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「明かされた過去」 久遠の月  (MAIL)
   悠久幻想曲   龍の戦史   第7幕   明かされた過去

 それは、シン、ほのか、カスミの3人がエンフィールドに来てから二日目の夜、閉店後のさくら亭でのことだった。ヒビキを除くほぼいつものといえばいつもの面子が彼らを囲んでいた。ヒビキと彼らの関係、そしてヒビキの過去についてである。これまでヒビキは、全くといっていいほど自分のことを語っていなかったからだ。ちなみにヒビキはアレフの策略により彼の知り合いの女の子に捕まっていた・・・。

期待と好奇心に彩られた視線に3人は三者三様の様子を見せている。シンは楽しいことの起こる予感、カスミは露骨に困ったという表情、ほのかはこれから始まる追求を想像しげんなりしている。
「で、あなた達はヒビキとどういう関係なの?」
その口撃の始まりを作ったのはこの二日で一番彼らと接していたパティであった。
「話しちまっていいのかな?あいつ自分で語ってないんだろ?」
「でもあの人は自分から昔のこと、語るなんて事はしないんじゃないかな?」
「どこから話したらいいかしら?」
3人はまだ話すかどうか決め兼ねているらしい。いや、一人を除いて・・・。
「・・・でも、ヒビキさん旅のときのこととか話してくれますよ?」
そうシェリルが言う。彼女はお店の手伝いと引き換えに旅のこととかをよく聞いているだけに少し困惑気味だ。するとメロディも、
「ヒビキちゃんのお話、とっても面白いのぉ」
と付け加える。・・これも条件である。そんな二人の言葉をシンはあっさり切り捨てる。
「ああ。でも多分それはアイツ自身の経験じゃなくて、誰か他の人の話だと思うよ」
「それじゃあ、あんた達が坊やについて教えてくれるんだ?」
「はははっ。アイツを坊や呼ばわりする人始めてみた!ま、いいか。いずれは知ることになるだろうし」
そう言ってから彼の二人の連れを見る。二人の目には複雑なものが見えたがとりあえず文句はないらしい。
「それじゃ、あいつについて話そう。ただし、ここ3年についてだけだけどな。それ以上前はあいつの許可がなきゃできん。質問があったらするように」
一同が頷く。
「オレルスって名前の国、知ってる?」
「確か、ちょっと前に解放戦争起こしてたね。喧嘩売ったのが西の大国であるイグニス帝国・・。」
もと戦士だけあってこの手の情報はリサは詳しい。
「そう。”オレルスの英雄王”のおかげで帝国の圧政を退け、今やオレルスは王政から民主制に変わって名前もオレルス公国になってるけどな」
「それがヒビキと何の関係があるんだ?」
ピートの疑問も当然である。
「これ以上ないってぐらいにね。ちなみに俺らもそのオレルスから来たんだ」
「何のために?」
目の前の青年の飄々とした説明にいささか腹を立てながらエルは聞いた。
「あいつを連れ戻すため」
「「そんな!」」
シーラとトリーシャが同時に叫び声をあげる。そんな様子を気にも留めず続ける。
「もしくはあいつの力になるため。今じゃこっちの理由だな」
そう苦笑する。
「でもなんだってヒビキなんかを連れ戻そうとするの?」
先ほどの答えに安堵しながらそう質問するマリアにシンの苦笑がいっそう深みを増す。
「お偉いさんにも事情があってね。凄い人材を手放したくないと思うものなのよ」
カスミにそう諭されるが、ヒビキの立場をよく知らないマリアとしては納得がいかなかった。
「でもでも!わざわざ一個人を迎えるために国が動くなんてへーんなの」
「確かにいくらなんでも変だと思います」
クリスもマリアの意見に賛成の意思を示した。
「唯の一個人ならね・・」
ほのかの一言は二人を黙らすのに十分なぐらいの重さを持っていた。
「ということは、坊やは只者じゃないってことか・・。」
「ご名答。あいつはオレルス解放軍の要中の要だったからな。カスミ、アストラルヴィジョン、使える?」
「使えるけど・・・。まさかあの時のこと映すの?」
シンは頷く。
「いっそ自分たちの目で見てもらったほうがいい。納得もしやすいしな・・。」
「でも!あの光景はちょっときついんじゃ・・?」
「その辺はカスミに任せる。というわけで、皆さんには自分の目で直接あいつの過去を見てもらいマース」
まるで見世物の様に言い放った。
「あすとらるびじょんってどんな魔法?マリアにも教えて」
「直接ってどう言うこと!?」
などの雑音もあったが3人ともどこ吹く風である。呪文の詠唱が終わると同時にさくら亭に光が溢れた・・。


イグニス帝国の圧政から祖国を取り戻そうとする、オレルスの戦士たち・・。戦場で消えて行く、たくさんの命たち・・・。それを指揮するのミドルティーンの金髪碧色の瞳を持ったヒビキ。消え去る命に自分の何で償えるか思い悩むヒビキ・・。敵国の女王を前にして戸惑うヒビキ・・。自分たちと兵士を帝国に売った狭量の王えの怒り・・。一番死の確立の高い場所へ行く命令を出さなければいけない立場の自分自身・・。すべてに傷つき、すべてに悩んだヒビキ・・。エンフィールドの仲間たちはヒビキの悲しみ、怒り、狂気、喜びといった表情を知った・・。だが、それは、とても哀しいことだった・・。
 ヒビキが言ったセリフ・・。
「これは、俺がする最後の命令だ・・・。目の前の敵を倒そうとするな。どんなことがあっても生き残れ!」
「俺には、理想も夢も関係ない・・。ただ守りたい人たちがいる・・。俺が戦う理由はそれだけでいい・・。」
「ふざけるな!てめーの自分勝手な命令のために何人死んだと思ってる!身分なんて関係ない!誰もが大切なもののために戦ってる・・。おまえにそれを笑う資格があるのか!」
「もう誰も死なせない!守ってみせるさ!俺の命に代えても・・。」
彼らにわかったのは、彼が生きるのに不器用であること、まっすぐに未来を見詰めている瞳・・。そして彼の重過ぎる業の一端・・。彼らがアストラルヴィジョンによって見たものは、すべてイメージの断片である。だが彼を理解するには十分過ぎ、また不足している。それでも彼らには十分であったのだ・・・。これからも同じ時を過ごすものたちには・・・。

「たぶん今ので判ったと思うけどあいつが”オレルスの英雄王”、クロウシード・ユグドラシルその人だ。まあ全然イメージとは遠いけどな」
そうシンが締めくくる。
「つまり私たちは突如失踪した王の確保のためにここに来たの・・。」

「ふ〜ん。俺は後任をちゃんと選んでから国を出たんだけどな〜」
「ヒ、ヒビキ君・・。」
何とかカスミが声を絞り出す。
「そろいもそろってなにやってんだか・・・」
そう嘆息すると、全員を軽く一睨みする。
「関係ねーよ。俺は俺の意思でここにいるんだ。国おん出たのだって単に堅苦しいのが嫌いだっただけだしな・・。」
「でも、一国の王様を濡れ衣とは言え犯罪者扱いしたのよね・・?」
パティの一言に一同が固まる。そこにシンの情け容赦のまるでない一言が飛んだ・・。
「エリシエル陛下の耳にこのことが届いたらエンフィールドはまず間違いなく滅ぶな。」


彼らの自己紹介もつつがなく終わり、さくら亭での会合はお開きとなった。ヒビキがシーラとトリーシャを送り、アレフがマリアを、クリスがシェリルを(寮住まいのため)。メロディは由羅が引き取りに来た・・。他は各人ばらばらである。全員に彼の正体を黙っているようにアレフが見たこともない真剣な表情で言うので、皆が頷かざるを得なかったことをここに記しておく。

リカルド宅まで彼らはおしゃべりをしながら向かっていた。もっともトリーシャの質問にヒビキが答えるというものだったが。
「ねえねえヒビキさん。どうして戦争なんかやっていたの?」
その質問はシーラもしたかったものだ。普段の彼を見ていると闘いなんてものは好かず、平穏な生活を好むと思ったのだ。だがヒビキの答えは拍子抜けするものだった。
「成り行きさ」
「本当〜?」
「たまたま立ち寄った先にあいつらがいてね。ただそれを手伝っただけ」
「そうなんだ」
シーラの隣では二人がそんな会話をしている。彼女は正直トリーシャが羨ましかった。
自分の思ったことをストレートに聞ける彼女を・・。そしてなんとなくそのままリカルド宅にについてしまった。
「おやすみなさい!ヒビキさん、シーラ」
そういって家の中に入っていった。トリーシャも気づいていた。女性ゆえの勘とでも言うのだろうか?シーラが自分と同じ感情を持ち始めていることに・・。

「やっぱりショックだった?」
そうヒビキに言われたときいったい何について行っているのか判らなかった。
「え?」
「いや、だからさ。俺があんなのだって知ったこと・・」
シーラには正直不思議だった。男の子が苦手な自分がなぜこうも彼の前では自然体でいる事ができるのだろうか?そんなことを考えていたからヒビキの言葉はあまり頭に入っていなかったのだ。そんなシーラの様子を見ていて勝手にショックを受けたらしいと思い込んだヒビキは、
「エレイン橋のほうに行ってみない?」
とさそったのだ。

「綺麗・・」
そんな風に川を眺めているシーラに声は掛けづらかった。だからただ眺めている・・。
「ね。ヒビキ君。さっきショックだったかって聞いたでしょ?でもあんまりショックじゃないの。」
「なぜ?」
「なんて言ったらいいのかよくわからないけど、ヒビキ君はヒビキ君だなって思ったからかしら?」
シーラの髪を春先の少し涼しい風が揺らす。
「そっか・・」
二人の間を沈黙が支配する・・。
「一つ、聞かせてもらっていい?」
「なに?」
「髪と瞳の色が変わってるけどどうしたの?」
「封印さ。バカが自分の力で傷つけるものを少なくするため。それと、変装のためかな」
「そう・・」
この時シーラはシーラで戸惑っていた。なにぶん彼女は箱入り娘として両親に育てられていたためこんな状況に慣れていようがなかった。そしてヒビキは鈍すぎる性格故に。
だから、口笛を吹いた。ただの時間稼ぎのつもりで吹いた、何でもないメロディ。シーラはと見るとエレイン橋の欄干の部分に腰掛け、熱心に聞いている・・。
(そういえば、こんなことも前にあったな)
(あの時はヴァイオリンを弾いてたんだっけな・・。誰もいない戦場で・・。)
ただ、少しでも死者に対する慰めになればと思って弾いた曲・・。
そして今吹いている優しさを伝えようとする曲・・。
「聞いた事がないけれどなんて曲なの?」
「有名な作曲家でもない、ただ一人の人間が大切な人を思って書いた、名前のないメロディ・・。そろそろ帰ろう。これ以上遅らせるとジュディが心配するだろ?」
「うん・・」
そういって二人は歩き出した。シェフィールド邸につくまで二人の間には心地よい沈黙が続いた。

一方これを覗き見していた、アレフ、リサ、シン、エルはこれから起こるヒビキをめぐる争いを予感し、楽しみにしていた。リサとシンは退屈がなくなり、ヒビキをからかう楽しみが増えると喜び、アレフは単に娯楽の一つと思っている。エルは親友には悪いと思いながらもこれから起こることを期待していた。エンフィールドの明日は平和だろうか・・。

ことの首謀者であるシンをヒビキが手加減なくぼこぼこにしたのはこれから二日後であった。クラウド医院にはお見舞いの品ではなく、線香が届いたという・・・。

幸いにも、リカルドやアルベルトといった自警団員にはヒビキの正体は伝わらず、エンフィールドは平穏が続いたという。





〜あとがき〜
オレルス解放戦争のパートはそのうち外伝にでもしようかと思っています。速めに書いて欲しいときはメール下さい。

んじゃ。

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