Happy Birthday Dear Maria !
中央改札 悠久鉄道 交響曲

その笑顔をいつまでも

「有間、お誕生日、おっめでとぉ〜。それじゃあ、乾杯!」
悪友アレフの乾杯の音頭で、その日の主役亜村有間を始めとする彼の誕生日を祝いに来ていた友人達が、 グラスの澄んだ音をエンフィールドの憩いの場、さくら亭の店内に響かせた。 「本日貸し切り」と表に札の出されたその空間には、この街の主立った面々が集まっていた。無実を証明すべくともに働いてくれた仲間、 支えてくれた良き理解者、まぁ手伝いに来ているはずが問題を持ち込んで余計に疲れさせてくれた奴もいるが。そして・・・
「ねぇエル〜、マリアもお酒飲んでみたい〜。だってみんなとってもおいしそうに飲んでるんだもん!」
「やめときな。お前はまだ未成年なんだぞ、悪酔いして魔法を暴発させたらみんなが迷惑するだろ? 立派な魔法使いはそのくらいの我慢をするもんだ。違うか?」
「う”〜。じゃあ、マリアがお酒を飲んでもいい歳になったら、とことん付き合ってよね!」
「ははは、はいはい。お気の済むまでお付き合いいたしますよ、お嬢様。」
何を言っても売り言葉に買い言葉で天敵という言葉すら当てはまりそうだった二人の少女、マリアとエルのすっかり打ち溶け合った様子を 見て、有間はめったに飲まない(と言っても飲めないわけではないが)酒を満足そうに飲んでいた。と、
「あぁ〜、マリアっていつ見ても可愛いなぁ〜。」
「ホントホント。よ〜し、今日こそプロポーズしちゃうぞ!」
背後から突然声がしたのでさすがに有間も一瞬はビックリしたが、あわてふためいたりうろたえたりするほどのこともなく、ゆっくりそちらに向き直した。 慣れのせいか、あるいはどこかでこうなることを予測していたのかも知れない。声の主、トリーシャとローラの性格を知っていたために。
誰だったかが『エンフィールドの広報部隊』と称したほどこの二人はとかく何にでも首を突っ込みたがる。しかもそれが恋愛となれば 年頃の少女である二人を止めることは無理というものであろう。
「後ろから驚かすなんていい趣味とは言えないな。それとトリーシャはともかく、ローラ、もっと声を低くしないと俺の声真似だってわからないぞ。」
冷やかされた青年は至って冷静に、この可愛い「襲撃者達」に言ってのけた。あるいは驚かされた仕返しに努めて落ち着いて見せたのかもしれないが。
「エヘヘ、ごめんなさ〜い。だって有間さんったらマリアの方をじっと見つめて動かないんだもん、ついいたずらしたくなっちゃって。」
「ほんとよ!あたしだって今日のためにう〜んとおめかししてきたのに、お兄ちゃんったら全然見てくれないんだもん。」
「え!?あ、ごめんごめん・・・俺、そんなにマリアの方をじっと見てたか?」
「「見・て・た!!」」
二人の少女に声を重ねて詰め寄られ、言葉に詰まった彼は手近にあった酒をグラスに注いで一気に飲み干し・・・その予想外のアルコールの強さにむせた。
その様子に一瞬目が点になったトリーシャとローラは、何かに弾かれたように大きく笑いだした。ばつの悪い表情でおそるおそる二人と目を合わせていた有間も、 彼女達の笑いに釣られて、照れ笑いが大きな笑いへと変わった。
その空間に広がっていたのは、温かさと楽しさに包まれた一時だった。

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ふと数日前の光景が頭によぎり少女は笑顔になったが、すぐにそれは寂しい色を帯びやがてなくなってしまった。
そう言えば有間と一緒に働いていた時は忙しいからって合同で誕生日を祝ったっけなぁ・・・
そう遠い昔のことではないけれど、それを思い返す彼女の眼は遥か遠いものを見るそれだった。と目的地に着いた。
カランコロン♪
「いらっしゃいませ。あらマリアちゃん・・・ごめんなさいね、有間君今日も仕事詰めみたいなの。」
「え!?あ、あの・・・そぅ。」
突然そう言われ照れ隠しの強がりを言うことすらできず(もっともアリサさんが相手だからということもあるが)、マリアは弱々しく答えた。
「私も無理はしないように、少し休むことを勧めてはいるんだけど・・・」
手振りでマリアに座るよう指示すると、お茶の用意をしながらアリサさんはそう言った。カップに紅茶の注がれる音と細く上る湯気と微かに鼻に届く上品な香りは、 普段なら彼女を落ち着かせ、幸せな気分にすらさせてくれる。が今は、その包み込んでくれる温かさが逆に胸に深く突き刺さった。
「・・・いただきます。」
目を伏せたまま、それでも頭だけは自分をもてなしてくれる女性の方へ向け、少女は軽くお辞儀をした。両の手で包み込むようにして持ったカップはほどよい温度で 彼女を迎えている。胸の奥の震えを感じたマリアは手の中のものを見つめるのをやめ、一気に飲み干した。
「きっと、彼には彼なりの考えがあるんだと思うの。時間が出来たらそれとなく聞いてみるから、その、負けちゃあ駄目よ。」
アリサおばさんにしては随分安直な言葉だ、とマリアは感じた。何とも言えない不思議な感じがした。 さっきまで悲しいのか憂鬱なのか、とにかく嫌な気分だったのに、その一言でふと冷静になった自分がいたのだ。 それがアリサさんという女性の人徳によるものか、はたまたマリアが成長したのか、それは定かではないが。
「ありがとう、アリサおばさん。マリア、もう少し大人しく待ってみるね★」
「分かったっス〜。きっと有間さん、マリアさんの誕生日に物凄い物を贈ろうって考えてるんスよ!いっつも『予算が少ないから期待するなよ!』なんて言ってるのを、 気にしてたんスね。」
それまで場に広がる重々しい空気を感じて黙っていたテディが、マリアが強がりではなく本当に元気を取り戻したのを機に口を開いた。
「ちょ、ちょっとテディ!?突然しゃべりだしたと思ったら何を言い出すのよ!?」
「ふふ、な〜るほど。羨ましいぞ、マリアちゃん♪」
テディはともかく、アリサさんにまで予想外にそう冷やかされ、マリアは赤くなってパタパタと手を振りながら紅茶のお代わりを求めた。 そんな様子を見て、冷やかした本人は笑いながらティーポットからカップへ紅茶を注いだ。
ゴクゴクゴク、ケホケホケホ。
「あらあら、大丈夫?そんなに急いで飲まなくてもいいのに。」
「今日のアリサおばさん、意地悪〜。」
「御主人様は意地悪じゃないっス、お茶目なだけっス〜。」
『お茶目』という、落ち着いた物腰のこの女性にはおおよそ似合わない形容を聞き、二人はさも楽しそうに笑い出した。
「ボ、ボク何か変なこと言ったっスか〜!?」
そんな中、きっかけを作った当の本人だけが、置いてけぼりをくっていた。

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「それじゃ、マリアもう帰るね♪」
「えぇ、また有間君がゆっくりしている時にいらっしゃい。」
「そうっス、愛の語らいをするっス!」
どこで覚えたのか(おそらくはアレフだと思うが)そんなテディの冷やかしの言葉にマリアは小さく『べ〜』と舌を出すと、笑いながら外へ出ようとした。
「マリア・・・来てたんだな。」
「あ、有間・・・」
「マリア、ちょっといいか?」
マリアが何かを言い出すよりも、アリサさんが二人揃ってお茶を飲むよう勧めるよりも早く、店に入ってきた青年はそう切り出した。 右手は『外へ出よう。』といった感じでかぎ型になって表を指差していた。
「う、うん。別に、いいけど。」
驚いたというのが一番大きいのだろう、少女はそう答えるのが精一杯だった。
「すいませんアリサさん、そういうわけでちょっと出てきます。」
「え、えぇ。それは別に構わないわ。」
「夕飯までには帰ってくるっスよ。」
「わかってるよテディ。それじゃ。」
二人を送り出すような澄んだカウベルの音が、何故か今だけは乾いた音に聞こえた。
「で、マリアに何の用なの?」
陽の当たる丘公園のベンチに腰をおろして一息ついてまず言葉を発したのはマリアだった。だが、『ちょっと待ってくれ。』というように 手振りで制すると、有間は道中買った飲み物をマリアに手渡した。昔ならそれを跳ね除け言葉を要求していただろうが、小さな白い手はそれを大人しく受け取った。 横にいる人物に、いつもと違う何かを感じたせいかも知れないが。
「その、最近忙しくて、誘うどころか、せっかく何処かに誘ってもらっても断って、何て言うのか、ごめん。」
「それは、その・・・許してあげる★マリア心が広いもん!」
おどけてみせるその姿は、強がっている様子がいささかも感じられない。それを見て有間の表情がふっとやわらかくなった。
「マリア、大人になったな。」
「あぁ〜っ!有間、まだマリアを子供扱いするつもり〜!?」
「ははは、そんなことしないよ。だって魔法使われちゃこわいもん。まぁ以前と違って『どんな失敗をするか』におびえる心配はなくなったけど。」
「ひっど〜い、有間ったら、ひっど〜い!」
むくれっ面こそしているものの、その表情は生き生きとしていて、下手な作り笑顔よりよっぽど好感が持てた。
「・・・実はな・・・」
嬉しそうにそんな様子を見ていた彼だったが、突然重そうに口を開いた。マリアもふざけるのをやめ、その続きを待った。

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「どうして、どうしてよ〜!?」
辺りに響く少女の叫び声に、数少ない公園にいた人々が一斉にそちらの方を向いた。だがそれを抑えようともせず、原因、有間は俯いてベンチに腰掛けたままでいた。 一拍置いて辺りを見回す余裕のできたマリアはベンチに腰掛けたが、体の震えは止まっていなかった。昔から見慣れた少女そのままの姿がそこにあった。
「・・・どうしても断れない仕事が入ったんだ。」
低い声で詰め寄る少女に彼はそうとだけ答えた。
「マリアより仕事の方が有間には大事なんだ!?」
「どちらも、どちらも大事なんだ!」
彼女をこれだけ取り乱させたもの、それは有間の『今年のマリアお誕生会には出席できない。』の一言だった。すぐには信じられなかったが、それが 自分を驚かせるための嘘や冗談でないことは彼の様子から一目瞭然だった。今までろくすっぽ相手をしてもらえなかったことを我慢できたのも、『お誕生会にはきっと!』と いう考えがどこかで心の支えになっていたのかも知れない。ジョートショップでそう励まされたことも大きいだろう。
「でもちゃんとプレゼントは用意するから。」
その言葉は、有間の口からは出なかった。それが彼女にさらに追い討ちをかけることになるのは明らかなのだから。今自分に出来ることは最愛の少女の怒りを甘んじて受けること、 彼には痛いほどよく分かっていた。
「ごめんマリア、この埋め合わせは必ず、」
「出来ないよ!誕生日は一年に一回しか来ないもん!来年までなんてマリア待てないもん!」
「・・・マリア。」
「有間なんて・・・知らない!大っ嫌いだぁ〜!」
「・・・仕方、ないよな。」
走り去る少女の背中が小さくなっていくのを、ベンチに残った人影は見送るしかなかった。いつの間にか日は傾き、すぐにもテディの言った夕飯の時間になりそうだった。
「行っておくか。」
ポケットからかなりの額のお金を取り出すと、青年はゆっくり歩き出した。
「この仕事だけは、はずせないんだよ。だって今度こそ本当にアリサさんの目が治せるんだぜ。いくらマリアのためでも、いや、マリアだからこそ俺はこの仕事を優先させるんだよ。 ・・・お前を、悪者になんてできないよ。」
もし自分がマリアのためにアリサさんの目を治すことを先送りしたら、一番苦しむのはマリアだ。それを分かっているからこそ有間は彼女のお誕生会を休むと決めた。 けれどその理由を話してしまったら今度はアリサさんが、『自分のことは気にするな。』と間違いなくいうだろう。誰にも、何も話せなかった。 「ドクター、オークションまであと少しだな。・・・本当に、アリサさんの目は治るんだろうな?」
さっきポケットから出したお金を引き出しの中に鍵を開けていれると、有間はそう目の前の男に語り掛けた。
「あぁ。俺だけでなく北方の大きな街で研究をしている俺の知人も、あの花と目薬茸さえあれば必ず治せると言っている。心配するな、お前の努力は無駄にはしない。」
心なしか友好的なドクターの言葉に顔にかかった靄を払われ、
「そうか、じゃああと一頑張りだな!」
肩を回しながら有間は力強く言った。やはりさっきのことがあるからだろう、有間は不安になっていた。
その額で大丈夫か?その花は本物なのか?それは確かにアリサさんの目に効く薬となるのか?
何度も問いただし、その都度大丈夫だという答をもらっていたのに、また同じ質問をしてしまった。がドクターも彼の心情を察してか『しつこいぞ!』の一言は決して口にしなかった。 もちろんどんなに頑張っても治せなかった、先天性のアリサさんの目を治せるということへの緊張のようなものもあっただろうが。
カレンダーの8/17に書かれた『目標額達成!』の文字を見ながら、有間は辛い気持ちを目標を目指す意欲で必死にごまかしていた。
片親で、唯一の親も仕事で忙しくかまってくれない。そんな少女がやっと見つけた心の拠り所が自分である。その自分が彼女のお誕生会に出席しないということがどれほど大きなことか。
考えないようにしていても、やはり言い知れぬ罪悪感が彼の胸を締め付けた。

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ポチャン
小さな音がして、波紋が水面を走り抜けた。それを見ていた少女は突然立ち上がると、今度は思いっきり遠くに石を投げた。さっきより大きな音がして、より遠くまで波紋が広がった。
「これこれ、池に石を投げるでない。」
「カッセルおじいさん・・・ごめんなさい。」
落ち込む少女の様子に、声をかけた老人カッセルは静かに話し始めた。
「これは、昔あった物語じゃ。あるところに無実の罪で捕らえられた男がおった。その罪自体は軽かったが当然その者は無実を主張し続けたため、その往生際の悪さにしびれを切らした役人が、 ついに死刑の判決を下したのじゃ。」
驚いて何か言いたげに立ち上がる少女を制すると、彼は話を続けた。
「だが彼の無実を信じ、そしてついにその証拠をみつけ真犯人を突き止めた彼の親友がおった。が驚いたことに、その真犯人というのは他でもない彼の妻じゃった。だが周りが止めるのも聞かず、 男は迷うことなく妻を役人に突き出した。妻の家族は彼を激しく非難したが、突き出された妻はこう言って彼に感謝したそうじゃ。『ありがとう。もしここであなたが私を突き出さなければ、 私は一人の人を自分のために犠牲にするところでした。』」
「それで、その女の人は殺されちゃったの?」
「いや、もともと重い罪ではなかったし、被害者や彼の親友の口添えもあって一年の間街に労働奉仕するだけで許されたそうじゃ・・・人間は皆、少なからず誰かに迷惑をかけながら 暮らしておる。じゃがそのことをわきまえ、逆に誰かのために我慢したり時には犠牲になったりすることは難しいけれど尊いということじゃな。この夫は、妻にそれを気付かせてやったというわけじゃ。」
「誰かのために・・・我慢・・・」
「年寄りの昔話に突き合わせて悪かった、じゃがどんなに悩んでいても池に石を投げちゃいかんぞ。」
「うん、分かった。ありがとう、すっごくいいお話だったよ。」
金髪の少女、マリアの極上の笑顔を見ると、カッセルは満足そうに顎髭をなでながら小屋へと帰っていった。さっきまでおぼろげに浮かんでいた青年の顔を今度ははっきり思い浮かべると、 心の中であっかんべ〜をしながらマリアは小さく言った。
「マリア、子供じゃないもん★」
「あ、いたいた。お〜い、マリアちゃ〜ん!」
ゆっくり一人の世界に浸る時間は、かつての『エンフィールド最強コンビ』の片割れによって簡単に破られた。
「あれ、ディアーナじゃない。どうしたの、そんなに慌てて?」
「はぁ、はぁ、はぁ。やっと見つけた。あのね、実はさっきドクターと有間さんの話を聞いちゃって・・・(内容を話す。)」
「そういうことだったんだぁ。ディアーナ、それあと誰に話した?」
「えぇっと、リカルドさんくらいだけど。あ、でもちゃんと口止めはしておきましたからね。」
「トリーシャやローラには?」
「話してないけど。」
「じゃあ絶対に話しちゃ駄目だよ。もし話したらドクターに頼んでおっき〜な注射打ってもらうからね!」
「わ、わかりました。もう誰にも話しません。」
何やらわからないが彼女の迫力と注射の恐怖におされ、情報を持ってきた医者の卵はただただ頷いていた。
「有間の馬〜鹿!・・・マリアの馬〜鹿!!!」
池に向かって叫ぶ友人を、ディアーナは走ったせいでずれた伊達眼鏡を直しながらわけもわからず見ていた。

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「ではアリサさん、行ってきます。」
「有間君、くれぐれも無茶は禁物よ・・・それから、今日は早く帰って来てあげてね。」
「分かりました。それじゃ!」
自分の嘘に後ろめたいものを感じながらも、それを表に出さずに有間は店を出た。いつも通りさくら亭で開かれるパーティー。看板娘のパティを始めとする面々が気をきかせていつからか 『亜村有間主催』なんて肩書きがつくようになった。まぁ費用の大半をこの日のために貯めた貯金の中から自分が出しているのだからあながち間違いではなかったが。
「さて、今日の仕事は・・・」
「モンスター退治。アリサさんには街の近くの洞窟に住みついた大グモを5匹ほど退治するだけだと言っているが、その実確認されているだけでもオーガー10匹、ガーゴイル5匹、噂ではドラゴンまで住み着いたと 言われているとある地主の山のモンスター退治。」
「ア、アルベルト!な、何故それを!?」
「最近君が四六時中働いているにも関わらず第三部隊への苦情処理の依頼が絶えないのでね、悪いとは思ったが第二部隊に頼んで情報を集めてもらった。」
「そうか。・・・そうだよ、近隣の街には割のいい仕事が多いからな、それをかき集めて稼いでいる。でもだからって何故それをおっさん達にとやかく言われなきゃいけないんだ!?」
「君が心配だからだ!・・・ディアーナちゃんから事情を聞き、ドクターにも確認を取った。聞けばかなりの無茶をしているそうじゃないか。」
「全部知っているのか・・・だったらなおさら何で止めるんだよ!?今日で全てが終わる、いや、今日を駄目にしたらこれまでの努力が水の泡になるんだぞ!」
「馬鹿かお前は。熱くなって勝手に一人で話を進めるんじゃねぇよ!」
「・・・どういう、ことだ。」
「その依頼は我々第一部隊が責任を持って引き受ける。もちろん報酬はドクターのもとに届ける。エンフィールドの一住民である君を危険から護るのだ、任務からはずれているとは私は思わんが。」
「おっさん・・・しかし、」
「隊長はともかく、俺はアリサさんのために働くんだ。一人でいきがっていい格好ばかりしようと考えるんじゃねぇよ!」
「アルベルト・・・」
「お前が怪我して帰りゃ、アリサさんが悲しむんだ。それくらい分かれ馬鹿野郎。」
「この任務は我々に任せてもらいたい。君の実力は知っているが、数と君の状態を考えると命すら落としかねない。心配しなくていい。このことは我々二人以外の団員には知らせていない。」
「だったら俺も・・・」
「誕生日というものは、一番祝って欲しい人物が側にいてくれることほど嬉しいものはない。君は、マリアちゃんの側にいてあげるべきだと私は思うが。」
「おっさん、アルベルト・・・ありがとう。」
「てめぇにゃ大きな借りを作っちまったからな。その、盗難事件の時に・・・さっさと行け、隊長のお気持ちを無駄にする気か!」
アルベルトがじれったそうにハルバードを振り上げると、有間は方向転換し、弾かれるように祈りと灯火の門をあとにして走り去った。
そういえば家出騒ぎのあと、『いい機会だからうんと文句を言ってやった!』とトリーシャが得意そうに話していたっけ。そんなことをふと思い出し 走りながらふと顔がほころんだ。
「我々もそろそろ行くとするか、アル。」
「はい、隊長!」

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「トリーシャ、こっちの盛りつけの方お願い!」
「え、あぁこれだね。了解♪」
「リサさん、そっちをあと5cm程高くしてもらえるかしら。エルさんの方はそのままでいいわ。」
「あいよ。こんなもんかい、イヴ?」
「えぇ、それでちょうど水平になったわ。」
「よいしょっと。この周りの飾りは・・・クリス、そっちの進み具合はどうだい?」
「うん、マリアちゃんも手伝ってくれてるからもうすぐ終わるよ。」
「おいおい、主役に働かせてどうするんだよ。」
「いいじゃない、じっと待ってるのって退屈なんだもん。ね〜、エル〜。」
「ははは、確かにじっと待つってタイプじゃないよな。いいんじゃないの、邪魔してるわけじゃないんだしさ。」
「まぁ、別にアタシも手伝っちゃいけないって言ってるわけじゃないんだが・・・」
「大丈夫よエルさん、それがあなたの気配りだってことはみんな分かっているわ。」
「料理の方は下準備できたわよ。飾り付けももうほとんど出来てるみたいね。」
「あぁ。ところでパティ・・・」
「はいはい、ちゃんとピザも大目に用意してあるわよ。」
「さすがパティ、わかってるじゃない!」
準備に集まった面々の楽しい声を聞きながら、手の空いたマリアは少し離れたところで出掛けにリカルドから渡されたメモを開いた。
〜お誕生会には出席できないが、最高の誕生日プレゼントを用意させてもらったよ。:リカルド
ビックリするだろうけど、絶対喜んでもらえること間違いなし!:アルベルト〜

カランコロン♪
「・・・パーティーのスポンサーだからって準備に遅れていいわけ?」
店に入ってきた人影にパティが明るい声で皮肉をぶつける。
「悪い、ちょっと、な。」
「それじゃもう一人の主役も来たところで始めるぞ〜!」
買い出し兼人集めに行っていたアレフが有間のすぐあとから入ってきて、早くも主導権を握った。パティとトリーシャが手早く 飲み物を一同に回すと、アレフが有間の方を見て顎で合図を送っている。
「そ、その、何て言うか・・・マリア、お誕生日おめでとう。乾杯!」
不器用だが彼の気持ちは皆に確かに伝わっていた。グラスの奏でる澄んだ音が数日前と同じようにさくら亭に響いた。

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「よぅ〜し、プレゼントタイムだぁ〜♪」
トリーシャがまるで自分のことのようにはしゃぎ、
「トリーシャ、別にあんたがもらうわけじゃないだろ。」
案の定エルに突っ込まれた。とはいえ彼女もトリーシャのはしゃぎたがる気持ちが分からないではないらしい、マリアを中央に行くよう勧めた。
「とか言いつつ、エルさんも結構はしゃいでますね。」
「ふふふ、こういったものはウィンドーショッピングと同じでね、見るだけでも結構楽しいものなのよクリス君。」
周りが騒ぎ立てている間にもプレゼントは続々とマリアの前に集められ、一つ、また一つと開けられる度に歓声が上がっている。そして・・・
「その、いつも通り予算がなくって・・・これ。」
有間は固めた拳をマリアの前に突き出す。小さな両手でマリアが受け皿を作ると、小さな何かが落ちる感触がした。
彼女の手に落ちたもの、それは二つのピンク色のリボン
だが、『それだけか!?』と冗談を言うものは者はいなかった。主役の、その日一番の笑顔を見たのだから。
「それじゃ、記念撮影だ!誰か、フォート持ってない?」
「あ、俺持ってる。」
トリーシャの問いに有間は答えた。ちなみに付け加えておくと、昔のフォートは一週間ほどが限度だったが、紙に魔法力を含ませるという新技術によって開発された 半永久的に記録を残せる「メガフォート」が作られ、今では一般的に出回っている。余談だが、被写体の動きも再現するギガフォートというものもある。
「ふぅん、白いフォートなんだね。」
メガフォートは薄い水色なのだが、有間の手にしたそれは真っ白だった。
「あぁ、知り合った行商人にもらった。『想いのフォート』とか言ってたけど、フォートなら変わりないだろう。」
有間がフォートを構えると、みんながその前に集まった。自分も写るように勧められたが、有間は断った。自分のフォートだから自分が写すと言って。
「どう、綺麗に撮れた?」
「え!?・・・駄目だ、何にも写ってない。もらいものは駄目だな、夜鳴鳥雑貨店にひとっ走り行って買ってくるよ。」
白紙のフォートを見せると有間は足早に駆けて行った。

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みんなから見えないのを確認すると、有間はフォートを裏返した。みんなに見せたフォートが白紙だったのは、裏を見せていたのだ。
「なるほど、『想いのフォート』ね。」
あれだけ人が集まり、ちゃんと全員が入るように写した。けれど彼の手にある紙には、その中央にいた少女だけが大きく写っていた。
「ま、目的は果たせたから俺はいいんだけど。」
嬉しそうに小さく短く息を一つ吐くと、手にあった紙を青年は折り目がつかないよう注意しながら手早く丸めた。彼が写す側に回った本当の 理由。それは自分の手で今日のマリアを写してあげたかったから。
「さぁて、またあの二人に後ろから襲撃されないうちにとっととフォートを買って帰るか。」
雑貨店に向かう有間の手には、丸められたフォートが優しく握られていた。
「お誕生日おめでとう、好きだよマリア。」
まだ本人には言えない言葉を、そっとフォートにささやいてみる。
彼は知らない。丸められたフォートに写ったマリアがウインクしたのを。

〜Happy Birthday Dear Maria〜Aruma


中央改札 悠久鉄道 交響曲