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「老兵と孫娘たち≪前編≫」 REIM  (MAIL)
 「どうしても…お辞めになるのですか?」自警団団長−名はウィリアム・ベケット−が丁寧な口調で聞き返す。
 「ああ…私も歳だ…そろそろ楽隠居もしたい…」と相手が上司であるのにも関わらず、あけすけに答える老人。
 どうやら自警団の関係者らしい…。
 「それは困りましたね…あなたがいなくなると後が大変なのですが…」
 「君にはフォスターくんがいるではないか…些細な事は彼に委ねれば問題はないと思うが?」
 「そうですが…」「それに…ノイマン隊長が先に逝ってしまって淋しくもなった…ここは辞めさせてはもらえんか?」
 「…お引き止めしてもムダですね…ところで後任はどうされますか?」と団長。
 「それについては…適任者がおる…」

 「…引き分け…だな…」「そうね…滅多にない終わり方だけど…」と言って顔を見合わせるエルと美穂…。
 「え? まだ終わってないじゃないの?」ひょいとチェス盤を覗き込んでパティが言葉をつむぐ。
 「…それは『50手ルールによる引き分け』だろう…」カード占いしていたルーが口をはさむ。
 「『50手ルール』? なにそれ?」とパティ。
 「簡単に言うとね…ある時点から50手後でも決着がつかない場合は『引き分け』にするルールよ」と美穂が答える。
 「ふぅん…ステイルメイトといい、50手ルールといい…チェスって結構奥が深いのね…」「まあな…」とパティの感想に
 言葉を返すエル。
 「…ようやく連続ステイルメイトが止まったな…」と呟くルー。
 「…何連続だっけ…?」「…11連続…」とパティに答える美穂…。
 「二人してナッツ相手にチェスをしているんだ、少しくらい強くなっていても不思議じゃない」とルー。
 「そのかわり、連敗記録は伸びてるけどな」とアルベルトがにやけた顔で口をはさむ。
 「うるさいっ!」「ほっといてよっ!」同時に声を荒げる−ちなみに対ナッツ戦の戦績はエル6連敗、美穂9連敗…。
 「ま、4人合計180連敗っていう『偉業』を成し遂げたヤツよりはマシかもしれんがな」とアルベルト。
 と、突然、
 「ウォーレンさん、落ち着きなさいっ」「お願いっ、離してっ! 今日という今日こそは撃ち殺してやるんだからっ!」
 見ると…ヴァネッサがアルベルトに向かって銃を構えており…その彼女を蒼い髪の女性が後ろから羽交い締めにしていた…。
 「げっ!? いつからそこにいたっ!?」「つい先ほどですわ」代わりに蒼い髪の女性が答える…と同時に…まだ銃を
 構えているヴァネッサを当て身で大人しくさせる…一応、ヴァネッサも自警団員なのだが…。
 「毎度毎度…あきないね…あんたら…」呆れて髪をかきあげるエル。
 「ローレラインさん、お仕事の方はいいの?」と話し掛ける美穂。
 「毎日、暇を持て余しているあなたと一緒にして欲しくはありませんわ」と『ローレライン』と呼ばれた蒼い髪の女性が
 切り返す。
 「…確か…第四部隊ほど暇なところはなかったはずだが?」ぼそっと呟くルー。
 「…なにか…おっしゃいまして…?」とこめかみをひくひくさせる…どうやら第四部隊の隊員であるらしい…。
 「…カリン…先に言っておくけど…ここで暴れたら、これだからね…」と言ってフライパンを構えるパティ…。
 「……そんな事ばかりしてますと…殿方に嫌われますわよ…」と負け惜しみなのか、ぽつりと呟くカリン−本名は
 カーテローゼ・エリザベート・フォン・ローレラインといい、護身術の達人で第四部隊所属のチーフである。
 「テメェも人のコト、言えねえだろーが」と突っ込むアルベルト−それにうんうん頷く美穂…。
 確かに…彼らの目の前でヴァネッサを当て身一発でKOしてれば…説得力があり過ぎるわな…この前の兄妹ケンカの
 『武力制圧』もあるし…。
 「…これくらいの事は…淑女としての嗜みですわ…」怒りを噛み殺した口調で言い返す…。
 「…ぜってぇ、嫁の貰い手がいねぇな…」と呟くアルベルト。
 それを聞いたカリンの額に青筋が…3本程浮かんでいたりする…。
   カララン…♪
 「おや? カーテローゼくん、どうしたのです? それにヴァネッサくんもここで寝ているとカゼをひきますよ?」
 と団長が半ば場違いな事を言って、『さくら亭』に入って来た。
 彼の姿が目に入るや否や居ずまいを正すアルベルト,美穂,カリンの3人…当然、睨み合いは中断である…。
 「どうしたんですか?」代表して尋ねる美穂。
 「いえ、美穂くんに伝える事がありまして」「え? あたしにですか? なにかあったかなぁ?」と上の方を向き、頬を
 人差し指でとんとんと叩きながら考える様に呟く美穂。
 「いえ、今日付けでデュルセル隊長が引退するのですが…その後任に美穂くんにお願いしに来たのです」と団長。
 「!? デュルセル隊長はどこにいますかっ!?」と団長の襟首を締め上げる…それを呆気に取られた表情で見る一同…。
 「じ、事務所にいますよ…」と苦しそうに答える…この返事を聞くや否や団長を床に放り捨てて、脱兎のごとくに
 『さくら亭』を飛び出す美穂。
 しかも…扉を開け放った時に聞こえた「ふぎゃあっ!?」と悲鳴を綺麗さっぱり無視して…。

   ばたんっ!!
 「デュルセル隊長っ、まだいますかっ!?」と第二部隊詰所に飛び込んで来る美穂。
 そんな彼女の只ならぬ雰囲気にぎょっとする隊員達…。
 「ちょっとっ、隊長はどこに行ったのっ!?」とその場にいる面々に問う。
 一人の隊員が「た、隊長なら…もう…帰宅されましたが…」恐る恐る美穂に言う…。
 その答えを聞くと今度は詰所を飛び出した…「ちょっとっ、どいてよっ!」という彼女の声が聞こえ…そして…。
   ばきゃあっ!!
 という音とともに「うぎゃぁぁぁっ!!」と悲鳴が詰所まで聞こえて来た…。

 一方、『さくら亭』では…。
 「…ふみぃ…おはなが…とてもいたいですぅ…」と鼻を押さえて半泣きしているメロディ−美穂が飛び出した際に開け放った
 扉が彼女の顔面にクリーンヒットしたから無理もないが…。
 「うにゃ…メロディ…わるいことにしてないのにぃ…」「はいはい、もう泣かないの」と言ってメロディの頭をなでるパティ。
 しかし…(でもこれって…シーラの役目なんだけどなぁ…)と内心ぼやいていたりする…。
 ちなみにカリンにKOされたヴァネッサも復活している…。
 「世の中間違っていますわ…広瀬さんが第二部隊長に昇格なんて…」とカリン。
 「そーだな、あいつがここ数年、手柄を立てたって話は聞いてねーしな」彼女の意見に同意するアルベルト。
 「おやおや、美穂くんはそれに見合う様な功績を立てておりますよ」と団長が美穂に締め上げられた首をさすりながら答える。
 「そうか? アタシにはそうは見えないけどな」彼女とチェスを指す事が多いエルをこう言って来る。
 「そーね…ところで、どんな手柄を立てたんですか?」と尋ねるパティに対する団長の答えは、
 「あなた方も関わった事件を解決に導いた事ですよ」であった。
 『???』という顔をする一同−但し、メロディとルーは除くが…。
 「そんなのあったかしら?…確かに毎日、大騒ぎのネタには困らなかったけど?」と言って考え込むヴァネッサ。
 …なにか違う様な気がしないでもないが…というか、それはそれで凄く問題があるのだが…?
 「おやおや、皆さん、すっかりお忘れの様ですね。2年前の冤罪事件の事ですよ」と団長が言うや否や、
 『ええーーーっ!?』と大合唱する一同−今度はメロディ,ルーも含めて…。
 何しろ、この事件はエンフィールドでは結構有名なのでルーやヴァネッサといった転入組も知る機会が多いのだ。
 現に最近転入して来たナッツやミュンの二人も知っているし。
 「でも、あれってリカルドおじさんが調べて解決したんじゃあ?」と代表してパティが問う。
 「フォスターくんは美穂くんが書いたシナリオを読み上げたにすぎません」と答える。
 「仮にそうだとしたら…普通は美穂が最後までやるべきだろ」とエルが突っ込んで来る。
 「そうですね…ですけど、フィムリードくんを確実に無罪するにはフォスターくんが言うのが相応しいと思いませんか?」
 「ですが団長、それをいうのでしたら亡くなられたノイマン隊長が最も相応しいと思いますが?」と指摘するカリン。
 その指摘にうんうんと頷く一同…それに対するベケット団長の答えは。
 「あの頃は、第一部隊と第三部隊の意見が食い違っていましたから」である。
 「あの、それはどういう事ですか? 後学の為にも教えて頂きたいのですが?」と尋ねるヴァネッサ。
 「たいした事ではありません。第一部隊がフィムリードくんの犯行説を、第三部隊が冤罪説を主張していただけですよ」と団長。
 「組織としては、あまり好ましくない状況であると思うが?」と指摘するルー。
 「それよりも普通は美穂のいる第二部隊が担当するんじゃないのか?」とエル。
 「まあ、お二人の指摘は当然です…おかげで半年も経たないうちに捜査が行き詰まってしまいましたから」当然である。
 ましてや実際の捜査を担当したのは…ともに自尊心の高いアルベルトとカリンである…これで行き詰まらなかったら…もはや
 詐欺である…。
 「それで美穂が捜査に加わったんだ」「…全然気付きませんでしたわ…」「…ああ、まったくだ…」順にパティ,カリン,
 アルベルトである。
 「当然ですよ、極秘にとお願いしましたから」と苦笑する団長。
 「なるほどね、そういうコトなら美穂の昇格は当然だな」「うん、あとリカルドおじさんが真実を話したこともね」
 納得して頷くエルとパティ。
 確かに犯人説を採っている部隊の隊長が真実を明らかにするのだから、それだけ信憑性が高くなるのは間違いないだろう…。
 「でも、これって…トリーシャちゃんが聞いたら…」というヴァネッサの指摘に対し、
 「ははは…そうだな…」とその光景を思い浮かべ…笑うしかないエルであった…。


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