中央改札 悠久鉄道 交響曲

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・エンフィールド」 心伝  (MAIL)
〜ワンス・アポン・ア・タイム・イン・エンフィールド〜

「ふう…」
自警団第1部隊長リカルド・フォスターは
一応の仕事を終え一息ついていた。
今まで、3日も徹夜だったので
さすがのリカルドも疲れていた。
「今日は久しぶりに家に帰れるな…」
愛娘のトリーシャの顔が浮かんできた。
近頃、亡くなった妻に似てきたなと思う。
ジョートショップにあの志狼くんが来た時からか。
いや、トリーシャだけではない。回りが活気づいてきた。
アルベルトもライバルが出来たからか、
よく仕事の合間を塗ってリカルドによく
槍術の相手を頼んで来るようになった。
「不思議な子だ…」
リカルドは椅子に深く座り目を閉じた。睡魔が急に襲う。
「天羽…志狼か…そういえば…あの時も…」
       

   〜50年前−リカルド・フォスター17歳〜
戦火はひどくどこに行っても戦争が続いていた。
回りには武器の折れた物。
魔法で焼けこげた大地、折り重なる死体。
それが乱世の悲惨さを物語っていた。
だが誰もが血塗られた名声を求め戦いに身をやった
人達は多かった。
「はぁはぁはぁ…」
そして周りの戦士達と同じく
名声を得るため旅にでたリカルドは
ちょうど戦争にまきこまれた。
今は全身に傷を負い仲間とはぐれ、一人さまよっていた。
街道の近くとはいえ回りには焼けこげた跡等
戦争が近くであったのを物語っている
「く、くそ…」
腹が減る、力が抜ける。脚がふらついてきた。
(そういえば、昨日から何も食ってなかったな…)
剣を杖がわりにリカルドは必死に歩いていた。
(近くの街…確かラインベルトだっけな…)
リカルドは街の名前を思い出しながら
ふらふらと歩いていた。
「あ、あとちょっとだ…」
リカルドは呟いたその時、
ヒュン!
「くっ!」
転がるようにしてリカルドはよけた。
さっきいた場所にはクロスボウの矢が
地面にささっていた。
リカルドの回りにはいつのまにか10人ほどの兵士に囲まれている。
(こ、こんなとこにも)
「ちっ、何でぇガキじゃねえか。」
片目の男がいまいましげに言ったが
頬に傷のある男がたしなめるように言った。
腕にはクロスボウが握られている。
「子どもとはいえ敵だ。味方でなかったらな」
「ったく、相手になるような奴じゃないなぁ」
ふらふらしながらリカルドは剣を向けた。
(コイツらを倒さなきゃ…俺が…英雄になる一歩のために
そうじゃないと…俺は!)
「ほう…がきがいっちょ前にやるってのか?」
片目の男がニヤニヤと近づいて来る。
「こいよ!」
「…いやぁっ!」
気迫をこめてリカルドは突きを入れた。
があっけなくかわされた。
「ぐっ!」
腹に痛みが走る。鳩尾にひざ蹴りをいれられたらしい。
リカルドは転がるように倒れた。
「へっ!ガキが…力がないやつが
戦場にでてきても死ぬだけなんだよ。」
リカルドの目に白い刀身が光って見える。
「悪く思うなよ…死にな!」
(やられる!)
死を覚悟してリカルドは目をつぶった。
だが、いくらも待ってもその刃はこない。
「?」
リカルドはおそるおそる目を開けた。
そこには先ほどの眼帯の男が倒れていた。
「ガキを相手によってたかってやるとは
…おめえら何様のつもりだ?」
見るとそこには、別の長身の男が立っていた。
翠がかった長髪の髪に漆黒の瞳に無精ひげ。
均整のとれた体つきだが、
服の下からの筋肉がよく分かる。
鎧は着ておらずゆったりとした東方の着物を着ていた。
「な、何者だ!」
兵士の一人が言うと男は首の後ろをかきながらいった。
「いくら戦場とはいえ、納得いかんな。え?雑魚の皆様」
「貴様…なめるな!」
他の兵士達がその男に向かってくる
「しかたない…」
男はその兵士達に向かって素手で向かってゆく
(そんな!剣を抜かないなんて!)
リカルドは叫ぼうと思っても声にでない。
「死ねぇ!」
一人の兵士が剣をふりかかって来る。
だがその男はやすやすとかわすと左脚で猛烈な蹴りを入れた。
「ぐおっ!」
「ウェッジ!」
そのウエッジと呼ばれた男は蹴りを食らい
おもいっきり吹っ飛んで近くの崩れかけた壁に激突した。
「しょせん…子どもによってたかってやるやつらはこの程度か」
「野郎っ!」
その他の兵士達が男に襲い掛かる。
だが男は、華麗な動きで次々とかわしては、
兵士を倒していった。
突き、蹴り、さばき、投げ、極め、折り。
その一つ一つの動きが舞いのようにリカルドには見えた。
男が兵士をなぎ倒していた後ろから
頬傷の男が斬りかかってきた。
「あぶ…なぁいっ!」
リカルドはふりしぼるようにして声をあげた。
ヒュン!
空を切るような音がすると同時に頬傷の男の剣が
すっぱりと斬られたように折れた。
「ば、バカな!鉄を斬るなんて!」
「天羽流剣技・疾風刃…さて、武器は無くなったな。」
男は口の端でニッと笑うと素手のまま兵士に向かって行く。
対象的に兵士の顔が青くなっていく。
「お…お前何者だ!?」
「だから、言ったろ」
男はまた、後ろ頭を軽く掻くと言った。
「天羽って」
「な…何?」
頬傷の男は顔をあっという間に漂白させた。
「あ、あの…『天翔ける刃』!?」
「ご名答」
その異名を言われた男は軽く笑うと
「俺の近くにきたのが不運だったな。
だが、むやみに命は取る気はない
さっさと気絶してる奴等を起こして逃げな。
今後こんな外道な真似をしてみな…死ぬぜ」
兵士はさらに青ざめると他の兵士達を起こして
去っていった。

「さてと…」
その『天翔ける刃』と言われた男はリカルドの方を
向いて近づいてきた。
「おい、ぼうや。大丈夫か?」
「ぼ・ボウヤ…」
リカルドはふらふらになりながらつぶやいた
(俺はボウヤじゃない…)
そう声に出そうとしたが声に出なかった。
「やれやれ、仕方ねえな。ラインベルトに連れて帰るか」
その男はリカルドを片手でかつぐと歩き出した。
「お前、名前は?」
「リ…リカルド。リカルド・フォスター…」
「そうか、俺は天羽…天羽 心伝だ」
「しん…でん…?」
そう言うとリカルドはゆっくりと意識を失った。
続く…


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