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「私的悠久小説10」 熾天使Lv4


〜私的悠久幻想曲九章・変異〜


「あら?クリスさん、こんにちは」
「あ、イヴさん…」
 小春日よりな午後に図書館に現れたクリスは、珍しい落ち込み方をしていた。
「どうかなさったの?」
「あ、ちょっと古代の呪い関係の本を見せてもらえますか?」
 ちなみに、クリスの女性嫌いも、何故かイヴに対してはある程度平気みたいだ。
「古代の呪い?…確かに別途に保管はしてあるけれど…、一応理由をお聞かせ願えるかしら」
「あ、はい…」
 やはり沈痛な表情のまま、クリスがかいつまんで理由を話す。
「昨日遅くまで本を読んでいたら、今日の授業中に居眠りをしてしまって…」
「クリスさんらしくないミスね」
「はぁ…、で、その授業の講師が、あのグリダール先生だったもので…」
 グリダールというのは、学校内研究室の呪術関係権威である。
「で、罰として、古代の呪いについて何か一つ珍しいものを調べて来いと…」
「珍しいもの…ね」
「はい」
「そういう事なら、あまり気は進まないけれど案内するわ」
「すいません…」

 クリスがイヴに案内されたのは、いかにも怪しい本がそろった、地下倉庫だった。
「ここの本をニ、三冊上に持っていきましょう」
「あ、はい」
 早速いくつかの本を手に取る。
「…う〜ん」
「…これなんかはどうかしら?」
 迷う事無く本の山から一冊を取り出す。
 そのものずばり『古代の呪いについて』である。
「そうですね…、じゃぁ、とりあえずこれとこれと…」
 その他にニ冊の薄い本を選び、あまり長居したくないというように、そそくさと地下室から出た。
「読み終わったら、また私に声をかけてください」
「はい」
 上に戻ってきたクリスは、陽光が懐かしいもののように思えて、一つ伸びをした。

「…、あそこにしよう」
 罰の宿題を見られるのも恥ずかしかったので、隅っこの方の席に陣取り、机に本とノートを広げた。
「ん〜」
 珍しいものというと、これで結構少ない。本に載っているのは、大体どれも名前を聞いた事のあるものだった。
 その中からいくつか、そこそこ珍しそうなものを、自分なりの考察も含めて書いていく。



 ―数時間後…

「これで全部かしら…?」
 閉館時間も近付き、戸締りとまだ残っている人の追い出しをしていたイヴは、ふと、隅の席で眠っているクリスを発見した。
 特に何の気も無く近付き、肩を軽くゆする。
「…」
 それでも、まったく眠りから覚める気配がない。何度呼びかけても、身動き一つせずに眠りつづけていた。
「…?」
 不信感が少しずつ募る。…普通の眠りならば、なにか動きがあるはずだ。
 呪いの本を読んでいる時に、何かの呪いを受けるというのはよくある事のなので、クリスの下にひかれている本を抜き取り、それに目を通してみた。
「…永眠王…?」
 そこには、そんな名前と共に、こう書かれていた。
『我は眠りによって目覚める。呪いとなりし、わが魂と共に』
「呪い…?」
 その時、
「…う〜〜ん」
 クリスが、目覚めの兆候を見せた。
「クリスさん?」
「え…、あ!」
 状況を認識して、慌てて自分のノートを見つめる。そして、すぐに怪訝そうな表情になった。
「…これ…、僕が書いたんでしたっけ…?」
「え?」
 半分なきそうな雰囲気さえあるクリスが指し示した場所には、解明されていない、古代文字が連なっていた。


 それ以来、クリスの睡眠時間が激増した。…一日大体十八時間は眠っている。

 魔術師組合の長などが、呪い関係を調べはしたのだが、当てはまるものの資料は、クリスが読んでいた本の中にある、短い文章のみだった。結局、呪いなのかどうかもよく分からずに、とりあえず、クリスの異常な点を、徹底的に調べる事になった。

 …とは言っても、分かった事といえば、自覚症状が殆ど無いのと、起きた瞬間に、なにやら意味不明の言葉をつぶやく事くらいだった。
「…何か知っている事は無いかしら?」
 あまりにも情報量が少なく、またあやふやな事件のために、組合も学園も殆どお手上げな状態だった。
 イヴは、他に望みのありそうな人物として、イシェルの元にその話しをしに来ていた。
「永眠王…ですか?」
「えぇ…、それが手がかりになるのかはまだはっきりとはしていないんだけれど、一番可能性の高いものはそれでしょうから」
「まぁ、眠りに関係するとなれば、それが一番妥当でしょうね…」
「あまりにも資料が少なすぎるのよ」
「う〜ん、まぁ、心当たりがないこともないんですけど…」
 図書館や魔術師組合などよりも広い知識量に、内心関心をしていた。
「永眠王を直接知っているわけではないですが、それに関係する、というより、それに当てはまるであろう人物を一人だけ知っています。クリスさんの症状と当てはめても、おそらくはその人物なのでしょうが…」
「なにか問題でも?」
「いや、もしかしたら、面倒な事になるかもしれませんね…」
「…?」
 アリサが持ってきた紅茶を飲みながら、多少深刻そうにうつむく。
「おそらくは、呪術師にして、永遠の命の探求をしていたグリダールという人物です」
「!その名前…」
「えぇ…、困った事に、学園の教師とおなじ名前なんですよね…」
「同一人物?」
「そう考えるのが妥当でしょうけど、完全に同一人物という事は無いでしょう。もう何百年と前の人物ですし、体が持ちません」
「という事は…」
「そうですね、操られていると考えるのが妥当でしょう、…しかも、私の予想が当たっていれば、もうその症状は収まるはずです」
「…え?」

 ―その翌日には、イシェルの言ったとおり、クリスの異常な睡眠状態は収まった。
  ただ、異様なまでに呪術に興味を持つようになっていた。

「クリスさん、あれ以来、体は大丈夫ですか?」
「はい、おかげさまで…。でも、あれは一体なんだったんでしょう?」
「その事で、少しお話があります。…今、少しよろしいですか?」
「え、あ…はい」


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