中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「DARC 紫(ディープ・パープル)の狂気」 皐月  (MAIL)






ドサッ・・・











地面に首が落ちた。









ころころと地を転がり驚愕に開いた目で自分の身体を見る。
紅い血を吹き出しながらそこに有る身体の向こうに人の影。
緑翠玉の視線と紫雷の視線が交錯する。
視線を少し横にずらせば至高の黒の剣


「ブラック・ファーティス・・・」


落ちた首が言葉を紡ぐ。
そう、落ちているというのに・・・それはしゃべるのだ
この異常な状況に誰もが呆然としている
その場にいた全員シーラは死んだと思ったのだからそれを覆した者を・・・
唐突に現れ魔族の首を切りとばしたその黒衣の青年を見ているだけだった




さて件の青年はというと





「残念だったな、おばさん」

などと貴族をおもいっきりバカにしながら未だゴボゴボと血を溢れさす
身体を蹴っ飛ばしてシーラをその腕に抱いて額に淡く光っている指を当てていた
むろんその漆黒の剣の切っ先を首に向けながら

「ええ・・ホント残念だわ。あなたがでてこなければその娘を殺せたというのに





        
    ・・・・・・もっとも此処で殺された方が幸せだったかもしれないわ


            
           
            少なくとも自分の事を知るくらいだったらねぇ・・・・・・」


意味ありげな言葉を返す・・・が最後の方には侮蔑の音が含まれていたが。


「ほざいてんじゃねーよ。第一あいつはテメーら(魔族)と比べたらよっぽどまともだ」

「『テメーら』?


         クッククククククク



              あら私達だけじゃなく貴方とも比べてまともでしょうに




貴方みたいな化け物と比べたらね・・・・・・」


ブンッ


無言で剣を一閃する
それだけで触れてもいないというのに首と体が爆ぜた
バシャリとあれほど血を吹き出したというのにまだ残っていたのかと言うくらいに
地面を濡らす・・・を越えて水たまりならぬ血だまりを作っていた


「くたばってろ、クズが!」


怒気を隠しもしないで吐き捨てるように言う


しばらく血が吸い込まれていくのを見ながら剣を収めシーラを抱え立ち上がる
未だに呆然としている自警団や魔術師の人間を横目に街の方に向かって歩き出した

「・・・っは、おい!!ちょっと待て!!」



                    無視




「おい!!待てと言ってるだろう!!」

歩き出した辺りでようやくゲシュタルト崩壊より抜け出した髪の毛を立てた
青年が呼び止めるがそれを全く無視して悠々と進んでいく

「っく、おい!あいつを取り押さえるぞ!後、隊長を誰か見てきてくれ!」
呼びかけられてようやく他の隊員も覚醒(お)きはじめる
魔術師たちはというと未だ起きてないのだが・・・・。

バタバタと忙しく青年のまわりを囲む
がその表情は一様に青ざめている
なんといってもあの!自分たちが手も足も何もかも出せなかった化け物を
あっさり殺したのだから
もしかしたら次に此処に血をまき散らすのは自分かもしれない・・・・・・
そんな考えが浮かんでくる

「邪魔だどけ」

いっそ気持ちいいくらいに簡潔に言い放つ
が「はい」そうですかと、どくわけにも行かない

「おまえ、名前は・・・いやその前にシーラをこちらにわたせでなければ・・・」
「でなければ・・・どうする?ん?」
「ぶ、武力行使をして下ろさせる!!」

その言葉に面白そうに目を細める青年
実際面白がっているようだがそれでは勇気を振り絞って話している彼が可哀想だ

「へえ。武力行使ねぇ・・・いいぜ、来な。いっちょもんでやるよ」

シーラを地面に下ろし(これでも目覚め無いという事はさっき額に当てていたのは魔法で
眠らせていたのだろう)シールドを作る

「これでこの娘は大丈夫だぜ」

ちょいちょいと指で来なと合図している

そしてそれが同時に戦いの合図






「はぁあああああ!!!」
自分の身長ほどはあるハルバートを奥に構えながら気を練る

「ふん。生意気にも練気技か。おい!とっとと来ないとこっちから行くぞ
おまえ気を練るのが遅すぎるぞ」

「うるせぇぇぇぇ!!くらいやがれぇぇぇぇぇ!!」

〈ダムド・ストローク(連弾衝撃波)〉

不可視の破壊の力が向かう
青年の上半身を綺麗に狙っている辺りまだ切れてはいないようだ

ふわり・・・

青年の纏うマントが翼の様に体を覆う

ドドドドドドドン

次々と当たっては爆ぜるが青年の体はおろかマントにすら当たっていない
その前にある見えない壁が邪魔をする

「ハッ!」

衝撃波がとぎれた瞬間見せる剣先
ゆらりと蜃気楼のように揺れる

〈バスター・ミラージュ(幻弄撃)〉

(この距離なら!)

振り抜かれる剣

接触した瞬間に爆音を残して
その衝撃波は放った本人の鎧にすらひびを入れる
顔や手に細かな傷が出来る

空間に舞う紅い血は宝石の様に・・・

「イオス!まだだ!!」

(アルベルト?)
訝しげにアルベルトを見、次に目の前を・・・

「なっ!?」

放った本人すら傷つけた一撃はやはりその壁に阻まれている

放った人間は呆然と
食らった人間は悠然と

「・・・・・・ダムド・ストロークで牽制後バスター・ミラージュで一撃か・・・
悪くない、悪くない攻撃だが相手が悪いな・・・」

ばさり、と翻されるマント

ドン!

「っがぁ!!」
「イオス!!」

それだけで吹き飛ばされる

(実力が・・・違いすぎる)

「さて次はもちろんおまえだろう?」

すぅっと目を一度だけ閉じ静かにアルベルトは聞く

「・・・一つ聞く。シーラをどこにつれていく」





                    沈黙





「っつくくくははははは」

笑い出す青年

「何がおかしい!!」
「何がって最初に聞くモンだろうそーゆーのはよ。
  まぁいいか、質問の答えだがエンフィールドの病院につれていくそれが答えだ」

「はへ?」

その答えを理解できてないがだからといってその間抜け顔はやめるべきであろう

「だーかーら、病院につれていくって言ったんだよ」

(ビョウイン・・・【病人を診察・治療する施設】・・・ビョウイン

      ・・・・・・病院!)

「なっ、だったら何で攻撃してきたんだ!ふざけるな!」
「攻撃してきたのはおまえらが先だろうが」

確かにそうだそれも普通人だったら確実に死んでるような攻撃を

「そ、それはおまえが指示に従わなかったからだろうが!」
「だって俺おまえらのこと全然知らないからもしかしてシーラ嬢ちゃんを狙うやつ
だったかもって可能性もあったからなぁ」

「ぐぅ・・・」

みんな話の展開についてこれないようだ

そこへようやく隊員の手を借りながらも戻ってきたリカルドが着く
その傍らには老人が見える
他にも意識を取り戻す長や足と剣を引きずりながら戻ってくるイオス
みんなして状況把握に必死だ

「カオス!カオスではないか!」

リカルドの傍らにいた老人が叫ぶ

「よっ。カッセル元気そうじゃん」
「お主の方こそ相変わらずじゃな」
「へっおまえは随分老けたな」
「ふん、お主と一緒にするでない」

親しげに会話するカッセルとようやく名のでた青年カオス

「カッセルさん知り合いで?」
リカルドが聞いてくる

「うむ、まぁ言うなれば親友じゃ
 しかしなんの騒ぎじゃ?それに此処に充満する邪気、即刻浄化せんと危険じゃぞ」

「ふむ・・・実は・・・










「なるほどそんなことが起きておったのか
 それでローズレイクの道を封鎖していたと」
「ええ、それでどうやら私がやられた際に彼がアレを倒したとか・・・」

目線でカオスを指すリカルド
どうやらあんまり信用してないようだ

「隊長、こいつはその後我々の指示を聞かず反抗してきました!」
アルベルトがここぞとばかりに言う

最早他の隊員は立ってるだけだ

「カオス君だったね。そうなのかね?」
「事実だがこいつらは自分たちの立場も言わず命令して来たんだぞ。
 何でそんなのに従わなきゃなんない?」
「アル・・・」

うっと顔をゆがませるアルベルト達

「ほーらなぁ」

ばーかと顔が言っているぞカオス・・・

「ええい。カオスやめんか。全くおまえはホントに性格が悪い」
「・・・ア、カッセルアブナイ!!アタマニハチガァァ」

ブン

「ずおおおおおお」

いきなり振られてきた拳をぎりぎりよける

「お、お主というやつはぁぁ!」
「大丈夫かカッセル!?ふぅ危ないところだった危うく刺されるところだったぞ」

親友を助けたことに誇りを持った顔をしながらいけしゃあしゃあと言う

「くっ、お、おぼえておれ」


「ふぅ。お二方よろしいでしょうか?」
「ああいいよ」
「む、すまんなリカルド」

「アル、ローズレイクの封鎖を解除、アーマロス・ギルド(魔術師組合の本来の名称)
 方たちは此処の浄化をお願いします、あとイオス君はクラウド医院へ・・誰か手を」

「じゃ、俺はシーラ嬢ちゃんを家にまで連れていくか」
「ま、待て・・・」

リカルドが言い終わる前にいつの間に抱えなおしたのかシーラを抱いて転移するカオス

かき消えるスガタ・・

「リカルド安心せい、確かにあやつは性格悪で極悪で天から暗黒星が降りてきて
 そのからだに宿ってそうなやつじゃが信用出来るやつじゃ」

ひどい内容だが「信用できる」も含め本当にカッセルはそう思っている

「カッセルさんがそう言うのなら・・・」
それでもやっぱりいまいち信用してないリカルドであった










・・・そよぐ風、薫ってくる緑の匂い、その前には豪奢な屋敷
そこに違和感無く静かにそして唐突に現れるカオス

サァ・・・

風がそよぐ、この来訪者を歓迎するように
緑がその色鮮やかに木漏れ日を向ける

「・・カッセルのやろー、後でシメテやる」
何ともこの自然芸術の中で無粋な言葉だろう


ドガンッ!!

重厚な戸もなんのそので蹴開ける
「エンフィールド税務委員の者だ!クレス・シェフィールドの申告漏れが有ったので
 調査に来た!」

バタバタとエントランスに走ってくる足音
「何を言う!税金ならしっかり払ってるぞ!どこかの国の役人みたいに政治資金には
 税金はかかりませんなことはやってないし妙な接待も受けてない!」

どこの国だ?

「なんだつまらん。てっきりやってると思ったのに」
「うん?な、ななシーラ!無事だったのか!おいティエラ!シーラが戻ってきたぞ!」

もはやふんだくるようにシーラをカオスの腕から引き離す
「ああ良かった、本当に良かったシーラ無事だったか」
「おい、俺はどうした・・・」
「・・・・・・ああシーラ良かった本当に良かった」
「おい!クレスてめぇ!」
「・・・・・・アアシーラヨカッタホントウニヨカッタ」

わざわざ顔をのぞき込まれるたびに背け言っているクレス
最後はもう棒読みだ

「クレス君。それ以上ふざけてるとティエラに君の昔の悪行(女関係)ばらすよ」

サァっと青ざめる顔
「おお、我が親友のカオスではないか!いつの間に居たんだね?
 ささ、しばらくぶりにあったんだ今日はごちそうにして君をもてなそう」

ついと顔を横に向け目を閉じるカオス
「・・・・・・悪いクレスちょっと今の俺の言葉タイミング悪かった・・」
「うん?」



「お久しぶりですわね、カオスさん」
「ハァッ!!」



後ろから聞こえた声に何とかの叫びのようになるクレス

「ジュディ、シーラを寝室に」
「は、はい」
「ジュ、ジュディ一人ではたいへんだろう手伝おう!」
「い、いえそんな。旦那様にそのような事・・」
「かまわないわよジュディ」
「じゃ、じゃあ俺も」
「あら?カオスさんはお客様ですよそんなコトさせられませんわ
 それに是非カオスさんには聞きたいことがあることですし・・・・」

ちらりとクレスの背を見ながら呟くティエラ
びくりと体を奮わすクレス

「はははは、ティ、ティエラお手柔らかにな」
「あらなんのことですか?私にはよくわからないんですが
 
 オホ、オホホホホホホホホ・・・・・・・・・・・・・・」

(クレス・・・成仏しろよ・・・・)

愛娘を抱きかかえその存在を確かめるかのようにゆったりと歩く一人の父親
ただ空気は柔らかく包み込むように暖かく・・・









気のせいだろうかその背が煤けて見えるのは




「い、生きていればどこだって天国になるモンだろうなぁカオス・・・

                 けど

                      生きていられるかなぁ俺・・・・・・」





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