中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想

ふたつの『おかえりなさい』≪前編≫ REIM(MAIL)
 「ふう…やっと見えてきたな」
 右手で額の汗を拭きながら男は呟いた。
 年の頃は20歳を少し過ぎた黒みがかった茶色の髪の男は、遠くに見える街並みを目指して歩みを早めた…。

 それからしばらくして…雷鳴山の麓では…。
 「あー。ったく、ひでー目にあったぜ…。さてと…」とぼやきつつ崩れ落ちてきた岩を除けようするアルベルト。
 しかし…。
 「…んっ?…うおっ!?…あー、っと…まさかとは思うが…」浮かんだ『答え』でジト汗が流れる…。
 「でっ、出られねぇ!? おいおいおい! カンベンしてくれよ〜…」半ば悲鳴をあげるアルベルト。
 丁度その時、
 「おいっ! そこに誰かいるのかっ!?」と外から声がした。
 (ん? どこかで聞いたコトが…?)「ああっ! いきなり岩が崩れてきて生埋めになっちまったっ!」
 聞こえてきた『声』に怒鳴る様に返事するアルベルト。
 「わかったっ! 今、助けてやるから少し下がってろっ!」
 「助けるって、どーやってだっ!?」「魔法で岩を吹き飛ばすっ!」物騒過ぎる答えが返ってきた…。
 「ちょ、ちょっと待てっ!!」慌てるアルベルト…が、
 「“光の戦士ヴァルキュリアよ、現世を照らし心強き永遠の勇者よ、
  汝の持ちし投げ槍で我が敵を打ち砕け、Valkyrja=Javelin!”」
 (!? なんだ、この魔法はっ!?)呪文を聞いて驚くアルベルト。
   ドッゴーン!!
 『力ある言葉』が唱え終わると共に目の前の大岩が吹き飛んだ。
 「大丈夫か…って、なんだアルベルトじゃないか、何やってんだよ、お前は?」
 「げっ!? いつ帰って来たんだっ!?」目の前に現れた顔−フィムである−を見て驚くアルベルト。
 「いつって…ついさっき着いたばかりだが…」とフィムが答える。
 「くっそ〜、テメーに助けられちまうとは、な」「…ケンカ売っとんのか…テメーは…?」
 「んなコトはどーでもいいっ! さっきの魔法はなんなんだっ!? 見たコトも聞いたコトもねーぞっ!」と
 フィムに噛み付いた。
 「そりゃそーさ、上位の精霊魔法のひとつだからな」とフィム。そして…。
 「ちなみに…こーゆうのもあるぜ…
  “樹の乙女ドライアッドよ、ひとときの安らぎを与えし心優しき歌姫よ、
  汝が歌いし調べを彼者に聞かせよ、Dryad=Lullaby!”」
 その瞬間、アルベルトの意識は眠りに落ちた…。

 一方、『さくら亭』では…。
 「…お兄様は…一体に行かれたのですか?」と昼食を摂っていたティルトにクレアが尋ねて来た…。
 「さ、さあ?」(ま、またか…)と内心溜息を漏らすティルト。
 「ティルト様、本当の事をおっしゃって下さい!」「そ、それは…だな…(汗)」身を乗り出したクレアに
 顔を近づけられて対処に困るティルト。
 こんなヤリ取り−『さくら亭』の名物の一つになりつつある−をしている二人を横目で見ながら、
 「またやってるわね…」「う〜、ティルトさんから離れてよぉ〜」「トリーシャちゃん…それ何か違う…」
 と順にパティ,トリーシャ,クリスが口々に言葉をつむぐ…。
   カララン…♪
 「あ、いっらっしゃい…って、あんた、いつ戻って来たの!?」入って来た人物を見て驚くパティ。
 その声でクレアを除くトリーシャ達も入口の方を向いて…驚いた表情を見せる。
 「あのな、パティ…一応、客なんだけど…?」とその人物−肩に何かを抱えてる−が呟く。
 「フィムさん!?」トリーシャも驚いた表情を隠せない。
 何が何だか、さっぱり分からないクレアはパティ達の様子にきょとんとした表情を見せていたが…、
 「お兄様!? 兄に何をなされたのですかっ!?」とフィムにくってかかって来た。
 「何をしたって…コイツがケンカ売って来たから眠ってもらっただけだが…」と「誰? この娘?」という顔で
 答えるフィム。
 そして、肩に抱えていたもの−アルベルトである−を床に下ろした。
 「戻って来た早々、ケンカ売られたんですか…」ぽつりと呟くクリス…。
 「それはそうと…何してたんだ? アルベルトは?」尋ねるティルト。
 「わかんねよ、んなコト。第一、俺が来た時には生埋めになってたからな」「!?」フィムの言葉で驚くクレア。
 そして、兄に駆け寄ると「お兄様、しっかりして下さいっ!」と揺さぶり起こした。
 「…ん? クレア? ここは…どこだ…?」目を覚ますアルベルト…辺りを見まわし…、
 「あーっ!? このヤロー、何しやがったんだっ!?」フィムの姿が目に入るとくってかかって来た。
 「おいおい、ここで暴れるなって…パティにどつき倒されるぞ」小声で言ったつもりだったが…。
   すっかぁぁん!
 フィムの頭にお鍋のフタがヒットしていた…。

 「痛てて…ったく、帰って来た早々コレかよ…」と頭を押させつつぼやくフィム。
 「あら、歓迎してあげたつもりだけど?」しらっとした表情でパティ…。
 「どこの世界にフタ投げて歓迎するがヤツがいるかっ!!」「あんたの目の前」「だぁーーっ!!」
 たちまち始まる口ケンカ…進歩のないヤツら…。
 一方、フィムにくってかかろうとしたアルベルトはというと…その情景に半ば呆れるしかなかった…。
 「また、始まっちゃったよぉ」「こうなると二人とも意地っ張りだから…」呆れて呟くトリーシャとクリス。
 「ところで…ジョートショップには顔を出したのかい?」尋ねるティルト。
 「いや、まだだが…」「こらぁー! あたしをムシ…」「悪い、今取込み中だ」と言って近くにあった
 サンドイッチを3つばかりパティの口に押し込む…。
 「!!!!??」息が苦しくなってもがくパティ…。
 「あーっ!? ボクのサンドイッチ!!」と言ってフィムに抗議するトリーシャ…が…。
 「静かにしてくれ」の一言とともに彼女の口にもサンドイッチが押し込まれた…。
 「アリサさんは元気だったか?」何とかして飲み込もうしてもがき苦しんでいるパティとトリーシャを無視して
 自分が旅に出ていた間のジョートショップの様子をティルトではなくアルベルトに尋ねる。
 「…何故、俺に聞かない…?」と半分いじけて呟くティルト…隊長だろ?…お前は…。
 「俺に聞くよか、ジョートショップに行ったらどーだ?」とアルベルト。
 「…そーさせてもらうわ…」と言い残してジョートショップへと向かった…。
 (トーゼン、パティとトリーシャを助けずに…)

 それから、しばらくして…。
 「うぅ…死ぬかと思ったぁ…」「まったくよ…」と何とかして口の中に押し込まれたサンドイッチを飲み込んだ
 トリーシャとパティが呟いた…更に…、
 「ねえ、パティ、仕返ししてやろうよ」「トーゼンよ! 見てなさいよぉ〜」腕まくりまでして物騒なセリフを
 言うトリーシャとパティ…。
 「じゃあ、今夜、フィムさんの歓迎会を開いて…その席で」「うんうん、冴えてるじゃない、トリーシャってば」
 何時の間にか連合してるし…。
 「あの〜、それはいくらなんでも…」健気に止めようとするクリスだが…パティとトリーシャに睨まれて…
 そのまま、黙りこんでしまった。
 「やれやれ…これから大変だな…」「人事の様にゆーなってぇの」ティルトの呟きに突っ込むアルベルト。
 「……先程の人は、どういう人なのですか…?」話題から取り残されたクレアがぽつりと誰ともなく呟くが…
 聞いている人は誰もいなかった…。

 その頃、ジョートショップでは…。
 アリサがジョートショップで受け付けた依頼票をまとめていた。
 「これはうちで出来るわね…あと、こっちの依頼は…ティルトさんにお願いしようかしら…」
 どうやらジョートショップでこなす事が出来る依頼とそうでないものと振り分けているようだ…。
 「これでよしと…テディ、これを第三部隊に届けてちょうだい」と言ってテディに依頼票の束を渡す。
 「ういっス。それじゃあ、ご主人様、届けてくるっス」と紙束を抱えてテディが入口に向かうと同時に、
   からんからん♪
 とカウベルが音を立てた。
 「あら? いらっしゃい……」急にアリサの声が途切れる…。
 「ご主人様、どーしたんっスか? 急に黙ったり……フィムさん!? いつ帰って来たんッスかっ!?」
 「よっ! テディ…ま、ついさっきさ」とテディに向かって片手を挙げて答え…そして、アリサの方を向くと
 「ただいま、アリサさん…」と言うフィム…。
 それに対してアリサは、
 「おかえりなさい…フィムくん…これからもよろしくお願いするわ…」と言った…
 「ええ、そのつもりでここに戻って来ましたから…」「そうね、ここはあなたの家ですものね…」
 「ご主人様、これどうするっスか?」と持っていた依頼票の束をアリサに示すテディ。
 「そうね…いきなりフィムくんにお仕事させるワケにはいかないから…第三部隊に届けてちょうだい」
 「それなら俺が…」「帰って来たばかりで疲れているでしょ? 今日はゆっくりしてなさい」とアリサ。
 「はあ…」

 その後…「『さくら亭』で歓迎パーティをやるから来てくれる?」とトリーシャに半ば強引に引っ張られた
 まではよかったが…昼間の『お返し』とばかりにパティとトリーシャに鶏からを口いっぱい押込められたと
 いう…。(ちなみにその『鶏から』はスパイスをたっぷりきかせてあったそうな…)

 歓迎パーティの翌日…「フィムがジョートショップに帰って来た」というニュースは前日のうちに誰かが
 エンフィールド中に広めたらしく、ジョートショップにはフィムご指名で依頼が殺到した。
 その為か、自警団第三部隊の方にはまったく依頼が来なくて閑古鳥が鳴きまくっていたという…。

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