「海へ行こうっ!〜第5話−穏やかな改め…悪夢の一夜…〜」
REIM
(MAIL)
その夜…。
夕食も終えた一同−ちなみにローラとミレナはこの場にはいない−は…お茶を飲みながらのんびりと広間でくつろいでいた。
まあ、中には…。
「Checkですよ、先輩」「え? あっ! いつの間に…」とチェスを指している人間−ナッツとライラである−もいるが…。
「…先輩…負けてんじゃん…」横から対局を見ていたアンリが呟く…。
「これからよ…じゃあ…こうね…」チェス盤を見渡し、キングを安全と思われる方に動かす…。
「え? いいんですか? そこだと…Checkmate、ですよ?」とビショプを動かすナッツ…。
「あちゃあ〜」思わず天を仰ぐライラ…。
「…手加減なしだな…お前は…」アンリと同じく横で見ていたアルベルトがこうもらす…。
その言葉に同じく観戦していたリサがうんうんと頷く。
「そうか?」少し冷めたお茶を口に含みながらこう答えるナッツ。
「でも、ヘンだと思わない? リサ」「何がや?」「だって、ナッツにチェス教えたの先輩だよ?」以上、アンリとリサの会話。
まあ、普通は教えた人の方が強いはずだが…。
「それ、本当?」突然、口をはさむ美穂。
「そうだけど?」答えるアンリ。
答えを聞くや否や美穂はライラの方に向き、「一局、お相手してくれます?」と問い掛けた。
「いいけど?」承諾するライラ…。
…結果は…ライラの負けであった…。
(美穂「…うそ…でしょ…?」 瑞穂「…もしかして…ライラさんって…チェス、弱いんじゃあ…?」)
一方…。
「フィムお兄ちゃん、何してるの?」「ん? 見ての通りだけど?」とリオに答えながらもスケッチブックに鉛筆を走らせる…。
「ここに来てまで…そんなことしなくてもいーでしょうが…」それを聞いて呆れるパティ…。
「そっか? 海に来たなら…まず最初に絵を描くんじゃないのか?」と答えるフィム…。
「…絶対間違ってるぞ…それは…」と突っ込むアレフ…確かに間違ってるわな…。
うんうんと頷いてアレフに同意するパティ…更にシーラに向かって、
「ほれ、シーラも何か言ってやんなさいよ」と言って話を振った…が。
「わあ、これって…さっきの夕日なの?」「ああ、そうだよ」「まるで…本物みたい…」と描き掛けであったが…見た感想を
口にするシーラ…。
「…パティお姉ちゃん…お話を振る人、間違えちゃったかも…?」とリオが言う…。
「…そうね…あたしも今、そー思ったトコよ…」…ぽつりと呟くパティであった…。
そんな彼らをお茶を飲みながら見ていた鳶は…。
「フィムリードくんって、絵を描くのが得意なんですか?」と近くにいたミュンに尋ねる。
「ええ。中でもパステル画が得意みたいですよ」と答える。
「パステル画…ですか?」と呟いてまじまじとフィムの方を見る鳶…。
まあ…ムリもない反応であろう…水彩画や油彩画と違って、余程手先が器用でないと扱えない代物だから…。
「私もはじめて聞いた時は、びっくりしたんですけどね」と苦笑するミュン。
「そうね、今でも月に1件か2件ほど、絵の依頼が来ますしね」「ういっス」と横から口をはさむアリサとテディ。
「はあ…そうなんですか…」虚ろな声で呟く鳶であった…。
「あの、なんの本を読んでいるのですか?」とティムに尋ねるシェリル…目がきらきらと輝いているのは…気のせいで…
あって欲しいのだが…?
「ふむ、天文学の本だ」「天文学…ですか?」と確認する様にクリス。
「正確には月とかの軌道計算を記述されている学術書、といったところか」とティム。
「軌道計算…ですか…幾何が分からないと読めませんね…」と公式を数例、口にするクリス。
「おお、それだけ知っていれば大したものだ」感心するティム。
それよりも…何か忘れてない? お二人さん?
「天文学は…数世紀前に占星術から始まって…」…本の世界にトリップするシェリルちゃん…小説だけじゃなかったのか…?
「お、おい…彼女は一体…?」彼女の様子にあせるティム…。
「わぁ〜っ!! トリーシャちゃん、助けてっ!!」悲鳴をあげるクリス…。
一方…トリーシャはというと…クレア、瑞穂、リュークの3人とカードゲームをしていたりする…。
…クリスとティムの二人が…トリップしたシェリルから解放されたのは…15分後のことであった…。
そうした心地よい時間を止めるかの様に…。
「ねえねえ、みんなみんなっ! クッキー焼いたんだけど、食べる?」と大きめ皿を持ってローラがやって来た。
…それを見た瞬間、顔色が真っ青になるエンフィールド組一同…。
「そ、それって…ローラが…焼いたの…?」「うんっ!」トリーシャの問いに力強く答える。
(い、いやだぁ〜っ! ボク、まだ死にたくないよぉ〜っ!)…恐らく…トリーシャだけではないはずだ…こう思ったのは…。
「へぇ〜、見かけによらず、そういうのって得意なんだ」と感心するアンリ…この場合…何も知らないのって…幸せなのかな…?
「『見かけによらず』って、なによっ!?」少しだけむくれるローラ。
「…味の方は…別もんだけど…」ぽつりと呟くパティ…隣ではクレアもうんうんと頷いている…。
「パティちゃん、なんか言った?」ジト目でローラ。
「え? こ、こらぁーっ、ヘンなコト言うんじゃないわよっ!」と言ってトリーシャを殴ってたりする…。
「…なんで…ボクなの…?」…涙目で文句を言うトリーシャ…。
(パティ「だ、だって…フィムを殴ろうもんなら…」 アレフ「シーラに睨まれるな…間違いなく…」)
一方、何も知らないベルファーク組の面々は…。
「ふむ、ちょうど茶請けが欲しかったところだ。あり難く頂く事にしよう」とティム。
「そうですね。ローラさん、わざわざすいませんね」とローラに礼を言う鳶。
「…やめといた方がいいと思うよ…」と囁くナッツ…。
「なんでや?」「…危ないからですよ…」ミュンがリサに囁く…。
「??? ねえ、なんの話してるの?」怪訝な顔するローラちゃん…。
…その間…この場をどう切り抜けるか、必死に頭を悩ましているエンフィールド組一同…。
その最中…。
「みなさぁん、お茶請けにクッキーを焼いて来たのですけど、いかがですかぁ?」とミレナがクッキーを持って来た。
…今度は…ベルファーク組の面々の顔が青くなる…。
「い、いや、せっかくだが…クッキーは間に合っている…」とティム…意外にもその声が上ずっていた…。
「そ、そうなのだ…」と脂汗だらだらでニール…内心は…(ミレナのクッキーだけはいやなのだぁ〜っ!)…である…。
「そんなぁ…せっかく焼いて来ましたのに…」…しょんぼりと落ち込んでしまうミレナちゃん…。
「じゃあ、それ、ボクにくれる?」「そうですね、私もいいですか?」とトリーシャとシェリル…どうやらローラのクッキーを
断る口実にする腹づもりらしい…。
「あ、あたしにもくれる?」これはパティ。
「リオくんはどうするの?」「じゃあ、僕もいいですか」…恐らく…エンフィールド組全員も同じ想いであろう…。
「…あの…やめておいた方が…」と呟くミュン…。
「どうしてです?」「危険だから…」クリスの疑問に小声で答えるナッツ…。
だが…ナッツとミュンの忠告に耳を貸さず…ローラのクッキーに手を伸ばすベルファーク組とミレナのクッキーを口に
入れるエンフィールド組…ローラとミレナも…お互いのクッキーを口に入れている…。
「…だ、大丈夫かしら…?」気が遠くなりそうになるのを感じながら呟くミュン…昔、ミレナが焼いたクッキーを何枚も
食べるはめになって…重体になったナッツを介抱した事がある…。
「…みんなの無事を祈るしかないよ…」とこれから起こる情景に頭痛を覚えるナッツ…前にローラが焼いたクッキーを
一つだけ味見して…轟沈したミュンを看病した事がある…。
…ナッツとミュン以外の面々が復活したのは…翌日の夕方であった事を最後に記しておく…。