な日常の崩壊に対する反発。増して彼女なら尚更である。
「魔物ならマリアの魔法でいちころなのに・・・」
ブツクサ言いながらも走る足は止めない。頭の中は、何故、どうしてが飛び交っている。

「何でわざわざマリアだけが、教会まで行かなきゃなんないのよ〜〜〜〜〜!!!!」

はっきり言ってかなり遠い・・・。しかもマリアの目標地点までまだずいぶんある。非常事態の緊張とは無縁の彼女であった。教会まで行くように言い置いたほのかに恨みを抱きながら先を急ぐ。



「何なのかしら?」
一方シーラはといえば街の外の様子を知ってか知らずか、のんびり教会で紅茶を飲んでいる。慌てた様子でカスミが家へ来て、問答無用で着替えさせられ、家族もろとも転移の魔法でここへ飛ばされた。説明はもちろん無し、である。彼女もこんな顔をするんだ、なんて同でもいい感想すら持った。今、続々と避難してきた人達が集まってきている。心の奥底で不安を募らせながら、彼等を見ていた。

「シーラちゃん!」
「きゃっ!」
突然何かに抱き付かれ、驚きの悲鳴を上げるシーラ。そこにはピンク色の髪からはみ出たように存在する猫のような耳。
「メロディちゃん?」
「そうで〜す!」
緊張とは無縁のようだ。
「こんばんは、シーラちゃん」
抱き付いてる猫耳娘の保護者もやってきた。
「今晩は由羅さん」
「まったくいやんなっちゃうわ。夜更かしはお肌の大敵なのに・・・」
憐れなのは命がけで戦ってる自警団員なり・・・・。
「それはそうと由羅さん。今何が起こってるんですか?」
「あら知らないの?今この街に向かって魔物の大群が向かってきててね、念には念を入れて避難してもらっているんですって」
「そうだったんですか・・・」
「そうよん。あっ!あそこに見えるは・・・・。愛しのクリスく〜ん!!」
そう言うと猛然と駆け出して行った。目標に飛び付いて嬉しそうに頬擦りしているのを見ると、クリスの嫌がる姿も気にならなくなるのが不思議だった。
「シーラ」
「パティちゃん」
背後からの声に振り返るとパティがなんとも言えない表情でこちらを見ていた。
「?どうしたの?」
さすがに不思議に思ったのか、シーラが聞く。
「いやね、あのバカ達・・。ヒビキとシンが家に来たんだけど、あの二人が誰か違う二人に見えたのよね・・・・」
「どんなふうだったの?」
ヒビキに関することとなると聞かずにはいられなかった。
「なんて言うかな・・・?なんか、周りの空気が冷たかったって言うか・・・。でも見たのは一瞬だったし」
弁護するように両掌を振って言う。
「そう・・。でも一瞬って?」
「自警団の事務所の方に走っていっちゃったのよ・・・」
そんな二人に声が掛かる。
「やっほー。シーラにパティ!」
「・・こんばんわ。それとメロディちゃんも」
いかにもご満悦といったトリーシャに、げんなりといったシェリルがそこにいた。
「どしたの、そのテンションの高さは?」
「それが聞いてよ!ヒビキさんがわざわざボクを迎えに来てくれたんだ〜」
判るようで判らないトリーシャの答えに二人はシェリルに正確な答えを、と視線で訴える。一つ溜息をつくと語り出した。ちなみに猫耳少女はすでに夢の国の住人になっている。
「なんでも、避難が始まる直前にヒビキさんがトリーシャちゃんの家へ行って、ここまで送ってくれたんだそうです」
多感な少女特有の細かな嫉妬が見て取れるだろう。もう少し人生経験を積んだものなら、だが。それを聞いた二人の少女も同様に。でも・・・・。
「これで心配はなくなったわね・・・」
パティのセリフがそこにいる少女達の心を代弁していた。
ヒビキが動いている。それは少女達に安堵こそ与え、不安を植え付けるものではなかったのだから。
あの青年がいる限り、どんな困難な状況でも乗り越えられる。
そう思わせるものを胸にある淡い心とは無関係に持たせるような青年が彼なのだろうから。


遠くからは轟音が響いてくる。人と魔物の怒号。人と魔物の命のやり取り。シーラは我知らず震えているのに気付いた。同時に好ましく感じている一人の青年の言葉も。
彼は訓練中に言っていた。

「確かに強くなるのは悪い事じゃないけど、その強さを何に使うの?」

彼は徹底してシーラに咄嗟の身の護り方位しか教えようとしなかった。体力作りも簡単なものだ。後は大概ヴァイオリンを弾いていた。同じく教わったアレフは傍から見ても強くなっていた。並みの自警団員では歯が立たなくなるくらいに。だから一度ヒビキに抗議したことがあった。真剣にやって、と。その時に返ってきた答えが、

「戦うって怖い事だよ、凄くね?些細な事で命が消えて行く。可能性そのものが消えて行くんだ。夢も、好きな事も、消えてしまう。確かに強くなる事事態は悪い事じゃない。けど、目的を忘れた一人歩きした強さは自分も、その周りにも不幸を呼び込むもんだぞ?」

それからは精神的強さを身につけたいと思った。目の前にいる自分と幾つも違わない青年と同じくらい強く。肩を並べて歩けるようにと。それを言った(無論前半部のみ)とき彼は困った顔をしていた。鍛える方法がわからないと。それからは、第六感を鍛えることとなった。いわゆる、勘だ。それが警報を鳴らしていた。


突然空間に穴が開き、黒い拘束具を着た人物が現れる。

「シャドウ・・・・」

天窓の洞窟で会った、妙な青年。今は殺気を放ってこちらを向いている。
「久しぶりだな・・・」
他の避難民の姿が掻き消える。
「パパ!ママ!ジュディ!」
「父さん!」
パティが殺気のこもった瞳でシャドウを見る。
「心配はいらない。ある程度時間が経ったら戻ってくる・・・」
「じゃあなんでですか!!」
シェリルが激昂している。
「あんた等と邪魔の入らないところで話しがしたくてな」
「あたしたちはしたくないわ!」
「ずいぶん嫌われたもんだ」
「当然でしょ!!」
トリーシャが答える。
「ま、いい。俺が話したいのはあんた等ご執心のトウドウ・ヒビキについてだぜ?」
・・・・
・・・
・・

「いいわ、のってあげようじゃない・・・」
「ずいぶん間があったな・・・」
「うるさいわね!」
現在パティだけが彼に応じている。他は難とも複雑な表情だ。
「あんた等はどこまで奴を知っている?」
「どこまでって、オレルス国で王様してたってゆうこと、戦争の英雄、現在ジョートショップに居候中・・・」
「そうだな・・・。それ以前は?」
「え!?」
「やはり言わないか・・・」
「ちょっと、どういうことですか?」
「あんた知ってるの?」
「いや、わからん。だから知りたい。」

話が続く中、シーラの第六感はいまだ悲鳴を上げ続けていた。



カスミはヒビキと心を繋げた瞬間、今までにない感情に打ちのめされた。心のどこかに絶望、憎しみ、哀しさといった圧倒的なまでの負の感情を感じたからだ。これまでになかった彼の感情。
それでいて、どこか暖かい今までの彼の感情も感じられる。彼女は思わず青い瞳から涙をこぼしていた。

「何がそんなにカナシイノ・・・・・?」


「そうか、それで全部か・・」
「そうよ!」
教会では対談のクライマックスを迎えていた。
「じゃあ、あんた等はもう用済みだ。いや、一つだけだな。貴様等の死は奴に絶望を与えるだろう」
瞳を模した眼帯を毟り取る。下から現れるのはルビーのような紅の瞳。
「あの世で会えるといいな」
口元に笑みを浮かべながら右の掌に火球を生む。
「るーん・ばれっと☆」
背後から飛んだ魔法弾に直撃を受けたシャドウがよろめく。
「っ!!貴様!!!」
振り向くとそこにいたのはマリアであった。
「マリア登〜場!そこの悪党!マリアが来たからには観念するのね!!」
ご丁寧に右の人差し指を相手に指し、左手は腰のポーズ付きで・・・。
「八裂きにしてやる!!」
「ヴォーテクス!」
「アイシクルスピア!」
「グラビティ・チェイン!」
マリアに向き直った瞬間魔法を連発する。さらにパティの右ストレートが決まる。日ごろ男性陣に使っているだけあって威力はかなりのものだ。
吹き飛んだシャドウはまだ壁際にしゃがみこんでいる。
「っく!」

そこに魂を揺さぶる龍の咆哮が響き渡った。

「長居し過ぎたか・・・」
転移魔法を使い闇に包まれて行くシャドウ。
「こら、待ちなさい!!」
「ニードル・スクリーム!」
シェリルの放った魔法が何も無い空間を通り過ぎる。
「やったね☆勝ちー!」
「何だったのかしら?」
「でも、多分・・・」
「言っていた事は、間違いじゃない、か」
「ヒビキちゃんはどう思ってるんでしょうか?」
「?なんなの?」
判らないマリアと、受け止めた4人。

「あいつは、唯の人殺しだぜ」

の一言を・・・。

例えそれが、戦争の中での事だとわかっていても・・・・・。


「っち!役にたたんな、どいつもこいつも!まさか、天使が魔物を洗脳して手駒にしていたとは驚きだったが」
シャドウは全身を侵す火傷をなんとかして治療していた。もっとも彼は神聖魔法が苦手である。
「まさか、あんな結界を使うとはな・・・」
呆れを含んだ笑みを浮かべる。
「だが、貴様も唯じゃ済まなかったんだろ?」
とても愉快そうに。ゆっくりと深い眠りの中に落ちて行った。


そこで奇妙な夢を見た。彼は今まで夢というものを見たことが無かったが、すぐにそれを理解した。
「俺が人に近づいてるってことか・・・」
彼に植物の知識があれば自分の今立っているのがヒーザーの花の上というのに気付いたろう。もう一人、立っている人物に気付く。
「だれだ、てめえ?」
「俺か?誰なんだろうな?」
「バカにしてんのか!?」
「そういうわけじゃない。でもわからないんだ。何か忘れてるんだけど思い出せない」
「そうか・・。俺と同じだな・・・」
「お前もか?」
「ああ。奥の方で何か欠けていやがる。」
「ところで、君は誰?」
「俺か?俺は・・・?」
少し前なら言えたはずである。
「俺は・・・ナンダ?」
「わからないのか?」
「俺は俺だ!他の何者でもない!」
「そうだろうな。お前はお前だよ。俺が俺であるように。そしてお前は?」
「・・・俺は?」
「怖いのか、認めるのが?自身の存在した理由を?」
「恐怖は俺の糧・・。恐ろしいのは希望・・。奴の糧。なら何故俺は俺を恐れる?俺自身が希望だとでも言うのか!?」
「知っているのだろう?だからお前は憎むことで自己を成り立たせようとしている。憎まれる事で自身の力を増そうとしている。一番自分に多かったものを増すとする事で」
「うるさい!!消えろ!!!」
「どんなに足掻こうが・・・・を消す事は出来ない」
「うるさい!!!黙れーーー!!!」
堕天使は己をまだ認めない・・・。



「終わったな?」
「ああ・・・」
シンの背中に寄り掛かるヒビキ。
「封印も解かずに無茶し過ぎだ」
「ああ・・・」
「カスミ怒ってるぞ、多分」
「ああ・・・」
「ほのかのお仕置きがあるかもな」
「あ・・っぐ!」
流石にそれは嫌らしい。
「シン・・・」
「ん?」
「俺は会ったよ。ここの俺に・・・」
「どこにもいるんだな?運命に縛られた奴は?」
「そうみたいだな」
苦笑と供にスッと立ちあがる。小高い丘より見渡すのはエンフィールドの街並み。
オレルスを出るときに頼らないと決めたのに、頼ってしまった。そんな自分を心のうちで嘲りながら、戦いの最中会った青年の顔を思い出す。

「フェンリル・プラーナか・・・・」

彼の進む道が自分と同じ道でありませんように・・・。
決して信仰していない、敵対している神に彼は祈った。



結局、心のもやもやを持て余した、パティの右フック、面白い騒ぎを見逃したローラの買い物功撃(人によってはそれをデートといふ)、シェリルにはオレルス戦役の話をしつこく聞かれ(精神描写まで)、シーラには翌日の休みいっぱい使って、知り合いだけの小さな音楽会をさせられた。これにはアレフのギターや、ピートのタンブリンやらが入り、芸術性とは程遠い楽しさを追及したものとなり、彼女は密かにご満悦だった。

演奏会のあった日の夜、リカルドがジョートショップを尋ねてくる。

その翌日、トウドウ・ヒビキが幼児化する。

余談であるがファンクラブにその事が緊急連絡で回りきったのは最初の目撃より3時間42分後であった。

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