「しすたーず・ぱにっく≪前編≫」
REIM
(MAIL)
「クリスさん、お手紙が届いています」と寮に帰ろうとしたクリスにシスター・リンがこう声をかけた。
「僕にですか? 誰からだろう?」と言いつつも手紙を受け取る。
宛名を確認した瞬間…彼の顔に無数の縦線が走った…。
「あ〜ん、また、ババ引いちゃったぁ」とさっき引いたカードをばらしてしまうマリア。
「またかよぉ〜」うんざりした顔になるピート…。
「あははは、これで9回目だもんね」こらえきれず笑い出すパティ。
シーラもクレアも必死になって笑いをこらえている…。
今、彼らは『さくら亭』でババ抜きをしているのだが…勝敗はマリアの5連敗…その理由はババを持っている事をすぐに
ばらしてしまう為である…。
ちなみに…ここエンフィールドで一番、カードゲームが強いのはトリーシャとクレアである。
「いい加減にしてくれよぉ」と文句を言うピート…まあ当然であろう、マリアの手札から1枚引かなきゃならないのだから…。
「そんなのマリアの勝手でしょ!」「開き直るなぁっ!!」…9回目の口論を始める二人…。
「二人ともいい加減にしなさぁいっ!!」ばんっ!とテーブルを叩いて怒鳴るパティ…これも9回目だったりする…。
それを見て…『はぁ〜』と同時にこれまた9回目の溜息をもらすシーラとクレア…。
…さっきから…これの繰り返しだったりする…。
ガランガラン! バターン!
突然、カウベルが激しく鳴るともとに誰かが店に転がり込んで来た!
「こらぁっ!! 静かに入って……どーしたのよ、クリス? そんなに慌てて?」とパティ。
そう、転がり込む様に『さくら亭』に入って来たのは…クリスである…。
「…オレの時とは…エラい違いだよな…」マリアとのケンカを中断して、こうぼやくピート…もちろん、聞こえないフリを
しているパティ…。
「たたた助けて下さい〜」とクリス。
「『助けて』って…また由羅に追いかけられてるの?」聞き返すパティ。
「もしそーだったら、ここまで慌てるか? フツー?」とクリスの代わりに答えるピート。
「てへ☆ もしかして、パティ、ボケた?」…一言多いよ、マリアちゃん…。
ごちん
…返事代わりの拳骨がマリアの頭に落ちる…。
「…いった〜い…」「…バカなヤツ…」半ベソをかくマリアに…呆れて呟くピートに…
「…まだ…あたしは21になったばかりよっ…」…拳を握り締め…うめく様に呟くパティであった…。
「…実は…明後日、お姉さん達が来るんです…」とハーブティーを口に含みながら呟く様に事情を説明するクリス。
「どーして、そんなことで慌てるわけぇ?」とすかさず聞き返すマリア。
「そうね、むしろ温かく迎えてあげるのが普通じゃないかしら?」正論を言うシーラ…それに対するクリスの反応は…。
「…お二人とも…僕がお姉さん達にどういう目に遭わされて来たか知らないから…そんな事が言えるんです…」
…くらぁい顔で−しかも背後に無数の人魂を浮かべて−マリアとシーラの二人に詰め寄るクリス…何故か、そこの空気が…
急に肌寒く感じるのは…気のせいだろうか…?
『…え、え〜とぉ…』…思わず…後退りしてしまう…既にピートは腰を浮かせているし…パティに至っては…厨房に逃げる
用事を必死になって考えていたりする…。
一方、詳しい事情をまったく知らないクレアはきょとんとした顔をして…次の疑問を口にした。
「ところで…何故、クリス様はお姉様方を怖がるのですか?」
「ま、まあ、色々とあったらしくてね…ちょっと耳かして…」とクレアに『経緯』を耳打ちするパティ…。
「まあ、そういう事でしたの」納得するクレア…そして…、
「素敵な姉弟愛ですわ」と何を勘違いしたのか…両手で自分の頬を包む様にして、こう言葉をつむぐ…。
どた
…一斉にその場でコケる一同…。
「な、なにか勘違いしてねぇか…?」とピート。
「そ、そうね…というよりも…クレアさんらしいわ…」思わずこう納得してしまうシーラ…。
「…マリア…めまいがするぅ…」「…あたしもよ…」頭を押さえつつ呟くマリアとパティ…。
「…あのぉ〜、私、変な事言いました?」とクレアの問い掛けに対し、一斉に頷き返す一同である…。
「で、話は戻すけど…お姉さんがただ来るだけなら、怖がるコトはないでしょ」とクリスに諭す様に口を開くパティ。
「………」…無言で1通の手紙をパティに渡すクリス…。
「なによ、これ?」それを受け取り…ざっと目を通し…、
「あは…はは…」読み終わるとともに乾いた笑いを浮かべるパティ…。
パティから手紙を回され、目を通したシーラも「はぁ…」と溜息をついたっきり、黙ってしまう…。
「な、なんだよ?」「なになに?」のぞき込む様にして−今、クレアが読んでいる−手紙を読むピートとマリアだが…、
「…オレ達にどーしろと…?」と呟いてしまうピート…一方、マリアはというと…「…ここはどこ…?」…現実逃避していた…。
「え〜と…『彼女いるんでしょ? そっちに遊びに行くから紹介してね』…ですか…」と読み上げるクレア。
「…僕、一体どうしたら…?」頭を抱えるクリス…。
「どーしたら…ってね…それくらい自分で考えてよ…」急に頭痛がして来たパティが呟く…。
「…由羅を紹介すればいいんじゃないの?」「それは…ダメですよっ」何とか復活したマリアの提案を力強く却下するクリス。
「なんでよっ!?」「お姉さん達に由羅さんを紹介したら…」『したら?』…一同、身を乗り出す…。
「その場で売り飛ばされてしまいますっ!」…全員、絶句する…。
「あは…あははは…じゃあ、マリアにでも頼んだら…?」頭の後ろにでっかいジト汗を垂らしながらパティ…。
「ま、マリアちゃん…ですか…?」今度はクリスがジト汗−少しイヤそうに−を垂らしていたりする…。
「ぶうっ、なによ、その態度はっ!?」…ご機嫌ななめになるマリア…。
「それでは…トリーシャ様はどうでしょうか?」と提案するクレア…しかし…。
「ふぅん…それで…?」「ええ、クリス様とお付き合いしている事を街中に………え?」と慌てて後ろを振り返り…、
どごん
…トリーシャチョップをくらって…その場で昏倒するクレア…。
「…で、ボクがなんだって…?」怒った口調でクリスに詰め寄るトリーシャ…ちょっと怖いかも…。
「じ、実は…」…泣きそうな顔で説明する…。
「…ふぅん…だったら、ローラはどうなの?」と話に加わるトリーシャ…ちなみにクレアは…当たりドコが悪かったらしく
…まだ気絶中…。
「…クリスくん…その日、お金、大丈夫?」「ちょっときついかも…」シーラの質問にこう答えるクリス。
「そりゃあ…ローラにいっぱいおごられそうだもんな」とピート。
「…こうなったら…シェリルさんに頼んで…」「シェリルに? あのコはちょっとムリじゃあ…」と疑問を呈するパティ…。
「…攻撃呪文でお姉さん達を吹き飛ばしてもらって…」とぶつぶつと続けるクリス…。
『ちょっと待ちなさいっ!!』一斉に突っ込む一同(但し、クレアは除く)。
「いや…アレフくんにナンパしてもらって…それを街中に言いふらせば…」…既に…目の色が変わっている…。
「…トリーシャ…あれ、やって」「しょうがないな…」とパティに頼まれるトリーシャ…。
ぽく
…正気に戻るクリス…。
「…はあ…どうしよう…」と頭を抱えるクリス…しかし…救いの『女神』は…彼を見捨ててはいなかった…。
その日の夜…。
「それで…結局、どーなったんだ?」とシーラに問い掛けるフィム。
…今、彼はシーラの部屋でベージュ色の毛糸−何に使うかは聞いていない−の巻き取りを手伝っている…。
「それでね…あのあと瑞穂ちゃんが来てね…」「瑞穂って、美穂の妹のか?」「うん」と頷くシーラ。
「その日、瑞穂ちゃんがクリスくんの『彼女』役を引き受けることになったの」と続ける。
「…うまくいく…かなぁ?」…疑問を口にするフィム…。
「もう、お友達でしょ。少しは信じてあげなきゃ」とシーラ…話してるうちに毛糸の巻き取りは終わっていた…。
「…そうだな…」とは言うものの…不安感が拭えないフィム…。
「今日はありがとうね、フィムくん」大事そうに毛糸の玉を抱かかえるシーラ。
「ん。じゃあ、俺、ジョートショップに帰るわ」と言い残し、部屋から出ようとする…が…。
「おっと、そうだ。忘れ物があった」と振り返る…。
「え?」と慌てて部屋の中を見回すシーラ…。
「忘れ物なんかないけど?」「あるよ…」「あ…」と彼女にキスをする…。
…ちなみにシーラは……突然キスされた為か…翌日の昼までぼぉっとした状態だったという…。