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「望まぬ再会」 久遠の月  (MAIL)
   悠久幻想曲   龍の戦史   第6幕   望まぬ再会

「この街か。ったくあのバカ!なにもこんなとこまで逃げることねーじゃねーか。迎えに出る俺の身になってみろってーんだ。カスミ、ホンットーにこの街で良いんだな?ああ、わかった。うるせーぞ、ほのか!だまってろよ。わーったよ!すぐ転移させてやるよ。」
 街道をそんな独り言を言いながらやってくる一人の青年の姿があった・・・。


 ところ変わってエンフィールドでは、これからの騒動をまだ予感していないヒビキとアレフがさくら亭で少し昼食を食べていた。パティは出前に出かけているらしく姿が見えない。
「はー。今日の仕事は早く終わったな。これからどうするアレフ?」
「もちろん女の子と過ごすに決まってるだろ。というわけでナンパ付き合えな」
「はいはい、判った判った」
答えるヒビキは傍から見てもやる気なさそうに映ったに違いない。
「どーでもいいけど、おまえそんなにナンパばっかしててよく顔を覚えてるな?」
「一度見た女の子の顔を覚えるのは俺の得意技だからな」
「お前はどこまでやりゃー気がすむ?」
「当然世界中の女の子に俺の愛を届けるまでだ!」
さも当然そうに胸を張って言うアレフにさすがのヒビキも呆れた。
「いつか刺されるぞ・・・」
「ははは。その時はまた俺の虜にしてやるさ」
そんな風に話しているとパティが帰ってきた。
「ただいま。あらあんた達来てたんだ?」
当然客に向けて言うセリフではない。
「客に対してはもう少し愛想良くしたほうがいいんじゃないか?」
「あんた達にはこれで十分よ」
もちろん本心ではない。それがわかっているからアレフもからかう様に言うのだ。だが、いつもならここで入るヒビキのフォローが今日に限って入らなかった。
「どうしたのヒビキ?」
ヒビキの様子を心なしか心配そうに声をかけた。そのヒビキは顔中の色を真っ青にしてボケていた。少なくとも二人にとっては始めてみる表情だった。
「まさかとは思うが、日替わり定食にあたったか?」
「縁起でもない事言わないで!うちは食材には特に気を使ってるんだから!」
そんな会話がされていてもヒビキの様子には変化がない。当然だ。この時のヒビキはこれから起こるある予感というヤツに怯えていたのだから・・・。

この時のヒビキの思考、心理を判りやすく翻訳するとこんな感じだった。
(この気はどう考えてもシンのやつだよな!?なんでここがわかったんだ?シンが来るっていうことは、当然あの二人を転移させてくるだろうし。逃げちゃ駄目なのはわかってるけど、どうにか対処できんだろうか?腹括るしかないかな?逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目なんだよな?逃げちゃ駄目かな?ってゆーか、何で逃げちゃ駄目なんだ?逃げたいな。
逃げよう。明日の平凡な生活をするには逃げなくちゃ駄目だ!)
 こんな強引な思考変換がパティとアレフが話している内に行われていた。
 急にヒビキが立ち上がり日替わり定食の代金を置いて出ていった。当然まだ定食は残っていた。
「どうしたんだ、あいつ?」
「さあ?」
さくら亭にはヒビキの行動に疑問を持つ二人が残されていた・・。

数分後に青年はさくら亭に足を踏み入れるのだった。
「いらっしゃい」
パティは入ってきた人物にそう声をかけた。
「お客さん。始めてみる顔よね?旅の人か何か?」
「まあ、そんなとこかな?宿がとれるって聞いたけど・・。」
「ええ。何日くらい?」
「とりあえず10日ぶんよろしく。3人分ね」
「お連れさんがいるの?」
「まあね。先に代金渡しとくよ。」
そういって渡す代金は一月分ぐらいある。
「ちょっとこれ貰いすぎよ」
いくらなんでもこれは貰い過ぎだ。
「余った分はこの街について教えてくれれば良いよ。人探してるんでね」
「なんていう人?」
「さあ?」
「ちょっと、どういうことなの?」
探している人の事を聞いているのにその返事はいくらなんでもあんまりだ。
「なんて名乗っているか判らないからな。ここ1年のうちにこの町に来た男で、黒目黒髪で一見優男。もしかしたらドラゴンを連れているかもしれない。それとやたらに女にモテる。」
「ちょっと!ドラゴンてなによ!?」
心当たりには一人しかなかったがその部分だけは納得できなかった。
そんな人物は一人しか心当たりがなかったのだから。
「彼は竜騎士だからな」
そういいながらさらさらと宿帳に名前を書き込んで行く。パティは聞き覚えのない言葉に困惑している。
「それってヒビキのことじゃないか?」
アレフが口を挟んできた。
「ヒビキ?今あいつはそう名乗ってるのか?」
「あ、ああ。ヒビキ・トウドウって名乗ってるぜ」
詰め寄る青年にアレフは少し動揺しながらそう答えた。
「ちょっと、シンセリス・ウィリスさん!」
宿帳を見たのかパティが彼の名前を呼んでとめる。
「すまなかった。であいつはどこにいるんだ?」
「さっきまでここで飯食ってたけど。急に顔青くしたと思ったら出て行っちまった」
「気づいたか」
そう嘆息交じりにいう。
「で君達の名前は?俺のことはシンでいい」
「あたしがパティで、そっちのがアレフ。詳しい紹介はまた今度ね」
「そ。じゃ久しぶりにアイツとのおいかけっこを楽しむとするか」
そうシニカルに笑うシン。
「荷物どうすんのよ?」
「部屋に放り込んどいて」
そう一方的に言うと外へ出て行った。

 そのころのヒビキはというとエンフィールド学園の屋上でシェリルとトリーシャにお弁当を分けてもらっていたりする。
「いや、助かった。持つべきものはやっぱ友達だな」
「お礼に今度買い物付き合ってね」
にっこりと笑うトリーシャとシェリル。
「はい、わかりました」
女性の押しにとことん弱いヒビキだった。

「よーやっと見つけたぞヒビキ」
地獄の底から響いてくるような声に硬直するヒビキ。半泣きで振り返る。案の定最も会いたくなかった人物、シンの姿がそこにあった。

「シン・・。」
「ヒビキ・・。」

半年振りに会う親友同士の姿には到底見えなかったことをここに記しておこう・・。

「てめーは何勝手に国からいなくなってやがる!」
「契約切れてたし、どうしようが俺の勝手だろ!」

センチメンタルの欠片もない二人の再会にシェリルとトリーシャは唖然としている。

「残された人はどうなんだよ!弥生は部屋に篭もりっぱなしになっちまうし、エリスに重荷背負わせて」
「う!」
どうやら痛いところを突かれたらしい。

まともな追求はここまでだった。この後は殴り合いになってしまったからだ。今では魔法まで飛んでいる。
「アイシクル・スピア!」
「フレイム!」
互いに干渉し合い、消滅する。
 ヒビキは割とこの再会を楽しんでいた。3年も前にこれと似たことを繰り返していたからだ。だが同時にそれは辛いものであった。そしてそれはシンも同じだった・・。また戦いの始まる予感。なにか悪いことの起こる予感。そんなものを二人はひしひしと感じ、今この場でそれを吐き出そうとしていた。


悪いことの起こる予感。それはすぐさま当たった。シンがほのかとカスミの二人をエンフィールドに転移したからだ。
「どうなるか、わかっているわよね?」
詰め寄るほのかに。怖いよ、ほのか。そう言いたいがのどが痙攣して言葉とはならなかった。
「なんで私達を置いて言っちゃうの?」
こちらを軽く睨みながら可愛らしく恨み言を言うカスミに謝ることもできなかった。
それに加えてエンフィールドの仲間たちの好奇の目、ちょっと怒っている目、覚えていろという目。ヒビキのこの後の惨状は男性陣から見れば哀れなものだった。同類意識を持ったせいか、アレフは心底ヒビキに同情した。
美人ほど怒らせて怖いものはない、そうも悟った・・・。


この後にほのかの手によって五感を持って産んでくれた親を恨みたくなるようなお仕置きをされたヒビキの悲痛なまでの悲鳴がエンフィールド中に響いたが、事情を知っているものはさして気にせずに、知らない者は耳を覆い、とくに彼を助けようというものはいなかった。そして全員忘れている。彼らの関係をまだ誰も聞いていないということに・・。




〜あとがき〜
再会編。関係はまた今度。
彼の経歴に驚くエンフィールドの住民たち!
次回、明かされた過去、を皆で見よう!

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