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「私的悠久小説8」 熾天使Lv4


〜私的悠久幻想曲七章・命値〜

「…はぁ」
 イシェルが困惑を全身から発散している。目の前の少女を見る目が、明らかにそれを理解できていない。
「だ〜か〜ら〜、ゴーレムの魔法実験に付き合って☆」
 その困惑の原因はマリアである。

 謎の魔物大量出現から一月が過ぎて、街はもう既にもとの落ち着きを取り戻していた。青年も、ジョートショップの最終兵器として、街中にその名を広めた。
 特に同年代や年下は友人として、かなり親しくなっていった。

 マリアの暴走攻撃魔法を簡単にいさめられるのはイシェルくらいのものだったので、当の本人はもとより、その周囲からも、爆走少女のよき制御役として、ちょくちょくと引っ張り出されていのが現状である。

 しかし、今回はいつもと少し違うようだ。
「あの、ゴーレムの実験って…」
「そ☆」
「いや、そんなにこやかに頷かれても…」
 一瞬だけ何か考えこむ。
「勘違いしてない?ただ、簡単なゴーレムの、その魔力付与に力を貸してって言ったんだけど」
「あ、あはははは!そうだったんですか!なんだ、あはは!」
 てっきり自分を使いたいと言い出すものと思っていたイシェルは、たからかに空笑いをする。
 街の英雄のこんな姿を見たら、九割の人間はマリアに畏怖の念を抱く事だろう…。

 …いろんな意味で。


―ショート家地下室―
「じゃ、はじめるよ!」
「へぇ、かなり見た目はいいですね」
「へへへ、でしょ」
 実際、そのゴーレムは、かなり出来の良いものだった。
 ロック鳥をかたどった鋼の塊と、魔力耐性の研究に使われるシェルセイバーという虎の縮小番のような動物の、同じく剥製の合成で、初心者にしてはかなり本格的なものである。
「でも、これ自体はパパが取り寄せてくれたものなんだけどね」
 恥ずかしそうにマリア。
「なるほど、さすがにここまでの知識はないんですね」
「う〜〜ん、ちょっとね…」
 とりあえず、ひとしきりの手順を教え、何回かのシミュレーションの後、いよいよ魔力付与に入った。

 マリアの周りに、青白い結晶のような光が浮かんでいる。
「…生命を司る女神よ…、我が創りしかりそめの命を求めるものに、遥かなる錯節せし生命におけるその神秘の一欠けらを与えよ!」
 ゴーレムに、青白い光が連動するようにうつる。
「そこまでは大正解です、最後に、そのゴーレムにつける名前と共に、その魔力を打ち出してください」
 珍しく、ここまで何も失敗をしなかったらしい。
「名は存在をもたらし、我に従う心の糧とならん。汝が名は…フェトリス!!」
 マリアが両手を前に突き出す。すると、今まで漂うだけだった光が、ゴーレムに向かって一直線に飛び出した。
「…我が名与えし、主たる者よ…、名を我に告げよ…」
 包みこむ青い光が、しだいに炎のように揺らめき始める。
「…マリア・ショート」
 刹那、部屋の中が青い光で満たされた。ゆっくりと収束する光の中に、伝説の不死鳥すら見劣るような、美しい青い炎をまとった鳥が現れる。
「我が主よ、盟約の護られる限り、汝に忠誠を誓おう」
「…う、うん…」
 何かに驚いたように頷き、イシェルにそっと話しかける。
「ね、ねぇ、これで成功なの?」
「これは、昇華ですね…」
 青年が珍しく言葉を失っている。
「昇華?」
「本来ならば、あの鉄の塊が簡単に命令に従う程度のものですが、暦と星の配列や、時間と空間の位置、それからある一定の魔力などが重なり合った時、召還術や魔法生命を創る魔力が、莫大な量になります。それが近くにいた精霊や、もしくはより高位の存在を呼び寄せ、または作り上げて、このゴーレムのようにもととは桁違いの力を持ったものになる場合があるのです」
「…それって、ものすごい確率じゃない…?」
「はい、確率的に言ってしまえば、天文学的数値になります。…つまるところ、この付近にある木の葉のどれか一つに記しをつけたから、目を閉じてそれを一発で探し当てろ、と言うのよりもずっと低い確率です」
「…なんかわかったようなわからないような…」
「大まかには合っているが、細かい所が省かれているな」
 突然、ゴーレム…いや、青い炎の鳥がしゃべり出した。
「…細かく説明しても理解できないでしょうから…」
「なるほど、了解した。…この世に見を留めし至高の者よ」
「…へ…?この世に…なに?」
「あはは、気にしないでください、それよりも、盟約はちゃんと覚えていますか?」
「え、あ、うん。確か、『命令に見合うだけの食料を与えるべし』…って書いてあった」
「食料…ですか」
「私の場合の食料は、主の魔力だ」
「ふぇ、マリアの?…といっても、どのくらい?」
「簡単な命令ならば、アイシクルスピアやコールエレメンタル(属性召還)などと同じ程度だ」
 淡々とした口調で告げる。もともと、このような従属型のゴーレムは、主の影響で性格付けされる事が多い。
「自然に逆らうような命令だと、ルナティック(狂王舞)などの封じられた術ほどの魔力を要する」
「はにゃ…?」
「魔術師組合の長が唱えるのに全生命を必要とし、唱えるのに3ヶ月くらいかかる高位魔法です」
 そんなものを要求してくる方もだが、人の世から抹殺された知識を持っている青年も青年である。
「とにかく、簡単な命令なら少量の魔力で済むみたいですし、予想以上の大成功ですね」
「うん☆」
 満面の笑顔で喜ぶマリア。


 …しかし、彼女らしいといえばそれまでだが、その喜びもあまり長くは続かない。


 …一周間後

「行こう、フェトリス!」
「了解した、主よ」

 青い火の鳥の話は一晩と経たずに街中に広まっていた。最初のころこそ、ついてこいと言う度に魔力を要求されたりもしたのだが、ゴーレムの方がなれたのか、マリアのほうがなれたのか、今はそんな掛け合い漫才みたいな事はなくなっている。

「まぁ、あれでよかったんでしょうかねぇ…?」
「なんだ、後悔してるのかい?」
 今しがたさくら亭から出ていった一人と一体を見て、リサがイシェルに聞く。
「いえ、まぁ…、黙っているのだけが優しさではないと言う事です…かね」
「?…なんだかよく分からないけど…」
「私はもしかしたら、かなり冷酷な事をやっているのかもしれません」
「あんたが冷酷だったら、世界中のみんなが悪魔になっちゃうわよ」
 仕事を一段落終えて、二人のいるテーブルに腰掛けながら、パティが飲み物を配る。
「手伝ってもらったから、おごりね」
 どうやら、青年もリサも店の手伝いをしていたらしい。
「何か気になることでもあるのかい?」
「はぁ…、もうすぐ期限切れなんですよ…」
「へ?」

 その時には、その言葉の意味を理解できていなかった二人だったが…。

「きゃ〜〜〜!!」


「!?」
「マリアの悲鳴!?」
「行きましょう、今の言葉の意味が理解できるはずです…」
 騒然としている周囲を完全に無視して、イシェル達は外に出てみる。

 ―そこには


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