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「老兵と孫娘たち≪後編≫」 REIM  (MAIL)
   ばたんっ!
 乱雑に扉を開け放つと美穂が飛び込んで来る。
 「隊長っ!! 一体、なに考えているんですかっ!?」と部屋に入るや否や藤椅子に腰掛けている老人に詰め寄る。
 「何を怒っているのだ? それに家にいる時は仕事の事は忘れて欲しいのだが?」と宥めるデュルセル。
 「そうですよ、美穂姉。それに怒ってばかりだと21でお婆さんになりますよ?」と16,7ぐらいの女の子が口を
 はさんでくる。
 「…あんたねぇ…ったく、あたしが悪う御座いました、エドガーおじい様」デュルセルに向かって頭を下げる。
 「ははは、相変わらず仲がいいな」と二人の少女達を見て、目を細める老人−フルネームはエドガー・ウィル・デュルセル。
 「おじい様からお聞きしましたけど…明日から第二部隊長なんですから怒ってたらだめですよ、美穂姉」
 「…瑞穂…あたしさぁ…それで怒ってるんだけど…?」と妹を睨む美穂…。
 「うふふ、明日、クラスのみんなに言いませんと」「だぁかぁらぁ〜、人の話を聞きなさいってばぁ」嬉しそうな顔をする
 瑞穂と帰宅した目的を既に忘れてしまっている美穂…ちなみに瑞穂はエンフィールド学園の生徒である。。
 「ははは、美穂は瑞穂にとって自慢のお姉さんだからな」と相好を崩すデュルセル−美穂と瑞穂は彼の娘の子である。
 「ところで、おじい様。どうして美穂姉を後任の隊長になさったのですか?」と祖父に問う。
 「あ? そうよ、どうしてですかっ!?」やっと思い出したか…。
 「2年前の冤罪事件を解決したからじゃよ」「でもでも、あれはフォスター隊長が…」言い返す美穂だが…、
 「わしの目は節穴ではないぞ」と言われてダンマリしてしまう…。
 「くす、おじい様にはバレバレだったんですよ、美穂姉」と妹にも言われてしまう…。
 「ぶうっ!」あ? むくれた…。

 一方、『さくら亭』では…。
 「それしても…なぜ、第一部隊と第三部隊で捜査を進めることになったんだ?」とルーが団長に聞いてくる。
 「最初は第一部隊のアルベルトくんを中心に捜査を行っていたのですが…」と口を開く…。
 団長の話を要約すると…。
 本来は捜査権を第一部隊から第二部隊に引き継ぐべきであったが、この事件にきな臭いものを感じたリカルドは、当時の
 第二部隊長のデュルセルに申し入れて、引き続き第一部隊が捜査を行う事を容認してもらった。
 しかし、フィムが犯人と信じきっているアルベルトのフィムに対する妨害行為に激怒した第三部隊の面々−当時、隊員の
 ほぼ全員が盗難事件はアルベルトが仕組んだ茶番だと信じていた−が、ティルトとロビン−当時、二人とも副隊長待遇−を
 言葉通りに締め上げる事で捜査に第三部隊を参加させる事を自警団上層部に認めさせた。
 その結果…捜査を担当していたアルベルトの班とカリンの班との街中での市民巻き添えの大乱闘と相成り…市民からの苦情の
 嵐と捜査の行き詰まりに頭を抱えた団長は、デュルセルと相談の上で美穂を捜査に−しかも極秘に−つける事にしたのだ。
 「確か美穂のヤツ、資料室の担当だろ? 普通に考えると捜査は担当外じゃないのか?」話を聞き終えてこう尋ねるエル。
 「まあ、確かにそうですね。ですけど、街の人に顔を知られてませんから極秘捜査なら好都合だとは思いませんか?」
 「…確かにそうだな…」団長の答えに納得するエル…しかし。
 「最もデュルセルくんは孫娘可愛さで彼女を捜査につける事に結構渋っていましたが」と続ける…。
 「孫娘? 誰がだ?」聞き返すエル。
 「美穂くんの事ですよ」「まさかとは思うが…知らなかったのか?」「自警団では結構、有名な話ですわ」と団長,アルベルト,
 カリンの順に答える…呆れる事しか出来ないエル…美穂が資料室担当だった理由が分かった気がする…。
 「でも…美穂が捜査に加わんなきゃならないくらい、ひどかったんですか? そうは見えなかったけど?」パティが問い掛ける。
 何しろ、フィムの頼みでジョートショップの手伝いしていた頃は…アルベルト達に妨害されていたのだ…それだけの余裕が
 あるのだから意見の食い違いだけで捜査が行き詰まると思えないのが普通だろう…担当者が誰かは別にして…。
 「それは、フィムリードくんが知らないところでカーテローゼくんがアルベルトくんのやる事を妨害していたのですよ」
 「…やけにアルベルトの妨害が少ないと思っていたが…そうゆう事情だったのか…」半ばうめく様に納得するエル…。
 「ええ、その代わりにお二人の街中でのケンカで各所に物的被害が続出していましたが」と苦笑する団長。
 「ふにぃ、アルベルトちゃんとカリンちゃんって、わるいこだったのぉ?」…メロディに『わるいこ』と言われてしまっては…
 二人ともお終いである…。
 「…美穂もいい災難だな…」「そうね…」順にエル,パティである…。
 「…あなた達…自警団員としての自覚あるの…?」こう言葉をつむいだのはヴァネッサである…これに対する彼らの返答は、
 『チェスで美穂(広瀬さん)にボロ負けしているくせに…』…珍しく口をそろえたりする…。
 「ぬぅわぁんですってぇーーーっ!!」切れるヴァネッサ…乱闘開始、一歩手前の3人だが…。
 「あんた達、いい加減にしなさぁいーーーっ!!」パティの持つフライパンが音の壁を超えて彼らに炸裂した!
 「ふみぃぃぃっ! パティちゃん、こわいですぅっ!!」怯えてエルにしがみつくメロディである…。

 「うう…」「あ、気が付かれましたか?」「…ん?…クレア…?」今まで美穂に壁に叩き付けられて気絶していたティルトの
 目には…上から心配そうに彼を覗き込んでいるクレアの顔が入った…。
 「…俺、どのくらい、気を失っていたんだ?…あのさ…この柔らかい枕は…もしかして…?」この問いにぽっと顔を赤らめる
 クレア…。
 こういうシュチュエーションの時は…必ずと言っていいくらいに…、
 「あーっ!? クレアさん、なにしてんだよっ!?」「ティルトさん、見損ないましたっ!」とトリーシャとセリーヌが
 タイミングよく乱入して来たりする。
 「ちょ、ちょっと待って、セリーヌっ! これは誤解だよっ!」弁明しようとするティルト…しかし…。
 「クレアさんに膝枕してもらいながら、誤解だと言うのですかっ!?」もはや聞く耳持たない状態のセリーヌ…うわぁ…
 マジで怒ってるよ…おい…。
 「誤解だなんて…ひ、ひどいですわ…」と目に涙を浮かべるクレア…それはそうと…なぜ後ろ手に水を染込ませたスポンジを
 持っているのだ、クレア?
 「そ、そうじゃなくて…」セリーヌを顔色を伺いながら…今度はクレアを宥めるティルト…。
 「ボクはどーでもいいのっ!?」無視された格好のトリーシャが文句を言う。
 「ティルト様、外野はお気になさらずにゆっくりお休みなられて下さい」と半ば強引に二人だけの世界を作ろうとするクレア。
 …この瞬間…セリーヌとトリーシャの瞳に…殺気が浮び、更に危険なオーラをまとい始めていた…。

 「いらっしゃい…今日はどーしたんだ、ロビン?」店番をしていたナッツが客の姿−ロビンである−を見て問い掛ける。
 ちなみにミュンは…『ある理由』で祈りと灯火の門に行っている。
 「いや、花を頼みに来たんだが」「どんな花だい?」「死者に手向ける花をね」「はい?」ナッツに事情を説明するロビン。
 「いくらなんでも…そこまでは…」と事情を聞いた後、ナッツがこう言い掛けるや否や…遠くから爆発音が聞こえ…鉢植が
 かたかたと音を発てた…。
 「…ふと思ったんだが…棺の方が先だと思わんか?」とナッツ…。
 「…そうだね…」と同意するロビンであった…。

 同時刻、祈りと灯火の門では。
 「あ? わざわざ出迎えに来てくれたんだ」と馬車から降りたシーラはフィムの姿を見つけると嬉しそうに微笑む。
 彼女は昨日から母親と一緒にピアノの講演に出掛けていて、今、戻って来たところである。
 「ん、まあね。ところで講演はどーだったの?」「うん、自分ではよく出来たと思うわ」と他愛のない会話をする二人。
 「あらあら、嫌われちゃったみたいね」「ええ、そうみたいですね」とシーラの母親が同じく出迎えに来ていたミュンに
 話し掛ける。
 「あ、ミュンさんもお出迎え、ありがとう」「いえ、お友達として当然ですよ」ミュンがいる事に気付いたシーラが彼女に
 礼を言う。
 「さてと…ミュンさん。お邪魔虫はいなくなりましょうか?」「ええ、そうですね」と話し掛ける母親とそれに同意する
 ミュン…そして…。
 「それじゃあ、二人でデートでもして来なさいな」「ママっ!?」思いっきり慌てるシーラ…。
 「あら、ママもパパもあなたがフィムくんとお付き合いしていることはお見通しなのよ」と続ける…それを聞いて顔を
 真っ赤に染めるシーラ…その様子を見て…ミュンは必死に笑いをこらえていたりする…。
 一方、フィムの方はというと…どう答えていいのか分からず…頬をぽりぽりと掻くだけであった…。
 丁度、その時、
   どっごぉんっ!!
 という大音響とともに…地面が少し揺れた。
 「きゃっ!?」慌ててフィムにしがみつくシーラ。
 「な、なに? なにがあったの?」と言ってミュンが爆発音の聞こえた方を見ると…自警団事務所の窓の一つから白煙が
 出ているのが目に入った…。
 「もしかしたら…ティルトさん達が…原因ですか?」とフィムにしがみついたまま、恐る恐る門番に尋ねるシーラ…。
 尋ねられた門番は…ただ黙って頷いただけであった…。

 この一件により…ティルトは全治3日の怪我を負った上に…第二部隊長としての初仕事が半壊した第三部隊詰所の復旧作業の
 手配となった美穂に彼女愛用のメイスで−しかもセリーヌの目の前で−殴り倒された…。
 それにより…ぷんすか状態のセリーヌの機嫌があっという間に直ったという…。
 その直後、右の肋骨全てにヒビが入った為、美穂がトーヤのところに担ぎ込まれた事を最後に付け加えておく…。

     ≪Fin≫

 [あとがき]
  ども、REIMです。
  今回は、オリキャラの一人、広瀬美穂ちゃんを中心に書いてみました。
  彼女は事務と情報収集を担当する第二部隊のチーフとして第1作目(未掲載)から登場しているキャラです。
  今までシーラやミュン、パティを中心にして書いていた為、なかなか少し突っ込んだ話を書けなかったのですが、
  今回、やっと書くことが出来たという感じです。
  更に…勢いで全然考えていなかった美穂の妹−瑞穂−も登場しています。
  ただ、流石に途中でネタ切れをおこして…むりやり話を終えた気もしないでもないですが…。
  次回作は…誰を中心に書くか決めていません…魔法も『ふたつの『おかえりなさい』』以来、全然使っていないし…。
  はあ…。


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