中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「Boyish Girl」 REIM  (MAIL)
 「ねえねえっ! なに、ぼぉっとしてるの?」とローラが心配そうに話し掛けて来る。
 「え? い、いや、なんでもないから…」引き攣りながらも−ローラは気付いていない−こう答える黒い髪の青年…。
 「そぉ?」と疑わしげにローラ…。
 はたから見ると…恋人達に見える二人である…但し、片方の『青年』が『女性』である事を除けば…。

 (どぉして、ローラなんかに捕まっちゃうのよぉ〜)我が身に振りかかった『災難』を嘆くパティ…。
 何の事はない、ローラの相手をつとめている『青年』は…『男装』したパティなのだ。
 知人に見つからない様に今日一日やり過ごそうとこっそりと街中を歩いていたが…美男に目ざとく、恋多き少女のローラに
 見つかった上に…彼女に押切られて…『デート』するはめになったのだ…。
 (うぅ…なぁんでこうなっちゃたのよぉ…)と内心、嘆きまくりのパティ…。
 一方、ローラはというと…まったく気付いていない…。
 (それもこれも昨日の晩が原因よね…)
 パティはこの最悪の事態を呼び込むはめになった昨日の出来事を思い出していた…。

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 昨日は…あたしの21歳の誕生日。
 というわけで…夕方にいつもの面子が集まってパーティを開いてくれた。
 フィムはパステル画−白いバラに囲まれる姫君を描いている−をプレゼントしてくれたし、シーラはサマードレス−あたし、
 スカートは嫌いだってこと、知ってるの?−で、ナッツとミュン、それとアレフは花束とみんなからのプレゼントの嵐で、
 それはそれで楽しいひとときだったけど…やっぱ、問題はそのあとよね…。
 夜もとっぷりとふけた頃にシーラが酔いつぶれちゃって−もちろんフィムが背負って家に送っていった−そこでおひらきに
 なったけど、その後もあたしとナッツとミュンの3人で飲んでた…その時に。
 「ふと思ったけど…ナッツってさあ…女装したら、すごく似合うと思わない?」とあたし。
 「ぶほっ!?」いきなり吹き出すナッツ…って、汚いわね…。
 「…あのなぁ…いくらなんでも、オレだって怒るぞ、それはっ」と口のまわりを拭いながら言い返して来た。
 酔った勢いってヤツよっ、こう言ったのはっ! 最もこれが全ての原因だったんだけど。
 「そ、そうですっ! ヘンなこと言わないで下さいっ!」あ? なんかムキになってるわね、ミュン…。
 この時、何が何でもナッツの女装姿が見たいと思ったことがそもそもの不幸の始まりよね…今から考えると…。
 「じゃあ、あたしと飲みくらべでもしない? もし、あたしが勝ったら…明日一日、女装してもらうからね」とあたし。
 こう見えてもお酒は結構強い方なのよ、あたしは。で、こう言っちゃったわけ…でもね…今は言うんじゃなかったとすごく
 後悔してる…だってね……あたしが先につぶれたの…なんでよっ!?。
 「だ、大丈夫ですか?」…ミュン…あたしの方も心配して欲しいんだけど…って…ムリか…。
 「ああ…ライラ先輩に散々付き合わされて…鍛えられていたからな…さてと…なりゆきで勝っちまったけど…どーするかな…」
 …その…『なりゆき』で負けたあたしの立場は…?
 「そうですね…パティさんに男の人の格好をして街の中を歩くというのはどうですか?」と素敵すぎる事を提案するミュン。
 「…パティの男装か…案外似合うかもな…あと、任せてもいい?」「はい。それじゃあ、服一着、借りますね」
 思わず納得してしまうナッツに嬉々とした顔をするミュン。
 ……結構…仲のいい夫婦ね…あんた達…。

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 「ティールさん…ティールさんってばぁ」とローラが呼び掛けて来る。
 「え? な、なにかな?」と内心冷や汗たらたらでパティ…。
 「なに、ぼーっとしてるの??」「え? ぼーっとしてた? あ…わたし…」危うく『あたし』と言いかける…。
 「してた、してた」むすっとした声でローラ…幸いにもさっきの言いかけたのは聞こえてないらしい…。
 「ははは…ところで、ドコに行くのかな?」…内心は…(男みたいに話すのって難しいよぉ〜)である…。
 「リヴェティス劇場ってトコ」と答えるローラ。
 (うそぉぉぉぉっ!?)心で絶叫するパティ…理由は簡単…人から貰った演劇のチケット−今日が初日−をフィムとシーラに
 譲っているから…更に楽しい事にアリサ(+テディ),シェリル,トリーシャ,クレアも行く様な事を昨日、言っていたし。
 この面々にバレようもんなら…考えただけでも…気が遠くなって来る…。
 「? ティールさん? 気分でも悪いの?」「え? そ、そうかな?」慌ててごまかす。
 「そう? でも、なんか顔色悪いみたいんだけど?」と心配顔でローラ。
 「だ、大丈夫だよ…そ、それよりもどこか別なところにしない?」何とか劇場だけは避けたいパティ…。
 「えぇ〜っ!? どぉしてぇっ!?」抗議の声をあげるローラ。
 「だ、だって…ほら、チケットとか、ないじゃないか…」必死になるパティ…しかし…。
 「チケットならあるよ、ほら」と言ってチケット2枚を目の前でひらひらさせる…それを見て…再び気が遠くなる…。
 「…どーやって…手に入れたんだ…?」慣れない口調で呟くパティ…。
 「ん〜とね、フィムおにいちゃん…って、分からないか…その人のね、彼女がひどい二日酔いみたいで行けなくなったから…」
 …最後まで聞いていなかった…何せ、シーラを酔いつぶしたのは…パティだったりする…。
 「というわけでぇ、行こうよっ!」とローラに引きずられるパティであった…。

 (…なんで…こうなるの…?)リヴェティス劇場の前でグチをこぼすパティ。
 (だいたい、ボトル4本分のワインでつぶれるシーラもシーラよっ)…それは…いくらなんでも酔いつぶれるぞっ!
 「あ? アリサおばさんっ」と両手を振るローラ。
   どっきぃん!
 パティの心臓が思いっきりはねる。
 見ると…シェリル,トリーシャ,クレアばかりか…メロディもいたりする…。
 (さ、最悪ぅ〜)…メロディの口から由羅の耳に入ろうもんなら…これ以上、何も考えたくもなかったパティ。
 「あ? ローラじゃないの? ふぅん…今月で何人目かなぁ〜」と彼女達に気付いたトリーシャがからかい口調で口を開く。
 「んもう〜、そんなこと、ここで言わないのっ」とむくれるローラ。
 「くんくん…」「え? え? どうしたんだ…?」とメロディに鼻を近付けられ、困惑するパティ…。
 「うみゃ〜、このひとからパティちゃんのにおいがしますぅ〜」
   どっきぃぃぃん!!
 パティのバストが一瞬だけ由羅のそれを上回った…。
 「だ、誰のことかな? そ、そのパティってのは?」内心、脂汗だらだらでとぼける…。
 「そうよ、メロディちゃんもヘンなこと言わないの」「でもでもぉ〜」ぷうっと頬を膨らますローラと納得のいかない顔をする
 メロディ…。
 「でも、メロディちゃんって、結構匂いに敏感なんですよ?」とメロディに味方する様な発言をするシェリル。
 (シェリルぅ〜、余計なコト、言わないでよぉ〜)パティ、心の叫び…。
 しかし…この時、彼女達の方へ…史上最低な『災い』が向かいつつある事に気付いた者は誰もいなかった…。

   どどどぉぉぉっ!!
 「こ、この音は…も、もしかして…?」恐る恐る…振り返るトリーシャ…そして…、
 「ああっ!? やっぱりぃぃぃっ!!」悲鳴をあげる…。
 「アレフさん、またやったんっスかっ!?」とテディ。
 …ここのシーンは…あえて書くまでもないだろう…。
 「テディ! またとは何だ、またとは!?」と走りながら抗議するアレフ。
 「…また、ダブルブッキングですか…」と溜息をつくシェリル…。
 「違うっ!! ダブルブッキングしたんじゃないっ!!」「それでは、何ですの?」と尋ねるクレア…アレフと彼女達の距離は
 300m…そろそろ逃げた方が…?
 「トリプルブッキングしただけだっ!!」なお悪いわっ!!
 「サイテー」「まったくですわ」「トーゼンの結果ね」以上、軽蔑の視線を向けるトリーシャ,クレア,ローラである。
 (いっぺん死んで来いっ!)内心、軽蔑するパティ…ところで…そろそろ逃げたら? 特にパティ,ローラ,メロディの3人。
 「メロディちゃんっ!! ローラちゃんっ!!」と慌てた声でシェリル。
 (シェリルぅ〜、あたしはムシなのぉ〜?)とパティ…んなコト言っとる場合じゃないぞっ!!
 「え?」とパティが振り返った瞬間…「う、うそぉぉぉぉぉっ!!?」と悲鳴があがる。
 更に…「いやぁぁぁぁぁっ!!!」「みぎゃぁぁぁぁぁっ!!!」…ローラとメロディの悲鳴が耳の中に入って来た同時に…
 パティの意識は…ぷっつりと途絶えた…。

 それから…しばらくして…。
 「…う、うぅん…」アレフの『彼女』達にオーバーラン(=踏み潰し)され−メロディとローラも同様に巻き込まれた−、
 気を失っていたパティを息を吹き返す…。
 ふと見ると…難を逃れたアリサ達が驚いた顔をしてパティを見ている…。
 「あ、あの、みなさん、どうしたのですか?」少し芝居がかった口調で言いながら…身を起こすと、
   ぱさ
 …黒髪の塊が地面に落ちた…。
 (えっ!? ば、ばれちゃったのぉぉぉっ!?)思いっきりあせる…。
 「え、え〜と…」…言葉が見つからない…。
 『パティ(ちゃんor様orさん)』とアリサ,テディ,シェリル,トリーシャ,クレアがほぼ同時に口を開く…幸いな事に
 メロディとローラの2人は…まだ目を回して気絶している…。
 「な、なに…よ…?」開き直ったパティが身構えると同時に。
 『さっきの格好、よく似合ってたわ』と語尾が微妙に違うものの4人+1匹が口をそろえる…。
 「そんなぁぁぁぁぁっ!!?」…女としてのプライドを深く傷つけられ、絶叫するパティであった…。

 翌日…。
 「はぁ〜」と『さくら亭』で今日、十何回目の溜息をもらすローラ…。
 「ローラちゃん、なんか元気なさそう…」と心配するシーラ。
 …ちなみにパティは今ここにはいない…。
 「…元気出しなよ…また、会えるって…」少し引き攣った声でトリーシャ…。
 「なあ…トリーシャ、昨日、何があったんだ?」と尋ねるフィム…。
 「…え、えと…ローラの…いつものアレ…だよ…」…頭の後ろにでっかい冷や汗を垂らしながら答える…。
 …昨日の『一件』は…アリサの『鶴の一声』で…ローラの『名誉』−パティのはその次であった−の為に『話したら駄目』と
 決められてしまっている…。
 よって、本当の事を言えないトリーシャである…。
 「…昨日、クレアに聞いたんけど…」と切り出すアルベルト。
   どきん
 トリーシャの心臓が小さくはねる…。
 「あ、それ、マリアも聞いた。アレフのヤツ、またやったんだってね」とマリア。
 「またか…」と心底呆れるフィム…。
 (ほっ…)内心安堵の息をもらすトリーシャ…。
 「なんだ? 知らなかったのか?」「ああ。昨日は一日中、シーラの看病をしていたからな」とアルベルトに答えるフィム。
 「あ、そっか。シーラってば、昨日、二日酔いだったもんね☆」とマリア。
 「…で、怪しげな薬を持って来て…更にひどくしたのは誰だったけ?」ジト目でマリアを睨むフィム…。
 「…え〜とぉ…」…両手の人差し指を立てて…マリアお得意の『困っちゃった』ポーズをする…。
 「ふぅん…昨日一日、二人っきりでなれて、よかったね…」人の悪い笑みを浮かべてシーラに囁くトリーシャ…。
 一方のシーラは…顔を真っ赤にして…もじもじしていたりする…。
 「…あんたら…おしゃべりはそれまでにして…手伝って欲しいんだけど…?」剣呑な声で割り込むリサ…。
 「なあ…パティのヤツ、今日はどーしたんだ?」と尋ねるアルベルト…。
 「さあね、私が知りたいくらいだよ」グラスを磨きながらリサ。
 『理由』を知っているトリーシャは…、
   ずずず…
 何も聞こえないふりをして…お茶をすすっていた…。
 「…お待たせ…」と階段のところから…パティの声が聞こえて来る…。
 「パティ、遅いよ……」階段から現れたパティを見て…いきなり絶句するリサ…。
 「どーした……」「何があった……」アルベルトとフィムもパティの姿を見ると…問答無用でフリーズする…。
 「…なんな…の……」と虚ろな顔を上げたローラも固まる…。
 「おはよう、パティ」「めずらしいね、この時間まで寝てるなんて?」「今日はどうしたの? パティちゃん?」
 他の3人は…何事もなかったかの様にパティに話し掛ける…が…。
   がたんっ! ばたっ!
 「ふ、フィムくんっ!? だ、大丈夫っ!?」「わあっ!? ローラっ!? どーしたんだよっ!?」と慌てるシーラと
 トリーシャに、
 「ちょ、ちょっとぉ〜、マリアを下敷きにしないでよぉ〜」気を失ったアルベルトに下敷きされ、抗議するマリアである…。
 ちなみに…リサは…カウンターの中で…気絶していた…。
 「…なによ…そのリアクションは…?」…少しむくれるパティである…。

   がっしゃんっ!!
 「ディアーナぁっ!? またかっ!?」…クラウド医院名物の『ディアーナのドジ』と『トーヤの怒鳴り声』である…。
 「ふぇぇぇ…すみません…!? きゃあっ!?」
   どっしゃんっ!!
 「…もういい…『さくら亭』で食べて来る…俺が帰って来るまで片付けておけ」と告げるしかないトーヤ。
 …どうやら、昼食の支度に失敗したらしい…。
 「…でもですね…先生。外食ばかりですと…身体に悪いですよ?」…だったら…せめて調理でドジをふむな…。
 「ディアーナ…全然説得力がないぞ」ほらね…。
 「あぅぅぅ…。でも、先生、このところ急患ばかり続いていますし…少し休んでは? その間に…」と立ち直って続ける…。
 「それで…何時まで待てばいいのだ?」「あぅぅぅ…」最早、一言も反論出来ないディアーナである…。
 「1時間程で戻って来る。それまで患者は待たせておけ」と言い残し『さくら亭』に足を向けるトーヤである…。

 「まったく…昼飯を食べるだけで一苦労するとはな…」と呟く−しかし、イヤそうな顔はしていない−トーヤ。
 「それにして…ここで昼を摂るのは…何年ぶりか…」と扉に手をかける…そして…。
   カララン…♪
 とトーヤが『さくら亭』の扉を開け、中に入ろうとした瞬間。
   ずりっ
 彼の眼鏡がずり落ちる…。
 それから…眼鏡を手に取り、ハンカチで拭いた後に再びかけ直し…もう一度、『さくら亭』の中を覗き込む…。
 「…確かにディアーナの言う通り、疲れているのかもしれんな…今日は早めに診察を切り上げて休む事にしよう…」
 と言い残し、医院の方に戻るトーヤ…そして…帰り際、こう呟いた…。
 「…女物の服を着たパティの幻覚が見えるくらい疲れているとはな…」

 トーヤが立ち去った後の『さくら亭』には…。
 「ちょっとぉっ!? それ、どぉゆう意味よぉっ!?」とサマードレス−シーラからの誕生日プレゼント−を着ていた為に
 昨日に引き続き、更に女のプライドが傷つけられるパティに、
 その『女らしい』パティを見た事で気絶して床に倒れているフイム,アルベルト,リサ,ローラの4人と、
 「…普段から男の人みたいな格好してるから…」「…うん、ボクもそう思う…」「…マリアも…」としみじみと納得してしまう
 シーラ,トリーシャ,マリア−昔、スカート姿のパティを見た事がある為、多少免疫があった−の姿があったという…。

     ≪Fin≫

 [あとがき]
  ども、REIMです。
  今回のお話は、パティの誕生日直後の災難を書いてみました。
  まあ、ちょっとやりすぎかな?と思うところもありますけど(苦笑)。
  少しネタばらしをしますと『悠久』のパティの設定で『スカートは嫌い』と『外見、性格ともボーイッシュ』を
  もとにしてます…これでパティに『男装』をさせてみたら…と思ってしまったわけで…あとが怖いけど…。
  …ふと思ったけど…これでイラストが描けるんじゃないかな?
  物凄く…後が怖いけど…。


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