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「禁忌」 久遠の月  (MAIL)
   悠久幻想曲   龍の戦史   第15幕   禁忌


口唇に濡れたものが触れたような気がした。

口付けと言うにはあまりに儚くそして哀しいものだ。

それを為した少女が一歩後退し彼に泣き縋る。

「何故貴方は御自分の幸せを求めないのです?」

「私にはそれを求める余裕はありません。貴女にも解るでしょう?私の周りには絶えず戦が巻き起こります。相手が人ならば良いでしょう。人なら供に生きる事も出来ましょう。ですが・・・・・」

「何故!?何故貴方なのです!?私は嫌です!」

「こればかりは私にも如何しようもありませんよ」

そう言うと苦笑する。あまりに儚い笑みが少女を逃さない。

「私に力が、力があれば貴方の力にもなれもしたかもしれないのに。今は自分の力の無さが悔しくてなりません」

大粒の涙をぽろぽろ零す少女を彼はそっと抱きしめる。

「力が全てではありません。それは過ちです。貴女は今でも私に力を貸してくれています」

「嘘です!そんな在り来たりな慰め聞きたくなんかありません!」

彼の腕の中の少女が抗う。

「貴女は私を見ても恐れはしなかった。私にはそれは何より嬉しい事だ」

「私達を護ってくれた存在に誰が恐怖を感じましょう?私は貴方に感謝しています」

「ありがとう。ただ護りたかった。それだけだったんだ。何をとか、誰をなんて解らなかった。例え疎まれても・・・・恐れられても。」

青年はなおも続ける。

「神をも凌駕するこの力。捨てる事も逃げる事も許されない。生き残るためには立ち向かう事のみ。人も魔物も幾つもの生命を奪ってしまった。屍骸が山のように積み重なっている場所で私は一人、手を血で汚し先へ進む。それが私に付き纏う運命。多くの人がそうであるように恐れるのが普通です」

「そんな・・・・」

「気にする事はありません。実はもう諦めているんです。どこで死のうと何に命を奪われようとも私は精一杯生きたと。私はそう思えます。そのように思わせてくれたのは貴方の御かげです。エリシエル・フィル・イスターシュ様・・・」

恭しくその右手を取りその甲に口付ける。

「我が名の由来・・・・。ユグドラシルの種は樹に育つまで人を見守りたく思います。第三皇子クロウ・レンフリードとの約束も果たせました。もう・・・・私があの国に留まる理由もありません。」

「な、何を?」

「御別れです。願わくば貴女の未来に幸せがあらんことを・・・・」

彼がそっと口付ける。触れるだけのバード・キス。唇が触れた瞬間、少女の瞳から止まっていた涙が再び流れ始める。

彼はこの口付けに甘さを感じた。これまでキスで感じた事があった死や、涙の味と違った・・・。

「ま、待って・・・・」

「さよなら・・・・」

その一言が彼女を金縛りにし彼は王城のバルコニーから飛び降りた。



そっと彼は瞼を振るわせ目覚める。
「久しぶりだな。この夢見るのも」
自虐的に口の端を歪める。
「巻き込みたくなかった。でも俺は今ここにいる。アリサさんに迷惑かけて、皆に手伝ってもらって。居心地がいいなんていうのは言い訳だよな・・・。俺は・・・・・、この街に永く居過ぎてしまったのかもしれない・・・・」

彼の心そのままに夜空では月が雲の向こうに消えていた。



ガラガラガラッ!

山積みになっていた本が崩れ落ちてきてヒビキが腰まで本に埋もれる。
「イヴ〜。こりゃ今週一杯やっても終わらないぞ」
「そうですよ。さすがにこれはちょっと・・・・・」
シェリルもヒビキの意見に賛成のようだ。
「そうね。この地下図書倉庫の整理には後百年は掛かるそうよ」
「ひゃ、百年ですか・・・・・」
淡々と告げるイヴに内容に絶句するシェリル。

ヒビキの本日のお仕事は旧王立図書館地下図書倉庫の整理である。朝に依頼書の中からイヴの名前を見つけてとりあえずヒビキは首を捻って考えた。
(司書のイヴがなんで図書倉庫の整理なんて頼んだんだろ。こうゆうのは館長の仕事なんじゃないのかな?まあ館長さん見たこと無いしイヴが責任者もやってるのかな?)
とりあえず知り合い優先ということで引き受けたがイヴに聞いたところ、
「こういうの見ると私苛々するのよ。それで私が頼んだの」
だそうで、ヒビキはあっさり納得した。彼の後ろには彼曰くエンフィールドの本のエキスパートであるシェリルも同行していた。

閉話休題

「ん?」
本の山が崩れたところに隙間が見えた。
「?どうしたのヒビキさん?」
「いや、そこに・・・・・」
隙間と言うか空洞を指差す。
「・・・・何でしょうか?」
全員で首を傾げる。
「人一人くらいなら通れるな・・・」
「通路、ですか?三流推理小説のようですね」
イヴにしては珍しく、クスッと声を出して笑う。
「それでどうするんだイヴ?依頼主の意見には従うよ」
「・・・・イヴさんが決めてください」
二人がイヴに決定権を委ねる。ヒビキは仕事故に、シェリルは自分に自信がない故に。
またもや彼女にしては珍しく暫く思案顔で黙り込む。
「入ってみましょう。ヒビキさん。貴方の力ならかなりの大事で無ければ害はないと思いますし・・・・」
「へぇ・・・。珍しいなイヴ?」
「・・・何がですか?」
解らなかったらしくきょとんとした顔で首を傾げる。それが普段のきりっとした雰囲気からかなり遠く可愛らしいものだったのでヒビキは思わず笑ってしまった。
「・・何がおかしいのですか?」
心持憮然とした様子で聞き返してくる。
「そうやって感情の赴くまま行動する事だよ。普段のイヴは頭で考えて、判断して決めている。今は自分の好奇心に従ってるって事だ。」
指摘するとビックリした顔でこちらを見ている。
「気付いてなかったみたいだね?」
「・・・・ええ」
イヴはふっと優しげな微笑を浮かべヒビキに答える。
「行きましょう。」
少しむっとしたシェリルが二人を促した。


人一人通るのにやや狭かった入り口に比べ、入り口の向こうに広がっていた通路は広く、舗装されていて歩きやすいものだった。
「ルーン・バレット」
魔法で作った光の玉が行く手を照らす。
「広い、ですね」
「そうね」
先頭からヒビキ、シェリル、イヴの順で進む。
(死臭?)
そういった事に敏感なヒビキだからこそ気付いた。
「二人ともちょっとここにいて。後、変な事があったらすぐに防御結界張って逃げて」
「どういうこと?」
光球を二人のところに残してイヴの質問に答えずに先に進む。

(死にたくない・・・・)
(やめて・・・・・。まだ生きたい)
(楽になりたい・・・・)
おびただしい量の残留思念がその一角に溜まっていた。
「辛かったね。今楽にしてあげるよ」
アンデット等に有効な浄化の魔法を唱え残留思念を昇華させる。
「後は・・・・」
足元に幾つも転がる白骨死体を炎の魔法で灰にする。
「今度は幸せにな・・・・」
一つだけ浄化し着れなかった魂があった。
「君は何を思い残しているんだい?」
(お願いします・・・。助けて・・・・)

先ほど二人と別れたところに戻ったが二人はいなかった。
「後手に回っちまったか・・・・・」
本来なら死臭のした方にその原因がいると考えたのだが行って見たらただの遺体放置所だった。そして戻ってきたらいなかった二人。それを意味するのは二人がその原因の手に落ちたと言う事である。
(ここに死体がないのを見ると殺すのが目的じゃないらしいな)
アレだけの死体を量産できるヤツである。二人を殺すのにそんなにてこずるとは思えない。
「おっかけっこは好きじゃないんだけどな」
自分の作った光球の魔力を手繰り駆け出した。


「隠し扉か」
壁の部分で波動が途切れていることからそう判断する。
「カーマイン・スプレッド!」
いちいち扉の開閉装置を見付けるほど余裕でもなかったので魔法で道を作る。
「最近なんか行動が大雑把のような・・・・」

そこを一言でいうのなら研究室というのが一番近いのだろう。ガラスの試験管の中に大小様々な動植物に加え魔物も混ざっている。
「何者じゃ!?」
「ただの旅人だよ」
薄汚れた紫のローブに身を包んだ老人にそう答える。
「女性を二人捜してるんだ。じいさん知らないか?」
口調とは別に視線は真っ直ぐ老人のみ見据えている。
「そこに居る。そなたはわしが何の研究をしているか気にならんのか?」
「どうでもいいねそんなこと。ただ理由は知りたいな」
そう言ってシェリルとイヴを起す。

「孫娘のためじゃよ。身体が幼い頃より弱くての。よく病に伏せっておった。」
どこか遠くを見つめる老人にヒビキの向ける視線は同情の色がありありと浮かんでいた。
「だから、か?」
「そうじゃ。だからわしは永遠を求めた。希代の魔術師が魔法の禁忌とされる永遠の命を追い求める外道になった理由よ・・・」
「だが、もうあんたの孫娘は・・・・」
「言うな!!エレナは生きるのじゃ!実験は無生物には成功しておる。この図書館の中庭の噴水は絶えず綺麗なままなのもあの花が枯れないのも全てはわしの研究の成果じゃ」
言おうとしたヒビキに犬の顔のような物体が飛ぶがヒビキは拳で叩き落す。
「あれは・・・式神!?もしかしてあなたは?」
起き出したシェリルが老人にそう問う。
「いかにも。わしの名はツチミカド。900年前から生きる魔導師じゃ。お嬢ちゃんは潜在的な魔力が強いみたいだね。わしの実験の礎になるがよい」
シェリルに向かって飛ぶ式神を蹴りと裏拳で消滅させる。
「シェリル、イヴ逃げろ。今の状況はかなりまずい。魔術師組合に掛け合って旧王立図書館全域に結界を張ってもらってくれ。後は自警団に待機してもらって。」
「自警団がすんなり聞くかしら?」
「緊急事態だ。もし待機しなくてフェニックス通りの店が全焼しても責任はもたんと伝えてくれ」
「わかりました。行きましょうシェリルさん」
「は、はい!」
二人が駆け出すのを見届けると再びツチミカドに対峙した。

「この分からず屋!」
ニードル・スクリームで吹き飛ばそうと思ったが魔法がどう言うわけか発動しなかった。
「!ミスった!?」
式神に肩口の肉を一センチほど持っていかれる。
「ちぃ!」
「ここに連れてくる者の中には魔力が強い輩もおるのでな。この部屋には魔封じの効果があるのじゃよ」
「面白い・・・」
「な、何じゃ?」
「うおおおおおおおおおおお!!!!!」
圧倒的な魔力の奔流がツチミカドを吹き飛ばす。
「がはっ!!何者じゃ御主?この部屋の中でそれだけの魔力を使うとは・・・・・・」
「別におまえが何しようが知ったことじゃなかった。あんたを止める理由は三つ。一つはあの二人に、俺の仲間に手を出したことに腹が立った。」
右の掌に生み出した炎を一点に収縮させる。
「二つめは命をおもちゃにした事・・・・」
力を解放し研究所内がたちまち火の海に変わる。
「三つ目はあんたの孫娘のエレナさんの魂にあんたを助けてくれって頼まれたからだ」
「エレナが・・・・」
先ほどの狂気じみた様子が失せ呆然としている。
「あんたはここに残るのか?」
「ああ。わしがここに残らなければ誰がエレナの傍にいるのじゃ?」
「さあな。俺は止めやしないよ。あんたとエレナの死を俺は見届け、喜ぼう」
「容赦のないヤツじゃな。だがそのセリフ心に留めておくぞ。御主のような間抜けなぐらい優しい男がいたことを。冥土の土産に一つ教えてくれんかの?」
「いいぜ」
「御主は何者なんじゃ?かの大魔導師でもこの部屋では媒介無しで魔法は使えぬはずじゃ。だからわしも式神しか仕えなかったわけじゃしの」
「俺は神殺し。神に仇為し、己の運命に縛られし者。そして無限の可能性」
「御主がそう呼ばれるのも解る気がする。ならあの宝玉を持って行くといい。きっと役に立つじゃろう」
そう言ってガラスケースを指す。
「願わくば、来世で幸せにならんことを・・・・・」
二人が火に飲まれ、年老いた男にショートカットの髪の女の子が抱き付いたのを見た気がした。



「ヒビキさん!大丈夫ですか?」
「ああ。傷口も氣で覆って止血してある。ツチミカドは逝ったよ。大切なものを手にしてね」
「そうですか・・・・後で詳しく話してくださいね」
「ヒビキさん。ではお仕事の続きを始めましょう」
「ゲッ!もうですか?」
「ヒビキよ。報酬を貰わねばな?」
「おら犯罪者!俺達にも報酬を渡すのがスジってもんだろうが」
「解りました。解りましたよ!報酬のほうはちゃんとお支払いしますので今はこれで・・」
二人に金剛石(ダイヤモンド)の粒を投げる。
「「期待してるぞ」」
にやりと笑い去って行く。
「なんなんだ・・・・」
「さあ行きましょうか」
「そうです」
呟くヒビキの左腕をイヴが右腕をシェリルが組む。
「あの・・・?」
世間の男性は羨む状況かもしれないがヒビキは勘弁して欲しかった。
二人が怒ってるのが判ったからだ。今の状況は連行される犯人そのものである。
「なんでダイヤを持っていたとか詳しく話してください」
「そうです。何があったんですか?」
「あ、あはははははは・・・・・・・」
乾いた笑いがその場に残る・・・・。


〜中庭にて〜
「永遠の命ですか・・・・・」
「ああ。でも永遠の命は何も残せない。」
「そうですね。一生懸命生きて、それで次の世代に手渡す。だから心にも響くし、意味があることだと私は思います」
「花のように、か。今度ここに種を植えよう。またいっぱいに花を咲かせるんだ」
「はい。」



「土の聖宝石。大地のエレメント、か。」
ツチミカドの研究所で戦っていた時にガラスケースの中で淡く光っていたのを見付けたのだ。ちなみに他の宝石類はジョートショップのメンバーで山分けされている。
「何でこれがここにあるんだ?」
考えても答えがでない。
「家族の情、か・・・・・」
ツチミカドの力があれほど強力だったのはより精神体に近い生霊と半ば化していたからだろうと見当をつけていた。彼の浄化の魔法に耐えたエレナの魂。どちらも強い想いだが道を間違えすれ違うと今回のような悲劇の引金となる。彼にはそれが羨ましくもあり辛くもあった・・・・。







〜あとがき〜

どうもお久しぶり!久遠の月です。漸く15弾(泣)まあぼちぼちやれば良いか。

ツチミカド、皆さん覚えていましたか?間抜けキャラを少し変えてシリアスキャラに仕立てました。皆さんはどう思うでしょうか?

「二人の死を俺が喜ぼう」
このセリフにはかなり深い意味が篭められています。まあ石を投げない程度に反論下さい。

それじゃまた次回のあとがきで!

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