中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「Raining Heart≪前編≫」 REIM  (MAIL)
 6月最後の休日…。
 「どう? はかどってる?」シーラはローズレイクで絵を描いていたフィムの隣に腰を下ろしながら話しかけた。
 「そうだな…後はメディア姫を描き入れれば完成、かな」と答えるフィム。
 「ところで…お昼、まだでしょ?」「そーいや…もうそんな時間か…」今ごろ気付くフィム。
 「サンドウィッチ、作って来たんだけど…食べる?」「じゃあ、頂こうか」「はい、どうぞ」と差し出されたサンドウィッチを
 受け取ろうとして…さっと逃げられる…。
 「?」と顔をしてシーラの方を見ると同時に…「はい、あーんして」と言われる…。
 半瞬の間、呆然としていたが…ようやく…、
 「…自分で食べられるんだけど…」と口を開いた…。
 それに対し…「だって手が汚れてるでしょ」と彼女に反論される。
 「そりゃまあ、そーだけど…」確かに彼の手はパステルで汚れている。
 「だから…あーんしてね」とサンドウィッチを差し出しながら微笑む…。
 「降参…」と言って顔だけ動かして彼女が差し出したサンドウィッチを口にする…。
 「どう? おいしい?」と顔を覗き込む様にして不安げに尋ねる。
 「ああ、おいしいよ…」「よかったぁ…」胸をなで下ろすシーラである…。

 「と、見ているあたしの方が『きゃあ』ってカンジだったわよ」とローラが締めくくった…。
 彼女はローズレイクで見てきた事を『さくら亭』にいた面々−ミュン,パティ,リサ−に披露していた。
 ちなみにミュンは『さくら亭』に花を届けに来て…その場に居合わせる格好であったが…。
 「よく見つからなかったな…」と本筋とは違う感想を述べるリサ。
 「でもローラちゃん、あまりそういう事をするのはよくないわ…ローラちゃんだって同じ事されたらいやでしょう?」
 とやんわりと注意するミュン。
 「…はぁい…ミュンおねえちゃんの言うとおりです…」とローラ−今、ガーデニングに凝っていて…ミュンにそのやり方を
 教えてもらう為にお店の手伝いをしていたりする。
 「やけに素直じゃない、ローラ?」と笑いながらパティ。
 「…それ、どーゆう意味…?」と拗ねて聞き返す…。
 「あははは、怒らない怒らない。でもミュンの言う通りね、もうこんな事は…」…最後まで続ける事が出来なかった…。
 「…パティちゃんだって見ていたクセに…」とジト目でばらす…。
 「…パティさん…」「…え〜とぉ…」…ミュンに睨まれて小さくなる…。
 「おやおや…流石のパティもミュンにはアタマが上がらないか…」苦笑しながらリサ。
 「…どーせ、あたしは一番立場が弱いですよ…」と拗ねる…。
 「あ、あの…パティさん…?」と少し慌てるミュン…。
 「えへ、シーラちゃんにもフラれたから?」と笑いながら余計な事を言うローラ…。
   ごちん
 「いったぁい…」「誤解を招くよーなコトは言わないのっ」パティに小突かれて涙目になる…。
 「シーラさんにも?」「かまってもらえなくなったってコトだよ」補足するリサ。
 「それでしたら『シーラさんに』が正しいのでは?」と指摘するミュン。
 「…耳ざといね、あんた…ま、ボウヤにもフラれてるからね」「リサ、余計なことを言わないでよっ!!」
 「あの…それって…?」「まあ……あたしだけじゃないんだけどね…」気を落ち着けてパティ…更に続けて…、
 「マリアにシェリル、それとトリーシャの3人もフラれたクチよ」と指を折りながら言う。
 「…あたしも…なんだけど…?」「そーだっけ? 『ユーレイ少女』ならいたけど?」からかう口調でパティ。
 「ひどいぃぃぃっ!」拗ねて泣きまねをするローラ。
 「…色々…大変だったんですね…」ぽつりと呟くミュン…。
 「でも、あんたが元『ライバル』の応援をしてるコトが一番不思議だけどね」と笑いながらリサ。
 「あのね…あのコとは幼馴染なのよ、それくらい当然でしょっ!」「でも普通なら…そういう考えにはなれないですよ?」
 とミュンが鋭いところを突いてくる。
 「…あんた…意外に鋭いんだね…」半ば唖然とするリサ…。
 「ところでパティちゃん、トリーシャちゃん達もそーだけど…面と向かって言われたの?」とローラ。
 「あたしは、ね…」「…じゃあじゃあ、他の3人は…??」「ん、あたしが代わりに言ってやった」と胸張って答える…。
 「…パティちゃん……オニ…」「同感だね…」と呟くローラとリサ…。
 「そこまでしたわけを聞かせてもらえませんか?」とミュン…更に「別に無理にとは言いませんが…」と付け加えた。
 「はあ…いいけどね…でも、長くなるわよ?」と言って話し始めた…。

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 …時は戻り、2年前の4月の初め…フィムの冤罪も解け、今までジョートショップの手伝いをしていた面々−シーラ,パティ,
 シェリル,マリア,アレフの5人−がもとの生活に戻ってから数日がすぎていた…。
 「はあ…」カウンターに頬杖をつき、溜息をもらすパティ…。
 「パティちゃんたら…さっきから溜息ばっかり…」「ん…そお…?」シーラに向かって気の抜けた返事を返す。
 「…実は俺もさぁ…溜息つくコトが多いんだよなぁ…」と口を開くアレフ。
 「今までお仕事ばかりだったのに急に暇になっちゃったからじゃないかしら?」とシーラ。
 「そうだな…そう言われてみれば…そうかもな」彼女の意見に同意するアレフ。
 「…単純ね…」「パティは違うのかよ…?」ちょこっと怒った声でアレフ…しかし…、
 「…なぁんで…あんなヤツに…」アレフの抗議を上の空で聞き流し…誰ともなくこう呟くパティ…
 「『あんなヤツ』って…フィムくんのこと?」「もしかして…あいつに惚れたとか?」順に聞き返すシーラとアレフ。
 「…そうよ………はっ!?」うっかりもらした事に気付いたが…既に手遅れ…。
 「ふうん…やっぱ、パティも女の子だねぇ…」人の悪い笑みでアレフ。
 「な、なにバカなコト言ってんのよっ!」「ローラが喜びそうな話だよな」慌てるパティをからかう様に言う。
 「ちょ、ちょっとっ! しゃべっちゃダメだからねっ! あたしがあいつに惚れてるってコトはっ!」
 …その直後…『さくら亭』にシラけた空気が流れる…。
 「…なあ…パティ…今、どツボにハマっただろう…?」心底、呆れた口調でアレフ…。
 「…うん…そうみたい…自分でもバカバカしく思うわ…」恥ずかしさのあまり、顔が赤くなるパティ…。
 「…ああ、聞いてた俺もバカバカしく思うよ…」呆れたまま首肯するアレフである…。
 一方…パティとアレフが漫才(?)をしている間、シーラは視線を床に落としたまま、ずっと黙り込んでいた…。
 「? どうしたんだ、シーラ?」さっきから黙り込んでるシーラに気付いて声をかけるアレフ。
 「え? ううん、なんでもないの…あ、私、急用を思い出しちゃったから…もう帰るね…」と言い残して席を立つシーラ…。
 その後ろ姿は…何故か悲しそうに−パティとアレフは気付いていない−肩を落としていた…。

 「お帰りなさいませ、お嬢様」「…ただいま、ジュディ…」力なく返事する…。
 「あの…どうなされましたか? 何か落ち込んでいる様に見うけられますが?」気遣うジュディ…。
 「ううん、なんでもないのよ…」「そうですか…あ、お嬢様。旦那様と奥様がお呼びです」とジュディ。
 「そう、分かったわ…ありがとう、ジュディ」と言い残すとリビングの方へ足を向けた。

 その日の夜…。
 「…早すぎるわ…まだ気持ちを…伝えていない…のに…」ベッドにうつ伏せになりながら呟くシーラ…。
 昼間、両親から『明後日、ローレンシュタインへ行く様に』と言われたのだ−今日、両親宛てにグレゴリオからそういう
 手紙が届いていた…。
 「…パティちゃんたら…ずるいわよ…今までフィムくんに…そんな素振り…しなかったのに…」
 最初に会った時は…『ちょっと気になる』程度であったが、一緒に仕事をしていくうちに『自分にとって最も大切な人』と
 思う様な存在になっていた…彼が何かしら無茶をやらかして胸が張裂ける思いを味わった事も何度あった事か…。
 それだけに彼女にとって、フィムの存在はもう無視する事が出来なくなって来ているのだ…。
 だからローレンシュタインに留学する前に自分の気持ちを正直に打ち明け、彼と付き合うつもりでいたのだが…それが明後日
 出発の上に…パティがフィムに想いを寄せている……。
 「…そうよね…ピアノしか…取り柄のない…私なんか…よりも…お似合い…だもね…」と呟くと顔を枕にうずめた…やがて…
 そこから…すすり泣く声が聞こえて来た…。


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