「Friend and Rival≪後編≫」
REIM
(MAIL)
「…知ってる人…?」半瞬の間、呆然としていたフィムがシーラに尋ねる…それをきっかけに『さくら亭』の時間が
動き出す…。
「え? うん、私がローレンシュタインにいた時にお世話になった人…といっても2,3日だけだけど」と答える。
「ふぅん…でも、なんで今、エンフィールドにいるわけ?」とパティ。
「それは…聞いてみないコトには…」「その前にさ…紹介してほしいんだけど?」当たり前の提案をするフィム。
「あ? ごめんなさい…えと、こちらはミュン・フォレストさんとナッツ・ティアンズさんです」とフィム達にミュンと
ナッツの二人を紹介してから今度は彼らの方に振り返り、
「私の隣にいる人がフィムリード・フローティリスくんで…」次にパティ達の方に顔を向け、
「あと順にパティちゃん、エルさん、美穂さん、ヴァネッサさんです」と紹介する…が、
『ちょっと待てぇーーっ!!』と抗議の声をあげるエル,ヴァネッサ,美穂の3人。
「フィムさんの時と扱いが違うじゃないっ!」「そうよっ!」「んな、紹介があるかっ!」
順に美穂,ヴァネッサ,エルである…。
「…そりゃね、あんたがコイツを特別扱いすんのは分かるけど…マジメにやんなさいよ…」と呆れてパティ。
「特別扱い?」「あ? コイツ、このコの彼氏よ」ミュンの問いに答えるパティ−顔がにやけてたりする。
「ぱ、パティちゃん!?」たちまち顔が赤くなる…。
「え? そうなんですか?」「う、うん…」ミュンの問いにもじもじしながら−視線はフィムの方に−答える…。
フィムの方はというと…照れ隠しなのか、ただ頭をかいていた…。
「くす…あ、シーラさん。私の名前、違ってるわ」「え? でも…この前、確かに…」とシーラ…それに対してミュンは
「今はミュン・フォレスト・ティアンズですよ」と悪戯っぽく訂正する。
「ってコトは……そっちの人、旦那さんってコト?」ナッツを指さして問うパティ…。
「ええ」とミュン−心なしか顔が赤くなっている…。
「…そう言えば…6月に結婚するって言ってたわね…」思い出したかの様にシーラ…。
(パティ「あいつに逢えた嬉しさでころっと忘れてたんでしょ?」 シーラ「…うん、そうみたい…」)
「…結婚と同時に旧姓がミドルネームになる、か…あなた達、ベルファークの生まれね…」と指摘する美穂。
「オレは違うけどね」とナッツ。
「でも、ベルファークには住んでいたんでしょ?」「まあ、ね」「あのさ…どーしてそんなコト知ってんの?」
順に美穂,ナッツ,ヴァネッサである…。
「まあ、色々とあってね」と曖昧に笑う美穂。
「話の腰を折るようで悪いんだけど…荷物を預かってもらってから役所に行くつもりだったんだろ?」とフィム。
「ん? ああ、そうだけど?」「だったら、早く行かないと終わっちまうぞ」「まだ、夕方じゃあ…」
言い返そうとするナッツだが…フィムは「うちの街は昼3つの鐘が鳴ったら窓口を閉めちまうんだ」と続ける…。
「昼3つの鐘?」「あ、3時のことですよ」とミュンの疑問に答えるシーラ。
「今、何時だ…?」「昼2つの鐘が鳴ってから…」とナッツの問いに答えようしたが…、
「…あんたさぁ…シーラからお土産で懐中時計貰ってんの忘れてない?」と呆れて突っ込むパティ…。
ちなみに…エンフィールドで懐中時計を買うと…最低でも18,000G−ローレンシュタインの7倍−はする…。
「……忘れてた……」と慌てて時計を取り出すフィム…一方…
「…よく考えたら…オレも時計持ってたんだ…時差調整してないけど…」と言って時計を確認するナッツであった…。
(付け加えておくとベルファークでは1,200G−時計の製造地だから…)
「ふう…危ないトコだった…」手続きを済ませて来たナッツが『さくら亭』に戻って来た−時計で確認した時、
2時40分だった…当然の事ながら、時差調整も済ましている…。
「お疲れ様。それでどうだったの?」と新妻が聞いて来る。
「問題なく終わったよ。あと住むところだけど…」とそこの住所を言う。
「…確か…そこって…」「ああ、この前の依頼の場所だな…」シーラとフィムの会話である…。
「え? 知っているのですか?」「うん、役所からの依頼で掃除してたから」ミュンの問いに答える。
「じゃあ、案内してあげたら…こっちはすぐ終わるから」ほっとした表情で口をはさむ美穂。
「おい、もう終わりか?」と言葉をつむぐエル。
「そうよ、Checkmate」「やられた…」美穂相手にチェスを指していたフィムがうめいた…。
「結構、追い詰めていたのに?」「美穂を苦しめるのが精一杯ってトコか」と勝手な感想を口にするパティとエル。
「ステイルメイトしてばかりいる人間のセリフじゃないわね…」エルを睨みながら美穂…。
「アタシはエルフなんだけど、な…」「うるさいっ!」細かい事に突っ込んで来たエルに声を荒げる…。
「ちょっといいか?」「ステイルメイトうんぬん、だろ?」「ああ」と言ってフィムは事の次第をナッツに説明した。
「…そりゃ…やり過ぎだよ…」ナッツの第一声はこれであった…。
「でしょでしょ」「…をひ…」ここぞとばかりにナッツの感想に相づちを打つ美穂と彼女を睨むエル…。
「でも…9連続もやられる人もいないけどな…」「あう…」ナッツの指摘に今度はうめき声をあげる…。
「ステイルメイトって?」「ああ、少し長くなるけど…」と自分の妻に説明する…。
ステイルメイトとは…次の手番で自分が何かすれば相手のキングをチェックする事が出来るけど相手がまったく何も出来なく
パスするしかない手がない状態になる事で、判定は引き分けになる−手番が来たら必ず駒を動かさなければならないし、また
キングを相手に取られる様な位置に動かす事が出来ない。
「…普通なら滅多におきないコトなんだけど…」と締めくくる…。
それを黙って聞いていたエルは、
「…ほう…そこまで知っているのか…アタシの相手でもしてもらうか…」と口を開いた。
「ま、いいけど」とフィムと席を替わってもらうナッツである。
ゲームを始めてから数分後…。
(まいったね…これは…ステイルメイトを仕掛けて様子を見るか…気が進まないケド…)と内心呟くエル。
結構強いのだ…あわやという場面も何度あった事か…。
彼女自身、ステイルメイトはすべきでないと考えているが、だからと言って簡単に負けてやる程お人好しでもない。
だから、美穂との対戦−実力は伯仲−では様子を見る為にステイルメイトを仕掛ける…それも…その事に彼女が気付けば、
エルから勝ちを取る事も可能なレベルで仕掛けるのだ−あくまでも気付けばの話だが…。
一方、ギャラリーはピンと張り詰めた雰囲気が伝わったのか…一様に押し黙って対局を見ていた…。
更に…数分後…。
(…結局、ステイルメイト…か…)このナッツの手番でステイルメイトが確定する−エルはそう思ったが…、
「Checkmate」「!? し、しまったっ!!」結果はエルの負けである…。
ちなみにナッツはポーンを動かしただけであったが、このポーンがクセものだった…チェス盤の一番先まで進んだ結果、
「ポーン」が「クイーン」にプロモーション(=変身)した…エルにとって間の悪い事にその「クイーン」の横5マス先に
自分のキング−盤のカドマスにいた−があったのだ…しかもルックとビショップで逃げ場を塞がれた状態で…。
「…その手があったんだ…」しみじみ呟く美穂…フィムも「…普段はプロモーションする前に終わるからな…」と呟く…。
「まあ、ステイルメイトを仕掛けて来たから、どうなるかは分からなかったけどね」とナッツ。
「…読まれていたのか…」と呟くエル…だが、その表情は『それなら負けて当然か…』であったが…。
ナッツはフィムの方に振り向くと「さてと、案内してくれるかな?」「ああ、分かった」彼ら4人は『さくら亭』を出て、
ティアンズ夫妻の新居に向かった…。
「…珍しいコトもあるんだ…エルが負けるなんて…」ようやくパティが口を開く…。
「そうか? アタシだって負ける時くらいあるさ」「その割には喜んでいるように見えるけど?」と指摘するヴァネッサ。
「ああ、アタシより強い相手がいるんだ…これからが楽しみだよ」とエル。
「さしずめ、『ライバル登場』ってトコ?」「そうね」とパティとヴァネッサ。
「…あたしもやってみようかしら…」と呟く美穂…後日、ナッツと対戦したが…たった10手で美穂が負けたという…。
また、ナッツとエルの対局−大体はエルの負け−は…何時の間にか『さくら亭』の名物の一つになっているそうだ…。
「ところでミュンさん、ここでなんのお店を始めるの?」と歩きながら尋ねるシーラ。
「え〜とですね、お花屋さんですよ」と答える。
「準備とか大変そうだな…」「ま、明日にでもそっちに依頼するけどね」とフィムに向かって言うナッツ。
「おいおい…誰から聞いた?」「役所だよ」お互い苦笑する…今日会ったばかりだというのに意気投合する二人。
「あ、着きましたよ」とシーラ。
「ありがとう」「おかげで助かったよ」と礼を言うミュンとナッツ。
「礼を言われるようなコトはしたつもりじゃないんだけどな…」「そうね…」これはフィムとシーラ…そして、
「ま、人手がいるようなら何時でも店に来てくれ、出来だけのコトはするから」と言い残し帰路に付く二人。
フィムとシーラの姿が見えなくなると、
「のどかで静かなところですけど…感じのいい街ですね…」と見た印象を言葉にするミュン…。
「ああ、そうだな…さてと、これから寝られるようにしておくか」「はい、あなた…」と彼らは新居へと入って行った…。
後日の話になるが…彼らが『のどかで静かな街』と思っていたこの街が実は『騒動の絶えない街』と認識し直すのに…たった
2日で済んだという…。
からんからん♪
「二人とも遅いっス!!」ジョートショップに戻って来たフィムとシーラを不機嫌そうな声で迎えるテディ。
「あ、ごめんなさい…」「すみません…遅くなって…」とアリサとテディに謝る二人−今晩はアリサの提案で4人で夕食を
取る約束していたのだ…。
「テディ、あんまり二人を責めたらダメよ」「ういっス」アリサの一言であっさりと怒りの矛先を納める…。
「それよりも早く座って。今、シチューを出すから」とアリサ。
「本当にごめんなさい…実は…」と言って、二人は今日シーラの友人が来た事とここに住む事などを話した。
「そうだったの。でも大変ね、慣れない土地でも暮らす事になるから」と自分の事の様にアリサ。
「まあ、俺達も出来る限りのコトはするつもりですけど」シチューを口に運びながらフィム。
シーラも「ええ、私もどこまで力になれるか分からないけど…」と彼の後に続けて言う。
「そうね、お友達は大切にしないとね…ところでシーラちゃん」「あ、はい?」何事かと思いつつも次の言葉を待つ。
「あなたも早くそのお友達みたくフィムクンと結婚出来たらいいわね」「あ、アリサおばさまっ!?」途端に顔を
真っ赤にするシーラ。
一方、フィムは…、
「て、テディ、み、水くれ…」「だ、大丈夫っスか?」絶妙のタイミングで放たれたその言葉によってイモをノドに
詰まらせていた…。
「だ、大丈夫?」と言って慌てて彼の背中をさするシーラ。
その二人の微笑ましい(?)姿を見て…(あらあら…ちょっと可哀相なことをしちゃったかしら…)と内心反省する
アリサであった…。
5日後…ナッツとミュンはフィムやシーラ達にも手伝ってもらい、『ティアンズ生花店』を開いていた。
シーラから『ミュンはお花のコーディネイトが得意』という話を聞いたトリーシャとローラが街中に宣伝して回った為、
花を買う人よりもフラワーコーディネイターとしての仕事の方が多いという不思議な花屋になっているという…。
≪Fin≫
[あとがき]
ども、REIMです。『Friend and Rival≪後編≫』をお送りします
今回は書くのに結構手間取りました…なにしろ、チェスのルール本を確認しながらでしたから…(おい)。
それから今回のSSでメインキャストが全て出揃いました。
それはフィムとシーラ、ナッツとミュン、最後にティルトとセリーヌの3組6人です。
このSSは、自分のサイトに掲載しているシリーズ2作目の伏線をもとに書いたものです。
あと、これも自分のサイトに掲載しているのですがシリーズ1作目で登場していた美穂−フルネームは広瀬美穂−という
第二部隊のオリジナルキャラも登場させています。
これから彼らがどんな騒動に巻き込まれる(?)のか、それは次回へのお楽しみという事で。
次のSSは…美穂中心になると思います。
それでは機会がありましたら、またお会いしましょう。