「優しい陽射しの中で…」
REIM
(MAIL)
明後日で6月となるある日の『さくら亭』の店内。
「…はぁ…」シーラはカウンターで−頬杖をつきながら−溜息をついていた…。
「どーしたのよ? 溜息なんかついちゃって?」パティは彼女にホットミルクを出しながら尋ねた。
ちなみに『ある理由』により二人以外に客はいない…。
「あ…ううん、なんでもないの…」「ほんとにぃ? それに元気ないケド?」疑わしげに聞き返すパティ。
「………」「あたしに話しくれない? 相談にのるわよ」
それを聞いて、シーラは『どうしよ…』という顔をしていたが…「誰にも話さないでね…」と念押しすると
「…あのね…フィムくんとね……キス………しようとすると……ジャマばかりされるの……」と言って赤くなった…。
「………おとといだっけ?……キス出来たんじゃないの??」ようやくのコトでこう呟くパティ…。
「……うん…でも、その時にね……アリサおばさまが…お昼を持って来たから…」
(あらら…)「…それが…元気ないワケなの…?」「うん…」小さな声でシーラ。
(あの時、気をきかせてあげたんたんだけどなぁ…)内心溜息をつくパティ…。
「…私、どうしたいいの…?」「それ、あたしが聞きたいわよ…」シーラに聞こえない声でボヤくパティ…。
その時、ふと『何か』が頭に浮かび…それをそのまま口にした…。
「…もしかしたら…あいつと…一度もキスしてないの…?」「…うん…」か細い声で答える…。
「…アタマ痛くなってきちゃった…」と呟くしかないパティである…。
「ねえ、リサ、なんかいい手ない?」食事中のリサ−階段の側で盗み聞きしてた−に問いかける。
ちなみにシーラはホットミルクを飲み干すと『お仕事があるから…』と言ってジョートショップに戻っていた…。
「パティ、いつから恋愛コンサルタントになったんだい?」「あたしはねっ、マジメに聞いてんのよっ」と声を荒げる。
「そうムキにならない。私には原因は分かってるから」
そう言って窘めてから「それにしても…シーラのコトになると随分とお節介になるね」と続けた。
「リサ、茶化さないでよっ。それよりも原因ってなによ?」口をとがらせるパティ。
「言ってもいいケド、更にアタマ悩ませるコトになるよ?」「どーせ、たいしたコトないんでしょ」とパティ。
「じゃあ言うよ…それはボウヤがジョートショップに住んでいるからさ…あそこは人に出入りが多いからね」
「そんなの、どーするコトも出来ないじゃないっ!!」パティは頭を抱え、悲鳴をあげた…。
なにしろ、彼にジョートショップから出ていかせる事自体、絶対にムリな相談なのだから…。
一方…ジョートショップでは…。
からんからん♪
「こんにちは…」と言って店の中に入るシーラ。
「あ、シーラ。今、役所から仕事の依頼が来たんだけど」依頼票を手にして口を開くフィム。
「どんなお仕事なの?」彼の右隣の椅子−ジョートショップにおける彼女の定位置−に腰掛けてから問いかける。
「ん、来月の10日までに空店舗の掃除…別の街からここに引越ししてくる人がいるみたいだね」とフィム。
「そうなの…あ? でもなんで10日までなの?」「さあ?」「11日か12日にお入りになるのじゃないかしら?」
と言って二人分のお茶を淹れていたアリサが口をはさんだ。
「それでも随分と日がありますよ?」「そうね…私達に負担にならない様に気をつかっているのかしら?」
「そうっス、フィムさん、この前、寝込んでたからきっとそうっス」とテディが言う。
「あれは…たまたまなんだけど…」渋い顔でフィム…その隣ではシーラが複雑な表情をしていた…。
「あ、そうそう、私、商店ギルドの寄合に出るのだけど…フィムクン、シーラちゃん、あとお願い出来るかしら?」
(今日くらいは二人きりにしてあげないと…おととい、ジャマしちゃったし…)内心こう思うアリサ。
「あ、はい」「アリサさん、いってらっしゃい」「それではあとお願いね」アリサはテディを連れて出かけていった。
「さてと…依頼票の振分けをするか…」「あ、私がするからフィムくんは少し休んでて…」二人同時に依頼票を
取ろうとして…、
「あ…」「え、えと…」フィムがシーラの手を握る格好となった…少し慌てて顔を上げる…。
恥ずかしげにも…何となくお互い見詰め合う−手を握ったまま−二人…そして………、
彼らを祝福するかの様に降り注ぐ優しい陽射しの中、二人の唇が重なり合った……。
「あ? アリサおばさん、こんにちは」とパティがアリサに挨拶する。
「あら、パティちゃん。こんにちは」「こんにちはっス」「これから寄合ですか?」と尋ねる。
「ええ。パティちゃんは?」とアリサがパティに問いかける。
「うちで寄合するからってお父さんに追い出されちゃって…これからジョートショップに行くトコです」
付け加えるとリサも追い出されている−二人の話からどうやら寄合は『さくら亭』で行われるらしい。
「パティちゃんも大変ね…でも今、ジョートショップには行かないで欲しいの」「え?」不思議そうな顔をする…。
「今、フィムクンとシーラちゃんにお留守番をお願いしてるから」と悪戯ぽく微笑みながら言葉をつむぐアリサ。
「そ、そうですか…あ、早く行かないと寄合始まっちゃいますよ?」「そうね、ありがとうパティちゃん」
『さくら亭』に向かうアリサ…。
彼女の姿が見えなくなると「はぁ…アリサおばさんにはお見通しだったんだ…あの二人のコト…」と呟くパティ。
ちなみにパティは…フィムにシーラの事をどう思っているのか、問い詰めようとしていたのだ。
「…今日だけはジョートショップには行かないよーにしないとね…おじゃま虫になっちゃうし…」
とそう思うパティであった…が…。
「…それじゃあ…あたし…ドコで時間つぶせばいいの…?」困り果ててしまった…。
…結局、街をぶらついていたパティだったが…運良く(悪く?)由羅につかまり…この後はどうなったかは、書くまでも
ないだろう…。
≪Fin≫
[あとがき]
えと、REIMです。
3作目(シリーズ通算5作目)にあたる「優しい陽射しの中で…」をお送りします。
実は…このSS、タイトルがなかなか決まらなくて(2日半もかかった)、結局ありきたりのものなって
しまいました。
また、これはまったく予定にはなく、急遽書いたものなので結構、雑なところがありますが最後まで読んで
いただければ幸いです。
さて、このお話はアリサとパティがこの二人(フィムとシーラ)を影ながら(?)応援しているという事を
メインに書いてあります。
前作(=「でーと・うぉーず」)を読んだ後、このSSを読まれる事をお勧めします−そうしないと話の流れが
分かりませんので。
それと次回作ですが…今、話の構成を整理しているところです。
出来あがり次第、アップする予定ですのでしばらくお待ち下さい。
それでは、これからもよろしくお願いします。