「想い、ここより・・・」
久遠の月
(MAIL)
悠久幻想曲 龍の戦史 第13幕 想い、ここより・・・
(ここは、どこ?)
一通り部屋を見渡す。
(下に気配が一つ、いや二つ?)
一つははっきりしているがもう一つはどこか不透明で判りづらい。
(‘氣’を抑えてるようには思えないから非戦闘民だよね?)
ベッドより抜け出すと窓より外を見る。
「街、だよね?」
自分の知っているどんな場面とも合わない。
「こんな時の対処の仕方は響さんは教えてくれなかったな・・・・」
幼い表情に翳が差す。右の拳を力一杯握ってからもう一度街の様子を見る。
「真実は自分で探せ、か・・・・」
ポツリと呟くと部屋の中で使えそうなものを探る。
(コンバットナイフに、鋼糸、後は・・・・。銃器の類は無いのかな?)
ナイフを腰に差し、鋼糸はポケットに詰め込む。
部屋の片隅に彼の身長以上もある長大な刀剣に目をつける。
(二刀小太刀か。持てるならあれの方が良いんだけど邪魔になるだけだよね・・・)
即座に諦める。
「じゃ行きますか・・・」
そう言って窓より抜け出した。
登校途中の学生らしき人達を見つけると、何となくそれについて行った。勉強内容を知れば、ある程度文化基準もわかる。
「・・・・でねでね。そこでマリアの魔法がピンチを救ったのよ!」
「そうなんですか・・」
なにやら勝気な女の子が男の子に冒険話のように話している。興奮気味の少女に素直に驚いている少年。
(ま・ほ・う?そんな物あるの?世界は広いな・・・。まだまだ知らない事があるね〜)
ちなみに彼は話している人物達の30メートルは後ろに居る。
「あれかな?」
大きな建物がある。
「さてここからは同じ道だと怪しまれるよね?」
背後を見て自分に目が向けられていないのを確認すると道から外れた。
屋根の上で時間を潰すこと1時間半。どうやら授業を始めたようだった。
一つ一つ教室を覗いて魔法がここでは学問の一環として認知されていると気付くと、半分放心しながら学園内の廊下を歩くしかなかった。幸いにも教師の類には会わなかったが。
自分だけが世界から外れてる気がしてどうしようもなく心細かった。異邦人。その事実が背中に圧し掛かってくる。
「ねえ、君どうしたの?」
「・・・・・え?」
一瞬自分が声を掛けられたとは思わなかった。茶色の髪に大きなリボン。制服らしいものを着た少女・・・。
「どうしたの?」
今度は目線を合わせて聞いてくる。
「え、いや、その、だから、なんだ・・・・。」
(何いってるんだ・・・。落ち付け、僕)
翠色の瞳をあちこちうろつかせるがもとより話すことでもないし、話せる事でもない。向こうも何か驚いた様だった。
「そんなにあせんないでも良いよ」
すうっと落ち付くのがわかる。
(戦闘の時はうろたえたりはしないのにどうしてこういう時だけ・・・)
ともかく落ち付いた後、何とか言葉を探し当てた。
「探してるんです」
「何をかな?」
「ここに僕の居る訳、かな?」
休み時間だったらしく、少女は友達と忙しくどこかへ行ってしまい、彼としては暇且つ、居てもまずいという事で早々に学園を出た。
(さっきの人、何か懐かしいような気がした?)
とりあえず、見つかり次第攻撃されるような物騒な所ではないらしい。幾分安心すると、見つけた大きな建物を片っ端から探って行く。
「団長!機密が盗まれました!」とか、
「ああああ〜!秘伝が〜!」やら、
「もう終わりだ〜!」などの悲鳴が聞こえてもお構いなしに探って行くと、随分この街の状況がわかった。
その手口は、あまりに鮮やかで、証拠が何も残らなく、後に影響が無かったので、後ろめたい事のある人達は嵐の前の静けさというものを感じ、肝を冷やしたという。
1枚の書類をみて顔を顰める。少年の父によく似た顔に、トウドウ・ヒビキの名。父には良い思い出はないが、響は師としてたくさんの事を教えてくれた。
(親父も、響さんももうこの世の人じゃないのに・・・。)
ドッキリ、という単語が頭に浮かびそれを否定する。
(こんな風に考えるから、子供らしくないって霞に言われるんだよな・・・・)
構わず書類の続きを読む。
「(え〜っとっ)!強盗?!?!」
「誰だ!!」
「(見つかった?)とんだミスだね」
「貴様何者だ!」
「只の子供だ、よ!!」
「!?がっ!」
いい終わると同時に背後に高速で移動し、殴り倒す。
「ごめんなさい・・」
とりあえず要らん怪我をさせた事を謝る。全治一ヶ月といったところだろうか?
目にも映らないスピードで移動して殴り付けたのだから死んでいてもおかしくはない。
(ここって自警団の事務所だったよね?仕事に差し支えなければ良いけど)
そんなことを思いながら外へ出た。もちろん見つからずに、である。
ふと道に落ちている1枚の紙切れを見やる。
(新聞か何かかな?)
そして固まる。視線は紙上に固定である。
口元が震える。何が言いたいのか自分でも良くわからないがともかく叫びたい。ぐっとその衝動を収めようと努力する姿はどこか哀しい・・・。
だが無駄であった・・・。
「何で、僕が号外にでなきゃいけないんだーーーーーーー!!!!!!」
後に彼は語ったという。シンとトリーシャの情報収集能力は敵にしてはいけないと。
所変わって大衆食堂兼宿屋‘さくら亭’では事の真相を知る3人が看板娘の聞き耳も気にせず話していた。
「何となく予想はついたよな・・・・」
「あの馬鹿が、子供になること?」
「まあ、な」
「回りの人達に教えなくて良かったの?特にアリサさんには」
「お互い少しずつ壁を超えながら知り合って行く。それが‘家族’だろ。俺達が教えずに自分達で感じていかんと出来ないだろ、絆って奴は?」
「でも、彼の記憶は・・・・・」
「ストップ!カスミ、あなただって判ってるんでしょ?」
「・・・わかっているわ」
「今のアイツには自分に対する配慮は何もないからな・・・」
「だから、あんな無茶な結界張るんだよね・・」
「人も魔物も排除するべきものとしない結界。排除するべきものは悪意そのもの」
「いつまでも罪悪感もって、自分も排除するべきものにしたってゆうの!?」
「多分当たりだよ、それ」
「「それはそれとして・・・・」」
「?」
「「それを半ば予想して、某組織に情報をリークしたのあなたよね?」」
見事なユニゾンで微笑みかける二人。だがそれは恩恵ではなく恐怖そのもの・・・・。
顔は笑っている。問題ない。目が、笑って、いない。言うなれば殺す笑みとでも言うのだろうか?
「あ、あは、あははははははははは・・・」
乾いた笑い声と、冷気を振りまく笑み。この時間帯に限り、なぜかさくら亭の集客数は減ったという。
「ここって・・・・」
なぜか血眼で自分を追ってくる連中を撒いて彼はジョートショップに来ていた。
「僕が抜け出したところ、だよね?」
思い切って中に入る。
「いらっしゃいッス!」
「あ、ども」
呆然とそれを見る。
「犬?」
「い、犬じゃないッス!!!」
「あ、ごめん」
「どうしたのテディ?」
「あ、御主人様」
「ようこそ、ジョートショップへ。あら?」
「?どうかしました?」
およそ幼児には似つかわしくない言葉使い。
「ううん。なんでもないわ。それでどうしたのかしら?」
「聞きたい事があってきました」
「何かしら?答えられる事は答えるわ」
自分の目覚めたときの事、ジョートショップの事、トウドウ・ヒビキの事、この世界のこと、エンフィールドの事、などなど。
「じゃ、僕は・・・・?」
「顔立ちもそっくりだし多分そうだと思うんだけど・・・・」
「でも・・・(実感が、ない)」
俯く少年。その少年を柔らかく抱きしめるアリサ。しばらく肩を震わせたかと思うと、堪えきれなくなったのか止めど無く涙がこぼれ始め、号泣に変わる。
「トウドウ・ヒビキは、師匠の名前だったんです。戦い方、生きるための術とか、銃器具の扱い方、乗り物の運転技術、暗号解読方法とか他にも色々・・・・教えてくれました」
落ち付いたのか少しずつ語り出す・・・。
「兄のように思っていたんです。けど、その人を、僕が、殺したんです」
アリサはただ抱く腕に力を入れることだけ・・・。少年の独自は続く・・・。
「僕が力を使いこなせれば死なずに済んだんです。父はこの手で、殺しました・・。碌でもない人だったけど、僕には優しかった。その父を、いくら本人が望んだからって。僕は殺したんですよ?生きていて欲しかった!!他の人達を見殺しにしても!!」
涙がまた溢れる・・・。
「雫姉さんは僕達のためとかなんだかで人柱になるし、アキト兄さんはいつも怪我ばかりしていた。ハルカ姉さんとナツキ姉さんは会った事も数回だ。」
辛かったこと、悲しかったこと、アリサには慰めの言葉がかけられなかった。自分よりも小さいこの少年は自分など及びもつかないぐらい傷付いている。それがわかるだけに只の同情にしかならない。言葉など掛けられなかった。抱きしめる事しか出来なかったのだ。
「ごめんなさい・・・。迷惑でしたよね、こんな話?」
そう言って離れようとする彼を無理やり掻き抱く。
「あなたは多分覚えていないと思うけれど、私は言ったの。あなたを‘家族’だって」
「家族?」
オウム返しに聞く。
「ええ。だから、迷惑なんかじゃないわ。むしろ嬉しい、かしら?」
「え、だって、あんな話で・・・」
「それだけ心を許してくれたってことでしょう?大きいあなたは遠慮してか、全然迷惑も、そう言う泣き言も、愚痴も言ってくれなかったから。家族って支え合うものでしょう?だから嬉しいのよ、頼ってもらって」
「御主人様・・・・」
感動して貰泣きするテディ。
「ありがとうございます・・・」
かつて似た場面があった。アリサがヒビキを家族と呼んだ日・・・。違ったのは・・。
感謝の言葉とともに繰り出したはにかんだ笑顔で、顔を真っ赤にした女主人の姿だった。
〜さくら亭〜
ちょうどお昼過ぎの仕込みの時間、来るのは知り合いばかリなり・・・。
「で、元に戻せと?」
「出来るんだろう、シン?パティが全部吐いたぞ・・・」
「アレフ、ここは愛の奇跡に賭けない?その方が映像的に面白いし」
「ほ・の・かちゃん♪」
「「「「「ひいっ!!!」」」」」
カスミの笑顔は全員を震えあがらせた。
「じょ、冗談に決まってるじゃない!」
「そ、それはともかく本当に治せるのか?」
すでにヒビキ幼児化は周知の事実らしい。某組織の出した号外の賜物である。
「治せるよ(きっぱり)」
「じゃあ早く治してください!」
シェリルの魂の叫び。
「ただし、髪がすべて抜け落ちる」
「・・・え?」
「だ・か・ら、髪がすべて抜け落ちる」
「・・・もう一度言ってくれませんか?」
・・・・・・以下略
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「う、嘘ですよね?」
「ああ、嘘だ。しかも大嘘」
その言葉を吐いた瞬間、問答無用でヴァニシング・ノヴァの詠唱を始めるシェリル。
アレフは椅子を両手で持ち振りかぶる。
エルとリサは準備運動をしている。
良識派のクリスも止めない。
シーラの視線も冷たい。
メロディも我関せずとパティにミルクを用意してもらっている。
マリアは魔法を使おうとしたところ、カスミに捕縛されている。
「ちょ、ちょ、ちょっと待とうよ、ね?」
哀れなのは時と場合を考えない愚か者なり・・・。
「ぎゃああああああああああああああああ!!!!〜〜〜〜あ!!」
「馬鹿・・・」
ほのかの冷たい一言が全てを現していた。
ピートが倒れたシンを縛って店の隅へ運んで行った。
「元に戻す方法ね。はっきり言って簡単よ」
「どうするんですか?」
「思い出してもらうのよ、彼自身に」
「多分それで元の年齢に戻ると思うわ。アリサさんは彼の心の壁を超えたしね」
「心の壁?どう言う事なのカスミさん?」
「あら、気付いてなかったの?彼はいつも境界線を造っていたの。パートナーの領域、って言っても良いと思う。それが壁よ?それを超えなければ恋人なんかになれないわ」
「でも、アイツは他人に頼る事を避けなくなった。壁は低くなったよ。アリサさんに感謝、だね?」
ほのかが補足する。
「いつも、一人で抱え込んで、傷付いていたから・・・。自分の名前を捨てて、他人の名前で他人の願いを叶えようと一生懸命なのは見てて辛かったから・・・。」
カスミが呟くように語る。
「いつになったら、あの人は自分自身の名前を名乗る事が出来るのかな?」
「話が逸れた。シーラ、お願いね?」
「え・・・・?」
全員の目がシーラに集中する。それを感じシーラが首筋まで真っ赤になる。
「だから!アレを元に戻すの!」
「私?」
「そう言ってるでしょうに・・・」
「でも、どうやって?」
「ピアノ。弾けるでしょう?彼の為だけに?」
「そ、それは・・」
この場でそれを認めるのは自身の想いを暴露するのと同じ意味である。
「あなたが適任よ。聞いた事あるでしょ?名前のないメロディ?」
「あ、ありますけど・・・」
「あの曲を弾いて欲しいの。彼は自分の罪悪感からあの状態まで退化している。あの曲なら、辛い現実を見つめてそれでも‘今’に帰ってくるわ。ずっとそうだったもの・・」
「あの曲、誰が作ったんですか?」
一度だけ聴いたあの曲。有名な作曲家でもない人が、只大切な人のために作ったと聞かされたあの曲。風に乗るような軽やかな優しさを感じたあの曲・・・・。
「彼の、母親の遺作らしいわ」
彼女は大任をこのとき決めた。
光があたりを包み、
風の歌が聞こえる。
人の想いは限りなく、
様々な奇跡を生み出す。
彼の存在は希望そのもの。
未来を紡ぐ資格を持つ者。
‘管理者’たる‘神’を廃す力と資格を持つ者。
それと引き換えに運命に囚われた血に縛られし者。
呼ばれる声が聞こえる。
彼のものではなく、彼を呼ぶその声。
自分を世に送り出すために命を失った母と、
父が死の間際に言い残したその言葉。
彼が語る資格を無くしたと思い込んでいるその言葉。
”母さん、あなたは幸せでしたか?”
”父さん、あなたは幸せでしたか?”
二人が同時に頷く。
答えは「幸せだった」
「僕は俺は二人を殺しました。母を生まれ出でたその瞬間に。父を生き延びるために。」
過去の彼と現在の彼が重なる。
「例え命を失うとしても。それでも私はあなたを産みたかったわ。」
「お前は間違った事はしていないさ。私はお前達が生き残る事を選んだ。結果、私が死ぬ事になろうとも」
「「あなたと会えて、幸せだったよ。そして、ごめんなさい。護ってあげられなくて。でも、どうか幸せになってね」」
たくさんの想い達。父は言った。幸せになれと。母は言った。幸せになれと。
「いいえ。俺は護ってもらっていますよ。あなた方の想いが俺を護ってくれています。」
その事に感極まったのか。
「お母さんらしい事は何もしてやれなかったわね。私は貴方が息子だという事を誇りに思います。」
「大きくなったな。そう言ってくれると嬉しい。」
現実か幻か二人は、彼に幸せそうな微笑を向けた。
彼は、笑みを返しながら・・・・・。
ナイタ・・・。
光が人型に収束する。
皆が注目をする中、彼はゆっくり目を覚ます。
神をも凌駕する力をその内に秘める・・・・。
不定形に揺れる光翼を背に・・・。
金色に揺れる髪・・・。
深い翠色の瞳・・・・。
彼は紡がれる想いをそのまま言葉に出す。
「ただいま、みんな」
今まで彼らの見た中で最上級の笑顔で、彼は帰還した。
〜おまけ〜
シーラはピアノを弾く手を止めるとヒビキに歩み寄る。彼の姿は見なれたものに変わっている。
「ただいま、シーラ」
それも今の彼女には効果はない。
射程圏内に入ると思いっきり右腕を一閃する。
ぱあんっ!
周りが唖然とする。彼女はそれにも怯まずもう一歩、歩み寄る。
腕の届く範囲よりもう一歩進むとどうなるか?大方、相手にぶつかる。当然彼女の場合も。
ぽすん。
当然身長の低いシーラは彼の腕の中に収まることとなる。
「心配したよ・・・」
大胆なシーラに面食らいながらぽつりと言ってくる彼女の言葉を聞き取る。
「ごめん」
「おかえり・・・」
単純に心配かけたとしか思っていない鈍感男はそれ故に引き剥がそうとせず。
感極まっている赤面症の少女は自分のとっている行動を認識していない。
嫉妬の視線が幾つか。
微笑ましい光景に涙ぐんでいるもの。
複雑な表情をしているもの。
賭けをし様としている人々。
「ありがとう・・・・・」
「い、一週間!?」
「そう一週間」
「お仕事貯まってるッス!」
「まじですか?」
「ええ。頑張ってね」
アリサのこめかみがヒクついていたのは見間違えだと思いたい。
労働基準法を完璧に無視した結果、何とか週末の休みを獲得したとかしないとか・・。
「ファンタジーなんか嫌いだーーーー!!!!」
と叫んだかどうかは定かではない。
〜あとがき〜
いやあ、駄作者、久遠の月です。約束破ってゲームばかりしてました。
これでようやっと一心地つけたんですけど。たぶんこれからゲーム中のイベントのお話を書ける思います。リクエストがあればメール下さい。ちなみに私の持っているのはプレステオンリーですのでサターンのイベント希望の人ごめんなさい。
ファランクスがどんなものか誰か教えてくれると嬉しいです。
んじゃまた次回で!!