中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「DARC」 皐月  (MAIL)



蒼天・・・



その言葉で表すことの出来るほどの心地よい空
そよぐ風は梢を揺らし降り注ぐ陽の光がローズレイクの水面を輝かせる
まるで絵画の様に思える静かな世界
咲き誇る華がそれに美をかける・・・



「・・・いい風・・・」
それもまた風に流されるような声
漆器のような髪を揺らしながら呟く彼女
この場この時限りの演奏会
指揮者はこの世界・・・
が、その至福な時も長くは続かない







さて準備はいいか?






チチチ・・・
それまで辺りで絵を創り上げてたモノが崩れ出す
飛び出す鳥たち、風は鬼哭の声を乗せ吹く、陽光は陰りを含みだした

邪気

吐き気を催す空気。色を着けることが出来たら間違いなく暗黒だろう
それが唐突にあふれ出してきた
「あ、あああ・・・」
当然のごとくそれまで演奏を聴いていた少女はこの状況に対処できない
出来たことと言えば震えることだった
声すら出せない、悲鳴すら上げられない
ソレをあざ笑う邪気は形を取り始める

ぐにゃりぐにゃり

粘土のように色づき形をなす
『降魔』と呼ばれる現象だ
目の前で生命の暗黒劇を見せられた少女はあっさりと気を失った
尤も目の前で人間に近い・・・と言うよりは人間の出来損ないな顔に
ニイッ・・
などと悪夢のような笑いを見せられたらたいてい気を失うが・・・
残ったのはどんどん形になっていく邪悪な泥人形(デモン)
己の腕が出来るたびに、己の足が出来るたびに
笑いを浮かべる・・・その身に浮かぶいくつもの口をゆがめ
狂っていく世界が、時が、その相容れぬ存在を無理矢理詰め込まれる

−拒絶は許さぬ−

『世界』に囁かれる声

悶える・・・

そこへようやく到着する鎧に身を包んだ一団
エンフィールド自警団である

「アル!長はまだか!」
ついてすぐに状況を把握するいい年輩の男
尤も一見しただけで醜悪な怪物に狙われている美少女と言ったところなのだが
まぁ実際間違ってもいないし
「後3分ぐらいです!」
「それでは間に合わん!」
ほぼ形が出来上がっているモノの数秒もすれば動き出すだろう

ィィィィィイイイイアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァ

天に向かって吼える

「っう。『フィア』だ!気を引き締めろ!!」
叫ぶがそれは遅い
「あ、あああああああああ」
「ひ、ひはははははは」
この場に来た十人ほどの隊員の内6人ほどが奇声や悲鳴を上げる
「うっく、くはあ・・・はあはあ。隊長!」
「くっ、アルやつを足止めするぞ。他の者はフィアを食らった者の介護を」
「は、はい」
おのおのが動き出す同時に降魔した魔族も・・・
気絶している少女・・・シーラ・シェフィールドに向かって
ずるりと触手を引きずる、ぬらりと触手が光る
粘液がしたたり落ちるたびにそこが腐る
真にこの世とは相容れぬ者よ

「ロッティン・バウンドは使えるか?」
「来る前にチェック済みです」
「よし、行くぞ」
「はい!」

六本のパイプほどの太さの針とその中心にある紅い目のような紅玉それから
下がる鎖とその先につながる拳大の白い石
ロッティン・バウンド(対魔拘束具)
それが投げつけられる・・・

ジャラ

投げつけられた二つの拘束具
それが魔族の身体に接触した瞬間紅玉が淡く光る
ドスドスドスドス・・・
あの太い針がねじくれ突き刺さる

キュアアアアアアアアアアアアアア

悲鳴かこの声は
体液をまき散らしながらそれでもシーラを目指す
が、鎖がギシとのびるその先の白い石が光っている

「リカルド無事か!」
しゃがれた声が響く二十人ほどの人間がかけてきた
「長!状況は・・・」
「だいたいわかっておる。急ぐぞ」
その言葉でリカルドたちは下がり変わりに魔術師たちが立つ
そしてリカルドとアルベルトはシーラを救出に向かう
皆それぞれ顔色が悪い、魔族などと戦うことは今まで無かったことなのだから

「全員サークル(法陣)を展開、退魔術式を転写せよ!」
それでも浮かんでくる恐怖を抑え魔術を始動する
魔族を中心に浮かぶサークル辺りに響く詠唱
しかし黙って待つ魔族ではない
ひときわ大きな咆吼をあげるとまわりには赤い光が浮かぶ
赤光が辺りを薙ぐ
赤い光と白い光がぶつかる

キィィィィィィィィィィィィィ

ガラスをひっかいた様な音が鳴る
接触部分が波打ちたわむ
何人かの額に脂汗が浮かぶ
「ぐう」
・・・詠唱の終わりが近い
辺りは眩い光に包まれている

「っう、ゲート展開!退魔術式解放!」

!!!

もはや人の耳ではとらえられない音の領域
魔族の直下に開いた黒い深淵への口
それに吸い込まれていく魔族
その姿が全て無くなった時には光もまた無くなっていた

「・・・・・・終わったか・・・」
「そのようじゃな」
さすがにいささか疲れた表情を見せるリカルドと長その声に混じる安堵
その背にシーラを背負ったリカルドは他のようやくフィアの影響が解けた
隊員たちに指示を出し始める

ドォオオオオオン

気のゆるんだほんの僅かな瞬間、奈落の口が開いた場所より飛び出す魔族
「なっ!?」
誰よりも何よりも早くリカルドいやシーラへと向かう
「はあ!」
とっさに障壁を展開する長
ドン
が、所詮急ごしらえすぐにでも破られる
「ぬくくく・・・」
「長!」
シーラをおろし剣を抜くリカルド。
強力な魔力補助のない剣が僅かばかりにも効果は無いとわかっているのに

シャアアアアアア

口を開け威嚇するように鳴く

ソレハイッタイナンダトイウノダ

魔族の開いた口の中に見える緑色の瞳(エメラルドアイズ)
極上のビスク(西洋人形)の様な白い肌
血を塗ったかのように淫靡に塗れ光る唇

クチノナカニミエタノハ

人では持ち得ぬ美しさを持ったナニカ

「貴族・・・」

ソレは邪笑で答えを返す
障壁が・・・破られる

突き進むその姿は醜悪ではない
長が口の中に見た美しすぎる邪悪な魔の支配階級の君
「おおおおお」
リカルドが裂帛の気合いと共に剣を一閃させる
それすらたおやかな指を向けるだけでリカルドごと吹き飛んだ
最早邪魔する者は邪魔出来る者はいない
他の連中は神話級の魔の存在とその邪気に指どころか
心臓すら動かなくなりそうになっていた
そうなるとあとは目の前で目覚めぬ眠り姫を永遠に眠らせるだけ





バシャ





紅い飛沫が辺りを濡らし彩る




首が飛んだ・・・






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