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「彼の都合と招待状」 久遠の月  (MAIL)
   悠久幻想曲   龍の戦史   第14幕   彼の都合と招待状


「・・・・退屈だ」
ポツリと彼がそう呟く。
「ヒビキ!いいからこっち手伝え!」
アレフがこちらに叫んでくるが彼は自分の手を止めていない。
「お前もそう思うよな?」
片手で頭の辺りを持ってゴーレムを吊り上げている。ちなみに指はしっかりめり込んでいる。そんな状態の敵に聞いているのだ。
「ぐがががが・・・・」
「そうだよな。そう思ってくれるよな?スリル?サスペンス?もう少し、なんていうかこう、血湧き肉踊るってゆーかそんなのが必要だよな?」

びしり

頭部の辺りでまた岩を砕くような破砕音が響く。
「だから手伝えって・・・」
「了解」
話しかけていたゴーレムをアレフの相手していた魔物目掛けて投げ付ける。やたら生々しい音を立てて沈黙する。どうやら、死んではいないようだ。もがいているのが見える。
「任務完了。まだちょっと日がかなり高いっていうかまだ始めたばっかりだけど今日のお仕事はこれでおしまい。・・・・やっぱり退屈だった・・・・」
そう言って二振りの小太刀を一本の鞘にしまう。アレフも長剣を鞘にしまう。
「退屈って・・・・。なにやらゴーレムと会話してなかったか?」
「そんなこともあった。にしてもアレフ。結構やるようになったじゃないか」
「ん?ああ、いつまでもお前の足手まといはごめんだからな。それにエンフィールドの女の子は割と強い子が多いからな。‘護ってやる’ぐらい言える強さは欲しい。」
「ああ、そうだな。じゃあ、初級の技ぐらい教え始めるかな?」
「ようやくですか、師匠殿?」
おどけてアレフが答える。だが、ヒビキは真剣な表情でアレフを見返している。
「言っとくけど、下手に氣を抜くと死ぬぞ・・・・」
ごくり、と生唾を飲み込んだ後アレフも真っ直ぐヒビキを見る。
「俺の使う流派、って言うかどうかは怪しいけど、手数と速さを極めに極めた、人外のものとすら互角以上に渡り合える事が出来るようになる‘九龍戦技’。俺はお前を信じてるけど約束して欲しい・・・」
「何を、だ?」
「自分自身の答えを、見つけること」
「よく、意味がわからないんだが?」
「今はいいよ。でも忘れないでくれ。今度暇を見て教えるから、さ」
そう言ってヒビキは踵を返した。



「じゃ、これ教会までお願いね」
「へ?」
なにやら良い香りのする包みを持たされる。アップルパイか何かだろう。
「あ、そうそう。古着もあるの。これもお願いね?」
「え?」
ヒビキは帰るなり詰め寄ってくるアリサに驚き、頭は活動していない。
「じゃ、お願い」
「はい・・・・」
最初から選択権などありはしなかったのだ。

「アレフ、お前も・・・」
「お先に上がりまーす!」
そう言ってさっさと帰る。
「あ!ちょっと待て!俺一人にこの量持たせるつもりか?」
その言葉も空しくあっさり消えるアレフ。
「孤児院の子達の分もあるんだろうけど、この量はちょっとね・・・」
誰にとも無く苦笑する。
(アリサさん最近押しが強くなったかな?それとも俺が弱くなったのかな?)
‘家族’故のとでも言うのだろうか?
(何があっても護る。それが俺の答えだよ、アレフ)
凛々しい決意にその手に持つ大量の荷物は似合いはしなかった。


教会が近づくにつれてピアノの音が聞こえ始める。穏やかな彼女を現すような旋律。
「シーラ、かな?」
不思議と彼の表情も穏やかになる。
(何だろう?懐かしいような感じがするんだよな。これを聞いていると、人間も捨てたもんじゃないって思えるよな、‘シルフィード’?)
己の内で眠る龍に呼びかける。
(そうだな。人は愚かな生き物だが、また素晴らしいものを作り上げる事の出来る生き物でもある。汝は我にそれを教えてくれた・・・・)
(そんな立派なものじゃないけどな)
そう苦笑すると教会のドアに手をかけた。

「ちわ〜っす!」
挨拶しながら中に入ると、すぐに子供達に囲まれる。
「ヒビキお兄ちゃん。こんにちわー!」
「お話して、お話して!」
「遊んでよ〜!」
話ながら引っ付いてくる。とりあえずバランスを崩して倒れる事もないのでそのままにしておく。凄い懐かれ方だが、休日にちょくちょく顔を出していればこんなものだろう。
「今日の仕事終わったから、食事ぐらいは一緒に出来ると思うよ?」
そういって足元にしがみついている子供の頭を優しく撫でる。
「えへへへ〜」
「いいなー」
「ずる〜い!」
「とりあえず、神父さんのところに行こっか?」
そう言って子供達を促す。
「私、案内して上げる!」
一番反応の良かった子供がヒビキの右手を握って引っ張って行く。
「お願いするよ」
「うん!」

「いらっしゃい、ヒビキ君」
「ども。それ、アリサさんからです。」
そう言って子供に渡した荷物を軽く指差す。
「いつもすみませんね・・・。」
「いえ、多分好きだからやってるんですよ、アリサさんは。」
「じゃあ、君はどうなのかね?」
「俺も同じですから」
和やかな会話が続くが、神父が顔を険しくして、
「犯人は見つかりそうかね?」
「さあ、どうでしょう?どっちにしろあんな大々的に事を運んだんだから碌な事じゃないでしょうね。後8ヶ月あれば犯人は見つかりはするでしょう。首謀者候補はもう数人に絞り込んでありますし、そいつらが分れば実行犯も・・・」
「そうですか・・・」
「でも、もしその事件の真相が俺の‘家族’を傷付けるようなら俺は有罪でも構わないんですよ・・・・・」
「馬鹿を言うんじゃない!そんな事を彼女は望まないだろう。例え傷付いても、彼女の家族を奪わんでくれ・・・・・。もうあの人に家族を失う辛さを味会わせないでやってくれ・・・・。私は君のような人物があのような事件を起すとは到底思えないのだよ。これには幾人もの人達も同じ意見だ」
「ありがとうございます・・・」
シリアスな会話もここまでだった。
「お兄ちゃ〜ん!」
「よ、ローラ」
「ねーねー、デートしようよ〜!」
「却下」
「何でよ〜!!」
「俺は忙しい」
さっきと言っていた事が違うが、まあ何にしろじゃれ合である。
「もー!お兄ちゃんとはこれからもうデートしてあげないから!」
「そりゃ嬉しいな。時間が自由に使えて」
「言ったな〜!」
そう言ってヒビキを軽く殴るようなまねをするローラ。その手を掴むヒビキ。そこに神父より声が掛かる。
「ヒビキ君。食事一緒にどうかね?」
「あ、はい。良ければご一緒させてください」
「シーラさんも一緒にどうですか?」
「・・・・」
「ぁ、シーラ」
まるで気付いていなかったヒビキ。
「シーラさん?」
「あ、はい。私も良ければ・・・」
「じゃ、用意しましょう。コニー、ケビン、ライル、手伝ってください」
そう言って用意をする神父と子供達をヒビキとシーラは椅子に座りながら眺めていた。

「シーラ?」
声を掛けても返事をしない。
「シーラ?」
「え、何?ヒビキ君?」
「いや、なんかボーっとしてたから」
「そう?そんな事ないと思うけど?」
「もしかしてさっきの見てた?」
「え・・・?」
「ローラと一緒にじゃれてたとこ」
「・・・うん」
何となく羨ましかったとは口が裂けてもシーラには言えなかった。
「自分でも判ってるんだけどな?どうもローラと話してると子供っぽくなっちゃうみたいでね・・・・。大人気ないよ、ホント」
「ううん、そういうわけじゃ・・・」
「じゃどうしたの?」
「何でもないの」
「じゃ、食事を始めましょう」
「うわっ!いつの間に。」
いつのまにか用意も済み、席についている神父たち。
「いえ、恋人達の会話に入るような無粋な真似はしたくありませんから・・・」
「「こ、恋人って・・・・」」
「おや、違いましたか?」
「「俺(私)達はそんな関係じゃありませんよ」」
「そうですか。お似合いに見えたのですが・・・」
その言葉に赤くなるシーラに涼しい顔をしているヒビキ。内心では、
(お似合いって何が?シルフィード?)
(主・・・・・)
と、呆れた会話(念話)をしていた。

「そういえば、シーラさん。」
「あ、はい」
「今度のピアノコンクールに出るようですね?」
「ええ」
「いつでしたか?」
「あ・・。10月です。」
「確かすっごい有名なコンクールだったんだよね?シーラさん?」
「ええ。たまたま、参加枠が取れて・・・・」
「子供達も楽しみにしています。コンクールで演奏する音楽を一足先に聴いていてね?」
「そうですか・・」
にっこり微笑む。
「皆、応援してますよ・・・」
「ありがとうございます」

「えーっ!帰っちゃうのー?」
「うん、お姉ちゃんを家まで送ってくるんだ」
「じゃあ、また今度来てね?」
「約束する」
「じゃ、またね」

「人気あるんだね、ヒビキ君」
「シーラだってそうだろ?」
お互いに笑い合う。
「いつ教会に?」
「休みの時とか、時間の空いた時に。あそこの子供達は本当に楽しそうに聞いてくれるの」
「そう。ねえ、シーラ。これからどうするの?送るって言って出てきた手前、しっかり家まで送るけど・・・・・」
「私も特にこれといった用事も無いし・・・・。王立図書館にでも行きましょうか?」
「いいよ。じゃ行こうか・・」
そう言って二人は並んで歩き出した。

「やあ、イヴ」
「珍しい人が来たわね・・・。あらシーラさんと一緒?デートするのは結構だけど・・」
「館内では静かに、だろ?」
「ええ、そのとうりだわ」
「それじゃ、行こうか?シーラ」
そう言って奥に入っていった。

「でもシーラ。何でまた図書館に?」
「え、と。これ貰ってくれないかな・・・・?」
顔を心なしか緊張させて封筒のようなものを手渡してくる。
「何、これ?」
「教会で話してたよね、コンクールの話?それの招待状」
「いや、さっきも思ってたんだけどコンクールって何?」

しばらくシーラによるコンクールの説明が為されております。しばらくお待ち下さい。

「へー。そんなに有名なもんか。夢、近づいて来たじゃないか。おめでとう」
「ありがとう。それで、これがそのコンクールの招待状・・・。受け取ってくれる?」
「ごめん。俺はそれを受け取れない・・」
そう言った瞬間、糸が切れたように倒れこむシーラを何とか抱きとめる。
「おい、シーラ!」
よく見ても、ざっと見ても気絶している。
「ヒビキさん!」
「イヴ!緊急事態だ。後よろしく」
倒れたシーラを見て騒いでいた人たちの後始末をイヴに押し付けて、ヒビキはシーラを抱きかかえてクラウド医院へ急いだ。


「心配ない。ただの疲労だ」
トーヤ・クラウドの第一声がそれだった。とりあえずジュディはほっとしたようだがヒビキの表情に変化はない。
「心的疲労は?」
「俺は外科医だがそれもあるだろうな・・・・」
「ジュディ、いつからコンクールの話決まってたんだ?」
「大体2週間前くらいです」
「プレッシャーもあるのかな?まさか俺が断っただけで倒れるほどショック受けるとは思えないし」
「「本気で言ってるのか(ですか)?」」
「この場で冗談が言える?」
トーヤは額を抑え、ジュディが鈍感と呟く。
「お前、少しは彼女の気持ちをわかろうとしたらどうだ?」
そうで無ければシーラがあまりに不憫だ。
「ほえ?」
「女心と言う奴を学べ。シーラも今思春期に直面して戸惑ってるんだ」
「よくわかるな・・」
トーヤが何か言いかけたが無駄だと悟り諦めた。
「シーラも前途多難だな」
ジュディは複雑な表情をしていた。
「まあ何となく俺が悪いような気がしてきたから少し話してみるよ。いい、ジュディ?」
「ええ、お願いします」
「それがいいだろうな。お互いのためにも・・・」
その時シーラが目覚める。
「ここは?」
「おはようシーラ、って言うか夜だけど。クラウド医院。倒れたから連れてきた。」
「私・・・?ごめんなさい、迷惑掛けちゃった・・」
「謝るのは俺のほうだ。シーラにショック与えちゃったみたいだから」
微笑むヒビキにわずかに頬を染めるシーラ。
「なんで、これで気付かないんだ?」
答えは鈍感だからである。


ヒビキとシーラはエレイン橋にいた。シーラは欄干に座り、ヒビキは凭れ掛かっている。ジュディはヒビキにシーラを押し付けると先に帰った。送る事を約束させられて。
「前にもこんな事が合ったね?」
「そうだね・・。でもシーラ。下を見てごらん」
「わあ。綺麗・・・」
月光魚達が群れをなして泳いでいる。月の光さながらに・・・・・。
「こういうの見ると、無性に何か楽器とか使いたくならない?」
「判る気がする。ううん。こんなところでピアノを弾いてみたいと思う・・・」
「ヒントになったかな?」
「え?」
「何か悩んでたでしょ?もしかするとピアノの事かな?って思ってたからさ。」
「ヒビキ君・・・・」
「音楽って奴は楽しんでやらないとね・・・。その時だけは演奏者と、観客が同じものを共有する事の出来る場だから。」
「でも、私は・・・・」
「ピアノを弾く事に疑問を持った、かい?」
「・・・ええ」
「ただの分析だけど、多分シーラはピアノの一緒の生活をしてきていて、自分のからだの一部みたいに感じていたんだと思う。でも、ジョートショップで仕事を始めて、考え方に幅が出来た。人と接する事で、いろんな人生に触れた。それで今自分に疑問を持っている。コンクールの話が出た時にそれがピアノに向かった・・・・」
シーラにそれは否定できなかった。自分の感じていた事そのものである。
「誰だって悩む事だよ。むしろシーラは凄いと思う」
そっとシーラの頭を撫でる。
「それでも頑張っている。前を向いて一生懸命生きている。大切な事だよ・・・」
どこか父を髣髴させるそんな笑み。
「いますぐ結論を出さなくたっていいんだ。見つかるよ、きっと・・。それにさっき言ってただろ?こんなところで弾いてみたいって?」
「うん・・・」
「いいんじゃないの、それでも?理由なんかどうでもさ。自分のために弾くのも、他人のために弾くのもいいさ・・・」
「うん・・・・。ありがとうヒビキ君・・・・。なんか悩みが無くなっちゃったみたい」
「そう?そりゃよかった。じゃそろそろ帰ろう。いいかげん心配してるだろうから」
そう言ってシーラを促す。ふと思い出したように言う。
「そうだシーラ。さっき招待状断った時のセリフには続きがあったんだよ・・・・?」
「どんな?」
「実はね・・・。音楽家の人の中には俺のことを音楽家にしたいって言う人が結構たくさんいてさ、もし見つかったら面倒くさかったからさ。でもシーラの好意に甘えるとするよ。流石に人の思いを踏みにじりはしたくないからね・・・」
そう言って苦笑した。
「そうだったんだ・・・」
早とちりした自分を恥ずかしく思った。こんなに気遣ってもらっているのに・・・。一瞬同じ舞台で演奏している自分とヒビキを脳裏に想像してしまい、真っ赤になる。
「どうしたの、シーラ?」
「ううん、何でも無いの」
頭に巣食った映像をかき消そうとするかのように真っ赤になりながら頭を振るシーラにヒビキは疑問の言葉を投げかけた。

「面倒事にならなきゃ良いけどね・・・・」






〜あとがき〜

ども。ここんところ連続投稿の久遠の月であります!シーラが一番動いてる・・・・。
まいいや、次回は出番削るから。他の人達のお話も書かゃいかん。
イベントの選別が難しい・・・。

ま、ともかくこれで退散します。まったねー!!

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